8-1. Life 天国で君に逢えたら

監督 新城毅彦
出演 大沢たかお伊東美咲真矢みき袴田吉彦川島海荷
2007年 (東宝)

解説
ウィンドサーフィンの世界大会で入賞経験を持ち、38歳の若さで亡くなった飯島夏樹の自著を映画化。大沢たかおと伊東美咲が飯島夫妻を演じ、家族愛のドラマを感動的に紡ぐ。

ストーリー
プロウインドサーファーの飯島夏樹(大沢たかお)は、ワールドカップに出場するため、妻の寛子(伊東美咲)と二人で世界中を転戦していた。貧乏所帯で、寝る場所や日々の食事にも事欠く生活だったが、夢に向かって歩む夏樹と、そんな夫を信じ続ける寛子にとって苦にはならなかった。しかし、レースでは勝つことができない。夏樹は、次の大会で優勝できなければワールドカップに挑むことを諦める決意を固める。そして迎えたオーストラリア大会。夏樹にとっては師匠であり、日本人初のプロウインドサーファーである藤堂(哀川翔)は、「ただ風と波を感じて乗れ」とアドバイスした。その結果、見事に優勝。好調のウェイブはその後も続き、結婚式も挙げた夏樹と寛子はハワイに居を構え、4人の子宝にも恵まれた。しかし、長女の小夏が10歳になる頃からレースに勝てなくなった夏樹は、家庭を顧みなくなる。そんな父に反感を抱いた小夏は、家を飛び出してしまった。必死で小夏を探し出した夏樹は、娘に向かって許しを乞う。このときすでに、夏樹の体は肝細胞ガンに侵されていた。治療に専念するため日本へ移住する飯島一家。二度の手術と入退院を繰り返す夏樹は、さらにパニック障害に襲われた。それでも、献身的に看護を続ける寛子と子どもたち。余命宣告を受けた夏樹は、「自分は生かされている」と実感して執筆活動を始める。再びハワイに戻り、インターネットで日々の暮らしを書き綴ると、その連載が圧倒的な反響を呼んだ。多くの人たちからの熱い反響と支持の声を聞きながら、波と風と家族を愛した夏樹は38歳で眠るように生涯を終える。その最後の瞬間まで、彼は執筆を続けていた。




8-2. ひばり捕物帖 折鶴駕篭

監督 工藤栄一
出演 美空ひばり近衛十四郎須賀不二男里見浩太朗
1960年 (東映)

解説
ひばり・千代之介の捕物シリーズの一編で、瀬戸口寅雄の原作を、「お嬢吉三」の中田竜雄が脚色し、「蛇神魔殿」の工藤栄一が監督した。撮影は「大岡政談 魔像篇」の松井鴻。

ストーリー
江戸の祭の夜、折鶴に飾られた駕籠に乗る一人の武士が殺された。お七はその武士の手にあった女持ちの財布をたよりに料亭松葉屋に小染を訪ねたが、彼女も殺されていた。殺された武士は紀州家の家臣で、紀州家には他にも行方不明の侍が三人もいることが分った。お七が紀州家の近くを張込んでいると、一人の町娘に会った。鉄砲鍛冶広田屋の娘お糸で、紀州家に呼ばれた父が行方不明だという。その帰途、彼女らの目前で、黒覆面の一団が広田屋の死骸を川に投げこんだ。黒覆面の一団は由比正雪の道場に入った。−−その頃、伊予守の家臣でお七の守り役の佐々木兵馬が、紀州家探索のため剣道指南に化けてのりこんだ。お七も、五郎八を供に紀州家に忍びこんだ。紀州家で事件が起こった。頼宣の吸物椀に毒が盛られていたのだ。正雪がそれを見抜いたことになったが、その裏にはめざわりな配膳方主席の主膳を殺し同時に頼宣に恩を売ろうとする魂胆があった。お七はこれを見抜き、妙姫の姿に戻り主膳引渡しを頼宣に願い出たが、主膳はすでに殺されていた。お七、五郎八は今度は獅子舞に化け、丸橋忠弥の道場にのりこんだ。忠弥に見破られた。お七は陰謀の非を説いた。二人を許したが、忠弥は決意をひるがえらせなかった。お七は腰元に化けて正雪の屋敷に忍んだ。陰謀決行の密談を耳にした。五郎八が倉庫に放火し、絵図面と連判状を奪った。お七の活躍で、正雪一味は捕えられた。忠弥もまた、力尽きて捕えられた。忠弥を尊敬するお七は、彼の手を握り、忠弥の子を育てることを誓った。




8-3. 伊豆の踊子(1963)

監督 西河克己
出演 吉永小百合高橋英樹大坂志郎堀恭子浪花千栄子
1963年 (日活)

解説
川端康成原作四度目の映画化で、「若い人(1962)」の三木克巳と西河克己が共同で脚色、「雨の中に消えて」の西河克己が監督した文芸もの。撮影はコンビの横山実。

ストーリー
若葉が美しい伊豆の街、修善寺を発った一高生の川崎は旅芸人の一行と連れになった。一座は大島の人で四十女を中心に男一人と若い女の五人づれ、川崎に可憐な笑顔を向ける踊子は一ばん年下のようである。下田まで同行する約束をして湯ケ野に着いた夜、川崎はお座敷へ呼ばれている踊子達のざわめきを聞くと胸が騒いだ。しかし翌日彼は、病気で寝ている酌婦のお清を慰めたり子供達とかくれんぼをして遊ぶ踊子が、まだ汚れを知らぬ子供と知った。踊子はその一日を川崎と遊び夜は仕事のあと彼に本を読んで貰った。翌朝、出発をのばすという一座と行を共にした川崎は、男の語る淋しい身上話を聞いた。一行は自分の妻とその母、年下の踊子はカオルといい十四で自分の妹、こんなことをさせたくないが事情あってのことという。一行と川崎は急速に親しくなり、踊子は強引に川崎が大島に来るという約束までさせてしまった。踊子が川崎を強く慕い始めたことに母親は気付いていたが、叱るでもなかった。翌朝下田へ向う道、山の中で川崎と踊子は初めて二人きりになったがドギマギしている間に時はすぎた。下田へ着き、川崎は最後の思い出にと踊子を映画に誘ったが、母親は許さなかった。これが二人の心の傷を深めるだけで所詮どうしようもない恋であると判っていたからだ。翌朝早く、川崎は下田の港に出かけた。送りに来た踊子は何を話しかけても黙ってうなずくだけだった。川崎の出船を見送る踊子は、船が遠く離れると懸命にハンカチを振った。彼の眼は踊子をみつめたまま急にうるんだ。




8-4. 重力ピエロ

監督 森淳一
出演 加瀬亮岡田将生小日向文世吉高由里子岡田義徳
2009年 (アスミック・エース)

解説
人気作家、伊坂幸太郎のベストセラー小説を宮城&仙台ロケで映画化したミステリアスなドラマ。俊英、森淳一が連続放火事件の発生によって明らかになる家族の謎、そして絆を丁寧につづる。

ストーリー
大学院で遺伝子について学ぶ奥野泉水(加瀬亮)には、春(岡田将生)という2歳年下の弟がいた。冴えない不器用な自分に比べると、美男子でピカソの生まれ変わりを自称する春はまぶしいばかりの存在だった。春は、街中の落書きを消す仕事をしている。そんな春を見初めて、ストーカー行為を続ける夏子(吉高由里子)。彼女は全身整形手術まで受けて、春の気を引こうとしていた。泉水と春の母親である梨江子(鈴木京香)は、7年前に亡くなっていた。しかし、父の正志(小日向文世)は、「俺たちは最強の家族だ」と二人の息子たちに惜しみなく愛を注いで育てた。そんな正志が入院する。実はガンに侵されていた彼の余命は僅かだった。それでも正志は陽気さを失わなかった。明るく生きることを忘れなければ、死という重力からも自由になれるのかもしれない。同じ頃、街では連続放火事件が発生していた。その場所には必ず英単語が残されていた。その意味は何なのか?頭を悩ます泉水に、大学院の友人である山内(岡田義徳)が連続レイプ犯として獄中にいた葛城由起夫(渡部篤郎)が24年ぶりに街に戻ってきたと伝える。葛城にレイプされた女性の中には泉水の母の梨江子もいて、そして身籠ったのが春だった。それでも、正志は産むことを勧めた。春も自身の出生の経緯を知り、葛城を深く憎んでいた。やがて泉水は、夏子から春の秘密を知らされる。連続放火を行っているのは春だった。鬱屈した心情が、放火という犯罪に走らせていたのだ。そして春は葛城と対面し、彼を殺して家に火をつける。殺人まで犯した春だが、泉水にとっては唯一の兄弟だった。遠い日の記憶が泉水の脳裏に甦る。家族4人でサーカスを見に行ったとき、ピエロは重力に逆らうかのように空中ブランコで華麗に舞っていた。あの楽しかった日々。しかし、人は考え方ひとつで楽しく生きることができる。その考え方を、泉水は信じた。




8-5. 北のカナリアたち

監督 阪本順治
出演 吉永小百合柴田恭兵仲村トオル里見浩太朗森山未來
2012年 (東映)

解説
湊かなえの小説を原案に、主演・吉永小百合、監督・阪本順治という豪華組み合わせで描くヒューマンドラマ。かつての教え子が起こした事件をきっかけに、20年ぶりに北海道の離島を訪れた元小学校教師の女性が生徒たちと再会し、心に閉じ込めていた思いを打ち明けあう。生徒の20年後の姿を森山未來、満島ひかりらが演じる。

ストーリー
夫・川島行夫(柴田恭兵)と共に北海道の離島にやってきた小学校教師、はる(吉永小百合)が受け持つことになったのは6人の生徒たち、鈴木信人(小笠原弘晃)、戸田真奈美(渡辺真帆)、生島直樹(相良飛鷹)、安藤結花(飯田汐音)、藤本七重(佐藤純美音)、松田勇(菊池銀河)だった。彼らの歌の才能に気付いたはるは、合唱を通してその心を明るく照らしていく。「先生が来るまで学校がつまらなかった」とこぼしていた子供たちの顔にも笑顔が溢れるようになり、大自然に響き渡るその歌声は島の人々の心も優しく包み込んでいった。そんな時、担当した事件が原因で心に傷を抱えた警察官・阿部(仲村トオル)が島へやってくる。人知れず悩みを持っていたはるは、陰のある阿部と自分を重ねるかのように心動かされていく。ある夏の日、生徒たちと行ったバーベキューで、悲しい事故が一同を襲う。子供たちは心に深い傷を負い、はるは心配する父(里見浩太朗)を一人置いて、追われるように島を出ることになる。だが、島を離れた後も心に残るのは6人の生徒たちのことだった……。20年後、東京で図書館司書として暮らすはるに生徒の一人が起こした事件の知らせが届く。その真相を知るため、はるは6人の生徒たち(森山未來、満島ひかり、勝地涼、宮崎あおい、小池栄子、松田龍平)との再会を心に決め、北へ向かう。久しぶりに再会した彼らの口から語られるのは、20年間言えずにいた想いだった。それぞれが抱えていた後悔が大きな傷となり、今も心に残っていることを知ったはる。そして自身もまた、心に閉じ込めていた想いを6人に明かすのだった……。




8-6. 東京オリンピック

監督 市川崑
1965年 (東宝)

解説
和田夏十、白坂依志夫、谷川俊太郎、市川崑の共同シナリオを軸に、ニュース、劇映画のキャメラマン一六四人が、イタリアテクニスコープ・カメラ五台と、二〇〇ミリ、一六〇〇ミリの超望遠レンズ、その他光学技術最高の技術をふるって撮影した、五輪映画初のワイド版。また監督の一員として参加した安岡章太郎が、体操と一人の選手のエピソードを担当、谷川俊太郎がカヌー競技の撮影にあたった。総スタッフ五百五十六人、総監督市川崑。2004年に市川監督自身が再編集し、音声を5.1ch化した 「東京オリンピック 40周年特別記念 市川崑 ディレクターズカット版」 (148分)が発表された。

ストーリー
ブルドーザーが鳴り、東京の街々は“東京オリンピック”の歓迎準備は万端整った。ギリシャに端を発した近代オリンピックの火が、太平洋を渡って、今、東洋の国日本に近づいている。羽田空港には、アメリカ選手団を初めとして、各国選手が到着した。万国旗のひらめく中、聖火は点火され平和を象徴する鳩が放された。翌日から競技が開始された。一〇〇米男子決勝ではアメリカのへイズが、走高跳男子決勝ではソ連のブルメルが優勝。つづいて、砲丸投男子決勝でアメリカのロングが女子決勝ではソ連のタマラ・プレスが優勝。円盤投男子決勝ではアメリカのオーターが、女子決勝では再度タマラプレスが勝った。そして薄暮の中で、熱戦をくり広げた棒高跳は、ついにアメリカのハンセンの上に輝いた。翌日、雨空だった競技場で、一万米決勝でアメリカのミルズが優勝、つづい男子二〇〇、女子走高跳、女子槍投とうが行われた。八〇〇米女子決勝では、イギリスのパッカーが優勝。競技場のあちこちでは美しく逞しい身体がゆき交う。いそがしく動く報道陣の群れを追うように、国歌が流れ、女子八〇メートル・ハードル期待の依田選手が口笛を吹いて緊張をほぐしている。体操では、日本選手が堂々と君が代を鳴らした。今度初めて参加した国もある、チャドだ。三名の選手が参加した。二度と来られないだろう。競技場の晴れの舞台で、独立国の責任と喜びを味わった。日本のお家芸、重量挙、レスリング、柔道も、予想以上の成績だった。フェンシング水泳、フリーライフル、自転車、サッカー、ホッケー、バスケット、水球、馬術、そして、バレーボールでは、東洋の魔女が君が代を鳴らした。カヌー、ボート、ヨット、競歩、近代五種と競技は展開し、オリンピック最後を飾るマラソンは、アべべの楽勝で終った。すべて終了した。メキシコで再会する日を祝して、聖火は太陽へ帰った。メキシコの国旗がメインポールに翻えっている。




8-7. 歩いても 歩いても

監督 是枝裕和
出演 阿部寛夏川結衣YOU高橋和也田中祥平
2007年 (シネカノン)

解説
誰も知らない」 の是枝裕和監督が描く、家族ドラマ。長男の15周忌で実家に集まった次男一家や両親の姿を静かにとらえ、温かだが時に厄介な家族の関係を見つめていく。

ストーリー
ある夏の終わり。横山良多(阿部寛)は、再婚したばかりの妻ゆかり(夏川結衣)、ゆかりの連れ子のあつし(田中祥平)とともに電車で実家に向かっていた。今日は15年前に亡くなった横山家の長男、純平の命日だった。だが、失業中の良多は気が重い。実家に着いて仏壇に手を合わせた後、良多は母のとし子(樹木希林)、引退した開業医の父・恭平(原田芳雄)、姉のちなみ(YOU)らと食卓を囲み、純平の思い出に花を咲かせる。午後、とし子と良多一家の四人で墓参りへ。途中、とし子とちなみ夫妻の同居が話題になるが、とし子は良多が戻ってきにくくなるという配慮から、これを否定する。墓参りから戻ると、今井良雄という青年が線香を上げに来ていた。純平は、海で彼を助けようとして溺死したのだった。とし子は彼に、来年も来るようにと声を掛けて見送るが、恭平は“あんなやつのために”と悪態をつく。その言葉に、良多は“医者がそんなに偉いんですか”と声を荒げる。ちなみ一家が帰り、良多一家と老夫婦だけの夕食。ゆかりは場を盛り上げようとするが、普段会話の少ない老夫婦は険悪な雰囲気になっていく。やがて、おもむろにレコードを取り出してくるとし子。『ブルーライト・ヨコハマ』。30年以上も前の恭平の浮気にまつわる曲で、とし子が浮気を知っていた事を恭平は初めて知る。良多とあつしの入浴中、とし子とゆかりの間で、良多の子供を作るかどうかという話題になる。だが、とし子は諦めかけており、それを聞いてゆかりは顔を強張らせる。翌朝、あつし、恭平と散歩に出る良多。脚が悪く遅れがちな恭平を心配する良多は、いつかあつしを連れて一緒にサッカーを見に行こうと約束するのだった。それから7年。恭平もとし子も亡くなり、良多一家は海辺の墓地にいた。夫婦の傍らには高校生になったあつしに加え、4歳ぐらいの女の子の姿。遠くで、海だけが昔と変わらずに青く輝いていた……。




8-8. Love Letter

監督 岩井俊二
出演 中山美穂豊川悦司酒井美紀柏原崇范文雀
1995年 (ヘラルド・エース=日本ヘラルド映画)

解説
天国の恋人に向けて送った一通のラヴレターがきっかけで、埋もれていた二つの恋が浮き彫りになっていくラヴ・ストーリー。監督・脚本は今作が劇場用長編映画デビュー作となる 「Undo“アンドゥー”」 の岩井俊二。撮影は 「夏の庭 The Friends」 の篠田昇。主演は 「波の数だけ抱きしめて」 以来4年ぶりの映画出演となる中山美穂で、一人二役に挑戦して、ブルーリボン賞、報知映画賞、ヨコハマ映画祭、高崎映画祭などで主演女優賞を獲得した。共演は 「NIGHT HEAD」 の豊川悦司と、これが映画初出演となる酒井美紀、柏原崇ほか。ヨコハマ映画祭作品賞、監督賞、主演男優賞(豊川)、主演女優賞(中山)、撮影賞(篠田)、新人女優賞(酒井)を受賞した。95年度キネマ旬報ベストテン第3位、同・読者選出ベストテン第1位。

ストーリー
神戸に住む渡辺博子は、山の遭難事故で死んでしまった恋人・藤井樹の三回忌の帰り道、彼の母・安代に誘われ、彼の家で中学の卒業アルバムを見せてもらった。その中に樹の昔の住所を発見した博子は、今は国道になってしまったというその小樽の住所に手紙を出してみることを思い付く。数日後、博子の手紙は小樽に住む藤井樹という同姓同名の女性のもとに届いていた。「拝啓、藤井樹様。お元気ですか? 私は元気です」という手紙に心当たりのない樹は、好奇心から返事を書いてみることにした。来るはずのない返事が届いたのに驚いた博子は、樹の登山仲間でガラス工房で働いている秋葉茂に事情を打ち明ける。博子に秘かな恋心を抱く秋葉は、天国の樹から返事が来たと喜んでいる博子に心を痛めるのだった。博子はさらに返事を送り、二人の間で何度かの手紙のやり取りが続いた。樹が気味悪く思い始めた頃、藤井樹本人であると証明できるものを送れという新たな手紙が樹に届く。それは博子の名をかたった秋葉の仕業だった。怒った樹は免許証の拡大コピーを送りつけ、奇妙な文通を終わらせると宣言する。同姓同名の、しかも性別の違う藤井樹の存在を知った博子は、嘘でもいいから信じていたかったと落胆した。秋葉は博子に樹への思いをふっきらせるために、小樽へ行こうと誘う。小樽に着いた博子と秋葉は樹の家を訪ねるが、彼女は留守にしていた。博子は恋人の樹が死んだことだけを隠して、ありのままに事情を説明した置き手紙を残して帰って行く。博子の手紙を読んだ樹は、中学の時に同級生に同姓同名の藤井樹という男子生徒がいたことを想い出した。博子と秋葉が小樽を発つ日、博子は街角で自分と良く似た女性と擦れ違う。何かを感じた博子は「藤井さん」と声をかけるが、一瞬振り向いた彼女の姿はすぐに雑踏の中に消えていった。しばらくして、博子と樹の間で新たな文通が始まり、樹は博子に請われるままに少年・樹との中学時代の想い出を綴っていった。同姓同名というだけで何かと冷やかされ、笑いのタネにもされ、揃って図書委員に祭りあげられたりした樹にとっては、それは決して愉快なものばかりではなかった。少年・樹は他人が読まない本ばかり借りては、図書カードに自分の名前を書いて喜んでいる少年だった。樹はそんな彼を呆れた目で見ていたのである。ある日、樹は博子に頼まれて、少年・樹が陸上部員として走っていたグラウンドの写真を撮るために母校を訪れた。樹はそこでかつての担任の先生から、彼が山で死んでいたことを聞かされる。その夜、樹はひどい高熱で倒れ、猛吹雪で救急車が到着できないことを知った樹の祖父・豪吉は、樹の父・慎吉が風邪をこじらせて死んだ時のことを思い出しながら、吹雪の中を樹をおぶって病院まで向かうのだった。その頃、博子は秋葉とともに樹が遭難した山に登ろうとしていた。博子は山に近づくにつれて次第に勇気を無くしていく。二人は途中にある、樹の登山仲間だった梶の山小屋に一泊した。明け方、熱が下がった樹は病院のベッドで目を覚ます。ちょうどその頃、秋葉から樹が遭難した山を指し示された博子は、「お元気ですか? 私は元気です」と何度も何度も山に向かって叫び、嗚咽するのであった。風邪も治り退院した樹は、少年・樹との別れを博子への手紙に綴る。三年生の冬休み、父を亡くしたばかりの樹の家を訪ねてきた少年・樹は、図書館に返しておいてくれと一冊の本を樹に預けた。新学期が始まってしばらくして、ようやく樹が登校したときには、彼はすでに転校してしまっていたのだ。それが樹の最後の想い出であった。その後の博子からの返事には、今まで樹が送った手紙が同封されていた。これは樹の想い出だから、樹が持っているべきだというのだ。数日後、樹の中学の後輩たちが一冊の本を持って彼女の家を訪れた。それは、少年・樹が転校する前に彼女に託した本だった。後輩たちに促されて図書カードの裏に目を移した樹は、そこに鉛筆で中学の頃の自分の顔が描かれているのに気付く。少年・樹の秘めた思いを知った樹は、恥ずかしそうに微笑むのだった。




8-9. 悪夢のエレベーター

監督 堀部圭亮
出演 内野聖陽佐津川愛美モト冬樹斉藤工大場こういち
2009年 (日活)

解説
木下半太の同名ベストセラー小説を映画化したコメディ。それぞれ事情を抱えた4人の男女がエレベーターという密室に閉じ込められてしまったことから起きる騒動を描く痛快作。

ストーリー
とあるマンションでエレベーターに乗っていた小川順(斎藤工)。だが突然、エレベーターが急停止、そのまま動かなくなってしまう。一緒に乗り合わせたのは、見るからにワケありそうな男女3人。空き巣狙いでマンションを訪れた刑務所帰りの安井三郎(内野聖陽)。アガサ・クリスティを愛読するゴスロリ少女の愛敬カオル(佐津川愛美)は自殺願望があり、屋上から飛び降りようとやってきた。3人の中で唯一のマンションの住人で、ジョギングに出掛けようとしていた牧原静夫(モト冬樹)は、実は他人の心が読める超能力者。そして小川は、愛人の陽子(芦名星)が住むこのマンションから、妻・麻奈美(本上まなみ)の出産立会いに向かう途中だった。狭いエレベーターに閉じ込められてしまう4人。非常ボタンは故障、携帯電話も電池切れ。助けを呼ぶ全ての手段が絶たれてしまう。その状況でなぜか互いの秘密を暴露し合うハメになった彼らがそれぞれに不信感を募らせる中、思いもよらぬ事件が起きる。そして、扉の外では更なる悪夢が待ち受けていることを、4人のうち誰一人として知る者はなかった……。




8-10. まぼろしの邪馬台国

監督 堤幸彦
出演 吉永小百合竹中直人窪塚洋介風間トオル平田満
2008年 (東映)

解説
吉永小百合と竹中直人が、実在の夫婦役で共演した感動ドラマ。邪馬台国探究に情熱を注いだ全盲の文学者・宮崎康平と、彼を献身的に支えた妻の絆を温かなタッチで描き出す。

ストーリー
昭和31年。日中戦争で北京から博多へ一家で移住した長浜和子(吉永小百合)は、ラジオ番組「九州の歴史」を担当するフリーの声優に成長していた。その日、ゲストに迎えた宮崎康平(竹中直人)は長崎の島原鉄道の社長であり、盲目の郷土史家だった。邪馬台国の起源を探求することに熱中する康平は傲慢憮然な人物だが、和子の柔らかい対応を気に入る。そして、「島原に来んしゃい」と強引に誘った。1ヶ月後、島原を訪ねた和子は、康平から新規事業の観光バスのバスガイドの教師役を持ちかけられる。博多での仕事のめども立たない和子は引き受けて成功へと導いた。ワンマン社長の康平は、社員の佐々木(窪塚洋介)たちからはもちろん、副社長の戸田(石橋蓮司)にも疎まれていた。やがて、ある日の役員会で康平は解任される。私生活では妻に夜逃げされて、幼い二人の子供を抱える康平。すべてを失いながらも、邪馬台国に憑かれている彼の人柄に惹かれた和子は、康平からの求愛を受けた。康平と和子の二人三脚での邪馬台国探しが始まった。魏志倭人伝や古事記をひもとき探求を続ける康平と、その生活を支える和子。金銭的な面では、有明銀行の頭取である江阪(江守徹)が援助を惜しまなかった。九州の各地を訪れながら、康平と和子の旅は続く。8年もの歳月が費やされた康平の著書「まぼろしの邪馬台国」は、吉川英治文化賞を受賞した。その受賞パーティの夜、成長した康平の長男は夜逃げしたままだった実の母親(余貴美子)のもとを訪ねる。帰郷後、長男は母から受け取った離婚届を康平と和子に渡す。こうして二人は、晴れて名実ともに夫婦となった。地元で新たにバナナ園という事業を起こした康平は、ようやく卑弥呼の墓を発見する。そこで見た幻の卑弥呼は、和子にそっくりだった。感激のまま息をひきとる康平。彼の幸福な半生は、周囲の多くのひとびとも幸福へと導くものだった。




8-11. 太秦ライムライト

監督 落合賢
出演 福本清三山本千尋本田博太郎合田雅吏萬田久子
2013年

解説
時代劇が斜陽となった京都太秦撮影所で、長年斬られ役として活躍した大部屋俳優と新人女優との交流を描くドラマ。監督は「タイガーマスク」の落合賢。脚本・製作はチャップリン研究家としても有名な大野裕之。実際に長年斬られ役として活躍している福本清三が初主演。共演は、武術太極拳で世界ジュニア選手権優勝の経験がある山本千尋、合田雅吏、本田博太郎、松方弘樹ほか。2014年1月14日、NHK BSプレミアムにてテレビ編集版(約100分)を先行放映。2014年6月14日より、劇場完全版を京都大阪神戸で先行公開。

ストーリー
かつて日本のハリウッドと呼ばれた京都・太秦。香美山清一(福本清三)は、太秦の日映撮影所に所属する斬られ役一筋の大部屋俳優だ。ある日、半世紀近く続いたテレビ時代劇ドラマ「江戸桜風雲録」が、突如打ち切られた。後続番組の若者向けネオ時代劇「オダノブ」に映画職人たちの出番はない。大御所時代劇のスターの尾上清十郎(松方弘樹)は、「また、いつか斬らせてくれ」と香美山に声をかけ、撮影所を去っていく。そんなおり、香美山は、京都の駆け出しの女優・伊賀さつき(山本千尋)と出会い、かつての「太秦城のお姫様」の面影を感じる。さつきも、時代劇が減っても志を失わない香美山の生き方に惹かれ、やがて二人はともに殺陣の稽古をする師弟関係となる。香美山の指導の御陰で、さつきはチャンスをつかみ、スター女優への階段を歩むべく、東京に旅立った。対照的に、香美山には老いが忍び寄り、ついに引退の日を迎える。…時が経ち、さつきが主演を演じる、大作時代劇の話が持ち上がった。久しぶりの京都に胸躍らせたさつきだったが、撮影所には、香美山の姿もなく、お世話になった人が皆引退してしまったことを知り、いつしか大切なものを見失っていたことに気づく。今風の時代劇を作ろうとする川島プロデューサー(合田雅吏)に対して、さつきも、大御所スター尾上清十郎(松方弘樹)も、香美山に出演して欲しいと思っていた。体調を崩して引退して故郷で余生を送っていた香美山のもとを、さつきは訪れて復帰を懇願する。かたくなに復帰を拒否する香美山。だが、どうしても侍の血が騒ぐ…。一ヶ月後、香美山は撮影所にいた。最期に尾上と刀を交わすために。そして、最愛の弟子さつきに斬られるために…。




8-12. 奇跡

監督 是枝裕和
出演 前田航基前田旺志郎大塚寧々オダギリジョー夏川結衣
2011年 (ギャガ)

解説
誰も知らない」の是枝裕和監督が家族の温かさを描いた感動ドラマ。お笑いコンビ、まえだまえだの2人が鹿児島と福岡に離れて暮らす兄弟役に扮し、奇跡を起こして家族4人が再び一緒に暮らせるように願う姿をピュアな魅力で好演。これまで生きる悲しみ、痛みをつづってきた是枝監督が希望と子どもの輝きを観る者に伝える。

ストーリー
九州新幹線が全線開業の朝、博多から南下する“つばめ”と、鹿児島から北上する“さくら”、二つの新幹線の一番列車がすれ違う瞬間に奇跡が起きて願いが叶う……。そんな噂を耳にした小学6年生の大迫航一(前田航基)は、離れて暮らす4年生の弟・木南龍之介(前田旺志郎)と共に奇跡を起こし、家族4人の絆を取り戻したいと願う。二人の両親は離婚し、航一は母・のぞみ(大塚寧々)と祖父・周吉(橋爪功)、祖母・秀子(樹木希林)と鹿児島で、龍之介は父・健次(オダギリジョー)と福岡で暮らしているのだ。兄弟は、友達や両親、周りの大人たちを巻き込んで、壮大で無謀な計画を立て始める。そしてその計画は、様々な人々に奇跡を起こしていくのだった……。




8-13. 間宮兄弟

監督 森田芳光
出演 佐々木蔵之介塚地武雅常盤貴子沢尻エリカ北川景子
2006年 (アスミック・エース)

解説
個性派俳優・佐々木蔵之介と人気お笑いコンビ、ドランクドラゴンの塚地武雅主演で、江國香織の同名小説を映画化。仲良し兄弟と彼らの周囲の人々の日常をハートフルに描く。

ストーリー
東京、下町のとあるマンションで間宮兄弟は一緒に暮らしている。兄・間宮明信(佐々木蔵之介)は、ビール会社の商品開発研究員。弟・間宮徹信(塚地武雅)は、小学校の校務員だ。彼らは自分たちの世界で、楽しく穏やかに何不自由なく暮らしている。ある日、徹信が兄に「カレーパーティーをやろうか」と持ちかける。招待客は、徹信と同じ小学校で働く葛原依子先生(常盤貴子)。二人目は、行きつけのビデオショップでアルバイトをしている大学生の本間直美(沢尻エリカ)だ。カレーパーティー当日。カレーは3種類のチョイスカレー(チキン、ビーフ、シーフード)、テーブルの上には花、食後のボードゲーム、準備は完璧だった。カレーは大好評、モノポリーは大興奮、パーティーは大成功に終わり、“今日の反省会”は、史上最高に盛り上がった。夏休み、間宮兄弟は、母と祖母の暮らす故郷・静岡に帰省する。駅には母の順子(中島みゆき)が中古で買ったロールスロイスでお出迎え。田舎に帰れば兄弟は今も子供のまま。おこづかいをもらい、ここでもやっぱり昼寝をし、海水浴を楽しんだ。仕事帰りに時々、明信はビール会社の先輩である大垣と安西とバーに立ち寄る。この日は、大垣からある相談を受けていた。大垣は妻、さおりに離婚を切り出して以来、家に入れてもらえないという。そして離婚の原因は安西との不倫にあるのだった。数日後、大垣家のリビングで向かい合う大垣と明信、そしてさおり。離婚の話は平行線に終わった。同じ夜、徹信はバーでぼったくりに遭っていた。ある日、直美は明信から告白されるが、丁重にそれを断り、就職も決まったので、アルバイトを辞めると告げる。落ち込む明信を徹信は慰め、これからもずっと一緒に暮らそうと宣言する。その頃、直美は妹の夕美に、いつまでも姉妹で一緒に遊んでいていいのだろうかと言うと、夕美は「間宮兄弟を見てみなよ。あの年でもずっと一緒だよ」と答えるのだった。




8-14. 風の谷のナウシカ

監督 宮崎駿
出演 島本須美辻村真人京田尚子納谷悟朗永井一郎
1984年 (東映洋画)

解説
自然を愛し、虫と語る風の谷の少女が、たったひとりで未来の地球を酷い争いから救う姿を描く。アニメ雑誌 「アニメージュ」 に連載された宮崎駿原作の同名漫画のアニメ化で、脚本、監督も 「ルパン三世 カリオストロの城」 の宮崎駿が担当。

ストーリー
かつて人類は自然を征服し繁栄をきわめたが、「火の7日間」と呼ばれる大戦争で産業文明は壊滅した。それからおよそ千年、わずかに生き残った人類は巨大な蟲類が棲み、有毒な瘴気を発する菌類の広大な森・腐海に征服されようとしていた。腐海のほとりに、海からの風によって瘴気から守られている小国・風の谷があった。その族長ジルの娘ナウシカはメーヴェにのって鳥のように飛び、人々の嫌う巨大な蟲・王蟲と心をかよわせる自然との不思議な親和力を持っていた。ある夜、風の谷に巨大な輸送機が墜落し、翌日巨大な血管のかたまりのようなものが発見された。それは、「火の7日間」で世界を焼き尽くしたという兵器・巨神兵だった。ペジテ市の地下から掘り出され、それを奪い取った世界統一の野望を持つトルメキア王国が、輸送中墜落したのである。墜落を知ったトルメキアの皇女クシャナは、大編隊を風の谷に送り込んで来、ジルを殺しナウシカを人質として連れ去った。トルメキアの船はペジテのアスベルに襲われる。ナウシカは腐海に落ちたアスベルを救出し、腐海の秘密を知った。腐海の樹々は汚染された世界を浄化するために大地の毒を自らに取り込み、きれいな結晶にかえて砂となっていた。蟲たちは自然を破壊するものから森を守っていたのだ。ペジテに戻ったナウシカとアスベルは、市長から風の谷のトルメキア群を壊滅させるため、蟲を使って襲わせようという計画を聞いた。ナウシカはアスベルの母に助けられ、捕われた船からメーヴェに乗って脱出した。一方、風の谷では村人が一斉に蜂起を始めていた。風の谷に向かうナウシカは怒りで目を真紅に輝かせてばく進する王蟲の大群を見る。群れの向かっている方向には一機の飛行ガメが浮かび、それは瀕死の王蟲の子をぶら下げていた。ペジテの計画とはこのことだったのだ。王蟲の暴走を知った風の谷の人々は大パニックに陥り、クシャナは巨神兵を使うことを決意する。だが、時期が早すぎたため少しの力をだした後、くずれ去ってしまった。ナウシカは武器も持たずに攻撃されながら飛行ガメの中へ飛び込んで行った。その衝撃で飛行ガメは落下し、ナウシカは酸の湖の中へ入ってしまおうとする王蟲の子を身を挺して止めた。赤かった王蟲の子の目が青に変わった。ナウシカは王蟲の子と共に、王蟲の大群の眼前に降り立った。あっという間に、王蟲の群れはナウシカの身体をも包み込んでしまったが、靄が晴れた後、青い目の王蟲の群れの真中に彼女は横たわっていた。王蟲の中の一体がナウシカの遺体の下に触毛をまわして持ち上げた。あたりが光り輝き、奇跡が起こった。ナウシカがゆっくりと目をさました。




8-15. 東京家族 

監督 山田洋次
出演 橋爪功吉行和子西村雅彦夏川結衣中嶋朋子
2012年 (松竹)

解説
小津安二郎監督の不朽の名作「東京物語」をモチーフに、山田洋次監督が現代の家族像を描くヒューマン・ドラマ。子供たちに会うために東京へやってきた老夫婦の姿を通して、家族の絆を映し出す。老夫婦に橋爪功と吉行和子、長男を西村雅彦、次男を妻夫木聡が演じるなど、新旧実力派たちが多数顔をあわせた。

ストーリー
2012年5月、瀬戸内海の小島に暮らす平山周吉(橋爪功)と妻とみこ(吉行和子)は、子供たちに会うために東京へやって来る。だが品川駅に迎えに来るはずの次男の昌次(妻夫木聡)は、間違って東京駅へ行ってしまう。周吉はタクシーを拾い、郊外で開業医を営む長男の幸一(西村雅彦)の家へと向かった。長女の滋子(中嶋朋子)は不注意な弟に呆れ、幸一の妻、文子(夏川結衣)は歓迎の支度に忙しい。やがて周吉ととみこが到着、大きくなった二人の孫・実(柴田龍一郎)と勇(丸山歩夢)に驚く。そんな中、ようやく昌次も現れ、家族全員が久しぶりに夕食を囲むのだった。日曜日、幸一は勇を連れて、両親をお台場から横浜見物へと連れて行く予定だったが、患者の容体が悪化、急な往診に出かけることになる。周吉ととみこは、滋子の家に泊まりに行くが、美容院を経営する滋子は忙しく両親の相手ができず、夫の庫造(林家正蔵)が駅前の温泉へと連れ出す。滋子に頼まれ、昌次は両親を東京の名所巡りの遊覧バスに乗せるが、自分は疲れて居眠りをしている。帝釈天参道の鰻屋で、周吉は、舞台美術の仕事をしている昌次に将来の見通しはあるのかと問いただす。昔から昌次に厳しい周吉、昌次はそんな父が苦手だった。その頃、滋子は幸一に、お金を出し合って二人に横浜のホテルに泊まってもらおうという提案をする。横浜のリゾートホテルの広い部屋で、ただ外を眺める周吉ととみこ。周吉はネオンに輝く観覧車を見て、結婚する前に二人で観た映画「第三の男」を懐かしむ。寝苦しい夜が明け、周吉ととみこは2泊の予定を切り上げて、帰ってきてしまう。そんな両親に、商店街の飲み会があるので今夜はいてもらっては困ると言い放つ滋子。周吉は同郷の友人、沼田(小林稔侍)宅へ、とみこは昌次のアパートへ行くことにする。久しぶりの母親の手料理を美味しそうに食べる昌次。その時、母に紹介しようと呼んだ恋人の間宮紀子(蒼井優)が現れる。昌次はボランティアで行った福島の被災地でひと目惚れしてプロポーズしたことを、とみこに打ち明ける。一方、周吉は、沼田に宿泊を断られた上に泥酔、周囲に大迷惑をかけていた。幸一の家でようやく落ち着いたところに、とみこが上機嫌で帰ってくるが、突然倒れてしまう……。




8-16. 天のしずく 辰巳芳子 いのちのスープ

監督 河邑厚徳
出演 辰巳芳子
2012年 ()

解説
全国で評判を呼ぶ“いのちのスープ”の生みの親である料理家・辰巳芳子の姿や考え方を捉えたドキュメンタリー。農と食を通して、人の命の尊厳を改めて考え直す。 「映画 ひみつのアッコちゃん」 の谷原章介がナレーションを担当。朗読は 「武士の家計簿」 の草笛光子。監督はNHKで数々のドキュメンタリーを手掛けてきた河邑厚徳。

ストーリー
日本の食に提言を続ける料理家・辰巳芳子。彼女が病床の父のために工夫を凝らして作り続けたスープは、やがて人々を癒す“いのちのスープ”と呼ばれるようになり、今では多くの人々が深い関心を寄せている。いのちの始まりに母乳があり、終わりに唇をしめらす末期の水がある。人の命は絶えることのない水の流れに寄り添って健やかに流れる。本作で描かれる辰巳のスープにも長い物語がある。調理に至る前には、海や田畑など日本の風土が生み出す生産の現場があり、調理後にはスープを口にする家庭や施設、病院など多様な人の絆が見えてくる。脳梗塞で倒れ、嚥下障害(えんげしょうがい)により食べる楽しみを奪われた父。その最後の日々を支えたのが、料理研究家の草分けだった母・浜子とともに工夫して作った様々なスープだった。これがいのちのスープの原点となる。スープに使う食材を作り出す全国の生産者たちは、作物に対する誠実な志を持ち、辰巳に食材を提供する。旬の作物を育てる繊細で美しい自然風土。それぞれの素材や性質を生かして、嬉しそうな表情で丁寧に調理する辰巳。幼児から老人まで、スープを口にする人々の姿が、交響曲のようにいのちの響きを奏でてゆく。ここで描かれるスープの物語は、辰巳が唱える“いのちと愛”への道筋を、食を通して示してくれる。




8-17. 新幹線大爆破

監督 佐藤純彌
出演 高倉健山本圭織田あきら郷英治宇津宮雅代
1975年 (東映)

解説
東京・博多間を走る新幹線に仕掛けられた爆弾をめぐって、犯人と捜査当局の対決を描いたサスペンス映画。脚本は小野竜之助、監督は 「ゴルゴ13(1973)」 の佐藤純彌、撮影は 「怪猫トルコ風呂」 の飯村雅彦がそれぞれ担当。

ストーリー
約一五〇〇人の乗客を乗せたひかり一〇九号、博多行は九時四十八分に定刻どうり東京駅十九番ホームを発車した。列車が相模原付近にさしかかった頃、国鉄本社公安本部に一〇九号に爆弾を仕掛けたという電話が入った。特殊装置を施したこの爆弾はスピードが80キロ以下に減速されると自動的に爆発するというのだ。さらに、この犯人は、このことを立証するために札幌近郊の貨物列車を爆破する。これらの完璧な爆破計画は、不況で倒産した精密機械工場の元経営者・沖田哲男、工員の大城浩、そして元過激派の闘士・古賀勝によるものであった。そして沖田は500万ドルを国鉄本社に要求した。運転指令長の倉持は、運転士の青木に事件発生を連絡するとともに警察庁の須永刑事部長、公安本部長の宮下を招集、対策本部を設定した。やがて国鉄側が沖田の要求に応じたために、大城が500万ドルを受け取りに向ったが、パトカーの執拗な追跡に事故死してしまった。仲間を失った沖田は単身、捜査本部と虚々実々の掛け引きを展開し、沖田は巧妙な手口を駆使してついに500万ドルを手に入れた。しかし古賀は、貨物爆破の現場に残したタバコから身許が割れ、沖田を逃すために自爆した。沖田は、捜査本部に爆弾除却方法を記した図面が喫茶店サンプラザのレジにあることを知らせ、変装、偽名を使って海外旅行団の一員として羽田に向った。ところが、その喫茶店が火事になって、図面が焼失してしまったのだ。捜査本部はTVで必死に沖田に呼びかけたが、反応はなかった。緊迫した捜査本部に、制限速度ぎりぎりで走る一〇九号を外から撮影したフィルムが届けられた。そのフィルムから爆弾装置の箇所が判明された。早速、爆弾の仕掛けられた位置の床を焼き切るために一〇九号と並行して別の新幹線を走らせ、酸素ボンベと溶接器を運び入れ、見事、爆弾除去に成功した。一方、沖田は羽田国際空港で張り込む刑事たちの目を逃れて搭乗しようとしたが、刑事たちが連れて来ていた息子の賢一が沖田に声をかけたために見破られてしまった。沖田は必死に逃走するが、追って来た刑事たちに射殺された。




8-18. 一枚のハガキ

監督 新藤兼人
出演 豊川悦司大竹しのぶ六平直政大杉漣柄本明
2011年 (東京テアトル)

解説
日本最高齢の現役映画監督・新藤兼人が、“映画人生最後の作品”として放つ人間ドラマ。監督自身の実体験に基づき、戦争で家族を失った男女の姿を映し出す。豊川悦司、大竹しのぶといった歴代の新藤作品に出演した豪華俳優陣が集結。国内外の映画祭でも高い評価を受けてきた巨匠が作品に込めた、反戦への強い思いに胸を打たれる。

ストーリー
戦争末期に召集された100人の中年兵は、上官がくじを引いて決めた戦地にそれぞれ赴任することになっていた。クジ引きが行われた夜、松山啓太(豊川悦司)は仲間の兵士、森川定造(六平直政)から妻・友子(大竹しのぶ)より送られてきたという一枚のハガキを手渡される。「今日はお祭りですがあなたがいらっしゃらないので何の風情もありません。友子」検閲が厳しくハガキの返事が出せない定造は、フィリピンへの赴任が決まり、生きて帰って来られないことを覚悟し、宝塚へ赴任する啓太にもし生き残ったらハガキを持って定造の家を訪ね、そのハガキを読んだことを伝えてくれと依頼する。戦争が終わり100人いた兵士のうち6人が生き残った。その中の一人、啓太が故郷に帰ると、待っている者は誰もおらず、家の中は空っぽだった。啓太が戦死したという噂が流れ、恋人同士になってしまった妻と啓太の父親は、啓太が生きて帰ってくるとわかり二人で出奔したのだった。生きる気力を失い、毎日を無為に過していた啓太はある日、荷物の中に定造から託されたハガキを見つける。一方、夫を亡くした友子は悲しみに浸る間もなく、舅姑から自分たちは年老いて働けないのでこのまま一緒に暮らしてほしいと頼まれる。その上、村の習わしで長男が死んだら次男が後継ぎとなることが決められており、友子には次男の三平(大地泰仁)と結婚をしてほしいという。他に身寄りのない友子は、愛する夫との幸せな人生を奪った戦争を恨みながらも、定造の家族と生きていくことを承諾する。ささやかな儀式で夫婦となった友子と三平だったが、しばらくすると三平も戦争に招集され戦死。その後、舅と姑が立て続けに死に、ひとり残された友子は定造の家族が唯一残した古い家屋と共に朽ち果てようとしていた。そんなある日、ハガキを持った啓太が訪ねてくる。クジ運だけで自分が生き残ったことに罪悪感を感じる啓太と、家族も、女としての幸せな人生も、何もかも失ってしまった友子。戦争に翻弄されたすべてを奪われた二人が選んだ再生への道とは……。




8-19. NANA

監督 大谷健太郎
出演 中島美嘉宮崎あおい松田龍平成宮寛貴平岡祐太
2005年 (東宝)

解説
2300万部を突破した矢沢あいの人気漫画を、中島美嘉&宮崎あおい主演で映画化。20歳の対照的な2人の少女、ナナと奈々の友情をイキイキと描いた青春映画。

ストーリー
パンクバンド“ブラスト”のヴォーカリスト・大崎ナナと、恋人・章司を追いかけて東京へ向かおうとしていた小松奈々。同い年、同じ名前のふたりが出会ったのは、上りの新幹線の中だった。クールなナナとキュートな奈々、見た目や性格は違うけどすっかり意気投合したふたりは、河を望む古いマンションの一室で共同生活を始めた。数日後、ギタリストのノブとドラマーのヤスが、新曲を携え上京して来た。新メンバーにベースのシンを加え、活動を再開するブラスト。ナナは、歌に賭ける気持ちを燃やす。一方、奈々はつれない章司に不満を募らせていた。実は、章司は思い込みの激しい奈々に疲れ、同じバイト先で知り合った大学の同級生でもある幸子に心変わりしていたのだ。彼は、奈々の目の前で幸子を選ぶ。傷心の奈々に、人気バンド“TRAPNEST”のライヴ・チケットが届いた。そのギタリストであるレンが、かつてブラストのメンバーでナナの恋人だったことを知った彼女は、ナナを誘ってライヴに出かける。レンが引き抜かれバンドを脱退した時に、愛し合いながらも別れた筈のナナとレン。しかしライヴ当日、再会を果たしたふたりは愛を再燃させるのであった。それから暫くして、奈々がバイトをクビになった。落ち込む彼女に、ナナが用意してくれたプレゼント。彼女は、奈々の大ファンであるTRAPNESTのヴォーカリスト、タクミを部屋に招いてくれたのだ。――20歳を過ぎ、甘えてばかりいられない現実の中で、とびきり甘い夢を見せてくれたナナ。それは、奈々にとってとても幸福な初恋みたいな時間だった。




8-20. パーマネント野ばら

監督 吉田大八
出演 菅野美穂小池栄子池脇千鶴宇崎竜童夏木マリ
2010年 (ショウゲート)

解説
人気漫画家・西原理恵子の同名作を菅野美穂主演で映画化した感動作。海辺の田舎町を舞台に、大人の女性のおかしくも切ない恋心を描く。ほぼ全編を原作者の出身地・高知で撮影。

ストーリー
海辺の町にある唯一の美容室“パーマネント野ばら”は、離婚して一人娘のもも(畠山紬)を連れて出戻ったなおこ(菅野美穂)と、その母まさ子(夏木マリ)が切り盛りしている。町の女たちはこの店に来ては、恋の悲喜こもごもを語っていく。まさ子の夫カズオ(宇崎竜童)は、他の女の家に入り浸っている。なおこはカズオに家に戻ってくるよう言いに行くが、むちゃくちゃな理屈で断られる。なおこの友人みっちゃん(小池栄子)は、フィリピンパブを経営している。その夫ヒサシ(加藤虎ノ介)は店の女の子と浮気をしては、みっちゃんに金の無心ばかりしている。今度の浮気は愛があるのではないかと疑ったみっちゃんは、ラブホテルから出てきた浮気相手を車で轢き殺そうとするが、浮気相手をかばった夫とともに重傷を負ってしまう。2人は病院でも罵りあって大暴れするが、みっちゃんはまた夫の金の面倒を見てしまう。なおこのもう1人の友人ともちゃん(池脇千鶴)は、ギャンブルに溺れたあげく行方不明となった夫の身を案じる日々を過ごしている。ある日なおことまさ子は、ゴミ屋敷に住む老夫婦の髪を切りに行く。その帰り道、廃人のようになり果てたともちゃんの夫ユウジ(山本浩司)と出会う。ユウジはスロットのコインを、ともちゃんに渡すようなおこに託す。その後、ユウジは帰らぬ人となって発見される。なおこは、高校教師カシマ(江口洋介)とデートを重ねていた。しかしその恋には、秘密が隠されていた。




8-21. 女帝 春日局

監督 中島貞夫
出演 十朱幸代名取裕子鳥越マリ草笛光子金田賢一
1990年 (東映)

解説
徳川三百年の歴史の中一代で「女帝」の名を裕しいままにした、本名おふくこと春日局の謎につつまれた半生を描く。原作・脚本は 「極道の妻たち 三代目姐」 の高田宏治が執筆、監督は 「瀬降り物語」 の中島貞夫、撮影は 「あ・うん」 の木村大作がそれぞれ担当。

ストーリー
天下分け目の関ケ原合戦の数年後の一六〇四年、浪人・稲葉正成の妻ふくが夫の仕官を依頼すべく京都伏見城に徳川家康を訪ねた折のことだった。好色絶倫の家康に迫られたふくは、そのまま家康の子を身ごもってしまう。翌一六〇五年の夏、江戸城では徳川大納言秀忠の正室・お江与が懐妊した。このことで江戸城は乳母を募った。この機を捉え、ふくは五人の幼な子と若い女中つめを連れ江戸へ出奔し、乳母役として最後の二人まで残った。その時、ふくは出産直後で愛らしい男の赤ん坊を抱いていた。大年寄・大姥の局は、健康な母体を持つふくを推し、民部の局は、ふくが逆臣明智光秀の血を引く女ということで激しく反対した。お江与の陳痛が予定より早く始まり、予想以上の難産のあげく男児を出産したが、不運にも逆子のため窒息による死産だった。大姥は民部に事の一切を秘密にとの約束を取付け、死産をひた隠し、ふくの乳呑み児を替玉にしたのだった。ふくは大姥の要求を自分がこの子の乳母として採用される事を条件に受け入れた。その子は家康から徳川宗家の長男にのみ与えられる竹千代を命名された。そして翌年、秀忠はめでたく二代将軍の座につくことができた。ところがここに一大異変が起った。お江与がまた懐妊したのだ。大奥はざわめき、やがてお江与は無事男児を出産、その子は国松と名付けられた。以来、大奥の確執は日を追って激化し、今では完全に竹千代派と国松派の真っ二つに分れるまでに至った。そのうち竹千代は大御所の子という噂も出はじめ民部や大姥らは慌て出し、家康自身も心おだやかではいられなくなった。そしてそんな時、家康は心臓発作で倒れたのだった。しかし、噂は真実へと色濃くなってゆき、遂に家康は病いをおしてふくに真実を問う。ふくは竹千代は秀忠の子であると断言し、その竹千代が後の三代将軍・家光となったのだった。




8-22. 眠狂四郎勝負

監督 三隅研次
出演 市川雷蔵藤村志保高田美和久保菜穂子成田純一郎
1964年 (大映)

解説
柴田錬三郎の同名小説を 「黒の駐車場」 の星川清司が脚色、 「巨人 大隈重信」 の三隅研次が監督した時代劇。撮影は 「眠狂四郎殺法帖」 の牧浦地志。

ストーリー
愛宕神社の階段で参拝者の補助をする少年。少年の父は江戸で評判の武芸者であったが、道場破りの榊原に殺され、少年は境内の茶屋で寝泊まりしながら独り生きていたのだった。少年を不憫に思った狂四郎はたまたま知り合った老侍を立会人に道場破りを少年の父の流儀で打ち殺す。その夜居酒屋で老侍と酒を酌み交わす狂四郎。別れを告げ先に店の外に出た老侍は赤座軍兵衛と名乗る侍に襲われる。一向に風采のあがらないその老侍が朝比奈という勘定奉行の職にある男と聞いて助けに入った狂四郎は興味を唆られた。狂四郎の耳には幾つかの興味ある事実が入った。家斉の息女高姫は堀家に嫁ぎながら、早くから夫を失い奔放で驕慢な生活をしていること、そして、用人主膳は札差、米問屋などに賄賂とひきかえに朝比奈の抹殺を約していること。又赤座も朝比奈を狙っていること。等々。ある日、朝比奈を警護していた狂四郎を榊原の弟が敵と襲いかかる。そこに遊楽帰りの高姫の列が通りかかる。狂四郎はわざと高姫に榊原の槍が向かうように仕向けた。屋敷に戻り怒る高姫に主膳が朝比奈の企みだろうと吹聴する。そして朝比奈の命を奪えと命ずる高姫に策を講じていると告げる。主膳の命によりすぐりの殺人者が揃った。赤座、増子、榊原、海老名それに、キリスト教の布教に囚われている夫を救うため、主膳の膝下にある采女が加わっていた。動機も武術も異る五人は、狂四郎の身辺に危害を加えようと立ち廻った。ある日采女の妖しい魅力にひきつけられた狂四郎は飲んだ茶に毒を盛られ意識を失う。狂四郎は両手を縛られ、高姫の褥の傍に据えられた。動けぬ狂四郎を前に迫る高姫。狂四郎は彼女を罵倒し、騒ぎに飛び込んできた増子の手裏剣を逆に利用して屋敷を逃げ出すのだった。その後も手をかえ品をかえてせまってくる殺人者の中を、生きぬけた狂四郎に、全てを失敗した主膳は、狂四郎と柳生但馬守との御前試合を計った。狂四郎の刀に細工をし、抜けた白刃が朝比奈の胸を突くという計略であった。試合当日、冷い眼をすえる高姫の前で、抜けた狂四郎の白刃が貫いたのは主膳の一味の大口屋だった。敗北を認める高姫の口から、思わず浪人狂四郎を慕う言葉がもれた。が、なをもあきらめない主膳は、采女を囮りに狂四郎を狙っていた。殺気をはらむ武蔵野の枯野原を、対決の時は刻一刻と迫まっていった。十字架を模した木に縛り付けられている采女の元に駆けつけようとした狂四郎を矢が襲う。くぐり抜け采女を救い出した狂四郎を主膳とその配下、そして赤座と海老名が襲う。そして彼らを撃退した狂四郎に、駆けつけた朝比奈は落ち着いた生活をするように勧めるが、狂四郎は笑顔で断る。生き残った采女を残し狂四郎は立ち去るのだった。





8-23. 零戦燃ゆ

監督 舛田利雄
出演 丹波哲郎加山雄三あおい輝彦目黒祐樹堤大二郎
1984年 (東宝)

解説
第二次世界大戦で活躍した名機零戦の誕生から散華するまでを、それに関わった人間たちの運命と共に描く。原作は週刊文春連載中の柳田邦男の同名小説。脚本は 「日本海大海戦 海ゆかば」 の笠原和夫、監督は 「エル・オー・ヴィ・愛・N・G」 の舛田利雄、撮影も同作の西垣六郎がそれぞれ担当。

ストーリー
銀色に輝く新型戦闘機・零戦の勇姿に魅せられて横須賀海兵団に入団した浜田正一と水島国夫は、それぞれ浜田は航空兵、水島は整備兵と別な道を歩み活躍していた。入団してから2年後、昭和16年12月8日、日本は連合軍に対して無謀な戦いを挑んだ。浜田と水島は台湾・高尾基地にいた。日本海軍はハワイ真珠湾に奇襲をかけ、航空兵力による初の大戦果をあげた。高尾基地から飛びたった浜田たちの零戦の大編隊は五百カイリを越えて、フィリッピンのクラークフィールド基地を攻撃した。その零戦は“ゼロファイター”と呼ばれ、連合軍に悪魔の如く恐れられた。浜田は連合軍の戦闘機を次々と撃墜していった。昭和17年6月4日、米軍はアリューシャン列島アクタン島で、不時着した零戦を完全な形で手に入れた。伝説化していた零戦の秘密のベールが次第に剥がされていった。6月5日、ミッドウェイ海戦で日本海軍は大敗した。空母、赤城・加賀・蒼竜・飛竜が沈没。歴戦の搭乗員の大半を失った。内地に帰った水島は、吉川静子と知り合う。死んだ父親が作っていた零戦が空を飛ぶのを見たい、という静子の願いを、水島と浜田はかなえてやった。そして二人は、ラバウル航空隊へと転属していった。昭和18年4月8日、山本五十六長官のブイン、パラレ方面への前線視察護衛隊を、浜田たちは命じられる。だが山本長官の行動は全て米軍に筒抜けで、浜田たちの必死の反撃も虚しく山本長官機は撃墜されてしまう。山本長官の死は伏せられ、生き残った浜田たちには何の咎めもなかったが、海軍の出処進退の伝統によって浜田たちには連日の出撃が命じられた。死に場所をえるようにとの上層部の配慮であった。仲間たちは次々に死に、水島は浜田が使い捨ての将棋の駒のようにボロボロになって殺されてゆくことに激しい怒りを覚えるのだった。その浜田はF4Uによって火ダルマにされ辛くも脱出、命だけは助かったものの全身に大火傷を負い、二度と零戦に乗れない身体になってしまった。母親のイネは温かく息子の帰りを待っていた。しかし、戦うことのみにとり憑かれている浜田は手術をうけ、再び零戦に乗る。水島はそんな浜田を救うため、愛する静子に浜田との結婚を納得させる。静子の愛だけが浜田を救えると信じたのだ。昭和19年6月米軍はサイパン、テニアン島を占領、大空には零戦をはるかに上回る性能のグラマンF6Fヘルキャットが登場、零戦は特攻機として砕け散るしかなかった。空の守りがなくなった日本の空に世界最強のボーイングB29の編隊が襲いかかってきた。昭和20年3月、米軍が沖縄に上陸。4月戦艦大和沈没。6月沖縄陥落。静子が筑城航空隊の浜田のもとに行こうとしたその日、B29の編隊が名古屋を空襲してきた。女学生を誘導する静子の視界を白い閃光が覆った−−。静子の死を水島からの手紙で知った浜田は、唯一機、米軍機の大編隊へと最後の出撃をするのだった。




8-24. チェブラーシカ

監督 中村誠
出演 大橋のぞみ北乃きい土田大チョー藤村俊二
2010年 (東宝)

解説
ロシアの児童文学家、エドゥアルド・ウスペンスキーによる童話を映像化したパペット・アニメーション。大きな耳をした不思議な生き物チェブラーシカと、孤独なワニのゲーナとの物語をピリリと風刺を利かせて描く。オリジナル版の制作スタッフの協力を得て、日本人スタッフを中心にして制作された27年ぶりの新作となる。

ストーリー
遠い南の国からオレンジの木箱に閉じ込められてやってきた、大きな耳の小さないきもの(声:大橋のぞみ)は、起こしてもすぐに倒れてしまうことから、『チェブラーシカ(ばったり倒れ屋さん)』と名付けられる。チェブラーシカは動物園にも受け入れてもらえず、都会の片隅にある電話ボックスを寝床にひとりで暮らし始める。ある日、同じくひとりぼっちのワニ・ゲーナの友達募集の貼紙を見つけたチェブラーシカは、ゲーナの家を訪ねる。すぐ友達になった2人は、サーカス団に入るため綱渡りの練習をしている少女マーシャ(北乃きい)、生き別れになった孫娘を探して旅を続ける奇術師のおじいさん(藤村俊二)といった仲間を増やしていく。




8-25. 荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE

監督 飯塚健
出演 林遣都桐谷美玲小栗旬山田孝之城田優
2011年 (ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント)

解説
手塚治虫文化賞短篇賞に輝いた 「聖☆おにいさん」 の漫画家・中村光による同名コミックを大胆に実写映画化。大企業の御曹司の青年と、荒川の河川敷で暮らす奇抜な風貌の人々との交流をつづるファンタジー。河童姿の小栗旬や星型のマスクを被った山田孝之など、原作からそのまま出てきたかのようなキャラクターの再現ぶりに注目だ。

ストーリー
“他人に借りを作るべからず”その家訓に育った大企業の御曹司・リク(林遣都)は、恐れる父・市ノ宮積(上川隆也)から荒川の開発の妨げとなる不法占拠者を退去させろと命じられる。だがそこへ向かった矢先、リクはトラブルに遭遇、自分は“金星人”だと名乗る謎の美少女・ニノ(桐谷美玲)に助けられ、生まれて初めて他人に借りを作ってしまう。どうにか借りを返したいリクにニノが出したお願いは「私に恋をさせてくれないか」というものだった。さらに荒川河川敷にはニノ以外にも、星型のマスクらしきものをかぶったロックミュージシャン(山田孝之)や、どう見ても着ぐるみを着た河童の村長(小栗旬)など奇怪な恰好の常識はずれな人々が住みついていた。理解不能の状態に戸惑いながらツッコミを入れるばかりのリクであったが、彼らと共に過ごすにつれて自分の居場所がここにあると思うようになっていく。金や権力がすべての生活では知りえなかった、束の間の楽しい日々。だが、強制退去の期日、そしてニノが金星に帰る日は刻一刻と近づいていた……。




8-26. ホタル

監督 降旗康男
出演 高倉健田中裕子水橋貴己奈良岡朋子井川比佐志
2001年 (東映)

解説
「鉄道員(ぽっぽや)」のスタッフ&キャストが再結集した、愛と感動のドラマ。心に深い傷を抱えて昭和を生きぬいた夫婦の絆と、周囲の人間模様をしみじみと描き出す。

ストーリー
鹿児島県知覧。カンパチの養殖を生業としている山岡は、肝臓を患い透析を続けている妻・知子とふたり暮らし。子供がいない彼らは、漁船“とも丸”を我が子のように大切にしている。激動の昭和が終わり、平成の世が始まったある日、山岡の元に青森に暮らす藤枝が雪山で自殺したとの報せが届いた。山岡と藤枝は共に特攻隊の生き残りだった。それから暫く後、山岡はかつて特攻隊員に“知覧の母”と呼ばれていた富屋食堂の女主人・山本富子から、ある頼みを受ける。それは、体の自由が利かなくなった自分に代わって、南の海に散った金山少尉、本名、キム・ソンジェの遺品を、韓国の遺族に届けて欲しいというものだった。実は、金山は知子の初恋の相手で、結婚を約束した男でもあった。複雑な心境の山岡は、しかし知子の余命が長くて一年半だと宣告されたのを機に、ふたりで韓国へ渡ることを決意する。だが、金山の生家の人たちは、山岡夫妻の訪問を決して快く迎えてはくれなかった。それでも、山岡は遺族に金山の遺品を渡し、彼が残した遺言を伝えた。金山は日本の為に出撃したのではなく、祖国と知子の為に出撃したのだと。やがて歳月は流れ、21世紀。太平洋を臨む海岸に、その役目を終えた愛船・とも丸が炎に包まれていくのを、ひとり見つめる山岡の姿があった。




8-27. 眠狂四郎女地獄

監督 田中徳三
出演 市川雷蔵高田美和二代目水谷八重子田村高廣小沢栄太郎
1968年 (大映)

解説
「やくざ坊主」 の高岩肇がシナリオを執筆し、 「残侠の盃」 の田中徳三が監督した“眠狂四郎”シリーズ第十作目。撮影も 「やくざ坊主」 の森田富士郎。

ストーリー
旅の途中、眠狂四郎は何者かに襲われて息を引きとっていった密使から、緋鹿の子しぼりの手絡を受取った。そのため、狂四郎は佐伯藩国家老堀采女正と、城代家老稲田外記の権力争いの渦中に巻き込まれていった。采女正派からは外記派の一人と信じられ、外記派からは密書を奪い去ったと誤解され、両派の刺客が狂四郎の身辺に現われはじめた。だが、狂四郎は、密書とは知らずに、手絡を角兵衛獅子のおちかに与えていたのだった。道中、狂四郎はひと目で女と分る男装の旅人に道連れになってほしいと頼まれたが断った。その直後、狂四郎は惨殺死体となったおちかを発見した。手絡は奪われていなかったが、それには「姫国表に向う」という隠し文字が谷川の水で浮び出ていたのである。城下に着くまでに、狂四郎は外記派の刺客辰馬、金と出世が目的で采女正にやとわれた甚内らと剣を交えたり、色仕掛けで狂四郎の命を狙う女たちの手を逃れたり、危ない目にあった。一方、権力の後楯として小夜姫を狙う二派のうち、ついに外記は、男装姿の旅人に化けて国に現われた小夜姫を捕え、幽閉してしまった。しかし、二派の抗争は、その外記が甚内の剣に倒されたことにより決着がついた。やがて、采女正が佐伯藩の実権を半ば手中にして登城する途中、辰馬が采女正の駕籠を襲った。だが中から現われたのは、狂四郎である。狂四郎は、辰馬がおちかの兄で、采女正の妾腹の子であるのを知り、父を討たせまいとしたのだ。だが、辰馬は母子を捨てた采女正に復讐しようとしていたのである。采女正はそんな辰馬を実子と知りながら、卑怯にも短銃で射ち殺した。辰馬に自分と同じ宿命の重さを見る狂四郎は怒り、得意の円月殺法で采女正とその一派を倒していった。




8-28. 臨場 劇場版

監督 橋本一
出演 内野聖陽松下由樹渡辺大平山浩行益岡徹
2012年 (東映)

解説
ベストセラー作家・横山秀夫の同名小説を基にした大ヒットテレビドラマを映画化。型破りな検視官の主人公・倉石に扮する内野聖陽をはじめ、松下由樹、渡辺大などオリジナルメンバーが顔を揃え、演出の橋本一がメガホンを握る。リアリティにこだわった緊迫感あふれる映像、 「根こそぎ拾え」 や 「俺のとは違うなぁ」 のキメ台詞も健在だ。

ストーリー
都内で無差別通り魔事件が発生。だが実行犯は被害者遺族たちの願いも虚しく、心神喪失が認められ、刑法第39条により無罪となってしまう。その2年後、事件を無罪へ導いた弁護士と精神鑑定を行った医師が相次いで殺害される。警視庁と神奈川県警の合同捜査本部が立ち上がり、2年前の通り魔事件の遺族に疑いの目が向けられた。だが、検視官の倉石義男(内野聖陽)は死亡推定時刻に疑問を抱き、犯人が別にいると考える。果たして彼が追った先にある真相とは……。





8-29. 隠し剣 鬼の爪

監督 山田洋次
出演 永瀬正敏松たか子吉岡秀隆小澤征悦田畑智子
2004年 (松竹) 131分

解説
たそがれ清兵衛」 に続く、山田洋次監督&藤沢周平原作の人情時代劇。秘剣“鬼の爪”を伝授された平侍がたどる予期せぬ運命と、信念と愛に生きる姿を描き出す。

ストーリー
幕末の東北、海坂藩。母の生前に奉公に来ていた百姓の娘・きえと、3年振りに町で偶然再会した平侍の片桐宗蔵。だが、伊勢屋という大きな油問屋に嫁ぎ幸せに暮らしているとばかり思っていた彼女の、痩せて哀しげなその容子に胸を痛めた彼は、それから数ヵ月後、きえが過労で倒れ病床に臥せっていると聞くや、嫁ぎ先へ乗り込み強引に彼女を連れ帰るのだった。その甲斐あって、やがてきえの体は順調に回復。宗蔵の侘しい独身生活も、明るさを取り戻した。しかし、彼の行動は藩内で悪評を呼び、きえを実家に帰すことを余儀なくされてしまう。そんな矢先、大事件が起こった。海坂藩江戸屋敷で謀反を働いた罪で郷入りの刑に処されていた狭間弥市郎が牢を破り、百姓の家に人質をとって立て籠もったのだ。弥市郎は藩内きっての剣豪。そこで、大目付の甲田は彼と同じ剣術指南役・戸田寛斎の門下生だった宗蔵に討手を命じた。果たして、宗蔵は弥市郎との戦いに挑むも、弥市郎の命を奪ったのは――鉄砲隊の放った銃弾だった。侍らしい最期を遂げられなかった弥市郎の悔しさを嘆く宗蔵。更に、家老の堀が夫・弥市郎の命乞いにやって来た桂の体を玩んだことを知った彼は、ふたりの無念を晴らすべく、戸田から授かった秘剣“鬼の爪”で堀の命を奪う。その後、侍の道を捨て蝦夷へ旅立つ決意をした宗蔵は、きえに胸に秘めていた想いを伝え、きえも宗蔵の気持ちを受け止めるのだった。




8-30. コント55号と水前寺清子のワン・ツー・パンチ三百六十五歩のマーチ

監督 野村芳太郎
出演 萩本欽一坂上二郎水前寺清子西村晃
1969年 (松竹)

解説
「ひばり・橋の花と喧嘩」 の野村芳太郎が脚本・監督を担当した喜劇。撮影もコンビの川又昂が担当した。

ストーリー
板前の萩村金一と坂下二郎は、二郎の資金で共同経営の小料理屋を開くことにした。ところが、人の良い二郎は相手に足許を見られ、店を買いそこない、資金を増やそうとした金一は、競輪で半分近くすってしまった。二郎に追求され、二人は、とっくみ合いの大喧嘩をしてしまった。二郎は同じアパートに住む清子になぐさめられ、励まされて大感激。一方、かねてから金一に惚れていた料亭の女将みどりは「私と一緒になってくれれば、金は出してあげる」と言うが、金一は「江戸っ子だ!そんな金受けとれるか」とタンカを切ったが、二郎は「私は田舎者ですから」とちゃっかり受け取る始末。ところが二人が帰ってくると、アパートでは立退き騒ぎが起っていた。しかし、大家の息子順吉が重要な情報を握って住人側についた。順吉は清子を愛しており、清子のために、したのだった。二郎も、秘かに清子を愛していた金一もグッと涙をのんだ。やがて、情報を手がかりに、二人の活躍で事件は落着した。数日後、二郎の出資による清子と順吉のスナック「ワン・ツー・パンチ」と、金一の母おかねと管理人の娘夏子を共同経営者に加えた小料理屋「金二郎」が開店した。




8-31. RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ

監督 蔵方政俊
出演 三浦友和余貴美子小池栄子中尾明慶吉行和子
2011年 (松竹)

解説
RAILWAY 49歳で電車の運転士になった男の物語」に続く、鉄道ヒューマンドラマ・シリーズ第2弾。三浦友和、余貴美子をはじめ吉行和子、小池栄子、中尾明慶など新旧実力派キャストが結集。人生の岐路に立った鉄道運転士の夫婦の絆を感動的に描く。富山地方鉄道が走る、のどかな風景も大きな魅力になっている。

ストーリー
滝島徹(三浦友和)は鉄道運転士として仕事一筋の日々を過ごし、59歳になった。55歳になった妻・佐和子(余貴美子)は、専業主婦として徹を支えてきた。徹が1か月後に定年退職を控え、夫婦で第2の人生をスタートさせようとしていたある日、佐和子が結婚するときに辞めた看護師の仕事を再開すると宣言する。しかし徹は佐和子の申し出を理解せず、2人は口論となる。思わず家を飛び出した佐和子と徹の溝は深まる一方で、ついに佐和子は離婚届を徹に手渡す。これからの人生は妻のためにと思っていた徹に対し、自分の人生を生きたいと願った佐和子。佐和子には、徹の知らないある理由があった。そばにいるのが当たり前すぎて、本当の気持ちを言葉にできない2人に、ひとり娘とその夫、徹の同僚や部下、佐和子が担当する患者一家の人生が交錯していく。こうして徹と佐和子は、思ってもみなかった第2の人生の出発点にたどりつく。




8-32. おはん

監督 市川崑
出演 吉永小百合石坂浩二大原麗子香川三千ミヤコ蝶々
1984年 (東宝) 112分

解説
生活力の乏しい三十男が、一途さとしたたかさをもつ妻と、情熱的で激しい気性の芸者との間で揺れ動く姿を、親子の愛情を絡めて描く。宇野千代の同名小説の映画化で、脚本は 「細雪」 の日高真也、監督は脚本も執筆している同作の市川崑。撮影は五十畑幸勇が担当。

ストーリー
幸吉は、おばはんの家の軒を借りて古物商を営みながら、自分の小遣銭を稼いでいるしがない男である。七年前、町の芸者おかよと馴染みになったことから、妻のおはんは身を退いて実家へ戻り、幸吉は鍛冶屋町の小さな家に、二人の抱え妓をおいて芸者家をしているおかよのところに住みついていた。ある夏の日、おはんを見かけた幸吉は、悟という自分の子がいることを聞かされ、一度逢いに来てくれと言ってしまう。秋になり、幸吉の店の前におはんが現れた。幸吉はおばはんに奥の間を借りて、彼女を引き入れる。二人はふと手が触れ合い、愛しさがつのり身を重ねた。その晩、おかよは幸吉に、二階が建増しできるようになったことや、姉の娘お仙を養女にすることを嬉しそうに話す。その後も、おはんと幸吉は、逢瀬を重ねていた。そんなある日、幸吉の店へゴム毬を買いに来た子供がいた。おはんの口からそれが悟と知った幸吉は、次第に悟に近づいていく。お仙がやって来、一人前に育てる子ができたとおかよは有頂天になった。幸吉はそんな様子をみて、おかよへの心の重荷がとれたと考えた。悟のこともある、もう一度おはんと一緒になろうと決心する。おはんと幸吉は、おばはんの力を借りて借家をみつけた。おはんはおかよのことを案じたが、幸吉は納得して貰ったと嘘をつく。おはんは悟に、実の父親が幸吉で、これからは三人一緒に暮らせると打ちあけた。幸吉はおかよに何も言わず家を出て、おはんと共に荷を運んだ。叔父富五郎とおもちゃ市へ出かけた悟とは、午後に借家でおちあうことになっていた。しかし、悟は土砂降りの雨の中を帰る途中、崩れかかった崖に足をとられ、渦巻く淵へ落下した。悟は死んだ。おばはんにそれを知らされた幸吉は、悟の運ばれたおはんの実家へ駆け込んだ。幸吉を見るや、富五郎は打ちのめした。幸吉とおはんのことを知ったおかよが乗り込んできた。おかよは幸吉に対する深い想いを打ちあけ、おはんはわが身愛しの浅い心がひきおこしたことだと詫びるのだった。やがて、おかよは横たわっている幸吉を起こし、出て行った。それ以来、おかよは気が荒れていた。そんな時、おばはんがおはんから幸吉宛の手紙を持って来た。それには恨み言はなく、ただ自分の非を詫び、ひとり旅に出るとあった。おかよと幸吉は涙ぐんで手紙を読み終えた。春になりお仙のお披露目の日。人だかりの中を人力車に乗るおかよとお仙のあとを、屈託なくついていく幸吉の姿があった。




8-33. 神様のカルテ

監督 深川栄洋
出演 櫻井翔宮崎あおい要潤吉瀬美智子岡田義徳
2011年 (東宝) 128分

解説
現役医師・夏川草介のデビュー作で本屋大賞第2位となった号泣ベストセラーを映画化。地方医療という社会問題を背景に、若く真面目な内科医の葛藤と成長をみずみずしく描く。嵐の櫻井翔と宮崎あおいが夫婦役で初共演。脚本は医療ドラマの経験豊富な後藤法子。ヒット作「60歳のラブレター」の俊英・深川栄洋が監督をつとめる。

ストーリー
美しい自然に囲まれた信州の一地方都市・松本。勤務5年目の青年内科医・栗原一止(櫻井翔)は、医師が不足しながらも“24時間、365日対応”で大勢の患者を抱える本庄病院に勤めている。この小さな病院では専門外の診療をしたり、働き詰めで睡眠が取れなかったりすることが日常茶飯事。それでも一止は、クールな先輩外科医・砂山次郎(要潤)、有能で美人の救急外来看護師長・外村静枝(吉瀬美智子)、同期の冷静沈着な病棟主任看護師・東西直美(池脇千鶴)、新人看護師・水無陽子(朝倉あき)、曲者上司・貫田誠太郎(柄本明)らと共に厳しい地方医療の現実と向き合いながら、同じアパート“御嶽荘”に住む大家兼絵の描けない画家・男爵(原田泰造)、博学な大学生・学士(岡田義徳)との語らい、そして何よりも最愛の妻・榛名(宮崎あおい)との心温まるひとときに日々の疲れを癒しながら激務を凌いでいた。そんな折、一止は母校の医局を通じ大学病院に勤めないかと誘われる。「良い医者」になる為の最先端医療が学べる医局。しかし、一止の前には本庄病院にやってくる大勢の患者がいる。悩む一止だったが、ある日、彼の前に大学病院から「あとは好きなことをして過ごして下さい」と見放された末期ガン患者・安曇雪乃(加賀まりこ)が現れる。もう医学ではどうしようもない安曇であったが、何故か一止を頼ってやってきた。そんな彼女と触れ合う中で一止は、命を救うこととは、人を救うということとは、という医者としての在り方、人間としての在り方を見つめ直していく。一に止まると書いて「正しい」と読むその名の通り、一止は惑い苦悩した時こそきちんと立ち止まって考える。そして、一止はまた歩き始めるためにある決断を下す……。




8-34. 難波金融伝 ミナミの帝王 劇場版PARTI

監督 萩庭貞明
出演 竹内力大森嘉之竹井みどり天田益男篁友紀子
1993年 (ヒーロー)

解説
大阪ミナミ界隈を舞台に、ヤクザも黙る高利貸しとして恐れられた金融王の活躍を描く。「週刊漫画ゴラク」(日本文芸社・刊)に連載中の同名漫画(天皇寺大・作、郷力也・画)が原作で、既に作られ好評のオリジナルビデオ・シリーズから発展しての映画化。「トイチの結婚」「一千万円の女」の2本立て。監督は 「遊びの時間は終らない」 の萩庭貞明。脚本は永沢慶樹と伊藤秀裕。撮影は三好和宏が担当。今作と 「PART II「銀次郎VS整理屋」」 (92分)の三部構成で上映された。

ストーリー
【銭の一「トイチの結婚」】丸信ファイナンスの小金井満のもとに返済催促にやって来た萬田銀次郎と金子竜也の非道をなじるOL・八重子だったが、フィアンセの水木克也のために萬田から借金することに。だが水木は結婚詐欺師だった。泣き寝入りしたくない八重子は萬田の知恵を得て逆に水木を結婚詐欺にはめ、まんまと復讐する。【銭の二「一千万円の女」】ミナミのクラブに勤める田村美代子は客の谷本千吉に口説かれ、1千万くれるのならという約束で寝る。数日後、証書をたてに美代子は金を請求するが、谷本は萬田に救いを求め、萬田はその証書を無効にする。だが谷本はその萬田への謝礼さえ踏み倒した。萬田は美代子やその妹・晴美らと手をとって逆に谷本を罠にはめる。




8-35. あ・うん

監督 降旗康男
出演 高倉健富司純子板東英二富田靖子山口美江
1989年 (東宝) 114分

解説
昭和初期、東京・山の手を舞台に中年実業家の友情を描く。向田邦子原作の同名小説の映画化で、脚本は 「座頭市」 の中村努が執筆。監督は 「極道の妻たち 三代目姐」 の降旗康男、撮影は同作の木村大作がそれぞれ担当。

ストーリー
昭和12年春。中小企業の社長・門倉修造は、軍需景気で羽振りがよく、また男前で妻・君子がいながら女性関係が絶えなかった。一方、水田仙吉は会社勤めのつましいサラリーマンで、性格も地味だが二人は気が合い20数年来の付き合いを続けていた。その水田が3年半ぶりに地方転勤から東京に帰り、門倉は再び水田一家の付き合いを始めた。ある日、水田の娘・さと子は君子の紹介で帝大生・石川義彦と見合いをしたが、仙吉は身分不相応と断わった。しかし、さと子と石川は互いに惹かれ合い、デートを重ねるのだった。門倉と水田の妻・たみは家族ぐるみの付き合いの中で互いに好意を持つが、それは自分の胸にだけ秘めたる想いだった。女に真面目だった仙吉も門倉の紹介で芸者まり奴に執心。門倉はたみを心配し、無理矢理まり奴を横取りするが、その行為はかえって君子や仙吉を傷つけることになった。門倉はたみに惹かれていく自分に歯止めをかけようと料亭で仙吉に喧嘩を売り、水田家と絶縁した。義彦は特高に捕まり、水田はさと子に別れるよう勧めたが、二人の気持ちを離すことはできなかった。仙吉がジャワ支店長として転勤することが決まった時、門倉は最後の別れを言いに水田家を訪ねた。その時義彦も召集令状を受け取りさと子に別れを告げにやって来た。門倉は雪の中を去っていく義彦をさと子に追わせ、自分は水田家で久しぶりに仙吉、たみと酒をくみ交わしたのだった。





8-36. トラック野郎 一番星北へ帰る

監督 鈴木則文
出演 菅原文太せんだみつお大谷直子舟倉たまき田中邦衛
1978年 (東映) 110分

解説
シリーズ第八作目の今回はマドンナに大谷直子を迎え、アメリカ帰りのコンボイ野郎に黒沢年男が扮して脇をかためている。脚本は 「多羅尾伴内 鬼面村の惨劇」 の掛札昌裕、 「トラック野郎 突撃一番星」 の中島信昭、同作を監督した鈴木則文の共同執筆、監督も同作の鈴木則文、撮影は 「宇宙からのメッセージ MESSAGE_from_SPACE」 の中島徹がそれぞれ担当している。

ストーリー
晩秋、青森からの輸送をおえた桃次郎は、ジョナサンの女房、君江の計らいで、お見合をするが、見合の相手と付き添いの子づれ未亡人を取りちがえてしまった。例の早トチリに始まったことだが、一番星はそれからというもの、この美亡人、北見静代に一目惚れ。そんなことで、静代のいるみちのく通いが多くなった一番星は、アメリカ帰りのコンボイ野郎、九十九譲次という新しい強力なライパルに出っ喰わす。一方、お人好しのジョナサンは、人身事故を起した仲間が賠償金返済のために金を借りたサラ金の保証人になっていたが、その仲間が蒸発してしまい、金融業者の朝から晩まで、返済を迫る電話や、いやがらせで、すっかりノイローゼになっていた。トラックまで抵当に取られて四苦八苦のジョナサンに見かねた仲間がカンパするが追いつかない。そこへ、トラック野郎たちのアイドル、花巻のドライブ・イン“みちのく”のウエイトレス、鮎子を密かに想っていたリンゴ園の伜、作太郎が、明日のパンパ・レースに自分の馬が優勝すれば、その馬を二百万で売れるから是非使ってくれと言いだし、大喜びのトラック野郎たち。綱を握る作太郎も介添役の一番星も、泥だらけ、汗みどろの大奮戦、各馬をごぽう抜きにしてゴールに駆け込み、みごと優勝し、賞金をかちとって、借金のアナ埋めにした。ある日、フロントグラスに静代の顔をチラチラと思い出しながら花巻を走っている一番星、飛んで来た模型ヒコーキにも気がつかず、車で踏み潰してしまう。潰されたヒコーキの側で一番星をにらみつけている男の子の母親を見てびっくりする一番星、夢にまで見た憧れの静代だった。憎らしそうな口をきくヒコーキの男の子が静代の息子、誠だと分るや一番星は、潰してしまったヒコーキの替りを運んで誠の気を引こうとするが、いっこうに相手にされない。それにもめげず一番星は徹夜で作ったヒコーキを渡しに静代の家を訪ねた。二人の心が溶け合ったかのように飛ぶヒコーキ、そこへ、馴れ馴れしく現われたコンボイ野郎に一番星は不安でたまらないが、彼が、静代の夫の幼友達と知り、ホットするのであった。そんな一番星は遠い昔、少年の頃、貧しい家がダムの湖底に沈んでしまい、父を失った苦い思い出を持っているので、父親のいない誠が、可愛くてならない。そんな切ない一番星の気持ちが、やがて、静代の心を動かすが、静代は、自分の故郷で生き抜く決心を固め、一番星に別れの手紙を書いて、去っていった。ドライブ・イン“みちのく”でひとり淋しく正月を祝っている一番星に、あと二時間しかないが、大野村まで荷を届けてくれという緊急の仕事が飛び込んで来るのであった……。








8-37. おおかみこどもの雨と雪

監督 細田守
出演 宮崎あおい大沢たかお染谷将太麻生久美子谷村美月
2012年 (東宝)

解説
「サマーウォーズ」の細田守監督が自ら立ち上げたアニメーションスタジオ、スタジオ地図で製作。2人の子供と母親の姿を描くファンタジーアニメ。“おおかみおとこ”と恋に落ち、“おおかみこども”の姉弟を授かった女性の奮闘と、子供たちの成長という13年の物語が繰り広げられる。脚本を担当するのは「八月の蝉」の奥寺佐渡子。

ストーリー
人間の姿をしていながらもおおかみおとこという正体を持つ男(声:大沢たかお)と出会った大学生の花(声:宮崎あおい)。二人は惹かれあい、やがて子どもを授かる。姉の雪と弟の雨は、人間とおおかみのふたつの顔を持つ、おおかみこどもだった。都会の片隅で正体を隠しながらつつましやかに暮らす4人は、幸せそのものだった。しかしある日、父が死んでしまい、幸せな日々に終止符が打たれた。おおかみこどものきょうだいを抱えた花は、豊かな自然の残る田舎に移住することを決意する。




8-38. 夜霧よ今夜も有難う

監督 江崎実生
出演 石原裕次郎浅丘ルリ子二谷英明高品格郷英治
1967年 (日活) 93分

解説
「不死身なあいつ」 の石森史郎と 「逃亡列車」 の江崎実生が共同でシナリオを執筆し、江崎実生が監督した歌謡アクションもの。撮影はコンビの横山実。

ストーリー
外国航路から帰ってきた相良は早速恋人の秋子に電話で求婚した。だが彼女は約束の教会に急ぐ途中、交通事故にあった。夕暮れの教会で相良は秋子をいつまでも待ち続けた−−。四年の月日が流れ、相良は今、横浜でナイトクラブ“スカーレット”を営むかたわら“逃がし屋”をやっていた。そうしたある日、探し続けていた秋子がグエンと名のる男と店にやって来た。グエンの祖国では革命が起り、直ぐ帰国しなければならない彼は、相良にシンガポール行きの船を捜してくれと頼みにきたのだ。冷たい目で秋子を見つめる相良、むろん彼は断った。この気配を、本国からの反グエン派の手先の佐伯は逸早く察し、警察も密出国幇助罪で相良を調べ始めた。そんななかで秋子は毎晩スカーレットに通い、夫の密出国を助けてくれとたのむのだった。やがて捜査状況も一段と厳しくなってきた。かたくなになっていた相良も今は、秋子の幸せのためにも“船を捜そう”とグエンに約束した。感激したグエンはここではじめて告白するのだった。四年前秋子をひいたのは自分の車で、そのため秋子は子供を生めない身体になってしまい、相良との夢が破れた秋子はグエンの求婚を受け入れたのだ。−−ということをしゃべった。そして今二人の結び付きの固さを見て、秋子への想いを断ちきり、相良は二人の幸せのためにと是が非でもシンガポール行きの船を見つけようと心に誓った。かけずり廻ってやっとつかまえた船の中でグエンの脱国を阻止しようと待ち構えていた佐伯らと、相良は激しい戦いを展開し、ついに佐伯を倒した彼は、無事グエンと秋子を日本から脱出させてやったのだった。その夜、港には深い霧がたちこめていた。








8-39. その男、凶暴につき

監督 北野武
出演 北野武白竜川上麻衣子佐野史郎芦川誠
1989年 (松竹富士)

解説
ヤクザに雇われた殺し屋と、それを執拗に追う刑事との争いを描く。脚本は 「STAY GOLD ステイ・ゴールド」 の野沢尚が執筆。監督はビートたけしこと北野武、撮影は 「この胸のときめきを」 の佐々木原保志がそれぞれ担当。挿入歌は、トレイシー( 「ガール・ユー・ニード」 )。

ストーリー
一匹狼の刑事・我妻諒介は凶暴なるがゆえに署内から異端視されていた。ある晩、浮浪者を襲った少年の自宅へ押し入り、殴る蹴るの暴行を加えて無理矢理自白させた。暴力には暴力で対抗するのが彼のやり方だった。麻薬売人の柄本が惨殺された事件を追ううち、青年実業家・仁藤と殺し屋・清弘の存在にたどり着いたが、麻薬を横流ししていたのは、諒介の親友で防犯課係長の岩城だった。やがて岩城も口封じのため、自殺に見せかけて殺されてしまう。若い菊地は諒介と組むが、いつもハラハラのし通しだった。一方、清弘の仲間たちは知的障害の少女を諒介の妹と知らずシャブ漬けにして輪姦する。諒介は刑事を辞めて、岩城の復讐のために仁藤を撃ち殺した。さらに清弘もアジトで射殺するが、その死体にすがるのは変わり果てた妹・灯の姿だった。諒介は最愛の妹にも引き金をひいたのだった。その時、背後から忍び寄った仁藤の部下・新開が諒介を射殺、菊地に岩城の代わりをさせて麻薬の密売を引き継ぐことになったのだった。





8-40. 忍者秘帖 梟の城

監督 工藤栄一
出演 大友柳太朗大木実高千穂ひづる本間千代子河原崎長一郎
1963年 (東映)

解説
司馬遼太郎原作を「雨の中に消えて」の池田一朗が脚色、「変幻紫頭巾」の工藤栄一が監督した忍者もの。撮影は「大暴れ五十三次」の鷲尾元也。

ストーリー
天正十九年光秀の乱で信長の天下は崩壊、秀吉がわが世の春を謳歌するに至った。十年前信長が伊賀を攻略した際、伊賀忍者のほとんどが討死した。伊賀忍者葛篭重蔵は肉親の悉くを殺され信長暗殺に命を賭けていたが、光秀の乱によりその必要も失い山奥に下忍の黒阿弥と共に仏いじりと読経の日を送っていた。こんな重蔵を訪ねた師匠下柘植次郎左衛門は、秀吉を斬ることは伊賀を復興させることであると口説いた。一方次郎左衛門の娘、木さるの許婚者、風間五平は忍者生活に見切りをつけ京の所司代前田玄以の傘下となり石川五衛門と名のったが、前身を甲賀忍者摩利洞玄に見破られて、秀吉を狙う者の撲滅と重蔵を斬ることを命ぜられた。同じ命を受けた忍者の小萩は重蔵にひかれ許されぬ恋に燃えた。十年ぶりに五平と再会した重蔵は、朋輩が敵となっていることを知った。師次郎左衛門はこんな二人を味方にし、豊臣、徳川の二股をかけ有利な方につく魂胆であった。この事を知った重蔵は再度山に戻り、次郎左衛門は単身で摩利洞玄を倒すことを決意したが逆に殺されてしまった。又黒阿弥も洞玄と五平によって非業の死を遂げた。この惨事を知らせに来た小萩は、重蔵が一族の復讐と秀吉暗殺の血気にはやるのを止めて忍者同士のはかない恋も束の間、宿命を負って別れねばならなかった。数日後所司代に忍び入った重蔵は秘術の総てを五体に託し洞玄を倒した。五平の毒を塗った手裏剣に傷ついたが、自分の立場を捨てた小萩の看護で一命を救われた。全快した重蔵は、木さると自分を師と仰ぐ雲太郎を甲賀衆から山へ逃し、秀吉を殺すべく伏見城へ向うが、偉大な秀吉を前にして憎しみもうすらぎ、再び戦乱の世を招く愚かさを悟った。人里離れた山道を重蔵と小萩が一頭の馬に相乗りし、真の人間の幸せを求めて、木さると雲太郎の待つ梟の城へ向うのだった。




8-41. 南極物語 

監督 蔵原惟繕
出演 高倉健渡瀬恒彦岡田英次夏目雅子荻野目慶子
1983年 (ヘラルド=東宝)

解説
南極観測隊が悪天候に阻まれ、やむなく南極の地に置き去りにしてきた十五匹のカラフト犬の生への闘いと、観測隊員たちの姿を描く。脚本は 「人生劇場」 の野上龍雄、 「色ざんげ」 の佐治乾、 「暗室」 の石堂淑朗、 「キタキツネ物語 THE FOX IN THE QUEST OF THE NORTHERN SUN」 の蔵原惟繕の共同執筆。監督は 「青春の門 自立篇(1982)」 の蔵原惟繕、撮影は 「キタキツネ物語 THE FOX IN THE QUEST OF THE NORTHERN SUN」 の椎塚彰がそれぞれ担当。

ストーリー
昭和三十三年二月、南極の昭和基地から第一次越冬隊員が第二次隊員と交替すべく観測船“宗谷”へと“昭和号”で空輸された。だが、例年にない悪天候のため第二次隊員は昭和基地へは飛ばず、第二次越冬は中止と決定した。犬係の潮田と越智は、基地に残された十五匹の犬を救うべく“昭和号”を飛ばしてくれるよう小沢隊長に食いさがったが、満身創庚の“宗谷”には、これ以上南極の海にとどまる力はなかった。初夏、潮田は北海道大学講師の職を辞し、樺太犬を供出してくれた人々を訪ね歩く謝罪の旅に出た。なかには「どうして連れて帰って来なかったの!」と激しく怒りをぶつけてくる少女・麻子もいた。潮田の謝罪の旅を知った越智は稚内に向かう。稚内では学術探険に貢献したとして十五匹の犬の銅像が建てられ、その除幕式が行なわれていた。集った人々の中に潮田の姿を見つけ、外国人記者がぶしつけな質問を浴びせた。「この手で殺してやればよかった」と悲痛な表情で語る潮田を見守る越智。その頃、南極では犬たちの生きるためのすさまじい戦いが展開されていた。戦いは首輪を抜け出すことからはじまり悪戦苦闘の末に自由を得たのは十五頭のうち八頭だった。基地に食物のないことを知った犬たちは、餌を求めてさすらいの旅に出る。集団でアザラシを襲い、凍りついた氷塊の中に見える小魚を掘り出して喰べる犬たち。そのうち、獲物を探しながら足をすべらせ氷海に呑まれてしまう犬、狂ったように走り氷原に姿を消して帰らないもの、仲間の数は次第に減っていく。先導犬のシロも潮田、越智と共に犬ぞり探険行で見つけた思い出の鯨の死骸の中に入り込んだまま、息たえた。またリーダー格のリキもシャチに襲われ悲運の死を遂げる。一方、第三次越冬隊が組織されることをニュースで知った潮田と越智は進んでその隊員に加えて貰うよう頼み込んだ。宗谷からヘリで昭和基地に着いた二人は、鎖につながれたまま死んでいる犬たちを見つけ慟哭する。涙にくもった潮田と越智の眼が、不意に丘の上の二頭の犬をとらえた。二頭はタロとジロだった。二人は大声をあげて駆けだした。




8-42. 映画女優

監督 市川崑
出演 吉永小百合森光子横山道代常田富士男戸井田稔
1987年 (東宝) 137分

解説
日本映画史にその名を残す大スター田中絹代の映画デビューの頃から41歳までの半生を描く。脚本は原作となった 「小説・田中絹代」(読売新聞社刊/文春文庫版)を書いた「落葉樹」 の新藤兼人と 「鹿鳴館」 の日高真也と同作の市川崑、監督は市川崑、撮影は 「雪の断章 情熱」 の五十畑幸勇がそれぞれ担当。

ストーリー
大正14年。女優を志す少女・田中絹代は蒲田撮影所の大部屋女優として採用された。新人の監督清光宏の強い推薦のおかげだった。上京に当っては母のヤエ、姉の玉代、兄の晴次と洋三、それに伯父の源次郎までが関西の生活を捨てて同行することになった。大部屋の給料が10円〜15円だった当時、破格の50円をもらい、清光作品ではいつも良い役がつく絹代に、同僚の嫉妬が集まったが、小さな身体にファイトをみなぎらせて撮影所通いを続けた。そんな絹代の素質を見抜いた五生平之助監督は、撮影所長の城都を説得し、「恥しい夢」の主役に抜擢した。自分が発見した新人女優をライバルにとられた清光は、「恥しい夢」が完成した後、強引に絹代に迫った。何事にも熱中するタイプの絹代は、清光との愛にも激しく燃えた。城都の提案で2年間の試験結婚という形で同棲生活を始めたものの、女優としての仕事が忙しい絹代は炊事も掃除も満足にできない花嫁だった。ある日、清光が暴力を振るい、怒った絹代が座敷でオシッコをするという抵抗の仕方で終った。それ以後の絹代の活躍は目ざましかった。第一回トーキー作品「マダムと女房」の主演と成功、「伊豆の踊子」の主演、そして「愛染かつら」の大ヒット……。しかし、家庭的には恵まれなかった。姉の駆け落ち、撮影所をやめた兄たちの自堕落な生活、母の死が絹代を打ちのめしたが、付人兼用心棒として雇った仲摩仙吉に励まされ、何とか切り抜けることができた。昭和15年、絹代は溝内健二監督の「浪花女」に主演するため京都に向かった。やかましさとねばり強さで有名な溝内の演出に、絹代の激しい開志が燃え上がった。それから11年の歳月が流れ、昭和26年秋、溝内から出演交渉を受けた絹代は京都を訪れた。戦後の新しい時代に即応できず低迷していた溝内は、新作の「西鶴一代女」に起死回生を賭け、そのパートナーに絹代を選んだのだ。お互いに好意を持ちながら、仕事となると仇敵のように激しく火花を散らす2人−−。メイクで老醜の無残な限りをさらけ出す絹代−−。そこには溝内が心中しようとしている「西鶴一代女」と、自分も心中しようと決意した絹代の、女として映画女優としての凄まじさがあった。




8-43. 飢餓海峡

監督 内田吐夢
出演 三國連太郎風見章子左幸子伴淳三郎加藤嘉
1964年 (東映) 182分

解説
水上勉の同名小説を 「鮫」 の鈴木尚之が脚色 「宮本武蔵 一乗寺の決斗」 の内田吐夢が監督した推理劇。撮影は 「路傍の石(1963)」 の仲沢半次郎。16ミリからのブローアップ、ネガ像とポジ像を密着してのポジ焼きつけ、現像途中での意識的な露光による 「東映W106方式」 を採用。

ストーリー
昭和二十二年九月二十日十号台風の最中、北海道岩内で質店一家三人が惨殺され、犯人は放火して姿を消した。その直後嵐となった海で、青函連絡船の惨事が起き、船客五百三十名の命が奪われた。死体収容にあたった函館警察の刑事弓坂は、引取り手のない二つの死体に疑惑を感じた。船客名簿にもないこの二死体は、どこか別の場所から流れて来たものと思えた。そして岩内警察からの事件の報告は、弓坂に確信をもたせた。事件の三日前朝日温泉に出かけた質屋の主人は、この日網走を出所した強盗犯沼田八郎と木島忠吉それに札幌の犬飼多吉と名のる大男と同宿していた。質屋の主人が、自宅に七八万円の金を保管していたことも判明した。弓坂は、犬飼多吉の住所を歩いたが該当者は見あたらず、沼田、木島の複製写真が出来るまで死体の照合は出来なかった。だが弓坂は漁師から面白い話を聞いた。消防団と名のる大男が、連絡船の死体をひきあげるため、船を借りていったというのだ。弓坂は、直ちに犬飼が渡ったと見られる青森県下北半島に行き、そこで船を焼いた痕跡を発見した。犬飼が上陸したことはまちがいない。その頃、杉戸八重は貧しい家庭を支えるために芸者になっていたが、一夜を共にした犬飼は、八重に三万四千円の金を手渡し去った。八重はその恩人への感謝に、自分の切ってやった爪を肌身につけて持っていた。そんな時、八重の前に犬飼の件で弓坂が現われたが、八重は犬飼をかばって何も話さなかった。八重は借金を返済すると東京へ発った。一方写真鑑定の結果死体は沼田、木島であり二人は、事件後逃亡中、金の奪い合いから犬飼に殺害されたと推定された。その犬飼を知っているのは八重だけだ。弓坂の労もむなしく終戦直後の混乱で女は発見出来なかった。それから十年、八重は舞鶴で心中死体となって発見された。しかしこれは偽装殺人とみなされた。東舞鶴警察の味村刑事は女の懐中から舞鶴の澱紛工場主樽見京一郎が、刑余更生事業資金に三千万寄贈したという新聞の切り抜きを発見した。八重の父に会った味村は、十年前八重が弓坂の追求を受けたと聞き、北海道に飛んだ。樽見が犬飼であるという確証は、彼が刑余者更生に寄附したことだ。弓坂と味村は舞鶴に帰ると、樽見を責めたが、しらをきる樽見の大罪は、八重が純愛の記念に残した犬飼の爪と、三万四千円を包んだ、岩内事件の古新聞から崩れていった。




8-44. 善魔

監督 木下惠介
出演 淡島千景千田是也森雅之三國連太郎桂木洋子
1951年 (松竹) 108分

解説
製作は 「女の水鏡」 の小出孝で岸田国士の原作より、 「火の鳥(1950)」 の野田高梧が木下恵介と共同で脚色している。監督は 「カルメン故郷に帰る」 に次ぐ木下恵介の作品である。出演者は 「奥様に御用心」 の淡島千景、俳優座の千田是也、 「宮城広場」 の森雅之、 「三つの結婚」 の桂木洋子、 「カルメン故郷に帰る」 の笠智衆、小林トシ子などでるあ。他に三國連太郎の芸名で新人がデヴューし、同名の役を演じている。

ストーリー
T新報社の社会部記者三國連太郎は、部長の中沼より、家出をした某官庁官吏北浦氏の妻伊都子の動静をさぐるように命じられた。個人の私事に立ち入ることを潔しとしない連太郎も、渋々ながらまず長野原に隠棲する伊都子の父を訪ね、伊都子の妹三香子の案内で久能山麓の親友の家にいる伊都子に会いその心境をきいた。家出の理由は、ただ夫北浦と性格の合わないことを発見したからだという伊都子の説明のまま、連太郎は新聞に発表しないことを約して帰ったが、他の新聞社が「昭和のノラ」などと書き立てたので、連太郎もこの会見記を記事にした。中沼は結婚前の伊都子とは友達でお互いに深い好意を持っていたので、この事件をあばき立てることを好まず、それが社長や編集長の気に入らず左遷されようとした。連太郎と三香子との間にはこの事件以来淡い恋が芽生えていたが、更にこの事以来、伊都子と中沼との間にも文通があり、中沼の心は再び伊都子にひきつけられて行った。日頃肺の弱かった三香子が重態に陥ったとき、伊都子は静岡から長野原への途次中沼に遭い、その心を打ち明けられるが、北浦との離婚問題とそうしたことが一緒になって考えられるのはいやだからとことわった。中沼はこれまで関係のあった女鈴江とも手を切ってしまった。長野原に行っていた連太郎は、死前の三香子と結婚式をあげたいといって中沼を立会人に頼みに帰って見ると、中沼は社もやめ、北浦にも伊都子に対する気持ちをぶちまけてしまっていた。連太郎は長野原へ同行してくれるのも伊都子に会いに行くためだろうと不満をもらすが、長野原についたときには、すでに三香子は安らかな永遠の眠りにはいってしまっていた。しかし、連太郎の希望で、死せる花嫁との結婚式が、父了遠、伊都子、中沼の立ち会いで行われた。更に伊都子の手を求めようとする中沼に対し、伊都子は自分は北浦を不幸にした上更に鈴江を不幸にしたくはないからといって、中沼を東京へ帰すのだった。丘の上に三香子の屍を焼く煙が白くのぼっていた。




8-45. 鬼龍院花子の生涯

監督 五社英雄
出演 仲代達矢岩下志麻夏目雅子仙道敦子佳那晃子
1982年 (東映) 146分

解説
大正から昭和にかけての二つの時代に生きた土佐の侠客・鬼龍院政五郎とその周辺の女たちのドラマチックな生き方を描く。原作は高知出身の直木賞作家・宮尾登美子の同名小説。脚本は 「影の軍団 服部半蔵」 の高田宏治、監督は 「雲霧仁左衛門」 の五社英雄、撮影は 「野菊の墓」 の森田富士郎がそれぞれ担当。

ストーリー
大正十年、松恵は土佐の大親分・鬼龍院政五郎の養女となった。松恵は政五郎の身の回りの世話を命じられたが、鬼龍院家では主屋には正妻の歌が住み、向い家には妾の牡丹と笑若が囲われており、その向い家に政五郎が出向く日を妾二人に伝えるのも幼い松恵の役割りだった。ある日、政五郎は女や子分たちを連れ土佐名物の闘犬を見に行った。そこで漁師の兼松と赤岡の顔役・末長の間で悶着がおき、政五郎の仲介でその場はおさまったが、末長は兼松の持ち犬を殺すという卑劣な手段に出た。怒った政五郎は赤岡に出むいたが、末長は姿を隠していた。帰りぎわ、政五郎は末長の女房・秋尾の料亭からつるという娘を掠奪した。この確執に、大財閥の須田が仲裁に入り一応の決着はついたが、以来、政五郎と末長は事あるごとに対立することになる。これが機縁となってつるは政五郎の妾となり、鬼篭院の女たちと対立しながら翌年、女児を産んだ。花子と名付けられ、政五郎はその子を溺愛した。勉強を続けていた松恵は、女学校に入学した。昭和九年、土佐電鉄はストライキの嵐にみまわれ、筆頭株主である須田の命を受けた政五郎はスト潰しに出かけた。そこで政五郎はストを支援に来ていた高校教師の田辺恭介と知り合い意気投合、須田から絶縁されるハメに陥った。だが政五郎は意気軒昂、田辺を十六歳になった花子の婿にし一家を継がせようとしたが、獄中に面接に行かされた小学校の先生となっていた松恵と田辺はお互いに愛し合うようになっていた。やがて出所した田辺は政五郎に松恵との結婚を申し出、怒った政五郎は田辺の小指を斬り落とさせた。そして数日後、政五郎に挑みかかられた松恵は死を決して抵抗、転勤を申し出、鬼龍院家を出た。十六歳になった花子と神戸・山根組との縁談が整い、その宴の席で歌が倒れた。腸チフスだった。松恵の必死の看病も虚しく歌は死んだ。松恵は再び家を出、大阪で労働運動に身を投じている田辺と一緒に生活するようになった。だが、花子の婚約者がヤクザ同士の喧嘩で殺されたのを機に、田辺と共に鬼龍院家に戻った。南京陥落の提灯行列がにぎわう夜、花子が末長に拉致され、これを救おうとした田辺も殺された。政五郎が末長に殴り込みをかけたのはその夜のうちだった。それから二年後、政五郎は獄中で死んだ。そして数年後、松恵がやっと消息を知り大阪のうらぶれた娼家に花子を訪ねた時、花子も帰らぬ人となっていた。




8-46. 天国の駅

監督 出目昌伸
出演 吉永小百合西田敏行三浦友和真行寺君枝白石加代子
1984年 (東映) 133分

解説
二人の夫を殺し、戦後唯一人の女死刑囚として処刑された女の半生を描く。脚本は 「空海」 の早坂暁、監督は 「パリの哀愁」 の出目昌伸、撮影は 「空海」 の飯村雅彦がそれぞれ担当。

ストーリー
昭和45年6月11日、東京小管拘置所内の処刑場で、一人の女がこの世に別れを告げ、天国への階段をのぼっていった。林葉かよ、47歳。−−昭和30年春。結城つむぎの織女として、また美人としても評判のかよは、まだ32歳の女盛りであった。夫の栄三は傷痍軍人で、下半身マヒの障害者だった。しかも初夜を迎えないままに出征したため夜な夜な嫉妬心のかたまりとなって、かよに辛くあたった。そんな彼女に目をつけて接近したのが巡査の橋本だった。満たされぬ日々に悶々とするかよと深い仲になるのに時間はかからなかった。妻の浮気を知った栄三は狂ったように折檻し、思いあまったかよは夫を毒殺。しかし警察はズサンな調べで脳内出血による死亡として処理した。栄三の死後、警察を辞めた橋本はかよの世話で東京の大学へ通わせてもらうようになった。そんなある日、橋本は東京から幸子という女を連れて帰って来た。橋本は、かよとの噂を打ち消すために、幸子と仮の夫婦になるのだと言い訳をするのだが、かよと幸子二人の女は、橋本に騙されていたことを知り手切金を渡して縁を切った。同じ男に騙された妙な連帯意識で姉妹のように仲良くなった二人は、綿谷温泉郷にたどりつき、かよは土産物店を開き、幸子は芸者として、人生の再スタートを切った。そして、結城の頃から、かよに想いを寄せていた通称ターボという知的障害の一雄も、いつのまにかこの地に住みついていた。大和閣の主人・福見は、かよに惹かれ、何かと援助を申し出ていた。ダニのような橋本が現われ、かよに金をせびりに来た時も、福見は手切金として300万円を渡して追い返した。しかし、福見には精神病院に入院している妻・辰江がいる。そこで、ターボのかよに対する気持ちを利用して、かよに危害がかかるとそそのかし、辰江を殺害させた。邪魔者はいなくなった。福見とかよは晴れて結婚し、幸子も芸者を辞めて大和閣に落ち着いた。ところが、300万円を費い果たした橋本が再び舞い戻って来た。幸子は、やっと幸福をつかんだ自分とかよを、不幸におとしいれようとする橋本が許せなかった。殺すしかない。そう決心した幸子は、登山列車から橋本をつき落とそうとするが、逆に谷底につき落とされてしまった。最愛の幸子を失なったかよは復讐のために橋本と会おうとするが、福見は許さなかった。かよは福見に過去の夫殺しを告白、生きた屍のように無気力となってしまった。一方福見も、先妻殺しをそそのかしたターボの存在が邪魔になり殺そうとする。しかしターボの抵抗にあい、かよに手助けを求めたが、かよは逆に福見を殺してしまった。かよは初めて自分を最も愛してくれていたのはターボであることを知ったのだ。二人は死ぬ覚悟で逃走した。駅へたどり着いた時、結城の事件以来、かよを追っていた五十沢刑事ほか警察官が待ちかまえていた。




8-47. 漫才ギャング

監督 品川祐
出演 佐藤隆太上地雄輔石原さとみ綾部祐二宮川大輔
2010年 (角川映画) 137分

解説
留置場で出会った売れない漫才師と不良がコンビを結成し、お笑いの世界で成功を夢見る姿を描く、人気お笑いコンビ、品川庄司の品川ヒロシの監督第2作となる青春ドラマ。佐藤隆太と上地雄輔がプロ顔負けの爆笑ステージを披露するほか、ピースの綾部やロバートの秋山ら芸人仲間が多数出演し、華を添えている。

ストーリー
黒沢飛夫(佐藤隆太)は、結成10年にして、一向に売れない漫才コンビ“ブラックストーン”のボケ&ネタ作りを担当。ある日、相方の石井保(綾部祐二)から借金を理由に解散を告げられ、ヤケになった飛夫はトラブルに巻き込まれ、留置場に放りこまれてしまう。一方、夢や目標もなく、日々ケンカに明け暮れる鬼塚龍平(上地雄輔)は、敵対するストリートギャング“スカルキッズ”との乱闘の末、飛夫と同じ留置場に入っていた。初めはドレッドヘアーにタトゥーだらけの龍平にビビっていた飛夫だが、話をする中で彼のツッコミの才能に気付き、龍平とコンビを組むことを思いつく。こうして斬新かつ異色コンビ“ドラゴンフライ”が誕生、まもなく二人は公園でネタの猛特訓を開始する。そんなある日、飛夫は自分のふがいなさから一方的に別れを切り出した元恋人の宮崎由美子(石原さとみ)に再び連絡。彼女から妊娠を告げられ、その場でプロポーズする。だが、飛夫にも借金があり、その回収は奇しくも保を追い詰めていた借金取りの金井(宮川大輔)が担当していた。新たなコンビ結成や、由美子との結婚に一念発起の飛夫はなんとか返済。金井の先輩であり、かつて飛夫が憧れた元・漫才師の河原(長原成樹)の存在は、飛夫の気持ちに大きな影響を与えていた。そして初舞台の日。劇場の登竜門コーナーに登場した“ドラゴンフライ”は客席から大きな笑いを取り、見事合格を果たす。だがある夜、龍平が城川(新井浩文)たち“スカルキッズ”に公園で襲われる。「人は変われるんだよ」という飛夫の言葉を胸に抱きながら、龍平は最後まで無抵抗を貫くのだった。そんな中、二人にビッグチャンスが到来する。全国放送の漫才コンテスト“MANZAI ONEグランプリ”の開催。これに優勝すれば、いきなり売れっ子への道が開けるのだ。しかしその矢先、飛夫が何者かに車でさらわれてしまう。はたして龍平はどう手を打つのか。“ドラゴンフライ”の運命は……。




8-48. みすゞ

監督 五十嵐匠
出演 田中美里加瀬亮中村嘉葎雄寺島進永島暎子
2001年 (シネカノン) 105分

解説
26歳で夭逝した童謡詩人・金子みすゞの半生をつづった感動の人間ドラマ。優れた作品を残しながらも、若くして自ら命を絶ったその理由を、丹念に解き明かしていく。

ストーリー
1919年、山口県仙崎。叔母の死を機に、叔父・松蔵の後妻となった未亡人の母・ミチと共に下関で暮らすことになったテルは、小さな本屋で店番をしながら、みすゞというペンネームで詩を書くようになる。やがて、その詩は詩人で仏文学者の西條八十の目に留まり、次々と人気誌に掲載されていった。そんなテルの一番の理解者は、彼女に秘かな想いを寄せる従弟の正祐。だが、実は正祐は幼い頃に養子に出された彼女の実弟であったことから、世間体を憚った松蔵はテルを奉公人の葛原と結婚させてしまう。テルの結婚生活は不幸であった。葛原の放蕩、詩作の禁止、淋病の感染。そんな中、テルは命を削るような想いで、自らの作品を3冊の童謡集として清書する。たち行かなくなった生活に、遂に離婚を決意したテル。彼女は、葛原との間に生まれた娘・ふさえを連れて松蔵の家に戻る。だが、ホッとしたのも束の間、葛原が親権を主張し始めた。そして、明日はいよいよ葛原が娘を引き取りに来るという晩、テルは自ら命を閉じる。