6-1. 陰陽師 II

監督 滝田洋二郎
出演 野村萬斎伊藤英明中井貴一深田恭子市原隼人
2003年 (東宝)

解説
夢枕獏原作の映画化で一大ブームの頂点を極めた「陰陽師」の2年ぶりの続編。古代から伝わる天岩戸伝説と、陰陽道の真髄である八卦が絡み合う衝撃のミステリーが展開する。

ストーリー
平安時代。日隠れ(日食)があって以来、都では鬼が貴人たちを殺しては体の一部を喰らうと言う怪奇な事件が起こっていた。右大臣・藤原安麻呂に鬼退治を依頼された安倍清明は、源博雅と共に事件の裏に下々の間でどんな病気も治すことから神と崇められている幻角の存在があることを突き止める。大和の国に滅ぼされた出雲の国の長・幻角。彼は、息子・須佐を鬼と操り、出雲の神・スサノオノミコトを復活させ朝廷に復讐をするつもりなのだ。そして、その為の最後の生贄が須佐の姉で、今は安麻呂の娘となっている日美子だった。姉を喰らうことに苦しむ須佐。そんな弟を見て自ら身体を差し出す日美子。果たして、須佐はスサノオへと化身し都を襲った。最早、スサノオの力を封じるには、天岩戸からアマテラスを誘い出すしかない。命を賭して神の領域へ向かった清明と博雅。見事な女舞を披露してアマテラスを甦らせたふたりは、スサノオを封じ、幻角の計画を阻止することに成功する。




6-2. 阪急電車 片道15分の奇跡  

監督 三宅喜重
出演 中谷美紀戸田恵梨香南果歩谷村美月有村架純
2011年 (東宝)

解説
有川浩のベストセラー小説を映画化。片道15分のローカル線を舞台に、偶然乗り合わせた乗客たちのささやかな奇跡を描く。「嫌われ松子の一生」で日本アカデミー賞に輝いた中谷美紀、映画や連ドラへの出演が相次ぐ若手注目株の戸田恵梨香、伊丹十三作品で知られるベテラン宮本信子という新旧女優の豪華共演が見どころだ。

ストーリー
ある日、結婚式に出席したOLの翔子(中谷美紀)は、花嫁と見間違えるような純白のドレスで現れ、新郎新婦を唖然とさせる。それは、彼女の復讐だった。会社の同僚でもある婚約者を後輩に寝取られた翔子。別れ話を切り出してきた婚約者に出した条件が、結婚式への出席だった。新郎新婦を尻目に、颯爽と披露宴会場を後にした翔子。帰宅途中の電車で、好奇の視線を集める彼女に老婦人が声をかけてくる。その老婦人とは、曲がったことの嫌いな時江(宮本信子)。孫の亜美(芦田愛菜)と電車に乗っていたところ、純白のドレスに引き出物というチグハグないでたちの翔子が気になって、声をかけたのだった。女子大生ミサ(戸田恵梨香)の悩みは、恋人カツヤ(小柳友)のDV。2人で同棲するための物件を見に行く途中、電車に乗り合わせたドレス姿の翔子のことを話しているうちに口論となり、カツヤが降りてしまう。それを見ていた時江が吐き捨てた“くだらない男ね”という言葉で、ミサは別れを決意するが……。セレブ気取りの奥様グループに嫌々付き合っている庶民派主婦の康江(南果歩)。今日も高級レストランでのランチに誘われ、胃痛を我慢して出かける。電車内で傍若無人に振舞う奥様グループに肩身の狭い思いをしていた康江は、“おばちゃんってサイテー”という、ミサからの厳しい言葉を耳にして、急激に体調が悪化してしまう。地方出身で都会の雰囲気に馴染めない大学生の権田原美帆(谷村美月)と圭一(勝地涼)。ある日、電車の中で出会った2人だったが、その距離は近づくのだろうか……。大学受験を控えた女子高生の悦子(有村架純)は、人はいいがアホな社会人の竜太(玉山鉄二)と付き合っている。下校時の電車内で友人たちから進展状況を問い詰められるが、プラトニックな関係は保ち続けていた。だがある日、高校の担任から第一志望の大学は難しいと言われ、自暴自棄になって竜太とラブホテルに向かうが……。




6-3. 難波金融伝 ミナミの帝王 劇場版PARTXIII リストラの代償

監督 萩庭貞明
出演 竹内力森川正太古本新之輔竹井みどりいしのようこ
1999年 (ケイエスエス)

解説
リストラの名目で社員を不当解雇する会社に、おなじみミナミの金貸し・萬田銀次郎が正義の牙を剥く金融ドラマ・シリーズの劇場版第14作(特別編含む)。監督は「難波金融伝 ミナミの帝王 劇場版PART7」の萩庭貞明。天王寺大と郷力也による原作コミックを下敷きに、「惚れたらあかん 大紋の掟」の友松直之が脚本を執筆。撮影を「難波金融伝 ミナミの帝王 劇場版PART7」の三好和宏が担当。主演は 「CHAKA2」の竹内力。ゲスト出演にリストラの名目で社員を不当解雇する会社に、おなじみミナミの金貸し・萬田銀次郎が正義の牙を剥く金融ドラマ・シリーズの劇場版第14作(特別編含む)。監督は「難波金融伝 ミナミの帝王 劇場版PART7」の萩庭貞明。天王寺大と郷力也による原作コミックを下敷きに、「惚れたらあかん 大紋の掟」の友松直之が脚本を執筆。撮影を「難波金融伝 ミナミの帝王 劇場版PART7」の三好和宏が担当。主演は 「CHAKA2」の竹内力。ゲスト出演に「ハネムーンは無人島」の森川正太。スーパー16ミリからのブローアップ。1999年5月29日 大阪・天六ホクテンザ1にて先行上映。

ストーリー
3年前、20年勤めた広島のヒロタカ商事をリストラの名目で解雇され、今は大阪で小さな探偵事務所を開いている宇田川。人の好い性格が災いして、何をやってもうまくいかない彼には、萬田金融に多額の借金があった。ある日、銀次郎から借金返済を迫られた宇田川は、会社から未だに退職金をもらっていないことに気づき、広島へと出向く。しかし、会社側はけんもほろろの対応。切羽詰まった宇田川は、アタリ屋となってヒロタカ商事の社長の車に飛び込むも、それがバレてかえって大損をしてしまう。そんな彼を見かねた銀次郎は、宇田川に解雇通告した木村専務が、実は宇田川に「明日から会社に来なくていい」と発言していたことを逆手に取り、宇田川は単に業務命令に従い自宅待機していただけでまだ会社を解雇されていない、とごり押し。みごとにその間の未払い分の給料とボーナス、そして退職金を巻き上げることに成功するのだった。




6-4. 難波金融伝 ミナミの帝王 劇場版PARTXVI 借金セミナー

監督 萩庭貞明
出演 竹内力川島なお美山本太郎山本昌平渋谷天外
2001年 (ケイエスエス)

解説
情に厚い熱血金融業者・銀次郎の活躍を描く人気シリーズ第16作。開運セミナーと称した霊感商法で荒稼ぎをする悪徳和尚と銀次郎との頭脳戦が見ものだ。

ストーリー
経営不振の老舗旅館を立て直したい一心で、ライフ・フロンティアが主催する自己啓発セミナーに参加した遠山は、講演を行っていた廣極寺の住職・前島廣心の勧めで水晶玉を購入。すると、時期を同じくして遠山に外資系のホテルから提携の話が持ち込まれた。このことがきっかけとなり、廣心の力に心酔した遠山は彼に言われるまま、開運の皿や壺を銀次郎に借金して次々に購入していくことに。ところが、それは全てライフ・フロンティアと廣心が仕組んだ霊感商法だったのだ。当然、ホテルからの提携話も嘘。借金だけが残ってしまった遠山は、思い詰めた末に自殺を図る。そんな遠山の姿を見た銀次郎は、宗教法人法第八十一条一項二号を武器に、見事、廣心らから金を取り戻し、遠山を救うことに成功するのであった。




6-5. 極道の妻たち リベンジ

監督 関本郁夫
出演 高島礼子池上季実子田中健火野正平裕木奈江
2000年 (東映ビデオ)

解説
組の頭である夫と敵対する組織にいるかつての恋人との狭間で苦悩する極妻の運命を描いた、人気任侠アクションの新シリーズ第3弾。監督は「極道の妻たち 死んで貰います」の関本郁夫。脚本は「極道の妻たち 赤い殺意」の中島貞夫。撮影を「極道の妻たち 死んで貰います」の水巻祐介が担当している。主演は「極道の妻たち 死んで貰います」の高島礼子。他に、ゲストスターとして「惚れたらあかん 代紋の掟」の池上季実子が出演している。スーパー16ミリからのブローアップ。

ストーリー
関西の極道組織”侠心会“の会長・東野が、その座を娘婿の内藤組組長・内藤政治に譲ることを決意した。愛人にうつつを抜かしてばかりいた政治も覚悟を決めるが、長くは続かず妻の敦子に三行半を突きつけられてしまう。そんな政治に代わって組を切り盛りしているのは、頭の昇と妻の沙知子だ。ふたりは政治を会長の座に座らせ、敦子とのよりを戻させようと奔走するが、そんな矢先、沙知子がかつての恋人で10年の刑を終えて出所してきた神原と運命的な再会を果たす。忘れていた筈の神原への想いを、押さえきれなくなる沙知子。一方その頃、内藤組のシマ内では様々な事件が勃発していた。実は、それは政治の会長就任をやっかむ河合組組長・河合正道らが仕組んだことだった。しかも、その実行部隊には神原がいたのだ。神原への想いと組に対する忠誠心の間で揺れ動く沙知子だったが、河合たちが政治と昇を手にかけたことで、彼女は極道の妻として河合を撃つことを決心する。神原と決別し、単身、河合の元へ乗り込んで行く沙知子。彼女は、後からやってきた敦子と共に、夫の敵討ちを果たす。




6-6. Laundry

監督 森淳一
出演 窪塚洋介小雪内藤剛志田鍋謙一郎村松克己
2002年 (ROBOT(配給協力 ザナドゥー))

解説
窪塚洋介、小雪という人気若手俳優の共演によるロードムービー。人生の居場所を見失ってしまった男女の心の交流が、ゆったりとしたリズムの映像で繊細に描かれる。

ストーリー
頭に傷のある20歳のテルの仕事は、祖母が営むコインランドリーで洗濯物が盗まれないように見張ること。ある日、かつて男に裏切られ心に傷を負った水絵と言う女性が、ランドリーに洗濯物を忘れたまま故郷へ帰ってしまった。ランドリーが閉鎖されることになり居場所を失ったテルは、その洗濯物を彼女に届けるべく旅に出る。道中、親切なサリーの案内で水絵の元に辿り着くことが出来たテル。そんな彼の優しさに触れ、心癒されていく水絵。やがて、ふたりはサリーの家で暮らすようになり、幸せな時間が過ぎていった。ところが、サリーが突然外国へ旅立った後、ふとしたことから盗癖を持つ水絵が警察に捕まり、ふたりの間は引き裂かれてしまう。そして一年後、出所した水絵は導かれるようにテルと再会を果たす。




6-7. キネマの天地 

監督 山田洋次
出演 渥美清中井貴一有森也実倍賞千恵子前田吟
1986年 (松竹)

解説
松竹が撮影所を大船に移転する直前の昭和8、9年の蒲田撮影所を舞台に、映画作りに情熱を燃やす人々の人生を描く。脚本は井上ひさし、山田太一、朝間義隆、山田洋次が共同執筆。監督は「男はつらいよ 柴又より愛をこめて」の山田洋次、撮影も同作の高羽哲夫が担当。

ストーリー
浅草の活動小屋で売り子をしていた田中小春が、松竹キネマの小倉監督に見出され、蒲田撮影所の大部屋に入ったのは昭和8年の春だった。小春は大震災で母親を失い、若い頃旅回り一座の人気者だったという病弱の父・喜八と長屋でのふたり暮らしだ。蒲田撮影所での体験は何もかもが新鮮だった。ある日、守衛に案内されて小倉組の撮影見学をしていた小春はエキストラとして映画出演することになった。だが素人の小春にうまく演じられる訳がなく、小倉に怒鳴られた小春は泣き泣き家に帰り、女優になることをあきらめた。長屋に戻って近所の奥さんにことのいきさつを話している小春を、小倉組の助監督島田健二郎が迎えにきた。「女優になりたがる娘はいっぱいいるけど、女優にしたい娘はそんなにいるもんじゃない」。健二郎の言葉で、小春は再び女優への道を歩み始めた。やがて健二郎と小春はひと眼を盗んでデイトする間柄になった。小春は幸福だった。しかし時がたつにつれ、映画のことにしか興味をしめさない健二郎に少しずつ物足りなさを覚えるようになった。小春の長屋の住人たちは不況下の失業にあえいでいた。そんな中で、唯一の希望はスクリーンに登場する小春だった。夏もすぎ秋になって、小春はプレイボーイとして有名な二枚目スター、井川時彦と親しくつき合うようになった。師走に入って、健二郎は、労働運動で警察から追われている大学時代の先輩をかくまったとして、留置所に入れられてしまう。その留置所生活で得たのは、かつてなかった映画作りに対する情熱だった。年が明けて、小春が大作の主演に大抜擢された。主演のトップスター川島澄江が愛の失踪事件を起こしたため、その代打に起用されたのだ。しかしその大作「浮草」で演技の壁にぶつかって、小春は苦悩した。その小春を、喜八はかつて旅回り一座の看板女優だった母と一座の二枚目俳優のロマンスを語り励ました。実は小春の本当の父親はその二枚目であることも−−。「浮草」は成功した。人があふれる浅草の映画館でゆきと「浮草」を見に行った喜八は、映画を見ながら静かに息をひきとった。




6-8. 青い鳥

監督 中西健二
出演 阿部寛本郷奏多太賀鈴木達也荒井萌
2008年 (日活=アニープラネット)

解説
直木賞作家、重松清の連作短編集を映画化。謎めいた吃音症の教師と生徒たちの葛藤を描き、いじめや教育について、そして人生において“大切なこと”を観客に問いかける。

ストーリー
東ケ丘中学校2年1組では前学期、野口という男子生徒がいじめによる自殺未遂を起こしていた。野口は家がコンビニのため、“コンビニくん”とあだ名され、店の商品を級友たちに渡していた。遺書にはいじめをしていた3人の名前が記されていたが、公表されなかった。野口は転校し、コンビニは閉店した。そして担任の高橋は休職した。新学期初日。2年1組に、村内(阿部寛)という吃音の臨時教師がやってくる。村内は野口の机を教室に戻し、誰もいない席に声を掛ける。教師たちは事件を解決するため、生徒たちに反省文を書かせていた。それで野口のことを忘れようとしていた生徒たちは、村内の行動に動揺する。村内は毎朝、野口の机に声を掛け続けた。それは生徒だけでなく、ほかの教師や保護者にも波紋を広げていく。生徒の1人、園部真一(本郷奏多)は級友にけしかけられ、1度だけ野口にポテトチップを頼んだことがあった。園部はそのことで深く傷つき、遺書には自分の名前が書かれていたと思い込んでいた。村内が赴任して1ケ月が過ぎたある日、園部は村内に、自分の思いをぶつける。野口はいつもおどけていて、商品を頼まれると嬉しそうに必ず要求以上の品を持ってきたが、実は自分に助けを求めていたのではないか、と。村内は吃音を振り絞るように、人が生きていく上で負うべき責任について語り始める。そして、村内が学校を去る日がやってくる。




6-9. うたたま

監督 田中誠
出演 夏帆ゴリ石黒英雄徳永えり亜希子
2007年 (日活)

解説
合唱部に所属する女子高生が、挫折を乗り越えながら、合唱に取り組む姿を描く青春ドラマ。少し自意識過剰なヒロイン役の夏帆、高校生役のゴリなど、出演陣の歌声に注目。

ストーリー
北海道・七浜高校合唱部のソプラノパート・リーダー荻野かすみ(夏帆)は、自意識過剰で、歌っているときの自分が大好きな女子高生。ある日、かすみは、密かに憧れていた生徒会長・牧村純一(石黒英雄)から、写真のモデルを頼まれる。合唱コンクールの北海道予選壮行会。恐るべきハイテンションで、表情豊かに歌うかすみの姿を、牧村はカメラで撮りまくる。だが、でき上がってきた写真は、目を見開き、口を大きく開けた顔ばかり。「産卵中のシャケみたいでユーモラス」と牧村に言われ、しかもその写真を生徒会新聞に載せられてしまう。さらには、牧村に思いを寄せる青柳レナ(岩田さゆり)にも「あんたの歌っている顔って変」と追い討ちをかけられ、かすみはすっかり意気消沈。その日から練習を休んで、ついには合唱部顧問の産休代員・瀬沼裕子(薬師丸ひろ子)に、かすみは退部を申し出る。意外にもあっさり承諾する瀬沼だったが、ラストステージとして夏祭りの合唱祭にかすみを出場させる。浴衣姿でいきいきと歌う七浜合唱部員の中、かすみだけは下を向いてばかりで、声を出すのもままならない。心配した部長の松本楓(亜希子)とピアノ担当の副部長・野村ミズキ(徳永えり)が、かすみにわけを聞こうとするが、かすみは二人を振り切ってしまう。そこに突然現れたのが番長・権藤洋(ゴリ)率いる湯の川学院高校ヤンキー合唱部。権藤はかすみに、「あれは歌への冒涜だ」と厳しく指摘する。湯の川学院は尾崎豊の『15の夜』を熱くソウルフルに歌い、それを見たかすみは合唱への素直な思いが蘇ってくる。そして地区予選当日。七浜高校合唱部のステージには、以前のように表情豊かに歌うかすみの姿があった。




6-10. 青い山脈(1963)

監督 西河克己
出演 吉永小百合浜田光夫高橋英樹田代みどり芦川いづみ
1963年 (日活)

解説
石坂洋次郎原作“青い山脈”を「河のほとりで」の井手俊郎と「若い人(1962)」を監督した西河克己が共同で脚色、西河が監督した青春もの。撮影もコンビの萩原憲治。

ストーリー
城下町にあるこの女子高校に転校してきた寺沢新子はちょっと変っていた。前の学校で恋愛問題を起して退学になったのだという噂もとんでいた。が、新子は級友たちの反感の渦の中でも少しも悪びれなかった。ある日、英語教師の島崎雪子の所に新子が一通のラブレターを持って来た。これはクラスの誰かのいたずらだ、と新子にいわれてみれば、誤字だらけの文章はどうみても大学生の手紙ではない。雪子は丁度そこに来合わせた校医の沼田に相談した。徹底的に究明しようといきりたつ雪子に、沼田は事を荒立てるなと忠告した。ひそかに雪子を愛する彼は、彼女がいつまでも前向きの姿勢でいることを危ぶんでいたのだった。数日後、雪子はとうとうラブレターの一件を生徒たちに切り出したが、強い反撃にあった。犯人は松山浅子と分ったものの新子が男の子とキスをしたという発言があって教室は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。そのあとの休み時間に、丘に連れ出し気分を晴らすように踊りながら話を聞く雪子に、新子は事件が誤解であることを訴えた。翌日、新子はキス事件の相手として騒がれている六助と出逢った。話を聞いて目を丸くした六助と親友のガンさん。二人とも進歩的な青年をもって任じているだけあって、大いに新子に同情し力を合わせることを約束したが、折も折、三人が街を歩いていると浅子たちがやって来たのでまたまた一騒動である。問題は日毎に大きくなった。父兄たちの反響、ことにPTA会長の井口の怒りを恐れた校長は職員会議を聞いて善処を要望したが、教員の殆んどは雪子の行き過ぎを非難した。ただ、沼田だけが雪子を支持し励ました。井口は雪子と新子、それに沼田の締め出しにかかった。沼田もすぐ雪子、新子それに六助とガンさんを呼んで対策をねった。そしてPTA会議、六助とガンさんも父兄代表に化けてのりこみ断固として井口一派と対決するのだった。




6-11. GO

監督 行定勲
出演 窪塚洋介柴咲コウ山崎努大竹しのぶ細山田隆人
2001年 (東映)

解説
パワフルな語り口が絶賛された金城一紀の青春小説を、人気俳優・窪塚洋介の主演で映像化。在日韓国人の高校生が、自らの生き方をつかんでゆく姿を、はつらつと描く。

ストーリー
在日韓国人三世の杉原は、日本の普通高校に通う3年生。あだ名はクルパー。ハワイ旅行をきっかけに朝鮮から韓国に国籍を変えた父親・秀吉に叩き込まれたボクシングで、喧嘩や悪さに明け暮れる日々を送っている。友だちは、ヤクザの息子・加藤や民族中学校で杉原と共に教師から目の敵にされていた同級生の元秀や先輩のタワケ。だが、杉原にもリスペクトする男がいた。民族中学校開校以来の秀才と言われた正一だ。ある日、杉原は加藤のバースデイ・パーティで桜井という少女と恋に落ちる。ちょっと風変わりな彼女とぎこちないデートを重ね、気持ちを近づけていく杉原。しかし、自分が在日であることは告白しかねていた。そんな中、正一が駅のホームで少年に刺されて死んだ。誤解が原因で起こった悲劇だ。親友を失ったショックに愕然となった杉原は、その夜、桜井と一夜を共にし、自分が在日であることを彼女に告白する。ところがそれを聞いた途端、桜井の態度が急変した。打ちひしがれた杉原は、やり場のない思いを父親にぶつけるが、反対にのされてしまう。だがその時、彼は国籍や民族にとらわれない世の中を作ってやろうと心に誓うのであった。それから半年後のクリスマス・イヴ。大学受験に向けて勉強中の杉原。夜、桜井からの電話で呼び出された彼は、偏見を払拭した彼女とよりを戻す。




6-12. ノルウェイの森

監督 トラン・アン・ユン
出演 松山ケンイチ菊地凛子水原希子高良健吾霧島れいか
2010年 (東宝(提供 「ノルウェイの森」パートナーズ(アスミック・エース エンタテインメント=フジテレビジョン=講談社=産経新聞社=WOWOW=電通=住友商事))

解説
87年に刊行された村上春樹の世界的ベストセラー小説を、20年以上の年月を経て実写映画化したラブストーリー。松山ケンイチ扮する大学生ワタナベが2人の女性のはざまで心を揺らすさまを、「青いパパイヤの香り」の名匠トラン・アン・ユンが、原作の持つ切ない世界観そのままに、みずみずしく映し出す。

ストーリー
高校時代に親友のキズキ(高良健吾)を自殺で喪ったワタナベ(松山ケンイチ)は、知っている人間が誰もいないところで新しい生活を始めるために東京の大学に行く。そこでワタナベは読み漁っていた本の余白と同じような空っぽな日々を送っていたが、ある日、偶然キズキの恋人だった直子(菊地凛子)と再会する。キズキはワタナベにとって唯一の友人だったので、高校時代にはワタナベと直子も一緒によく遊んでいたのだった。それからワタナベと直子はお互いに大切なものを喪った者同士付き合いを深めていき、ワタナベは透き通った目を持つ直子に魅かれていく。そして直子の二十歳の誕生日、二人は夜を共にする。だが、ワタナベの想いが深まれば深まるほど、直子の方の喪失感はより深く大きなものになっていき、結局、直子は京都の療養所に入院することになる。そんな折、ワタナベは大学で、春を迎えて世界に飛び出したばかりの小動物のように瑞々しい女の子・緑(水原希子)と出会う。直子とは会いたくても会えないワタナベは、直子とは対照的な緑と会うようになり、あるとき緑の自宅での食事に招かれて唇を重ねる。それはやさしく穏やかで、何処へいくあてもない口づけだった。機を同じくして、直子から手紙が届き、ワタナベは直子に会いにいけることになる。そこでワタナベは直子の部屋の同居人・レイコ(霧島れいか)のギターによるビートルズの「ノルウェイの森」を聴く。それは、直子が大好きな曲であった。「この曲を聴くと深い森の中で迷っているような気分になるの。どうしてだかわからないけど。一人ぼっちで、寒くて、暗くて、誰も助けに来てくれなくて……。でも、本当にいちばん好きな曲なのよ」「ノルウェイの森」を聴くといつも泣いてしまう直子は、ワタナベがいれば大丈夫と言っていたのだが、それでも結局直子は泣いてしまうのだった……。




6-13. 赤い影法師

監督 小沢茂弘
出演 大川橋蔵木暮実千代近衛十四郎平幹二朗大川恵子
1961年 (東映)

解説
週刊文春に連載された柴田錬三郎の同名小説を、「八荒流騎隊」の比佐芳武が脚色。「若君と次男坊」の小沢茂弘が監督した忍法もの。撮影は「右門捕物帖 まぼろし燈篭の女」の吉田貞次。

ストーリー
関ケ原の合戦に石田三成が敗れて十五年、豊臣秀頼との決戦避けがたしと知った徳川家康は伏見城に入った。その夜、警護の伊賀三十六人衆の筆頭服部半蔵は、木曽谷の女忍者を捕え、これを犯した。時は流れて家光の世、江戸の盛り場に母子の手品師が現れた。母はまぎれもなくあの時の女忍者である。母子は三成の娘母影と孫の若影で、仇討の機をうかがっているのだ。旗本水野十郎左衛門の屋敷で、若影は家光が御前試合を開くことを知った。その勝者には太閤倉から奪った無銘剣十振が与えられるという。御前試合の勝者は同じ賊に襲われ、切尖をもぎとられた。柳生十兵衛までが不発を喫した。こうした事態に指南役柳生宗矩、小野次郎右衛門は非常体制を敷いた。春日局が推挙する巴流薙刀の遠藤由利が無銘剣を受けたとき、彼女の身辺に配置されたのが服部半蔵であった。果たせるかな、闇の中から賊が現われた。ひそんでいた半蔵と激闘数合の後、賊は奪った剣を残して逃げ去った。「あれほど母に似ていようとは……」と、半蔵は茫然と呟いた。若影にとっては初めての失敗であった。この夜、若影は母から、十振の剣の一本に三成が軍資金の隠し場所を記していることを聞かされた。その後、菅沼新八郎の屋敷を襲った夜、若影は半蔵と母の会話で自分の父が誰かを知った。由利の持つ剣こそ目当ての品であった。母子は伊賀流忍者を蹴散らして、由利の剣を手に入れた。将軍家恒例の鷹狩りの日、若影は母と由利を連れて、家光の命を狙った。若影の放った火が枯野に拡がる中で、若影と半蔵が対決した。石田、徳川の意地をかけた戦いに双方血まみれとなった。「それまで!」と叫んだのは、柳生十兵衛。互にとどめを刺せない父と子の心持を知って、十兵衛はとめに入ったのだ。そして、父子は静かに剣をひいた……。




6-14. しゃべれども しゃべれども

監督 平山秀幸
出演 国分太一香里奈森永悠希松重豊八千草薫
2007年 (アスミック・エース)

解説
佐藤多佳子の同名人気小説を、「愛を乞うひと」の平山秀幸監督が映画化した、笑いと涙のヒューマン・ドラマ。TOKIOの国分太一が、仕事と恋に悩みを抱える若き噺家を好演。

ストーリー
古典を愛する二つ目の落語家・今昔亭三つ葉(国分太一)は、思うように腕が上がらず、煮え切らない日々を送っていた。そんなある時、落語を通じて話し方を習いたいと、三人の変わり者が彼のもとに集まってくる。無愛想で口下手な美人、十河五月(香里奈)。勝気なためにクラスに馴染めない大阪から引っ越してきた少年、村林優(森永悠希)。毒舌でいかつい面相の元プロ野球選手、湯河原太一(松重豊)。この三人のために、祖母の春子(八千草薫)と二人で暮らす自宅で教室を開いた三つ葉だが、彼らは集まるごとに言い争い、落語も中々覚えない。苛立つ三つ葉に追い打ちをかけるように、密かに想いを寄せていた春子の茶道の生徒であり村林の叔母である郁子(占部房子)が、来年結婚することを知らされてしまう。落ち込む三つ葉だったが、尊敬する師匠・今昔亭小三文(伊東四朗)の落語を寄席で聞いて、改めて自分には落語しかないことを実感する。そして小三文から一門会の開催を聞いた三つ葉は、師匠の十八番「火焔太鼓」に挑戦することを決める。一方、十河と村林も「まんじゅうこわい」を猛練習。いよいよ一門会の日、二日酔いで舞台に臨んだ三つ葉だったが、見事な「火焔太鼓」を披露。そして十河と村林も、発表会で「まんじゅうこわい」を堂々と演じ切り、同席した湯河原共々、自分の殻を打ち破るのだった。




6-15. かあちゃん

監督 市川崑
出演 岸惠子原田龍二うじきつよし勝野雅奈恵山崎裕太
2001年 (東宝)

解説
山本周五郎の同名小説をもとに、巨匠・市川崑監督が贈る人情時代劇。5人の子供を育てる心温かい母親の姿を通し、“人を信じること”の尊さを笑いと涙を交えて描く。

ストーリー
天保末期。老中・水野忠邦による改革の効なく、江戸下層階級の窮乏は更に激化していた。そんな中、若い泥棒・勇吉は、一家6人総出で働きづめ金を貯め込んでいるという噂のおかつの家に侵入する。ところが、おかつたちが貯めている金は、3年前、生活に困った挙げ句、仕事場の帳場から盗みを働いたおかつの長男・市太の大工仲間である源さんが牢から出て来た時に、新しい仕事の元手にする為のものだったのだ。そのことをおかつから聞かされた心根の優しい勇吉は、他人の為にそこまでやるおかつたちの気持ちに感動し何も盗らずに去ろうとするが、そのままおかつに引き留められ、彼女の5人の子供たちと一緒に暮らすことになる。やがて、おかつによって身元の証の書付まで用意して貰った勇吉は、市太の紹介で職にも就いた。「俺ァ、生みの親にもこんなにされたことがなかった」。ある日、勇吉は感謝の気持ちを口にした。しかし、それを聞いたおかつは声を震わせて怒鳴った。「子として親を悪く云うような人間は大嫌いだよ!」。その言葉に、一層、人間を心底愛するおかつの心を知った勇吉は、心の中でそっと呟いた。「かあちゃん」と。




6-16. 明日の記憶

監督 堤幸彦
出演 渡辺謙樋口可南子坂口憲二田辺誠一袴田吉彦
2005年 (東映)

解説
山本周五郎賞受賞の荻原浩の同名小説を、世界を舞台に活躍する渡辺謙主演で映画化。若年性アルツハイマー病を患い不安にかられる男と、彼を必死に支えようとする妻の姿を描く感動作。

ストーリー
広告代理店に営業マンとして勤める佐伯雅行(渡辺謙)は、長年、仕事に没頭してきた。今年50歳になる彼には、一人娘・梨恵の結婚と大きなプロジェクトを控え、ありふれてはいるが穏やかな幸せに満ちていた。そんなある日、佐伯は原因不明の体調不良に襲われる。重要なミーティングを忘れたり、部下の顔が思い出せなくなったりするのだ。心配になった佐伯は妻・枝実子(樋口可南子)に促されて病院を訪れ、医師から「若年性アルツハイマー」の診断を受ける。こぼれ落ちる記憶を必死に繋ぎ止めようとあらゆる事柄をメモに取り、闘い始める佐伯。毎日会社で会う仕事仲間の顔が、通い慣れた取引先の場所が思い出せない。知っているはずの街が、突然“見知らぬ風景”に変わっていく。そんな夫を懸命に受け止め、慈しみ、いたわる枝実子。彼女は共に病と闘い、来たるべき時が来るまで彼の妻であり続けようと心に決める。希望退職した夫に代わって働きはじめ、枝実子は家計を支えるようになる。梨恵の結婚式、初孫の誕生を経て、静かに時間は流れてゆく。時に子供のように癇癪を起こし、感情が昂ぶって泣きじゃくる夫を、枝実子は黙って包み込む。幾度もの夏が訪れ、病が進行した佐伯は枝実子の名も思い出せなくなってしまったが、枝実子は静かに夫を見守るのだった。




6-17. 雨あがる  

監督 野上照代
出演 寺尾聰宮崎美子三船史郎吉岡秀隆原田美枝子
2000年 (東宝=アスミック・エース エンタテインメント)

解説
人を押しのけてまで出世することが出来ない心優しい武士と、そんな夫を理解し支える妻の心暖まる絆を描いた時代劇。監督は、98年に亡くなった黒澤明監督の助監督として活躍し、本作でデビューを飾った小泉堯史。脚本は、山本周五郎による短編を基にした「まあだだよ」の黒澤明の遺稿。 撮影には「まあだだよ」の上田正治があたり、また撮影協力として「まあだだよ」の斎藤孝雄が参加している。主演は、「まあだだよ」の寺尾聰と「生きたい」の宮崎美子。99年の第56回ヴェネチア国際映画祭緑の獅子賞を受賞。

ストーリー
亨保時代。武芸の達人でありながら、人の好さが災いして仕官がかなわない武士・三沢伊兵衛とその妻・たよ。旅の途中のふたりは、長い大雨で河を渡ることが出来ず、ある宿場町に足止めされていた。ふたりが投宿する安宿には、同じように雨が上がるのを鬱々として待つ貧しい人々がいた。そんな彼らの心を和ませようと、伊兵衛は禁じられている賭試合で儲けた金で、酒や食べ物を彼らに振る舞う。翌日、長かった雨もようやくあがり、気分転換に表へ出かけた伊兵衛は若侍同士の果たし合いに遭遇する。危険を顧みず仲裁に入る伊兵衛。そんな彼の行いに感心した藩の城主・永井和泉守重明は、伊兵衛に剣術指南番の話を持ちかけた。ところが、頭の固い城の家老たちは猛反対。ひとまず御前試合で判断を下すことになるが、そこで伊兵衛は、自ら相手をすると申し出た重明を池に落とすという大失態をしてしまう。それから数日後、伊兵衛の元にやってきた家老は、賭試合を理由に彼の仕官の話を断った。だが、たよは夫が何のために賭試合をしたかも分からずに判断を下した彼らを木偶の坊と非難し、仕官の話を辞退するのだった。そして、再び旅に出る伊兵衛とたよ。ところがその後方には、ふたりを追って馬を駆る重明の姿があった…。




6-18. 男はつらいよ 寅次郎忘れな草

監督 山田洋次
出演 渥美清倍賞千恵子浅丘ルリ子松村達雄三崎千恵子
1973年 (松竹)

解説
“男はつらいよ”シリーズ第十一作目。今回の寅さんが恋する相手は、北海道で偶然知りあった薄幸の三流歌手、リリー。このリリーをめぐっての寅さんの奮闘努力を描く。脚本は「故郷」の宮崎晃、「男はつらいよ 寅次郎夢枕」の朝間義隆、監督は脚本も執筆している同作の山田洋次、撮影は「愛ってなんだろ」の高羽哲夫がそれぞれ担当。

ストーリー
柴又。今日は、寅、さくらの父の二十七回忌である。“とらや”に、おいちゃん、おばちゃん、さくら、博が集って御前様にお経をあげてもらっている。その時、寅が久し振りに戻って来た。だが、寅のおかげで法事はメチャクチャになってなってしまう。ある日、さくらが、満男にピアノを買ってやりたいと言うのを聞いた寅は、早速、玩具のピアノを買って来て、得意満面。一同、欲しいのは本物のピアノだ、とも言えず寅の機嫌をとるが、やがてその場の雰囲気で気がついた寅、皆に悪態をついて、プイッと家を出てしまった。北海道。夜行列車の中で、派手で何処となく安手の服を着ている女が、走り去る外の暗闇を見ながら涙を流している。じっと彼女を瞶める寅。網走。ヒョンなことから寅は列車の時の女と知り合った。名はリリーといって、地方のキャバレーを廻って歌っている、三流歌手である。互いに共通する身の上話をしながら、いつしか二人の心は溶け合うのだった。柴又のさくらに、北海道の玉木という農家から手紙が届いた。寅が心機一転して、玉木の家で働いたものの日射病と馴れない労働で倒れてしまった、というのである。早速さくらは、北海道へ行き、寅を連れて柴又に帰って来た。寅が柴又に戻って来て数日後、リリーが尋ねて来た。抱き合って再会を喜ぶ寅とリリー。そして、皆に心のこもったもてなしを受けたリリーは、自分が知らない家庭の味に触れ、胸が熱くなるのだった……。数日後の深夜。安飲み屋をしている母親と喧嘩したリリーは、深酔いしたままで寅に会いに来た。だが、寅がリリーの非礼を諭すと、リリーは涙を流しながら突び出て行った。翌日、寅がリリーのアパートを捜し出して尋ねるが、既に彼女は越した後だった。その日、寅はさくらに、自分の留守中にリリーが来たら、二階に下宿させるように、と言い置いて旅に出た。数日後、さくらは、リリーが寿司屋の板前と結婚して、小さな店を出したことを知った。その店を尋ねたさくらは、以前とは想像もつかぬ程血色がよく、生き生きと働いているリリーを見るのだった。その頃寅は、ふたたび北海道の玉木の家を尋ねていた。晴れわたった青空、北海道にも夏が来た……。




6-19. 涙そうそう

監督 土井裕泰
出演 妻夫木聡長澤まさみ麻生久美子塚本高史中村達也
2006年 (東宝)

解説
森山良子の大ヒット曲から生まれた、感動の恋愛ドラマ。主演に「春の雪」の妻夫木聡、「ラフ」の長澤まさみ。2人の母親役に小泉今日子を迎え、沖縄を舞台に物語が展開する。

ストーリー
沖縄で暮らす新垣洋太郎(妻夫木聡)は、飲食店を持つことを夢見ながら、昼も夜もなく働き続ける青年。ひとり暮らしの彼のもとに、義理の妹であるカオル(長澤まさみ)がやってくる。それが洋太郎には、嬉しくてたまらなかった。洋太郎の母親である光江(小泉今日子)は、彼が8歳の時に再婚し、新たな父親の連れ子がカオルだった。幼い頃はぎこちなかった二人の関係も、現在では血のつながった兄妹以上のものとなり、洋太郎にとってはかけがえのない存在となっていた。沖縄本島の高校に合格したカオルは、オバァ(平良とみ)と暮らしていた離島を離れ、洋太郎と一緒に暮らすことになっていた。義父は失踪し、母を病で亡くしていた二人にとって、お互いが唯一の肉親なのだ。古びた洋太郎のアパートで、二人の生活が始まる。ようやく資金が貯まって念願だった居酒屋のオープンに漕ぎつける洋太郎だが、その土地の権利は偽造されたものだった。詐欺に引っかかったことを知る洋太郎。自分と仲間たちの手で塗装した店は解体され、洋太郎は多額の借金を背負ってしまう。恋人の恵子(麻生久美子)も、洋太郎のもとを去っていった。悩み苦しむ洋太郎を励ますのは、カオルだけだった。いつしか洋太郎との間に流れはじめた微妙な感情に戸惑うカオルは、大学の卒業を機に自立する決意を洋太郎に告げる。洋太郎も、それに反対することはできなかった。二人が別々に暮らすようになって1年後、沖縄本土に大型台風がやってくる。その夜、カオルの身を案じた洋太郎は彼女の部屋を訪れる。久々に顔を合せる2人。しかし、洋太郎の肉体は、いつのまにか再起不能の病魔に冒されていた。懸命の看護もむなしく、他界する洋太郎。自分のために、昼夜を問わず働き通しだった洋太郎の愛を改めて知るカオル。その目からは、とめどない涙があふれて尽きることはなかった。




6-20. ミラーを拭く男

監督 梶田征則
出演 緒形拳栗原小巻辺土名一茶国仲涼子水野久美
2003年 (パル企画)

解説
2002年度のサンダンス・NHK国際映像作家を受賞した梶田征則の初長編劇場監督作。寡黙な父親・勤を緒形拳が演じ、彼の息子と娘役に辺土名一茶と国仲涼子を迎えて、家族の崩壊と再生を温かく描いた人間ドラマだ。

ストーリー
家族のために長年一生懸命に働き、定年を間近に控えたサラリーマン・皆川勤(緒形拳)。定年後は夫の退職金で、これからできなかった夫婦水いらずでゆっくりと老後を過ごそうと思っていた妻・紀子(栗原小巻)。しかし、その定年直前に、勤は思わぬ交通事故を引き起こしてしまう。それが、そもそものきっかけだった。勤は家族に内緒で会社を突然辞め、事故現場のカーブミラー、そして市内全部のカーブミラーまでをも拭き始める行動に出る。不可解な勤の行いを問いただす紀子、父の行動が理解できずに、冷たい態度をとる息子の芳郎(辺土名一茶)と娘の真由美(国仲涼子)。もともと無口だった勤は家族の話にも耳を貸さず、ただただミラーを拭き続けた。市内全てのミラーを拭き終えた時、勤は事故以来、久しぶりの達成感を抱く。それから彼は、家族の前から突如として姿を消し、北海道へ向かう。…それから3年、バラバラになっていた家族は、宮城で再会する。離れていた空白の3年間に、勤に一体なにが起こったのか?




6-21. 丹下左膳(1958)

監督 松田定次
出演 大友柳太朗大川橋蔵美空ひばり長谷川裕見子喜多川千鶴
1958年 ()

解説
お馴染み林不忘の原作を、「恋風道中」の中山文夫が脚色、「多羅尾伴内 十三の魔王」のコンビ松田定次が監督、川崎新太郎が撮影した。丹下左膳には「神変麝香猫」の大友柳太朗が扮し、「緋ざくら大名」の大川橋蔵、「素っ飛び笠」の東千代之介、「大当り狸御殿」の美空ひばりに長谷川裕見子、松島トモ子、月形龍之介、大河内傳次郎、薄田研二、喜多川千鶴等と豪華な顔ぶれである。東映スコープ公開一周年記念映画。色彩は東映カラー。

ストーリー
伊賀の国二万三千石の貧乏大名柳生家には、百万両の秘密の所在を封じ込んだ「こけ猿」という壷がある。時は八代将軍吉宗の世。「こけ猿」の由来を知らぬ当主対馬守は暴れん坊の令弟源三郎にこの壷を与え、司馬道場に婿入りさせた。ところが道場の師範峰丹波は、師の娘萩乃に心をよせるため、源三郎の婿入りを喜ばない。スリの与吉は源三郎から「こけ猿」を奪い、この丹波に小判五十枚で売りつけようとしたが、これを奪ったのが隻眼隻手の怪剣士丹下左膳だった。トンガリ長屋に、山吹の師匠お藤と、孤児ちょび安と住んでいる。一方柳生家では「こけ猿」の秘密を知り大さわぎ、さっそく壷を求める家臣が八方に散った。だがその頃、左膳と源三郎は、司馬道場を乗取ろうとする丹波の策略を知り、左膳は壷を源三郎にわたしたが、いつの間にか大岡越前守の隠密泰軒の手で、壷は偽物にすり替えられていた。それを知らぬ源三郎は、道場に乗り込んで丹波の奸計を破ったものの、丹波は復讐の手段として萩乃とちよび安を拐った。一方本物の「こけ猿」は越前守の手にわたったが、中から出たのは柳生の先祖石舟斉が書いた反古があるばかり。百万両の夢は破れた。萩乃を奪われた源三郎は、単身丹波一味の屋敷にかけつけたが、衆寡敵せず、すでに危い。一方ちょび安を救うために、左膳もこの屋敷に向って宙を飛ぶ。群る刀の前に、ドッと倒れた源三郎の耳に、左膳の怒号が間近く聞えた。




6-22. 真夜中まで

監督 和田誠
出演 真田広之ミシェル・リー岸部一徳國村隼柄本明
1999年 (東北新社)

解説
イラストやエッセイ、映画とマルチに活動する和田誠監督のサスペンス。行きずりの男女の一夜の逃避行を描く。ジャズの響きにスリルが絡み、大人のムードたっぷり!

ストーリー
ジャズ・マンの守山にとって、その夜は特別なものだった。実は、深夜12時のステージに、ジャズ界の超大物・G.P.サリヴァンがやって来るからだ。サリヴァンに見初められれば、ニューヨーク進出も夢ではない。1回目のステージを終え、新曲の練習の為に屋上に出た守山。ところが、彼はホステスに運び屋をさせているナイトクラブのオーナー・田崎と汚職刑事・南部の癒着を知ったナイトクラブの会計士で恋人の佐久間が殺される現場を目撃し、南部たちに追われるハメになった外国人女性・リンダに助けを求められ逃亡を手伝うハメに。しかも、不法滞在者で警察に駆け込むことの出来ないリンダは、佐久間が残した癒着の証拠を一緒に探して欲しいと守山に懇願した。ステージまで2時間。守山は、南部たちや田崎の手下、そして佐久間殺しを捜査する警察に追われながら、夜の街を東奔西走する。やがて、佐久間の残した証拠が佐久間の殺害現場を収録したヴィデオテープだと知ったふたりは、田崎の手下に化けて潜入捜査をしていた公安刑事・戸塚の助けでテープを確保、南部と大場も逮捕される。だがその時、時計の針はてっぺんを回っていた。急ぎライヴハウスへ戻る守山だったが、既にサリヴァンは帰った後。しかし、「チャンスはまた来るさ」と守山はステージを務める。一方その頃、リンダは事情聴取の為、警察の車に揺られていた……。




6-23. 敦煌

監督 佐藤純彌
出演 西田敏行佐藤浩市中川安奈新藤栄作原田大二郎
1988年 (東宝)

解説
戦乱の世、11世紀のシルクロードで、敦煌の文化遺産を守ろうとした青年の活躍を描く。井上靖原作の同名小説の映画化で、脚本は「必殺! ブラウン館の怪物たち」の吉田剛と「植村直己物語」の佐藤純彌が共同で執筆。監督は同作の佐藤、撮影は「春の鐘」の椎塚彰がそれぞれ担当。

ストーリー
11世紀の宗。科挙の試験に落ちた趙行徳は、街で西夏の女を助けた礼として、西夏への通行証をもらった。西夏の文字に興味をもった趙は西域へと旅立つ。灼熱の砂漠を尉遅光の隊商と共に歩いていたが、途中で西夏軍漢人部隊の兵士狩りに会い、無理矢理入れられてしまう。隊長の朱王礼は文字の読める趙を重用した。漢人部隊がウイグルを攻略した際、趙は美しい王女ツルピアと知り合い恋におちた。二人は脱走を試みるが失敗、趙は西夏王・李の命令で都へ文字の研究に行くことになった。二年後、趙が戻ると、李はツルピアと政略結婚しようとしていた。趙も朱にもどうすることもできなかったが、婚礼の当日ツルピアは自殺した。ツルピアに思いを寄せていた朱の怒りは爆発し、敦煌府太守・曹を味方につけて李に謀反を起こした。敦煌城内で死闘を繰りひろげる漢人部隊と西夏軍本部隊。初めは漢人部隊が優勢だったが敦煌城に火矢が放たれ、朱側は火に包まれた。戦うことより文化遺産を戦火から守ることに使命を見出していた趙は、教典や書物、美術品などを城内から莫高窟へ運び込んだ。それから900年が経ち、莫高窟からこれら文化遺産が発掘され、敦煌は再び世界の注目を集めたのだった。




6-24. パラダイス・キス

監督 新城毅彦
出演 北川景子向井理山本裕典五十嵐隼士大政絢
2011年 (ワーナー・ブラザース映画)

解説
ファッション誌「Zipper」に連載され、絶大な人気を誇る矢沢あいの同名コミックを実写映画化した青春ドラマ。受験生からトップモデルへと転身するヒロインに北川景子、ドラマ「ゲゲゲの女房」でブレイクした向井理が破天荒な天才デザイナーを好演する。20以上の人気アパレルブランドが全面協力した、おしゃれな衣装も見どころ。

ストーリー
有名進学校に通う早坂紫(北川景子)は、夢も刺激もない高校生活を送っていた。受験を控えて成績は伸び悩み、同級生の徳森浩行(山本裕典)への片思いも何の進展もないまま3年目を迎えた。そんなある日、紫は矢澤芸術学院、通称“ヤザガク”の生徒・永瀬嵐(賀来賢人)から学園祭のファッションショーのモデルにスカウトされる。アトリエに連れて行かれ、嵐のカノジョの櫻田実和子(大政絢)と女装したイザベラ(五十嵐隼士)に会うが、受験のことしか頭にない紫は「あんたの遊びに付き合っているヒマはない」と言い放つ。翌朝、紫の教室に嵐たちのリーダー格・小泉譲二、通称ジョージ(向井理)が現れ、紫の手を取ると強引に外へ連れ出す。ヤザガクの教師でありトップヘアメイクアーティストの如月星次(平山浩行)に紫の髪を切るよう頼むジョージ。コンテスト形式のショーでは、ジョージと麻生香(加藤夏希)が優勝を狙っていた。既に“Paradise Kiss”というブランドで様々な服を創っていたジョージは、仲間たちと共に手分けしてドレスを創る。そんな彼らの情熱に紫は少しずつ心を動かされていく。上手くいかない毎日を厳しすぎる母親(羽田美智子)のせいにしていた紫だったが「お前の意思はどこにある?」とジョージに言われ、彼を見返そうとモデルを引き受ける。そんな中、紫は母親とケンカして家出、ジョージのマンションに間借りすることになる。学校を休学、自立を目指しジョージが紹介してくれた雑誌のモデルの仕事は一流のプロたちの現場だった。紫は遂に夢と出逢えたことに気付き、さりげなくサポートしてくれるジョージに惹かれていく。だがジョージは卒業後にパラキスを解散、パリへ修行に行くと宣言する。ショーの当日。紫はリハーサルでランウェイがまともに歩けない。本番が始まり、ステージに向かう紫の背中で「自分の足で歩いて来い」とジョージが叫ぶ。ショーが終われば別れが待っていることを胸に秘めて、紫は歩き出した……。




6-25. 十三人の刺客

監督 三池崇史
出演 役所広司山田孝之伊勢谷友介沢村一樹古田新太
2010年 (東宝)

解説
63年の傑作時代劇を鬼才・三池崇史監督が、役所広司、山田孝之ら豪華キャストとともに再映画化。300人もの敵勢力にたった13人で戦いを挑む命知らずな男たちの姿を描き出す。

ストーリー
弘化元年3月。明石藩江戸家老・間宮が、老中・土井家の門前で切腹自害。間宮の死は、明石藩主・松平斉韶(稲垣吾郎)の暴君ぶりを訴えるものであった。将軍・家慶の弟である斉韶は、明年には老中への就任が決まっている。事件は時の幕府を動揺させ、このままでは幕府、ひいては国の存亡に関わると判断した土井は斉韶暗殺を決断、御目付役・島田新左衛門(役所広司)にその命を下す。大事決行を控え、新左衛門は刺客集めに奔走。剣豪浪人平山、酒と女と博打に溺れる新左衛門の甥・新六郎ら十一人の強者達が新左衛門のもとに集う。暗殺計画が極秘裡に進められる中、斉韶の腹心・鬼頭半兵衛(市村正親)はその情報を掴んでいた。彼は、かつて新左衛門と剣の同門でありながらも道を違え、御用人千石の身分を自ら掴んだ傑物であった。そんな中、新左衛門は、斉韶を襲うのは江戸から明石への参勤交代の道中しかないと判断、襲撃場所を交通の要所の落合宿に決める。明石藩の参勤交代が尾張を通る時、尾張藩への通行を阻止すれば、勢力を削られた行列は落合宿に出るはず。斉韶を落合宿に誘い込むため、新左衛門は事の詳細を尾張藩の木曽上松御陣屋詰・牧野靭負に打ち明け協力を求める。斉韶が落合宿にやって来るかは、極めて危険な賭けであったがそれしか手はない。刺客たちは現地へ急行、明石藩を迎え撃つべく落合宿を要塞へと改造する。道中、山の民・木賀小弥太が加わり、落合宿にて総勢十三人の刺客が揃う。だが、明石藩は待てども待てども落合宿にやってこない。新左衛門の計略は失敗に終わったかに思えたその矢先、敵は200騎以上の多勢となってやってきた。鬼頭は兵を蓄え、この戦いに備えていたのだ。混乱の中、明石藩の退路を断つ大橋が爆破。13人対300人超の決戦が始まった……。




6-26. 若い東京の屋根の下

監督 斎藤武市
出演 吉永小百合浜田光夫山内賢伊藤雄之助三宅邦子
1963年 (日活)

解説
源氏鶏太原作“緑に匂う花”を「結婚の条件」の才賀明が脚色、同じく斎藤武市が監督した青春ドラマ。撮影は「伊豆の踊子(1963)」の横山実。

ストーリー
桑野蕗子は十九歳のBG、家庭は停年を控えた父親の謙太郎と母親、高校生の弟の四人暮しである。兄の太郎は重役の娘達枝と結婚し、次郎は姉さん女房の夏子と共稼ぎのアパート暮しだ。姉の律子は薬局の利男と結婚して娘もいるが、姑とのいざこざが絶えない。目下、蕗子の悩みは父親の停年問題である。ある日、今度の父親の誕生日に両親の生活費について相談をして貰おうと、蕗子は兄や姉たちの家を訪ねて廻った。その日から次郎の後輩の大学生・三上良平が下宿するようになり、桑野家は急に賑かになった。父親の誕生日には太郎を除いて全員が集った。子供たちで分相応に両親の生活費を捻出することを決め、蕗子が月末に集金に廻ると宣言した。蕗子が同窓の幸吉たちと恩師を見舞った日、偶然知りあった良平と幸吉の間に、蕗子争奪の紳士協定が彼女の如らぬ間に結ばれた。良平の顔を見るといつも、プンプンしていた蕗子の心にも微妙な変化が起りつつあった。良平は蕗子の面影がちらついて勉強も手につかず、下宿を変ることを考えていた。そんな時、良平の友達で父親が電機会社の重役をしているという渡瀬和子の世話で、謙太郎の就職がスラスラと決った。そんなことから何となくちぐはぐになった二人を、いち早く見抜いたのは幸吉だった。幸吉は蕗子をつかまえ「意地を張ってると君の好きな三上君は出て行くぜ」と言った。言われて蕗子は帰ったら良平にハツキリ「好きです」と言おうと思った。




6-27. 十七人の忍者

監督 長谷川安人
出演 里見浩太朗近衛十四郎三島ゆり子大友柳太朗東千代之介
1963年 (東映)

解説
「八幡鳩九郎」の池上金男が脚本を執筆、「柳生武芸帳 片目水月の剣」の長谷川安人が監督した忍者もの。撮影は「忍者秘帖 梟の城」の鷲尾元也。

ストーリー
二代将軍秀忠の病篤いとき、嫡子家光の弟忠長は駿府にあって外様大名の謀反連判状を集めていた。老中阿部豊後守は伊賀忍者甚伍左にこの連判状の奪取を命じた。甚伍左は部下十五名と共に駿府へ向い、娘の梢を連絡係として残した。駿府側が雇った根来忍者才賀孫九郎は、早くも潜入した伊賀忍者源心ら四名を殺し、続いて連判状のある本丸に近づいた二人も餌食となった。駿府の家臣たちは忠長の命を案じ、孫九郎の反対を押し切って連判状を本丸から鬼門櫓に移す。この動きを連絡しようとした二人の忍者も死んだ。甚伍左は残りの部下と城下の羅漢寺に潜んでいたがそこで忍者半四郎が梢のかんざしを持っているのをみつけ、それを取り上げるのだった。秀忠が死んだ。豊後守は梢を駿府へ急行させ、連判状を奪えと厳命した。一方、孫九郎は、駿府に向った忍者は伊賀三の組の十六名で、羅漢寺に潜んでいるとの報告をうけた。寺は教われ、後を半四郎に任せて捕えられた甚伍左は鬼門櫓で拷問され、歩行不能となった。忍者たちは相次いで斃される。残るは城内の塩庫にひそむ半四郎と文蔵の二人。そして梢は孫九郎の手に落ちて責められている。文蔵は、沈着な半四郎に敬服、彼を助けるため自ら敵前に飛出して撃たれた。「十六人、すべて倒した!」と喜ぶ孫九郎に甚伍左がいった。「公儀隠密人別帳に女はのっておらぬ。伊賀忍者はまだ一人いる!」その油断につけ込んで梢を救い出した半四郎は、孫九郎と激闘の末、これを斃した。甚伍左は孫九郎に這い寄って、連判状を半四郎にさし出しながら息絶えた。寛永九年、忠長は自刃した。




6-28. 酔いがさめたら、うちに帰ろう。

監督 東陽一
出演 浅野忠信永作博美市川実日子利重剛藤岡洋介
2010年 (ビターズ・エンド)

解説
漫画家・西原理恵子の元夫で、07年にがんで亡くなった戦場カメラマン、鴨志田穣の自伝を映画化。「絵の中のぼくの村」でベルリン国際映画祭銀熊賞に輝いた名匠・東陽一監督が、アルコール依存症と戦う男と家族の愛のドラマを映し出す。浅野忠信と永作博美が信頼の絆で結ばれた元夫婦を好演する。

ストーリー
「来週は素面で家族と会うのです」と言いながらウォッカを飲み、血を吐いて気絶した戦場カメラマンの塚原安行(浅野忠信)。母・弘子(香山美子)は慌てつつも、慣れた様子で救急車を呼び、救急隊員に掛かり付けの病院を伝えている。その場に駆け込んできた売れっ子漫画家の園田由紀(永作博美)が、「大丈夫、まだ死なないよ」と安行の頬をさすった。二人は結婚し、宏(藤岡洋介)とかおる(森くれあ)という子供にも恵まれたが、安行のアルコール依存症が原因で離婚、今は別々に暮らしている。安行は病院に運ばれ、そのまま3ヶ月の入院、それは10回目の吐血だった……。由紀は知り合いの医師を訪れ、アルコール依存症について尋ねると、医師は身を乗り出し「ほかの病気と決定的に違ういちばんの特徴は、世の中の誰も同情してくれないことです。場合によっては医師さえも」と答える。その言葉は由紀の胸に深く突き刺さった。退院後、抗酒剤を服用している安行は、穏やかな日々を過ごしていた。そんなある日、一人でふらっと入った寿司屋で出された奈良漬けを口にした安行は、数分後コンビニの酒棚に直行。気が付くと、酔っ払って転倒、頭から血を流し、そのまま意識がかすんでいった。後日、タクシーに乗り、ある場所に到着した安行と弘子。驚いている安行をその場に残し「ここは精神病院。あなたは入院するんです」と言って弘子は足早に中へと入っていく。嫌々ながら入院したアルコール病棟だったが、ここでの風変わりだが憎めない入院患者たちとの生活や、個性的な医者との会話は安行に不思議な安堵感を与えてくれた。だが、体力も心も回復に向っているかに見えた安行であったが、その体にはもうひとつの大きな病気を抱えていた……。




6-29. 金融腐蝕列島 呪縛

監督 原田眞人
出演 役所広司仲代達矢椎名桔平風吹ジュン若村麻由美
1999年 (東映)

解説
腐敗した大銀行を再生すべく、立ち上がった中堅行員たちの姿を活写した社会派ドラマ。監督は「バウンス ko GALS」の原田眞人。高杉良によるベストセラー小説を基に、高杉良、鈴木智、木下麦太が共同脚色。撮影に「オサムの朝」の阪本善尚があたっている。主演は、「ニンゲン合格」の役所広司と「宮澤賢治 その愛」の仲代達矢。

ストーリー
1997年、東京・日比谷。丸野証券の利益供与事件による総会屋・小田島の逮捕により、300億円という不正融資疑惑が持ち上がった朝日中央銀行(ACB)本店に東京地検特捜部の強制捜索が入った。ところが、ACBの上層部は責任を回避しようとするばかり。そんな上層部の姿勢に腹を立てた"ミドル4人組"と呼ばれる企画本部副部長の北野、同部MOF担の片山、同部副部長の石井、広報部副部長の松原らはボード(役員)を総辞任させ、"ブルームバーグ・テレビジョン"のアンカーウーマン・和田の力を借りて新頭取に中山常務を推すと、真相調査委員会を結成。 ACBを闇社会や古い慣習などの"呪縛"から解き放ち、再生させようと東奔西走する。しかしそんな事態に至っても尚、佐々木相談役だけは最高顧問としてACBに居座ろうとしていた。佐々木の娘婿でもある北野は、身内と対決しなければないないことに苦悩しながらも、小田島と佐々木の癒着が記された自殺した久山幹部の遺書を武器に彼を辞職、逮捕へと追い込む。それから数日後、 ACBの株主総会が行われた。中山新頭取を中心に、北野たちは闇社会との繋がりや行内の膿を放出することを株主に確約してこれを乗り切ることに成功。こうして、ACBは再生への一歩を歩き始めるのであった。




6-30. 駅/STATION

監督 降旗康男
出演 高倉健いしだあゆみ岩淵建名古屋章大滝秀治
1981年 (東宝)

解説
オリンピックの射撃選手であり、警察官でもある一人の男と、事件を通して彼の心を通り過ぎていく女たちを描く。脚本は「冬の華」の倉本聰、監督は「仕掛人梅安」の降旗康男、撮影は「復活の日」の木村大作がそれぞれ担当。

ストーリー
−−1967年1月 直子−− その日、警察官の英次は雪の降り続く銭函駅ホームで、妻の直子と、四歳になる息子義高に別れを告げた。離婚を承諾した直子は、動き出した汽車の中で、英次に笑って敬礼するが、その目には涙が溢れていた。苛酷な仕事と、オリンピックの射撃選手に選ばれ合宿生活が続いていたことも原因であった。その頃、英次の上司、相馬が連続警察官射殺犯“指名22号”に射殺された。中川警視の「お前には日本人全ての期待がわかっている」との言葉に、犯人を追跡したい英次の願いは聞き入れられなかった。テレビが東京オリンピック三位の円谷幸吉の自殺を報じていた。「これ以上走れない……」英次にその気持が痛いほどわかった。 −−1976年6月 すず子−− 英次の妹、冬子が、愛する義二とではなく、伯父の勧めた見合の相手と結婚した。英次は、妹の心にとまどいを覚え、義二は結婚式の夜に荒れた。その頃、英次はオリンピック強化コーチのかたわら、赤いミニスカートの女だけを狙う通り魔を追っていた。増毛駅前の風侍食堂につとめる吉松すず子の兄、五郎が犯人として浮かんだ。すず子を尾行する英次のもとへ、コーチ解任の知らせが届いた。スパルタ訓練に耐えられなくなった選手たちの造反によるものだ。すず子はチンピラの雪夫の子を堕すが、彼を好きだった。しかし、雪夫にとって、すず子は欲望のハケロでしかなく、英次が警察官と知ると協力を申し出た。雪夫は結婚を口実にすず子を口説いた。すず子は、刑事たちの張り込みに気づいていながらも、愛する雪夫を兄に会わせたく、隠れている町へ案内した。そして、英次の前に吉松が現れたとき、すず子の悲鳴がこだました。 −−1979年12月 桐子−− 英次のもとに旭川刑務所の吉松五郎から、刑の執行を知らせる手紙が届いた。四年の間、差し入れを続けていた英次への感謝の手紙でもあった。英次は故郷の雄冬に帰ろうと、連絡船の出る増毛駅に降りた。風待食堂では相変らず、すず子が働いていた。雪夫は結婚したらしく、妻と子を連れてすず子の前を通り過ぎて行く。舟の欠航で所在無い英次は、赤提灯「桐子」に入った。女手一つで切り盛りする桐子の店だが、三十日なのに客も来ない。テレビでは八代亜紀の「舟唄」が流れている。「この唄好きなのよ」と桐子は咳いた。自分と同じく孤独の影を背負う桐子に、いつしか惹かれる英次。大晦日、二人は留萌で映画を観た。肩を寄せ合って歩く二人が結ばれるのに時間はかからなかった。英次は、初詣の道陰で桐子を見つめる一人の男に気づく。英次が雄冬に帰りついたのは、元旦も終ろうとしている頃だ。そこで、十三年ぶりに電話をかけて直子の声を聞いた。池袋のバーでホステスをしているという。雄冬の帰り、桐子は、札幌へ帰る英次を見送りに来ていた。その時、“指名22号”のタレ込みがあり、英次は増毛に戻った。手配写真と、桐子を見つめていた男の顔が英次の頭の中でダブル。桐子のアパートで22号は、英次の拳銃で撃ち殺された。警察に通報しながら22号をかくまっていた桐子。札幌に戻る前、英次は桐子を訪ねた。英次に背を向け「舟唄」を聞き入る彼女の顔に涙が流れている。英次は気づかない。英次は札幌行きの列車に乗った。




6-31. 座頭市(1989)

監督 勝新太郎
出演 勝新太郎樋口可南子陣内孝則片岡鶴太郎奥村雄大
1989年 (松竹)

解説
居合い斬りの得意な按摩・座頭市と五右衛門一家との戦いを描く。子母沢寛の同名小説の映画化で、脚本・監督は「新座頭市物語 折れた杖」の勝新太郎、共同脚本は「森の向う側」の中村努と市山達巳、脚色は「この胸のときめきを」の中岡京平、撮影は「クレージーボーイズ」の長沼六男がそれぞれ担当。主題歌は、JONNY(「THE LONER」)。

ストーリー
牢を出たばかりの座頭市は、漁師・儀肋の家にやっかいになった。その小さな漁村では五右衛門一家が賭場を開き、市もつきに任せて遊んでいた。跡目を継いだばかりの若き五右衛門は宿場一体を仕切るために八州取締役に取り入ろうとしていた。大勝ちした市を撫然とした五右衛門一家が取り囲むが、女親分のおはんが取りなした。帰り道で市は刺客に襲われるが、得意な居合い斬りで片づけた。市は旅先で絵を描く浪人と知り合い、色を教えてもらった。その間も五右衛門一家の刺客が襲いかかるが、市の居合い斬りの前には歯が立たない。八州取締役は赤兵衛に五右衛門と対抗するために銃を買うことを勧めた。しかし、赤兵衛は五右衛門と八州が通じていることを知っており、市を用心棒に顧った。一方五右衛門は浪人を新しい用心棒に顧っていた。赤兵衛の宿場で八州は薄幸の少女おうめを手込めにしようとするが、市に斬られた。浪人は湯治場で一度市を見逃すが、五右衛門一家はついに赤兵衛一家を襲う。壮絶な斬り合いの末、赤兵衛は五右衛門の前に倒れた。その時坂の上から早桶が転ってきて、中から現われたのは八州の首を持った市だった。そして市は数十人の五右衛門一家の子分を絶滅させ、最後に五右衛門と浪人も倒すのだった。




6-32. 深呼吸の必要

監督 篠原哲雄
出演 香里奈谷原章介長澤まさみ成宮寛貴金子さやか
2004年 (日本ヘラルド映画=松竹)

解説
「はつ恋」の篠原哲雄監督が、沖縄の島々の大自然を背景に描く青春映画。沖縄で実際に行なわれている、さとうきび収穫のアルバイトに集まった若者たちの成長をつづる。

ストーリー
沖縄のとある離島に、さとうきびをただひたすら刈り取るアルバイト“きび刈り隊”に応募して来た都会暮らしの5人の若者・ひなみ、修一、加奈子、大輔、悦子が降り立った。「言いたくない事は言わなくてもいい」。これが、彼らが1ヶ月余り寝泊まりする平良家の唯ひとつのルール。果たして、それぞれに“言いたくない事情”を抱えていた5人は、早速、バイトの常連・田所の指導の下、広大な畑の約7万本のさとうきびを刈り始めるが、2月とは言え沖縄の厳しい陽差しの下での慣れない仕事は辛く、かつて平良家の隣に住んでいた美鈴と言う強力な助っ人の参加があったものの、先輩風を吹かせる田所への反駁もあり、一向に作業の能率は上がらない。そんな中、大事件が起こった。嵐の晩、港へ出掛けた田所が運転を誤って脚に大怪我を負ってしまったのだ。離島ゆえに医者はいない。とその時、実は医者であった修一が執刀を決意した。手術は成功した。そして、このことで絆を深めた7人は力を合わせ、期日までに全てのさとうきびを刈るのであった。




6-33. 宮本武蔵(1961)

監督 内田吐夢
出演 萬屋錦之介風見章子入江若葉木村功浪花千栄子
1961年 (東映)

解説
吉川英治の原作を「孤剣は折れず 月影一刀流」の成澤昌茂と「江戸っ子奉行 天下を斬る男」の鈴木尚之が脚色し、「妖刀物語 花の吉原百人斬り」の内田吐夢が監督した時代劇。撮影は「江戸っ子奉行 天下を斬る男」の坪井誠。

ストーリー
慶長五年九月、関ヶ原の合戦で西軍豊臣方は惨敗に終った。作州宮本生れの郷士の伜、新免武蔵と本位田又八は野望を抱いて西軍に加わったが傷ついて、もぐさ家のお甲とその養女朱実に救われた。この母娘は戦場荒しを稼業とする盗賊だった。ある日、お甲の家を野武士辻風典馬の一隊が襲った。武蔵は典馬を殴殺し、又八は手下を追いちらした。そんな二人にお甲の誘惑の手がのびた。又八は許嫁お通を忘れお甲とともに姿を消した。宮本村に向った武蔵に、豊臣方残党詮議が厳しく、武蔵は人殺しを重ねつつ、故郷に向かった。武蔵召捕りのため姫路役人青木丹左衛門が村の七宝寺を本陣として采配を振っていた。その頃、お通のもとに又八からの縁切状が届いた。又八の母お杉婆と権六叔父は、又八の出奔を武蔵のせいにして武蔵を恨んでいた。七宝寺には沢庵坊主が居候していた。農繁期の盛りに百姓達は武蔵召捕りのためにかりだされた。みかねた沢庵はお通と二人で武蔵を生け捕りにしてきた。同じ捕るなら仏の慈悲という沢庵の言葉に武蔵は剣をすてた。だが、沢庵は境内の千年杉に武蔵を吊るしあげた。そして人間としての道を諄諄と武蔵に説いた。沢庵の大きな心を知らないお通は武蔵を哀れに思い、一夜、武蔵を助け共に宮本村をのがれた。武蔵は、囮として捕えられている姉を救出せんと日倉の牢に向ったが、姉は沢庵に救われていた。沢庵は武蔵を、姫路の白鷺城に連れていった。そして天守閣の開かずの間に武蔵を残し沢庵は去っていった。強いだけの武蔵に学問を習わせようというのだ。ここを暗黒蔵として住むのも、光明蔵として暮らすのも武蔵の心にある、という沢庵の言葉に、武蔵は学問にうちこんだ。この一室を母の胎内と思い生れ出る支度にかかろうと決心したのである。一方、お通は花田橋の竹細工屋喜助の店で武蔵が出てくるのを待つことになった。宮本村では、権六叔父を供に連れたお杉姿がお通成敗の悲願をかけて旅立った。




6-34. 宮本武蔵 般若坂の決斗

監督 内田吐夢
出演 萬屋錦之介入江若葉木村功浪花千栄子阿部九洲男
1962年 (東映)

解説
吉川英治原作を「恋や恋なすな恋」の内田吐夢と「ちいさこべ」の鈴木尚之が協同で脚色、内由吐夢が監督した剣豪もの。撮影は「酔いどれ無双剣」の坪井誠。

ストーリー
白鷺城の暗黒蔵にこもること三年、武蔵は名を宮本武蔵と改め、沢庵に別れを告げて剣の旅に出た。同行を願うお通が約束の花田橋に駈けつけたとき、武蔵の姿はすでになかった。三年後、京は祗園の色里で吉岡清十郎がお甲の娘朱実にうつつを抜かしていた。武蔵の幼馴染の本位田又八は、お甲の名ばかりの亭主だ。清十郎が伊勢に旅立った日、吉岡道場に現れた武蔵は門人数名を敗った。清水坂で武蔵に果し合をいどんだのは本位田家のお杉婆と権叔父だが、武蔵は相手にせず逃げ去った。木賃宿で逢った城太郎少年が青木丹左衛門の一子と知り、武蔵は弟子にすると約した。醍醐道で追いついた城太郎は、武蔵に又八からの書状を渡した。吉岡道場千人の門下が意趣をふくみ、武蔵を捜しているという。武蔵は明春一月、道場を訪ねると清十郎に返事を書いた。その手紙を城太郎が大和街道で落したとき、市女笠の旅の女−−お通が教えてくれた。一方、奈良奥蔵院裏の畑で、武蔵は鍬を手にした老僧日観師のただならぬ気魄に舌を巻いた。訪ねる宝蔵院の胤舜は不在。どの修業者も高弟阿巌の敵ではなかった。が、武蔵の鋭い木刀に阿巌は血を吐いて息絶えた。その武蔵に「強さをためねばならぬ」と戒しめたのは日観で、武蔵は「敗れた!」と呟いた。その頃、奈良には素性の知れぬ牢人衆が多く流れ込み、町を荒らし回っていた。そして、武蔵に恨みを抱く牢人たちは宝蔵院の荒法師たちを煽動して、武蔵を囲んだ。武蔵は奮然と斬りまくった。加勢するはずの法師たちは、逃げる牢人衆を片端から突き伏せた。奈良の町を大掃除しようと、日観師が胤舜に策を授けたのであった。南無妙法蓮華経の題目を記した供養の小石を武蔵は空に投げた。「殺しておいて何の供養ぞ!」




6-35. 宮本武蔵 二刀流開眼(1963)

監督 内田吐夢
出演 萬屋錦之介入江若葉木村功浪花千栄子阿部九洲男
1963年 (東映)

解説
吉川英治原作を前作「宮本武蔵 般若坂の決斗」に引続き内田吐夢と鈴木尚之が脚色、内由吐夢が監督したもの。撮影は「この首一万石」の吉田貞次。

ストーリー
般若野で不逞の浪人の群を倒した武蔵は城太郎をつれて柳生石舟斎宗厳の城に向い、この剣聖と剣を交えようとしたが果せない。吉岡清十郎の弟伝七郎もまた石舟斎に会おうとするが、お通を通して拒絶されてしまう。一方、武蔵は柳生四高弟と剣談を交えるところまでこぎつけたが、城太郎が紀州公より賜った柳生家の愛犬を打ち殺したことから、高弟たちと対立した。そのとき、お通の笛の音が流れ、ハッとした武蔵の袖口が相手の真剣に大きく裂けた。瞬間、武蔵は小刀を抜き放って両刀の構えとなっていた。翌日、右舟斎の庵の前に立った武蔵は庵内にお通の姿を認め、お通も武蔵に気付いた。が、次の瞬間、武蔵は逃れるように姿を消した。そのころ、吉岡の門弟祇園藤次は旅先で燕返しの秘剣を身につけた佐々木小次郎を知り、更にふとしたことから清十郎も彼の太刀さばきを見て、小次郎は吉岡道場の客となった。さて、伏見城の改修工事に従事していた本位田又八は、小次郎あての免許皆伝の状を偶然手に入れ、小次郎の名を騙って京に出たが、そこで、清十郎に体を奪われた上、母お甲は藤次と逐電、とう悲運に見舞われた朱実に逢い、それがもとで小次郎に化けの皮をはがされる。一方、清十郎ばついに宿敵武蔵との対決を決意した。「洛北の蓮台寺野で、九日の卯の下刻」五条大橋でこの高札を朱実も、お通も見ていた。そして武蔵も−−。が、武蔵の眼は遠く枯柳に寄りかかっている小次郎にそそがれていた。二人は宿命的ななにかを感じたようであった。小次郎に止められたが、清十郎はひくにひけない。その日は来た。吉岡の門弟約四十人のとりかこむ中で、武蔵の一撃は清十郎の肩をくだいた。




6-36. 宮本武蔵 一乗寺の決斗

監督 内田吐夢
出演 萬屋錦之介入江若葉木村功浪花千栄子竹内満
1964年 (東映)

解説
吉川英治の同名小説を「宮本武蔵 二刀流開眼」の鈴木尚之、内田吐夢が共同で脚色、内田吐夢が監督した文芸もの。撮影もコンビの吉田貞次。

ストーリー
洛北蓮台寺野で、名門京八流の宗家吉岡の御曹子清十郎の左肩を一撃のもとに打ち砕いた武蔵は、清十郎の弟伝七郎から仇敵とされ、吉岡道場門弟一同から居所を探られる破目となった。武蔵を探しているのは彼等ばかりではない。佐々木小次郎に追われる朱実、お杉婆ア、病床にふけるお通と、城太郎少年も武蔵の行方を追っていた。或る日、光悦にさそわれ遊廓扇屋に上る途中、伝七郎から果し状をつきつけられた。場所は蓮華王院三十三間堂、雪の中武蔵は伝七郎と相対した。青眼と青眼、二本の刀がひらめいた瞬間、武蔵は伝七郎と吉岡の門弟を薙ぎ倒していた。秘かに扇屋に戻った武蔵を吉野太夫はやさしくさとすのだった。翌朝、お通の居場所を知った武蔵は総門附近で吉岡一味にかこまれた。が突如佐々木小次郎が現われ、武蔵との決闘を決めた。明後日の朝、寅の下刻、場所は叡山道、一乗寺の麓薮之卿下り松、そして名目人は壬生源左衛門の一子源次郎を立てることに一決した。高札を見た群衆がひしめき、お杉婆アは息子又八の弔合戦といきみ合った。やがて当日、武蔵が叡山道にかかった時、病身のお通に会った。武蔵が斬り死にすれば自分も生きてはいないつもりというお通の言葉に、剣に生涯をかけた武芸者武蔵の心に、お通に対する恋慕がよぎった。一足先きに着いた武蔵は、松を中心に地形の頂点に立った。やがて吉岩方の姿が現われた。「七十三対一」瞬間、武蔵は相手方の配置を読み、地形を利用した自分の行動をきめた。「しかし勝負は何できめる、敵はおれ一人が目的、その俺の目標は、そうだ本陣だッ、総大将だッ」武蔵の見取図は源次郎少年を中心にひかれた−−白鉢巻の間の手裏剣、大小の二刀流の体ごと、下り松に向い疾風逆落しと見事、剣は風を切った。




6-37. 宮本武蔵 巌流島の決斗

監督 内田吐夢
出演 萬屋錦之介入江若葉木村功浪花千栄子丘さとみ
1965年 (東映)

解説
吉川英治原作から第一作の「宮本武蔵(1961)」以来コンビの鈴木尚之、内田吐夢が共同で脚色、内田吐夢が監督した「宮本武蔵」シリーズの完結篇。撮影も「宮本武蔵 二刀流開眼」の吉田貞次

ストーリー
一乗寺下り松に吉岡一門を葬った武蔵は、宿敵・佐々木小次郎との再会を約して、再び修業の旅に出た。その冬、武蔵は生活力のたくましい童子・伊織を知りその厳しい生活態度にうたれて、伊織と共に鍬を持ち荒地に挑んだ。やがて、武蔵の苦労がみのり二俵の米を得た秋、野盗が村を襲った。武蔵の怒りの剣はうなり、野盗は撃退された。農作期も終り伊織を連れて江戸へ出た武蔵は、計らずも立ち寄った研師厨子野耕介の家で小次郎の愛刀・物干竿を見た。小次郎は、細川藩家老岩間角兵衛に見出され、細川家の指南役にかかえられていたのだ。一方宿に旅装を解いた武蔵は、彼の腕前にホレこんだ博喰・熊五郎の世話でのどかな日を送っていたが、ある日小次郎から、居所をつきとめたお杉が町奴・半瓦弥次兵衛らを連れて乗りこんできた。が、この騒ぎも、折しも武蔵を迎えにきた将軍家指南役北条安房守の駕篭で難を逃れ、安房守の屋敷に入った。武蔵はそこで柳生但馬守と沢庵に会った。沢庵は柳生の庄で石舟斎の看病をするお通を呼び、将軍家指南として身をたてることを勧めた。だが、閣老会議は武蔵が年端もゆかぬ吉岡源三郎を斬ったことを理由に、これを却下した。数日後、武蔵は小次郎からの果し状を受け取った。決闘の場は豊前小倉。武蔵は伊織と佐渡宛の別れの書状を沢庵に渡すと京を後にした。一方、お通も沢庵から武蔵の消息を聞き、武蔵の後を追って小倉に向った。そして途中、又八、朱実、さらにお杉にも再会した。今ではお杉も、お通への誤解を解き自らの非を詑びるようになっていた。その頃武蔵は巌流島で小次郎と相対していた。小次郎の物干竿が一せんした。が、それよりも一瞬速く、武蔵の剣は小次郎を倒していた。うつ伏した小次郎を見下す武蔵の姿は凄まじいばかりの静けさをたたえていた。




6-38. 男はつらいよ 純情篇

監督 山田洋次
出演 渥美清倍賞千恵子若尾文子森川信三崎千恵子
1971年 (松竹)

解説
一昨年九月の第一作「男はつらいよ」から第六作目。渥美清、倍賞千恵子をはじめとするレギュラー・メンバーに、今回は寅さんに慕われる六人目の女性に若尾文子、その他森繁久彌、宮本信子らが出演する。原作・脚本・監督は「家族」の山田洋次。同じく「家族」の宮崎晃も脚本に参加し、撮影も同作の高羽哲夫がそれぞれ担当。

ストーリー
木枯しの吹く初冬の長崎港。相も変らずテキヤ渡世に身をやつしている車寅次郎は、五島列島の福江島に出かけていった。そこには長崎港で知り合った赤ん坊連れの出戻り女絹代の家があった。そこで絹代と父親千造の愛情あるやりとりを聞いているうちに、たまらなく故郷柴又が恋しくなって、一目散に柴又へ向った。その頃柴又の「とら屋」ではおいちゃん、おばちゃん、さくら、博たちが集まって寅さんの噂ばなしに花を咲かせていた。というのは数日前、「とら屋」におばちゃんの遠い親せきで和服の似合う美しい女性夕子が、事情あって寅さんの部屋に寝泊りしながら店を手伝っていたからだ。「寅がいたらまた熱を上げてしまう」というみんなの心配をよそに、寅さんがひょっこり帰って来た。寅さんは自分の部屋が誰かに貸してあるのを知るとカンカンに怒って外へ出ようとするが、現われた夕子を一目見るなり、たちまちのぼせ上り、旅に出るのはやめてしまった。「とら屋」に腰を落着けた寅さんのところにある日のこと、さくらの夫博が独立問題を相談に来た。それは、いい印刷工場の出ものがあるから、将来のために独立したいが、永年世話になって来た社長梅太郎にいいだしにくいから寅さんからうまく話してくれということだった。事情を聞いて寅さんは、「お前に向いている」とこの話に大賛成、翌日梅太郎のところに出かけた。そんな寅さんは梅太郎に、「博が会社をやめないように話して下さい」と泣きつかれ、義理と人情の板ばさみになった寅さんは、きのうの博との約束はどこへやら、胸をたたきこれまた二ツ返事で引受けたから話はこんがらがって来た。一方、博と梅太郎は話がまとまったと思い込み、その夜、寅さんを呼んで料亭でドンチャン騒ぎとなったが、酔うほどに博と梅太郎の話は喰い違い、結局、寅さんは二人に何も話していないことがバレてしまった。大もめの最中、博があてにしていた資金の調達ができないことが判明して、一応この話は一段落した。やがてみんなの心配通り、寅さんが、夕子に一層熱を上げ始めた。しかし、数日後、別居していた夕子の夫が「とら屋」を訪ねて来たことで寅さんの恋にも終止符が打たれた。夕子は売れない小説家の夫と逃げるように柴又を去り、寅さんもさくらに見送られて旅へ出た。明けて一九七一年。とある地方で、晴れ姿の娘たちを相手に、立て板に水を流すような名調子で売をしている寅さんの姿があった。




6-39. アフタースクール

監督 内田けんじ
出演 大泉洋佐々木蔵之介堺雅人田畑智子常盤貴子
2007年 (クロックワークス)

解説
デビュー作「運命じゃない人」で注目された内田けんじ監督の最新作。大泉洋ら個性派俳優の共演により、怪事件に直面した元同級生3人組の微妙な関係を、緻密な構成で描く。

ストーリー
母校で働く中学教師・神野(大泉洋)は、夏休み中も部活動のために出勤していた。そんな彼のもとに、同級生だったという探偵(佐々木蔵之介)が訪ねてくる。探偵は島崎と名乗るが、神野はほとんど覚えていない。探偵は、やはり同級生の木村(堺雅人)を捜していた。神野と木村は中学時代からの親友で、今朝も産気づいた木村の妻(常盤貴子)を、仕事で忙しく昨夜から全くつかまらない木村の代わりに病院へ連れて行ったばかりであった。神野がそう探偵に告げると、今朝撮ったという1枚の写真を渡される。そこには若い女(田畑智子)と親しげにしている木村が写っていた。ショックを受けている神野に、探偵は木村捜しを手伝ってほしいと頼む。まず、神野は顔が知られている探偵の代わりに、木村の件を探偵に依頼してきた男を尾行する。その男は、木村が勤める梶山商事の上層部の人間で、その背後には社長(北見敏之)の存在があることが明らかになる。また彼らは探偵もよく知るヤクザの片岡(伊武雅刀)と繋がっていた。一流企業で働き、人のいい木村を信じる神野であったが、探偵は鼻で笑う。さらに捜索を続けていると、片岡が自身の経営する高級クラブで働いていた女・あゆみの行方を捜しているという情報が入り、そのクラブは梶山商事の人間が頻繁に利用していたことがわかる。そしてそのクラブに勤めていたという女を訪ねたところ、あゆみが消えた日に木村が店に来ていたとの情報を得る。探偵は、ヤクザの女に手を出した木村が、女房子どもを捨てて、女と一緒に逃げたのだと言う。しかしそれでも神野は、彼はそんな奴ではないと探偵の考えを一蹴する。探偵は神野に、本当に友達の全てを知っているのかと問うが、木村の隠された側面を知ってしまった神野は、何も言い返すことができず、自宅に戻ることに。しかし、事件はここから、想像だにつかぬ展開が待ち受けていた……。




6-40. クライマーズ・ハイ

監督 原田眞人
出演 堤真一堺雅人小澤征悦田口トモロヲ堀部圭亮
2008年 (東映=ギャガ・コミュニケーションズ)

解説
半落ち」の人気作家、横山秀夫の小説を堤真一ら実力派俳優共演で映画化。1985年の日航機墜落事故取材に奔走する新聞記者たちの姿を、パワフルな演出で追う社会派ドラマ。

ストーリー
1985年8月12日、群馬県御巣鷹山で死者520人という世界最大の航空機事故が起こった。地元の地方紙「北関東新聞」の遊軍記者である悠木(堤真一)は、社長の白河(山崎努)から事故の全権デスクを任される。そんな悠木の母は白河のかつての愛人であり、その縁故で入社したという関係に二人はあった。編集局の戦争が始まった。県警キャップの佐山(堺雅人)らは現地へと飛ぶ。しかし、白河がすべての権限を握る社内には複雑な人間関係が渦巻き、編集局と販売局の対立もあって、佐山の現場レポートは握りつぶされてしまった。熱くなった悠木は、この状況が登山における「クライマーズ・ハイ」に近いとを感じる。興奮状態が極限まで達した時こそが、最もミスを犯しやすいのだ。そして、それを悠木に諭してくれた登山仲間であり親友の安西(高嶋政宏)がクモ膜下出血で倒れた。一方、編集局部長である等々力(遠藤憲一)と悠木の対立も、日に日に深まっていく。「北関東新聞」の社員には、誰もが地方新聞社ならではのコンプレックスがあり、かつてはチームを組んでいた等々力と悠木の人間関係も捩じれてしまったのだ。女性記者の玉置(尾野真千子)は、墜落の原因に関するスクープのネタを得る。そんな玉置に佐山をつけて、確実なウラを取るよう悠木は命じた。しかし、完璧なウラは取れなかった。チェック、ダブルチェック。自身がクライマーズ・ハイに陥っていることを自覚している悠木は、その掲載を見送る。翌日、別の新聞がその特ダネを抜いた。退社を決意した悠木は、白河の罵声を浴びながら社を去る。それから、22年。安西の息子である燐太郎(小澤征悦)とクライミングに挑んだ悠木は、そこで離別した息子の話を聞く。若き日の悠木は、家族を犠牲にしてまで記者の仕事にのめり込んでいたのだ。悠木は、息子が暮らすニュージーランドを訪れる。そこには、成長した息子の姿があった。




6-41. おにいちゃんのハナビ

監督 国本雅広
出演 高良健吾谷村美月宮崎美子大杉漣早織
2010年 (ゴー・シネマ)

解説
400年の伝統を誇る、花火で有名な新潟のとある町を舞台にした実話がベースの感動ストーリー。孤独な高校生活から引きこもりになってしまった兄と、そんな兄に優しく明るかった頃の姿を取り戻してほしいと願う妹との絆をつづる。若手演技派の高良健吾と谷村美月が兄妹に扮し、せつない物語を盛り上げる。

ストーリー
白血病を患った華(谷村美月)の療養のため、5年前、須藤一家は東京から新潟県小千谷市片貝町に引っ越してきた。9月9日。毎年、世界一の花火が打ち上げられる“片貝まつり”の日、半年間の入院生活を終えた高校生の華は、19歳の兄・太郎(高良健吾)が自室に引きこもっていることを知る。その夜、来年の自分たちの花火を盛り上げようと気勢をあげる成人会に遭遇した華は、太郎を成人会に参加させようと決意する。乱暴なまでの勢いで家から連れ出した太郎を成人会の集会所に連れていく華だったが、地元育ちでない太郎は入会を断られてしまう。しかし、妹の健気な後押しに勇気付けられた太郎は、新聞配達のアルバイトを始め、新しい生活をスタートさせるのだった。冬も近づいたある日、華の白血病が再発、再び入院生活が始まるが、容態は前回よりも確実に悪化していた。華は、片貝に引っ越してきた5年前、家族4人で見た花火への思いを太郎に告げる。太郎はそんな華の思いを知り、苦労しながらもなんとか成人会への参加を認めてもらう。だが、華の容態はさらに悪化、太郎と母・登茂子(宮崎美子)、父・那昌(大杉漣)は病院に駆けつけるが、家族の思いは届かず、華は帰らぬ人となってしまう……。華の死後、太郎は成人会を辞め、華のために一人で花火をあげるべくアルバイトを増やし、煙火工場の工場長に頼み込んで花火作りを始める。そして9月9日。様々な思いの込められた花火がメッセージの読み上げと共に打ち上がり、メインイベントである成人会の花火で祭りは最高潮に達する。太郎の花火が打ち上がり、赤一色に空が染まった。ひとつふたつと散り逝く花火。最後の火の粉が消えるまで、両親と寄り添いながら太郎はただただ空を見上げているのだった。




6-42. KT

監督 阪本順治
出演 佐藤浩市キム・ガプスチェ・イルファ原田芳雄筒井道隆
2002年 (シネカノン)

解説
1973年に起きた現韓国大統領・金大中の拉致・監禁事件を、多角度から捉えた社会派群像劇。事件に関わった人々の人間模様を、「顔」の阪本順治監督が重厚にあぶりだす。

ストーリー
73年6月、朴軍事政権下の韓国から亡命し、日本で故国民主化の為に精力的な活動をしていた金大中を拉致暗殺せよとの至上命令を受けた駐日韓国大使館一等書記官・金車雲らは、いよいよそれを実行に移そうとしていた。名付けてKT作戦。その作戦に、朴大統領と陸軍士官学校時代から繋がりを持つ自衛隊陸上幕僚二部部長・塚田によって、民間興信所を開設しKCIA(韓国中央情報部)にサポートするよう命じられた陸幕二部所属の富田は、様々な手を使って金大中の行方を追うが、その度に、大使館内部の密通者に偽の情報を掴まされてしまう。そんな中、彼は金大中の取材に成功していた夕刊トーキョーの記者・神川に接近し、遂に金大中が8月9日に自民党で講演を行うとの情報を入手。報を受けた金車雲は、それを機に作戦を実行しようとする。ところが、またしてもその計画が漏洩し、神川を通して週刊誌にスクープされてしまった。この事態に、KCIAは金大中が講演の前日に日本滞在中の民主統一党党首・梁宇東を訪ねる機会を狙って、強行手段に打って出ることに。そしてそこには、自衛隊関与の疑惑を恐れた上官から一切手を引くように言い渡されながら、想いを寄せる韓国人女性・李政美の手術費用を協力費として金車雲から受け取った富田の姿があった。予想外の展開があったものの、金大中拉致に成功する金車雲たち。彼らは、用意してあった船で故国へと走り出すが、アメリカの要請を受けた自衛隊によって計画は阻止されてしまうのだった。その後、上官から退官を命じられた富田は、金車雲を心配して全てを神川に告白。李政美と田舎で暮らすそうとするが、一発の銃弾によって命を奪われる。




6-43. 必死剣鳥刺し

監督 平山秀幸
出演 豊川悦司池脇千鶴吉川晃司戸田菜穂村上淳
2010年 (東映)

解説
藤沢周平による“隠し剣”シリーズの中でも評判の高い同名作を豊川悦司主演で映画化した人間ドラマ。自らの正義を貫こうとする武士が政治的策謀に翻ろうされていく姿を描く。

ストーリー
江戸時代。東北の海坂藩で近習頭取を努める兼見三左エ門(豊川悦司)には、決して消えることのない暗い過去があった。三年前、藩主である右京太夫(村上淳)の愛妾、連子(関めぐみ)を刺殺したのだ。当時、政治に興味を持つ連子が右京を通じて藩政に口出ししていることは周知の事実。冷酷で恣意的なその進言は悪政の元凶となっていたが、独善的な右京の存在もあり、逆らえる者はいなかった。連子の言葉ひとつで人命さえも奪われてゆく毎日。城下の空気は重苦しさを増していた。三左エ門が連子を刺殺したのはそんな時だった。最愛の妻、睦江(戸田菜穂)を病気で亡くした三左エ門にとって、それは死に場所を求めての行動だったが、下されたのは意外にも寛大な処分。一年の閉門後、再び藩主の傍に仕えることに。釈然としない想いを抱きつつも、亡き妻の姪である里尾(池脇千鶴)の献身によって、再び生きる力を取り戻してゆく。だが彼は、連子亡き後も変わらぬ窮状を目の当たりにして、日々、自問自答を続けていた。自分の行為の意味、そしてそれが藩の役に立ったのか…?そんなある日、三左エ門は中老の津田民部(岸部一徳)から、右京暗殺計画の情報を入手したと聞かされる。民部こそ、連子刺殺事件で三左エ門の斬首刑を止まらせた人物。今またこの重大事を明かしたのは、“鳥刺し”という技を持つ天心独名流の剣豪、三左エ門に対して、計画を阻止することで藩への貢献の機会を与えるためだった。そして、討つべき相手は直心流の達人、帯屋隼人正(吉川晃司)。右京太夫の従弟であり、臆することなく苦言を呈する唯一の存在だったが、今では決定的な対立が生じていた。“負の過去”と向き合う時が来たことを悟った三左エ門は、藩命に従うことを決意。自分の進む道を見極めた彼は、里尾の愛をも真正面から受け止める。やがて訪れる隼人正との決着の日。三左エ門を過酷な運命が待ち受けていた……。




6-44. 東京公園

監督 青山真治
出演 三浦春馬榮倉奈々小西真奈美井川遥高橋洋
2011年 (ショウゲート)

解説
小路幸也の青春小説「東京公園」を、「サッドヴァケイション」以来4年ぶりの長編監督作となる青山真治が映画化。ある出来事をきっかけにして、徐々に成長していく主人公を三浦春馬が見事に体現。彼の幼なじみを榮倉奈々、血の繋がっていない姉を小西真奈美、写真を撮られる謎の女性を井川遥が演じ、切なくて優しいドラマを見せる。

ストーリー
東京の公園を訪れては家族写真を撮り続けている大学生の光司(三浦春馬)は、幼い頃に亡くした母親の影響でカメラマンを目指していた。ある日、一人の男性から「いつも娘を連れてあちこちの公園を散歩している彼女を尾行して、写真を撮って欲しい」という突然の依頼が舞い込む。依頼主である歯科医の初島(高橋洋)の態度に光司は迷いを感じながらも、なかば強制されるように依頼を受ける。光司の家には、親友で同居人のヒロ(染谷将太)がおり、彼にだけはこの依頼内容の話をしようとするが、どこか気がとがめて全てを話す気にはなれない。ヒロは、光司の幼なじみの富永(榮倉奈々)の元カレだった。富永は元気な笑顔が魅力の溌溂とした性格で、ヒロと別れてからも光司のバイト先、ゲイのマスター(宇梶剛士)が営むカフェバーを訪れ、食べ物やDVDを持参しては家に出入りしている。マスターはゲイを承知でプロポーズしてきた女性と結婚をしたが、その妻を病気で亡くしていた。カフェバーには光司の義理の姉・美咲(小西真奈美)も足しげく通ってくる。富永は、親の再婚で兄弟になった光司と美咲を楽しそうに眺めながら、今日も酒を片手に大好きなゾンビ映画のことを語るのだった。「潮風公園、よろしく」という初島からのメールが届き、光司は重い腰をあげて公園へと出かける。そこには、百合香(井川遥)がいた。彼女が娘と一緒に東京の様々な公園を散歩する写真を撮るうち、光司は次第に記憶の中の大切な人の面影と百合香を重ね合わせるようになっていく。そんな中、母が倒れたという報せを受け、光司と美咲は両親が住む大島へと向かう。その夜、美咲と光司は二人きりで話をする。百合香のことを語り始めた光司だったが、逆に美咲に富永のことを問われ、光司は戸惑う。やがて、富永の心の中にある深い悲しみ、美咲が心の中にしまってきた切実な愛情、言葉を交わしたこともない百合香の眼差しに触れながら、光司の心は次第に変わり始めていく……。




6-45. いけちゃんとぼく

監督 大岡俊彦
出演 深澤嵐ともさかりえ萩原聖人モト冬樹蓮佛美沙子
2009年 (角川映画)

解説
人気女性漫画家・西原理恵子が初めて手がけた同名絵本を実写映画化した感動作。ある少年と彼の前にだけ現れる不思議な生物“いけちゃん”との交流を温かな眼差しでつづる。

ストーリー
いけちゃん(声:蒼井優)は、9歳のヨシオ(深澤嵐)にしか見えない不思議な生き物だ。いつの頃からかそばにいて、憧れの美人女子高生みさこ(蓮沸美沙子)と話してドキドキしたり、牛乳屋にいたずらをしたりというヨシオの日常を見守っていた。そんなある日、ヤス(村中龍人)とたけし(上村響)にいじめられたヨシオは、学校をサボっていけちゃんと一緒に山登りをする。家に帰るとヨシオの父・茂幸(萩原聖人)がヨシオを叱るが、その翌日、茂幸は事故に遭いこの世を去ってしまう。事態を理解できないヨシオにいけちゃんがそっと寄り添い、いけちゃんの言葉にヨシオは早く大人になろうと決心する。その日から毎日ごはんを三杯食べ、牛乳屋の清じい(モト冬樹)に空手を教えてもらうヨシオ。その頃、ヨシオの母・美津子(ともさかりえ)は、昼も夜も働きに出るようになっていた。一人のお風呂や、寝る前の電気が消えた部屋を怖がるヨシオに、いけちゃんはいつも寄り添い、ヨシオが女の子と遊んでいるのを見つけると、真っ赤になって怒りだす。この時、ヨシオは初めていけちゃんが女だと気付くのだった。ある日、ヨシオは一人で隣の隣のその隣町まで冒険に出る。父が死ぬ直前に会っていた愛人がいるらしいのだ。だが、そこで評判の悪ガキたちにつけ入れられ、その後、彼らはヨシオの町の野原にまで襲撃しにやってきた。ヤスやたけしも交えてケンカになりそうなところで突然、ヨシオは野球で勝負しようと提案する。みんなの野原を守るため、機転をきかせたヨシオは逞しく賢く成長を遂げていた。と同時に、ヨシオにいけちゃんが見えなくなることが多くなっていく。そしてヨシオの少年時代が終わろうとする頃、いけちゃんはヨシオにあることを打ち明ける。「もうこんな形で会えないかもしれないから、私がほんとは誰なのか言いたい」。それはあまりにも切なく、思いもよらない告白だった……。




6-46. 容疑者Xの献身

監督 西谷弘
出演 福山雅治柴咲コウ北村一輝ダンカン長塚圭史
2008年 (東宝)

解説
天才物理学者と女性刑事のコンビが難事件を解決する、人気テレビドラマ「ガリレオ」の劇場版。福山雅治演じる“ガリレオ”こと湯川教授が、天才数学者の仕掛けた謎に挑む!

ストーリー
花岡靖子(松雪泰子)とその娘の美里が暮らすアパートに、元夫の富樫慎二が現れた。引っ越しを繰り返しても居場所を突き止めては金の無心に来る富樫は、花岡親子にとって疫病神だった。大喧嘩の末、二人は富樫を殺害してしまう。その気配を察した隣の部屋の住人の石神(堤真一)は、花岡親子を救うためのトリックを考案する。天才的数学者でありながら家庭の事情で高校教師を務め、人生に絶望していた石神にとって明るい花岡親子の存在は唯一の心の支えだったのだ。内海薫刑事(柴咲コウ)の管轄内で富樫の死体が発見された。殺人事件として調査が開始され、別れた妻である靖子が浮かびあがった。しかし、死亡推定時間に靖子は美里と街の劇場で映画を鑑賞していたアリバイがあった。その半券までもが保管されていたことに、内海はかえって疑念にとらわれる。内海とコンビを組む草薙(北村一輝)は、帝都大学理工学部で准教授を務めるガリレオこと湯川学(福山雅治)に捜査協力を求める。容疑者である靖子の隣人が石神と知って、湯川は驚いた。二人は、同じ帝都大学の同級生だったのだ。17年ぶりに石神と再会する湯川。そして、石神が過ごしてきた孤独な半生を知る。明らかに事件の犯人は靖子であり、石神が幇助していた。それに気がつきながらも、湯川は石神への友情を再確認する。靖子への容疑が高まる中、「自分が犯人だ」と主張する石神が自首してきた。それは、靖子を庇うための石神の献身だった。石神を本物の天才と評価する湯川は、強引に取調室へと面会に訪れて真意を訊ねる。しかし、石神の決意は固かった。石神が移送されようとする時、現れたのは靖子だった。石神だけが罰されようとすることに耐えきれなかった彼女は、そこですべてを告白する。富樫の死体だと思われていたのは、浮浪者のものであり、富樫の殺害された日は実は靖子母娘が映画を見に行ったというアリバイのある前日のことであった。事件は解決する。しかし、湯川の胸に残るのは虚しさだけだった。




6-47. 居酒屋兆治

監督 降旗康男
出演 高倉健加藤登紀子大原麗子田中邦衛伊丹十三
1983年 (東宝)

解説
函館の街を舞台に小さな居酒屋を営む男と初恋の女とのすれちがう想い、その店に集まる人々の人生模様を描く。山口瞳原作の同名小説の映画化で脚本は「未完の対局」の大野靖子、監督は「駅/STATION」の降旗康男、撮影は、「小説吉田学校」の木村大作がそれぞれ担当。

ストーリー
兆治こと藤野伝吉(高倉健)は函館の街はずれで、女房の茂子(加藤登紀子)と「兆治」という名の居酒屋を営んでいた。兆治は勤めていた造船所でオイルショックの時、出世と引き換えに同僚社員の首切り役を命じられたことに反発して会社を辞めていた。寡黙で実直ながら気持ちが曲げられず無器用な兆治であったが、店は繁盛しており、兆治の同級生でバッテリーを組んだ無二の親友岩下(田中邦衛)をはじめ、元の会社の同僚有田やその部下の越智、近所の一年先輩で酒癖の悪いタクシー会社経営者河原(伊丹十三)たちが毎晩のように足を運んで賑わっていた。「兆治」の向いの小料理屋「若草」も陽気な峰子(ちあきなおみ)がカラオケで客を集めていた。兆治は肩を壊して野球をあきらめた頃、地元青年会で知り合った年下の恋人さよ(大原麗子)との苦い思い出があった。器量良しのさよに持ち上がった、旧家の牧場主神谷久太郎(左とん平)との縁談に、若く貧しかった兆治はさよの幸せを願って黙って身を引いたのであった。しかしさよは、今でも兆治を想いつづけ、思い余って若い男と駆け落ちをしたこともある。そんなある夜、さよの不注意から神谷牧場が火事に見舞われ、さよは街から姿を消していった。そんな事件も落ち着いた頃、仕込みにかかる兆治の背後にさよが現われ、「あんたが悪いのよ」と言い残して去った。さよの消息もはっきりしないまま、何処か時代に取り残される場末の小さな居酒屋「兆治」とそこに集う市井の人々の哀感こもるエピソードが繰り返されていく……。そんな中、常連客の秋本の妻が死んで、その顛末などで悪口を言う河原に我慢できずに殴った兆治は警察に留置される。なぜか調べはさよとの関係に集中している。警察は兆治とさよの関係から放火事件を疑っていたのだ。釈放されひさびさに店に戻った兆治を茂子と岩下が笑顔で迎えた。店の再開を聞きつけてやって来た峰子からさよをすすき野で見た人が居るとの話を聞く。昔のさよの写真を引き伸ばし、すすき野の繁華街を訪ね回る兆治は造船所時代の後輩で店の客の越智と偶然にあう。越智は兆治にサリーというホステスを知ってるかと聞く。越智はサリーに結婚を申し込んだという。サリーこそ失踪してすすき野のキャバレーホステスに身を落としたさよだった。兆治はさよの部屋を訪ねる。そこには酒で身体を病み、過去も未来も捨てただ死を待つかのようなさよが居た。




6-48. 平成狸合戦ぽんぽこ

監督 高畑勲
出演 古今亭志ん朝野々村真石田ゆり子泉谷しげる山下容莉枝
1994年 (東宝)

解説
先祖伝来の″化け学″を駆使して、宅地開発に取り組む人間に対抗する狸たちの姿を描いた長編アニメ。監督・原作・脚本は「おもひでぽろぽろ」の高畑勲、企画として「紅の豚」の宮崎駿と、3年ぶりのコンビを組んでいる。94年度キネマ旬報日本映画ベストテン第8位、同読者選出日本映画ベストテン第5位。

ストーリー
東京・多摩丘陵。のんびりひそかに暮らしていたタヌキたちは、ある時、エサ場をめぐって縄張り争いを起こす。原因は人間による宅地造成のため、エサ場が減ってしまったから。このままでは住む土地さえ失くなってしまうと、タヌキたちは開発阻止を目論み、科学の発達した人間たちに対抗するため先祖伝来の″化け学″を復興させることとなった。化け学の特訓が始まる一方、四国や佐渡に住むという伝説の長老たちへも援軍を頼む使者が向けられた。かくして人間たちが露とも知らぬ所でタヌキたちは勝手に蜂起したのだが、根はいじらしいけど、そこはまぬけなタヌキたち。思わぬところで計画は紆余曲折。一生懸命頑張るわりには何の効果も挙げられなかった。遂にやってきた四国の長老たちを中心に妖怪パレード作戦を展開するが、それも失敗。絶望のどん底に陥るタヌキたちは最後の気晴らしと宅地全体を緑多き昔の姿に変身させようとする。そんなタヌキたちの存在に気づき、人間たちは自然の景観を出来るだけ活かすことに。開発阻止は出来なかったが、人間に変化したタヌキたち、なお残った自然の中で暮らすタヌキたち、それぞれにたくましく生き続けるのだった。