19-1. 愛の渇き (Longing for Love)
監督 蔵原惟繕
出演 中村伸郎,
浅丘ルリ子,
山内明,
楠侑子,
小園蓉子
1967年 (日活) 98分
解説
三島由紀夫の同名小説を藤田繁夫と 「夜明けのうた」 の蔵原惟繕が共同で脚色、蔵原惟繕が監督した女性ドラマ。撮影もコンビの間宮義雄。
ストーリー
松本悦子は夫良輔の死後も杉本家に住み、いつか義父の弥吉とも関係をもっていた。杉本家は阪神間の大きな土地に農場をもち、広い邸宅の中には、元実業家の弥吉、長男で大学でギリシャ語を教える謙輔夫妻、園丁の三郎、女中の美代、そして悦子が、家庭のぬるま湯の中で、精神の飢えを内にひめながら暮していた。その中でも悦子は弥吉との関係を断ちがたく、その心は愛に渇ききってしまっていた、その悦子がある日ふと心を動かしたのは園丁の三郎であった。若くひきしまった身体粗野なたくましさは、悦子のいる世界とは異質であるが、何か彼女の渇いた心を満たす湧水のようであった。買物のついでに三郎に靴下を買いあたえた悦子は、三郎に深く魅かれていった。また三郎もそんな妖艶さをひめた悦子に心まどわされるのであった。だが悦子は女の直感で女中の美代が三郎と恋仲であることを見破った。美代は三郎の子供をみごもっていた。表面静かに見える杉本家にとってこれは重大事であった。とりわけ悦子には、美代が三郎の子供を妊ごもったことに、深い嫉妬を覚えていた。胎児を始末させた悦子を恨みながら美代は郷里へ帰った。美代から愛を奪った悦子。だが三郎も家族も何もなかったように働いている。その頃、弥吉は農園を売り悦子を東京に連れてゆく計画をたてていた。その東京行がせまった頃、悦子は三郎に会った。その頃邸では、財産とられた謙輔夫妻を中心に、人間の空虚なうめきが狂い泣いていた。三郎と会った悦子は自分の心の渇きを訴えたが三郎の強い抱擁がただ男の暴力だと知った悦子は、三郎をつき放した。弥吉が血相を変えてかけつけた。鍬をふりあげた弥吉の手をとった悦子は自から、三郎の肩に下した。絶命した三郎の始末を済ませた悦子は、弥吉に別れを告げると自分を始末するため去っていった。
19-2. 二人の世界
監督 松尾昭典
出演 石原裕次郎,
浅丘ルリ子,
二谷英明,
深江章喜,
浜村純
1966年 (日活) 91分
解説
「黒い賭博師 悪魔の左手」 の小川英と 「男の紋章 竜虎無情」 の松尾昭典が共同でシナリオを執筆、松尾昭典が監督した歌謡もの。撮影は 「四つの恋の物語(1966)」 の岩佐一泉。
ストーリー
英国の豪華船のデッキで雑誌記者川瀬は、無表情で海をみつめる男の横顔に強くひかれた。どこかで見たことのある顔だ。男はフィリッピン人ヴァルガだと名のったが、川瀬が十五年前、新米の記者であった頃、少女殺人事件の容疑者で国外逃亡した北条修一こそ、この男にちがいない。その夜、船内のバーで戸川玲子とグラスをかたむける修一は、川瀬の目からのがれるため、玲子の昔からの友達として踊ってくれるよう頼んだ。翌日、デッキで川瀬に声をかけられた玲子は、修一の過去を聞き、彼に強い関心を抱いた。だが修一は、長崎の港が近づく頃、玲子に置手紙をすると、長崎に降りたった。時効四日前である。不審を抱いた川瀬と玲子は、修一の後を追った。まず修一は昔バンドで働いていた三宅を訪ねたが、三宅は今の幸福な家庭が破壊されるのを恐れ、殺人の目撃者朴の居所を教えて、協力を断った。一方、玲子は修一の身のうえを案じ、川瀬はスクープのチャンスと必死で修一を追った。証人の朴を見つけた修一は、事件の黒幕関根を訪ねた。関根は孤児の修一を育てた恩人であったが、麻薬密売の発覚を恐れ、運び屋の少女を殺し、修一に罪をきせたのだ。だがその頃証人の朴は何者かに消されていた。あせる修一に巴組の藤枝と名のる男が修一を玲子のもとに案内した。玲子は長崎の巴組とは兄弟分の東京戸川興業の跡とり娘であったが、家業を嫌って家を飛び出したことを修一に話した。そして修一にもうどこへも行かないでくれと訴えた。だが修一は二日にせまった時効ぎれまでになんとか真犯人をと、もう一人の証人古田を求めて去った。川瀬もそんな修一を見て協力を約したが、修一はかたくなにそれを断わった。そんな修一を関根が金を出す高梨組の男が襲ったが、危うく戸川興業の幹部小谷に助けられた。だが小谷は、玲子に思いを寄せていたが、玲子が修一に好意を抱くのを見て、心よく思っていなかった。時効まで二日。川瀬も必死であった。古田の女を若松に訪ね、古田が長崎の教会にいることを知った二人は、玲子に知らせて、古田を訪ねさせた。だが玲子は高梨組の手で暴行を加えられ、身の危険を感じた小谷が修一の居所をしゃべった。修一の命を案じた玲子は、関根を訪ね、修一の命と古田の証言を交換しようともちかけたが、関根はその取引を承諾しながら、子分を空港に配した。そのうえ、古田は関根らにつれ去られていた。高梨組の包囲をくぐって、教会に来た修一は、意外ななりゆきに愕然とした。関根を単身訪ね、射殺した修一に対して、警察は修一をヴァルガであると断定、関根殺害は正当防衛であると無罪を言い渡した。玲子と修一の二人の愛の世界は、新しく出発した。
j19-3. おさな妻
監督 臼坂礼次郎
出演 高橋惠子,
新克利,
坪内ミキ子,
佐藤久里子,
渡辺美佐子
1970年 (ダイニチ映配) 86分
解説
「ジュニア文芸」 に連載された富島健夫の人気小説を 「でんきくらげ 可愛い悪魔」 の白坂依志夫と安本莞二が共同執筆し、監督、撮影も同作の臼坂礼次郎と上原明がそれぞれ担当。
ストーリー
黛玲子は数カ月前、母を病気でなくし、みなし子になってしまった。親族会議の結果、伯母静江の家に引き取られることになった。母をなくした悲しみを、静江は優しくいたわり、今まで通り高校に通わせてくれたが、静江の息子淳一だけは、いかがわしい眼つきで玲子を見ていた。ある日、淳一が静江の留守中、学校から帰った玲子に乱暴しようとしたため、玲子はこの家を出る決心をする。行くあてもなく町をブラブラしている玲子に声をかけたのは由紀子というあまり売れない、小劇場の舞台女優だった。由紀子に事情を説明すると、こころよく、彼女のアパートにとめてくれ、翌日、安いアパートを紹介してくれた。静江の反対を押し切ってアパートでの一人暮しを始めた玲子は、再会した幼稚園時代の先生の紹介で通学のかたわら保育園で子供たちの面倒をみるアルバイトを始めた。生活のためとはいえ、学校を抱えてのアルバイトは苦しかったが、やがてそれもなれた。園児たちはすぐ玲子になつき、ことに母のないまゆみは、玲子を母のようにしたうようになった。やがてまゆみを間にはさみ、父親の吉川と玲子は食事をしたり、買い物をしたりする、楽しい時間を持つようになった。玲子は、吉川をまゆみの父親としてよりも、男性として愛情を感じ始めていた。吉川の強引な求婚に、玲子は高校生という自分の立場と吉川との年齢の開きに躊躇しながらも結婚に合意する。幸せな結婚生活が続いた。しかし、ふとしたきっかけで吉川の昔の恋人を知り、いまもなおその恋人が吉川を愛していることを知った玲子は、大人の愛憎の複雑さが理解できず自暴自棄になって結婚を後悔し、家庭を棄てようとするが、吉川の強い愛情を感じ、やがてまゆみと吉川との静かで平和な生活にもどっていった。
19-4. ちはやふる -上の句-
監督 小泉徳宏
出演 広瀬すず,
野村周平,
真剣佑,
上白石萌音,
矢本悠馬
2016年 (東宝) 111分
解説
テレビアニメにもなった末次由紀の人気コミックを広瀬すず主演で2部作として映画化した青春ドラマの前編。競技かるたを通じて絆を深めていく高校生たちの熱い思いが描かれる。ヒロインにかるたを教える新を真剣佑、幼なじみの太一を野村周平が演じるなど、若手実力派たちが多数共演。監督は 「カノジョは嘘を愛しすぎてる」 の小泉徳宏。
ストーリー
幼なじみの千早(広瀬すず)・太一(野村周平)・新(真剣佑)の3人は、いつも競技かるたで遊んでいたが、小学校卒業を境に離れ離れになってしまう。千早は一人になっても、競技かるたを教えてくれた新に「強くなったな」と言われたいという純粋な想いで、競技かるたを続けていた。千早は高校生になると、再会した太一とともに競技かるた部を作り、全国大会を目指す。全国大会に行けば新に会えるかもしれないという千早の気持ちを知りながらも、太一はかるた部の一員となる。3人と瑞沢高校かるた部の夏が始まる……。
19-5. ちはやふる -下の句-
監督 小泉徳宏
出演 広瀬すず,
野村周平,
真剣佑,
上白石萌音,
矢本悠馬
2016年 (東宝) 102分
解説
テレビアニメにもなった末次由紀の人気コミックを広瀬すず主演で2部作として映画化した青春ドラマの後編。競技かるたを通じて絆を深めていく高校生たちの熱い思いが描かれる。ヒロインにかるたを教える新を真剣佑、幼なじみの太一を野村周平が演じるなど、若手実力派たちが多数共演。監督は 「カノジョは嘘を愛しすぎてる」 の小泉徳宏。
ストーリー
千早(広瀬すず)、太一(野村周平)、新(真剣佑)は幼なじみ。いつも一緒にかるたで遊んでいたが、家の事情で新が引っ越し、離れ離れになってしまう。高校に入学した千早は、新にもう一度会いたい一心で、再会した太一と一緒に“瑞沢高校競技かるた部”を作る。創部1年目ながら、エース千早の活躍と抜群のチームワークで何とか強豪・北央学園に勝利。都大会優勝を成し遂げた。そして舞台はいよいよ全国大会へ……-。だが、都大会優勝を報告する千早に、新から思わぬ告白が。“俺、かるたはもうやらん……”。ショックを受ける千早だったが、全国大会に向け、懸命に仲間たちと練習に打ち込むのだった。そんな中、千早は同級生ながら“最強のクイーン”と呼ばれる若宮詩暢(松岡茉優)の存在を知る。全国大会の個人戦で詩暢と対決する可能性がある。新に会って“強くなったな”と言われたい、詩暢に勝てばもう一度、新とかるたを取れるかもしれない……。“クイーンに勝ちたい。”千早の気持ちは次第に詩暢に捕われ、競技かるた部の仲間たちから離れてゆく。そんな彼女の目を覚まさせようとする太一。千早、太一、新の気持ちが、少しずつバラバラになってゆく……。果たして、全国大会の行方は……?
19-6. 桜並木の満開の下に
監督 舩橋淳
出演 臼田あさ美,
三浦貴大,
高橋洋,
松本まりか,
三浦力
2012年 (東京テアトル=オフィス北野(配給協力 バンダイビジュアル)) 107/119分
解説
東日本大震災後の茨城県日立市を舞台に、新婚早々最愛の夫を事故で亡くした妻の心の動きを描いたラブストーリー。監督はドキュメンタリーやロードムービーなど幅広く手がける舩橋淳。 「BIG RIVER」 「谷中暮色」 「フタバから遠く離れて」 に続き、本作もベルリン国際映画祭にて上映された。夫を亡くし悲しみに暮れるが事故を引き起こした工員に次第に心動かされて行く妻を 「東京プレイボーイクラブ」 の臼田あさ美が、ひたむきに許しを乞う工員に 「あなたへ」 の三浦貴大が演じている。ほか、 「東京公園」 の高橋洋、 「女優霊」 の柳憂怜、 「かぞくのくに」 の諏訪太朗らが出演。日本さくら名所100選に入った日立市平和通りの桜が主人公の心模様を彩る。
ストーリー
東日本大震災後の茨城県日立市。プレス工場で働く栞(臼田あさ美)は同僚の研次(高橋洋)と結婚。幸せに満ちた生活が始まった矢先、作業中に事故が起こり研次が亡くなってしまう。突然研次を失い、栞に孤独感が襲いかかってくる。事故を引き起こした新人の工(三浦貴大)が謝罪しても、彼を憎む気持ちしか持てなかった。工場は研次の死により経営が傾いていた。工場を立て直すために懸命に働く工。そんな工の姿を見ているうちに、栞の頑なな心は少しずつやわらいでいった。いつしか二人は意識し合うようになっていく。1年後、工場はなんとか再び軌道に乗ったが、栞は工が工場を辞めることを知る。問い詰める栞に、工は思いがけない理由を告げる……。
19-7. 東京夜曲
監督 市川準
出演 長塚京三,
桃井かおり,
倍賞美津子,
上川隆也,
はやし・こば
1997年 (松竹=松竹富士) 87分
解説
東京の片隅にある商店街を舞台に、そこに暮らす人々の心模様を描いた人間ドラマ。監督は 「トキワ荘の青春」 の市川準。脚本は 「正門前行」 の佐藤信介。撮影に 「トキワ荘の青春」 の小林達比古があたっている。主演は 「瀬戸内ムーンライト・セレナーデ」 の長塚京三と 「スワロウテイル」 の桃井かおり。 「うなぎ」 の倍賞美津子、NHK 「大地の子」 などで注目を集めた映画初出演の上川隆也が共演している。97年、モントリオール国際映画祭コンペティション部門正式上映作品で、市川準が同映画祭の監督賞を受賞した。97年度キネマ旬報ベスト・テン第4位。桃井が主演女優賞、倍賞が助演女優賞を揃って受賞した。
ストーリー
東京の下町にある上宿商店街に、数年前、家族を残して家を飛び出していたきりの浜中康一が帰ってきた。妻の久子は何事もなかったように夫を迎えるが、地元住民のたまり場である“喫茶大沢”では、そんな浜中の噂話に花が咲く。どうも浜中はまっとうな仕事に就いていなかったようだ。久子を秘かに慕っている作家志望の青年・朝倉は、そんな話を聞くうち浜中に反感を感じ、浜中と久子の過去を探り始める。そして朝倉は、喫茶大沢を経営しているたみと浜中が、かつて恋仲であったことを知った。さらに、たみが彼女に熱烈な想いを寄せていた大沢と結婚してしまって、その大沢が病死したころに浜中が街を出ていったこともわかる。喫茶大沢の向かいには、浜中の父親が経営する“浜中電気”があり、帰ってからぶらぶらしていた浜中は、父親に借金があることを知って、浜中電気で働き始めた。まるで商売っ気のない店の様子を見た浜中は、家電屋をやめてゲームソフト専門店を始める。この新しい商売は繁盛し、商店街に新風を巻き起こした。やがて、浜中の店の従業員・野村と、喫茶大沢のアルバイトの中国人・ニンが結婚することになる。喫茶大沢でそのお祝いパーティーを開いた夜、野村とつきあいのあったレコード屋の娘が野村やニンの姿を見つめる様子を目にした朝倉は、ひとつの推論に思い至った。浜中とたみが恋仲にあって、大沢がたみに想いを寄せていた当時、久子は大沢のことが好きだったのではないか。朝倉はパーティーからの帰り道、募る彼女への想いに任せて久子に真実を追求するが、彼ら4人には複雑な大人の恋愛模様があることを逆に思い知らされ、彼女への気持ちを断念する。一方、客の退けた喫茶大沢では、たみが両親の住む岡山へ引っ越しすることを浜中に告げ、ふたりはどちらからともなく、引き寄せられるように肌を重ねてしまった。時は流れて夏になり、朝倉の本が出版されることが決まって、これを機に彼は街を出ていく。同じ日、浜中の家には、岡山に去ったたみから桃が届いていた。
19-8. 魚影の群れ (The Big Catch)
監督 相米慎二
出演 緒形拳,
夏目雅子,
佐藤浩市,
矢崎滋,
レオナルド熊
1983年 (松竹富士) 135分
解説
厳しい北の海で小型船を操り、孤独で苛酷なマグロの一本釣りに生命を賭ける海の男達と、寡黙であるが情熱的な女達の世界を描く。吉村昭原作の同名小説の映画化で、脚本は、 「セーラー服と機関銃」 の田中陽造、監督は 「ションベン・ライダー」 の相米慎二、撮影は 「ふしぎな國・日本」 の長沼六男がそれぞれ担当。
ストーリー
小浜房次郎は、娘トキ子が結婚したいという、町で喫茶店をやっている青年・依田俊一に会った。彼は養子に来て漁師になっても良いと言う。マグロ漁に命賭けで取り組んできた房次郎は、簡単に漁師になると言われて無性に腹だたしく感じた。店をたたみ大間に引越してきた俊一は、毎朝、房次郎の持ち船(第三登喜丸)の前で待ち受け、マグロ漁を教えて欲しいと頼む。十日以上も俊一を無視し続けた房次郎が、一緒に船に乗り込むのを許したのはエイスケの忠告に従ったからだった。エイスケに指摘されたとおり、房次郎はトキ子が、家出した妻アヤのように自分を捨てて出て行くのではないかとおびえていた。数日間不漁の日が続き、連日船酔いと戦っていた俊一がようやくそれに打ち勝ったある日、遂にマグロの群れにぶつかった。そして、餌がほうりこまれた瞬間、絶叫がおきた。マグロが食いつき凄い勢いで引張られる釣糸が俊一の頭に巻きついたのである。またたく間に血だらけになり俊一は助けを求めるが、房次郎はマグロとの死闘に夢中だ。一時間後、マグロをようやく仕留めた房次郎の見たのは俊一の憎悪の目だった。数ヵ月後に退院した俊一はトキ子と一緒に町を出ていった。一年後、北海道の伊布港に上陸した房次郎は二十年振りにアヤに再会する。壊しさと二十年の歳月が二人のわだかまりを溶かすが、アヤを迎えに来たヒモの新一にからまれた房次郎は、徹底的に痛めつけ、とめに入ったアヤまで殴りつけた。翌日伊布沖でマグロと格闘していた房次郎は、生まれて初めて釣糸を切られ、ショックを受ける。大間港に、すっかり逞しくなった俊一がトキ子と帰って来た。ある日、俊一の第一登喜丸の無線が途絶えた。一晩経っても消息はつかめず、トキ子は房次郎に頭を下げて捜索を依頼する。房次郎は、長年培った勘を頼りに第一登喜丸を発見。俊一は房次郎の読みのとおり、三百キロ近い大物と格闘中であった。重傷を負っているのを見た房次郎は釣糸を切ろうとするが、「切らねでけろ。俺も大間の漁師だから」という俊一の言葉にマグロとの闘いを開始する。二日間にわたる死闘の末、大物は仕留められた。しかし、帰港の途中、来年の春にトキ子が母親になる、生まれた子が男の子だったら漁師にしたいと告げて、俊一は房次郎の腕の中で息を引き取った。
19-9. 子ぎつねヘレン (Helen The Baby Fox)
監督 河野圭太
出演 大沢たかお,
松雪泰子,
深澤嵐,
小林涼子,
田波涼子
2005年 (松竹) 108分
解説
目と耳の不自由な子ぎつねの観察記録をつづったベストセラーを映画化。一匹の子ぎつねとともに成長していく少年の姿を描く感動作。人気バンド、レミオロメンが主題歌を担当。
ストーリー
カメラマンの母・律子(松雪泰子)の仕事の都合で、北海道の森の診療所で獣医をしている律子の幼なじみで“将来のお父さん”になる筈の矢島(大沢たかお)のもとに預けられることになった小学生の太一(深澤嵐)は、ある春の日、道端で1匹の子ぎつねを拾う。そして、どうやら母親とはぐれたらしい子ぎつねに自身の姿を重ね合わせた彼は、子ぎつねを診療所に連れ帰るのだが、実はその子ぎつねは目と耳が不自由だったのである。そんな子ぎつねに“ヘレン”と名付けた太一。「体力をつければ、手術を受けられるかもしれない」と言う矢島の言葉を信じた彼は“サリヴァン先生”となってヘレンを育て始める。やがて“ドクター・キタキツネ”の異名を持つ獣医大学の上原教授(藤村俊ニ)によって精密検査が行われることになった。ところが結果は太一の予想に反していた。しかも、このままではヘレンが教授たちの研究材料にされる!「ヘレンには僕が必要なんだ」。ヘレンを大学病院から取り戻した太一はそれからも献身的にヘレンの面倒を看た。だが、ヘレンは度々発作を起こすようになり、遂に息絶えてしまう。しかし、ヘレンと過ごした3週間は、太一に、そして周囲の人たちに生きることの意味を教えてくれた。
19-10. はなちゃんのみそ汁
監督 阿久根知昭
出演 広末涼子,
滝藤賢一,
一青窈,
紺野まひる,
原田貴和子
2015年 (東京テアトル) 118分
解説
がんのため、33歳でなくなった安武千恵さんが5歳の娘や夫、家族との日々をつづったブログを基にしたエッセイを映画化したヒューマンドラマ。広末涼子が余命わずかと宣告されたヒロインを演じ、残された数少ない時間をかけて、幼い娘に食の大切さを教えようとする姿が涙を誘う。滝藤賢一がヒロインの夫役で共演。
ストーリー
恋人・信吾(滝藤賢一)との幸福な将来を夢見ていた千恵(広末涼子)はある日、乳癌を宣告される。見えない不安に怯える千恵に信吾は優しく寄り添いプロポーズ、二人は晴れて夫婦となった。ところがその後も抗癌剤治療の影響で卵巣機能が低下、出産を諦めていた千恵だったが、突如妊娠していることが分かる。しかし、産むということは癌の再発リスクが高まり、自らの命が危険にさらされるということであった。やがて周囲の支えで命を懸けて産むことを決意した千恵は、はなを無事出産。だが家族3人となったものの、幸せな日々は長くは続かず、千恵を再び病魔が襲い余命があとわずかと判明する。そんな中、自分がいなくなってもはなが困らないようにと、千恵ははなに鰹節を削るところからみそ汁作りを教え始める……。
19-11. 岸辺の旅
監督 黒沢清
出演 深津絵里,
浅野忠信,
小松政夫,
村岡希美,
奥貫薫
2015年 (ショウゲート) 128分
解説
第68回カンヌ国際映画祭 「ある視点」 部門で監督賞に輝いた、黒沢清による夫婦の愛を描くせつないラブストーリー。3年にも及ぶ失踪の後、突然帰宅した夫と共に、かつてお世話になった人々の元を訪れ、愛を深めていくヒロインの姿を描く。深津絵里と浅野忠信が初の夫婦役を演じる。原作は湯本香樹実の同名小説。
ストーリー
3年前に夫・優介(浅野忠信)が失踪してしまってから喪失感を抱えていた瑞希(深津絵里)は、ようやくまたピアノ講師の仕事ができるようになった。そんな中突如優介が帰宅し、自分は死んだと告げる。優介に誘われるまま旅に出た瑞希は、初老の新聞配達員、小さな食堂を営む夫婦、山深くにある農園に住む家族といった3年の間に優介がお世話になった人々を夫と一緒に訪ねていく。空白の時を巡るように優介と一緒に過ごしながら彼が感じたことを同じように感じるとともに、見たことのない優介の一面も知っていく瑞希。二人は改めて互いへの愛を感じていくが、告別のときが近づいていた。
j19-12. ジュブナイル
監督 山崎貴
出演 香取慎吾,
酒井美紀,
遠藤雄弥,
鈴木杏,
清水京太郎
2000年 (東宝) 100分
解説
少年たちのひと夏のアドベンチャーを、圧巻のSFX映像でつづるSFファンタジー。淡い初恋やロボットとの友情などを巧みに織り込み、少年たちの成長を描く感動作だ。
ストーリー
2000年、夏。林間学校に参加した祐介、岬、俊也、秀隆は、森の中で祐介に会いに来たと言う小型ロボット、テトラを発見し、祐介の部屋の押入で飼うことにする。祐介たちが集めて来る金属片でカラダを改造したテトラは、更にタイムマシンの研究をしている天才物理化学者にして町の電気屋・神崎のパソコンからインターネットを通じて知識を増やしていった。ところでその頃、地球上空10万キロに巨大宇宙船団が接近、また太平洋沖200海里には1辺が6キロもある巨大な三角錐が出現していた。それは、惑星改造を目論み、地球の海水を奪いにやってきた異星人・ボイド人のものだった。そして、彼らは自分たちの計画に邪魔になる時代に相応しくないオーバーテクノロジーであるテトラを探して、祐介たちの町に現れる。実は、テトラはボイド人たちの脅威から地球を守る為に未来から送られてきたメッセンジャーだったのだ。岬の従姉・範子や神崎になりすまし、テトラを奪おうとするボイド人。彼らは岬を誘拐し、引き替えにテトラを要求してきた。一方、テトラはガンゲリオンという巨大なパワードスーツを作成し、祐介と共にボイド人に戦いを挑んでいく。そして、ボイド人が乳酸菌に弱いことを掴み、ボイド人を撃退。岬の救出にも成功する。ところが、その戦いでテトラが故障し動かなくなってしまった。テトラには、まだ発明されていないディスクが使用されており、神崎をしても直すことは出来なかった……。それから20年後。ロボット工学を学んだ31歳の祐介に、テトラに内蔵されていたディスク発明のニュースが飛び込んだ。早速、テトラを修理する祐介。更に彼は、神崎博士の開発したタイムマシンで、テトラを2000年の夏に送った。ボイド人の計画を少年時代の自分たちに知らせる為に……。
19-13. 野菊の墓 (The Wild Daisy)
監督 澤井信一郎
出演 松田聖子,
桑原正,
村井国夫,
赤座美代子,
樹木希林
1981年 (東映) 91分
解説
明治末期、15歳の少年と17歳の少女の淡い恋と、周りの大人たちの中傷で悲しい結末をむかえるまでを描く。伊藤左千夫の同名の小説の映画化で、過去に 「野菊の如き君なりき」 の題で木下恵介、富本壮吉で二度映画化されており、今回が三度目。脚本は宮内婦貴子、監督はこれがデビュー作となる澤井信一郎、撮影は森田富士郎がそれぞれ担当。
ストーリー
坂東三十三ヵ所お礼所の一番・杉本寺の石段を踏んでゆく一人の老人がいる。忘れ得ぬ人の魂の回向を思い立ち遍路の旅に出た斎藤政夫老である。老人の脳裏に、半世紀以上も昔の思い出があざやかによみがえっていた。田園風景が美しい江戸川べりの村。政夫の生家は、醤油の醸造業を営む旧家だ。政夫が十五歳のとき、病弱の母きくの世話をするため、従姉で二つ歳上の十七歳の民子が家に住むようになった。以来二人の仲は親密になり、姪の初子や奉行人の間で噂にのぼった。きくは奉行人をいましめ、二人をかばうが、なるべく会わないようにと話す。それが二人の思いを淡い恋心に変えていった。二人の仲を中傷する周りの声は強まり、心配したきくは、政夫を予定より一ヵ月早めて中学の寮に入れることにした。一方、正月には帰るという政夫を待つ民子に縁談が持ち込まれた。拒む民子だが大人たちは一方的に話をすすめる。そのやり方に憤慨した女中のお増は、政夫にその話を知らせた。やっとのことで花嫁行列にかけつけた政夫は、民子の車めがけて、りんどうの花を投げつけることしか出来なかった。それから数ヵ月後、政夫のもとへ帰宅するようにときくから電報が届いた。家に戻った政夫に民子の死の知らせが待っていたのだ。民子は流産し、嫁ぎ先で冷たい仕打ちにあって実家に戻され病床についたまま、帰らぬ人となったのだ。政夫は激しく泣いた。時は流れた。今、政夫は残り少ない人生を、民子の清らかな魂の故郷へむかって巡礼の旅に出ようとしていた。