5-1. 伊豆の踊子

監督 西河克己
出演 山口百恵三浦友和中山仁
1974年(東宝)

解説
川端康成原作「伊豆の踊子」の六度目の映画化で一高生と旅芸人の踊子との心のふれあいを描いた青春映画。脚本は「娘たちは風にむかって」の若杉光夫、監督は「夜の牝 年上の女」の西河克己、撮影は「妹」の萩原憲治がそれぞれ担当。

ストーリー
大正の末、天城に向かう山道を行く一高生・川島は、旅芸人の一行に出会った。一行は栄吉とその妻・千代子、千代子の母親ののぶ、雇い娘の百合子、そして太鼓を背負った古風な髪型のよく似合う美しい少女の五人で、彼らは三味線や太鼓、そして唄や踊りで温泉場の料理屋や旅館の客を相手につつましい生計をたてていた。かおるという名のその踊子は、下田まで川島と一緒に旅ができると知って喜んだ。湯ケ野について踊子と五目並べに興じていたある日、栄吉と風呂に入っていた川島は、向かいの共同風呂に入っていた踊子が裸のまま立ち上り、こちらに手を振るのを見てその無邪気な子供らしさに思わず頬笑んだ。そんなある日、踊子は山蔭の古小屋で、粗末な夜具にくるまって寝ている幼馴じみのおきみと再会した。酌婦をしていたおきみは客を取らされ、病気になった今は、厄病神あつかいされて古小屋に追い払われていたのだった。浮世の汚れを知らぬ踊子には余りにも衝撃的な光景であった。やがておきみの死を知ることなく湯ケ野を離れた踊子一行は、川島と共に下田へ向かった。踊子は、道中ずっと生まれ故郷の甲府のことや、今住んでいる大島のことを川島に話して聞かせた。踊子のはずむような声が川島の胸に心地よく響いた。下田に着いて、明日は川島が東京へ帰るという日、川島との活動見物を楽しみにしていた踊子は、二人の仲を案じたのぶに止められて涙を呑んだ。翌朝、川島が栄吉に送られて乗船場に近づくと、海辺に踊子の姿があった。つかの間の別れを告げ、川島の乗ったはしけが遠ざかり、大きく曲って岬のかげに隠れた。踊子は栄吉が止めるのも聞かずに走った。岬の突端へ出ると、巡航船に乗り移ろうとする川島の姿が見えた。思いきり手を振る踊子。彼女に気づいた川島も、甲板の上から狂ったように手を振る。船が動き出し次第に小さくなっていくかおるの姿。あふれる涙をぬぐいもせず手を振りつづけている川島の手には、ついさっき踊子からもらった櫛が握られていた。岬はもう、見えない……。




5-2. 銀河鉄道の夜

監督 杉井ギサブロー
出演 田中真弓坂本千夏中原香織
1985年(日本ヘラルド)

解説
星祭りの夜、銀河鉄道の列車に乗って、親友と一緒に広大な銀河宇宙の旅に出かける少年の姿を描く。宮澤賢治原作の同名小説のアニメ化で、脚本は劇作家の別役実、監督は「ナイン」の杉井ギサブローがそれぞれ担当。

ストーリー
ジョバンニは放課後、文選工の仕事をしている。彼の唯一の友達はカンパネルラだが、最近はあまり口を聞かなくなっている。星祭りの夜、ジョバンニは病気の母親に牛乳をとりに行くため、一人町はずれを歩いていた。彼はいつの間にか、天気輪の丘へ来ており、気がつくと巨大な機関車が停車していた。ジョバンニが魅せられたように乗り込むと、汽車は銀の砂をまいたような星の野原へと走り出した。汽車にはカムパネルラも乗っていた。やがて、「白鳥ステーション」に着き、20分停車のため二人は汽車を降りる。らせん階段を下ると、そこは河原で学者達がボスという百二十万年前の動物の骨を発掘している所だった。二人が再び、銀河鉄道に乗り込むといろいろな人が乗っていた。無線室で、盲目の無線技師が讃美歌の歌詞と、大型客船が氷山に衝突して沈んだという知らせをキャッチする。検札が来、自分の切符の行先とカムパネルラのものが違うと知ったジョバンニは、「どうして僕は一緒に行けないんだ?」と問うが、カムパネルラは答えない。少女かおりと少年ただしが、青年に手を引かれ乗って来た。氷山に衝突して沈んだ船に乗っていたという。さきほどの讃美歌が聞こえ、青年とかおりとただしが一緒に歌いはじめた。汽車はとうもろこし畑を通り抜け、ハレルヤの大合唱が聞こえた後、巨大な十字架の前に停った。乗客がみな降りて、十字架の方へと列になって行く。車内はジョバンニとカムパネルラだけになった。「僕達、どこまでも一緒に行こうね」とジョバンニは言う。カムパネルラの目には涙があふれそうだった。汽車は大きな石炭袋の中へ入って行く。真黒な闇の中、後部車両へと駆駆けて行くカムパネルラ。彼は最後尾のデッキへ出ると、追いかけるジョバンニの手前で境の扉を閉めてしまう。ガラスの向こうでカムパネルラの唇が「さようなら、ジョバンニ」と動いた。カムパネルラの名を呼びながら、ジョバンニが目を覚ますと、そこはすすきの原。あわてて牛乳を待って町へ降りたジョバンニを待っていたのは、カムパネルラが友達を助けようとして川に落ちて死んだという知らせだった。




5-3. シェアハウス

監督 喜多一郎
出演 吉行和子佐伯めぐみ浅田美代子
2011年(ピーズインターナショナル)

解説
湘南を舞台に、世代の異なる4人の女性たちがシェアハウスでの共同生活を通して変わっていく姿を描くヒューマンドラマ。監督は、「星砂の島のちいさな天使〜マーメイド・スマイル〜」の喜多一郎。出演は、「佐賀のがばいばあちゃん」の吉行和子、「驚かさないでよ!」の佐伯めぐみ、「釣りバカ日誌」シリーズの浅田美代子。

ストーリー
夫と娘夫婦に先立たれた独り暮らしの女性・有希子(吉行和子)、恋愛ができない売れないケータイ小説家・麗子(浅田美代子)、JA勤めで孤独な独身女性・花恵(木野花)は湘南で暮らす友人同士で、海辺のカフェ“プラージュスッド”の常連だった。ある日花恵から、共同で家を持ち、仲間同士一緒に暮らすことを提案されるが、興味なく帰ろうとすると、1人の若い女性・まひる(佐伯めぐみ)が入水し、溺れているのを見つける。居合わせたサーファー・優人(牧田哲也)助けるが、まひるは放心状態に。有希子がまひるを引き取り、しばらく面倒を見ることになる。やがて、高齢の友人・かもめが人知れず亡くなり、正気を取り戻したまひるの後押しもあって、有希子の気持ちに変化が訪れる。こうして、4人のシェアハウスは動き出す。東京で帽子デザイナーとして働いていたまひるは、デザイン会社の後輩と恋人に裏切られて傷ついていた。しかしここでの暮らしで、少しずつ元気を取り戻していた。そんなまひるを、有希子は本当の娘のように愛する。環境を変え、麗子は恋に仕事に燃え、花恵は住宅関係の仕事に就こうと一念発起する。世代も性格も異なる4人の女性たちは、個を尊重しながら、気張らない生き方を見つけていく。




5-4. ニルスのふしぎな旅

監督 鳥海永行
出演 小山茉美安原義人
1982年

解説
 1980年からNHKで放映されたファンタジーTVアニメシリーズ「ニルスのふしぎな旅」の長編作品。元々は劇場用公開を視野に入れて製作された作品だが、最終的にはOVAという形でリリースされている。スウェーデン南部の農村で暮らすなまけ者の少年ニルスとそのペットのハムスター・キャロット。彼らは木箱の中にいた妖精についいたずらをしてしまい、罰として魔法で体を小さくされてしまう。そんなニルスは不思議なことに動物たちの言葉が理解できるようになる。彼らはふとした偶然でガチョウのモルテンの背中に乗り、アッカ隊長率いる雁の群れと同行。野鳥のふるさとラブランドを目指す旅の中、ニルスたちは大自然の美しさに触れて多くのことを学んでいくのだった。本作の実制作はぴえろ(当時はスタジオぴえろ)が担当。先述の通りTVシリーズをベースとする本作だが、TV版の再編集作品ではなく、新規に作画作業を行った。1時間37分の本編時間の中、3万枚もの作画枚数が費やされている。

ストーリー





5-5. 桜田門外の変

監督 佐藤純彌
出演 大沢たかお長谷川京子柄本明
2010年(東映)

解説
大沢たかおを主演に迎え、吉村昭の同名小説を映画化した時代劇。1860年の幕末、開国を推し進めていた大老・井伊直弼が暗殺された事件を、指揮を取っていた水戸藩士・関鉄之介の視点から描いていく。茨城県の市民団体が企画を立ち上げ、ロケ地も茨城県全域で敢行。美しい自然をバックに、時代に翻弄された浪士の生き様が胸を打つ。

ストーリー
安政7年(1860年)2月18日早暁、水戸藩士・関鉄之介(大沢たかお)は、妻・ふさ(長谷川京子)と息子の誠一郎(加藤清史郎)に別れを告げ、故郷から出奔した。同年1月、鉄之介は水戸藩の有志たちと徳川幕府の大老・井伊直弼(伊武雅刀)を討つ盟約を結び、これを実行するため江戸へと向かったのである。大老襲撃は3月3日に決まり、鉄之介を始めとする水戸脱藩士17名と、薩摩藩士・有村次左衛門(坂東巳之助)を加えた襲撃実行部隊18名が集結。そこで計画の立案者で水戸藩尊王攘夷派の指導者・金子孫二郎(柄本明)から、鉄之介は部隊の指揮を執るよう言い渡される。襲撃当日。品川愛宕山へと集結した鉄之介たちは襲撃地点である桜田門へと向かい、襲撃者の一人が大老の行列に直訴状を差し出す振りをして、行列に斬りかかる。同時に仲間が発砲した短銃の発射音を合図に、斬り合いが始まり、やがて有村が大老の駕篭へ到達、井伊の首を刎ねた。襲撃隊は稲田重蔵(田中要次)が闘死、4人が自刃、8人が自首。その成功を見届けた鉄之介は、京都へと向かう。計画では大老襲撃は序曲に過ぎず、同時に薩摩藩が挙兵をして京都を制圧、朝廷を幕府から守るはずであった。だが薩摩藩内で挙兵慎重論が持ち上がり、計画は瓦解する。幕府側からは勿論、かつての同胞・水戸藩士からも追われる立場となった鉄之介は、“桜田門外ノ変”に至る歳月を思い返していく……。安政元年(1854年)のペリー来航以来、鎖国の門戸を開こうとする井伊直弼ら徳川幕府の譜代大名たち。それに異を唱えて尊王攘夷論を押し出した水戸藩主・徳川斉昭(北大路欣也)が対立。やがて井伊が大老に就任したことから、斉昭の一派は失脚。井伊はさらに斉昭に賛同した各藩の藩士、公家を弾圧する“安政の大獄”に手を染めていく。この暴挙を食い止めるため、鉄之介たちは立ち上がったのだったが……。




5-6. 寒椿

監督 降旗康男
出演 西田敏行南野陽子高嶋政宏
1992年(東映)

解説
昭和初期の土佐高知の色街を舞台に、原色の男女が織りなす愛と侠気の世界を描く、宮尾登美子原作の映画化。脚本は「代打教師 秋葉、真剣です!」の那須真知子が執筆。監督は「首領になった男」の降旗康男。撮影は「略奪愛」の木村大作がそれぞれ担当。

ストーリー
昭和2年、21歳の貞子は女衒の岩伍に買われ、高知の妓楼『陽暉楼』へ身売りされる。永年の女衒稼業を続ける岩伍は、これまで1度も身売りされる娘やその親に同情したことはなかったが、貞子の初々しさには何か心にひっかかるモノがあった。早速「牡丹」という源氏名が付けられた貞子は、女将のみねのもとで芸事の特訓をさせられる。岩伍は先ず一安心だった。苦界といっても『陽暉楼』なら、それなりの格式もあり客質も上等だ。牡丹も慣れぬ世界で始めは苦労するだろうが、愚にもつかない父親と暮らすよりは幸せになるだろうと、岩伍はこの商売をしてきて初めて心の安らぎを感じる。だが、その一方で岩伍の妻・喜和は、若い娘の身を売買する夫の商売が心痛で、息子の健太郎を連れて家出をしてしまうのだった。しばらくたって牡丹が座敷へ出る日が訪れ、たちまち『陽暉楼』の1番の売れっ子となった。岩伍は我がことのように喜び、事あるごとに励ましの言葉をかけた。だが、牡丹に熱い想いを寄せる力士くずれのヤクザ仁王山は、そんな岩伍に強い憎しみを覚える。それから数日後、仁王山が牡丹をさらって姿をくらます事件が起こる。牡丹の身を心配した岩伍は単身で2人の捜索に旅立つ。やがてある寂しい漁村で2人を見つけ出した岩伍。2人は高知に連れ戻された。仁王山は牡丹をあきらめることで組に戻り、牡丹は財閥の御曹司・多田守宏に見受けされることを承知して『陽暉楼』に戻った。だが、牡丹が心底好いているのは岩伍だけだった。そのことを告白された岩伍は胸が熱くなるが、女衒が売り買いした女を抱ける道理はなかった。そして傷心のうちに見受けされて東京に発つ牡丹。しかし牡丹は満州へ売られ、それを知った岩伍は満州へ向かい牡丹を助ける。そして再会する牡丹と仁王山。そんな2人に再び魔の手が襲いかかり、岩伍は死闘の末、牡丹と仁王山を追っ手から逃がすのだった。




5-7. ホワイトアウト

監督 若松節朗
出演 織田裕二松嶋菜々子佐藤浩市
2000年(東宝)

解説
真保裕一の和製「ダイ・ハード」ともいうべきベストセラー小説を、織田裕二主演により映画化。さまざまな思いを抱きながら、命がけの戦いに挑む男の姿が胸を熱くする。

ストーリー
日本最大の貯水量を誇り、150万キロワットの電力を発電する新潟県奥遠和ダム。12月のある日、ダムの運転員・富樫輝男は、遭難者救助の為に猛吹雪の中を出発するが、ホワイトアウトに見舞われ、親友で同僚の吉岡和志を亡くしてしまう。それから2カ月後、吉岡のフィアンセ・平川千晶が奥遠和ダムを訪れた。ところが、千晶がダムに到着したまさにその時、ダムと発電所がテロリストに占拠される。犯人グループは、ダムの職員と千晶を人質に取って50億円を政府に要求。拒否すれば人質を殺し、ダムを爆発すると通告してきた。ダムが決壊すれば、下流域の住民20万世帯は一瞬のうちに洪水に飲まれてしまう。期限は24時間、ダムに通じる唯一のルートは犯人グループが爆破しており、悪天候で警察は成す術もない。そんな中、偶然逃げおおせた富樫は、仲間と住民を救うことを決意。犯人グループの攻撃をくぐり抜けダムの放水を防ぐと、外部との連絡を取る為、たったひとりで8キロ先の大白ダムへと向かう。富樫の連絡によって、犯人グループが宇津木を中心とした過激派・赤い月であることが判明した。しかし、未だ対策本部がダムへ乗り込むことは叶わない。そこで、富樫は人質を救出する為、再び奥遠和ダムへ戻る。その頃、ダムの方でも動きがあった。犯人グループの中に、かつてテロで家族を殺された笠原という男が潜入していたのだ。このことから、大きく崩れ始める宇津木の計画。やがて、それは富樫の活躍によって完全に阻止され、千晶も無事救出されるのであった。




5-8. 西の魔女が死んだ

監督 長崎俊一
出演 サチ・パーカー高橋真悠りょう
2008年(アスミック・エース エンタテインメント)

解説
中学校に通うのが苦痛になった少女まいが、田舎でひとり暮らしをする英国人の祖母のもとに預けられる。そこでまいは、早寝早起きの規則正しい生活やジャム作りなどの“魔女修行”をこなし、生きる力を取り戻していく。

ストーリー
中学3年になったまい(高橋真悠)の元に“魔女”が倒れたという知らせが届く。祖母の家に向かう車の中で、まいの母(りょう)から祖母の訃報を聞く。魔女とは、英国人で、まいの母方の祖母のことだ。まいは2年前のことを思い出す。中学に入学したまいは、登校拒否になる。母は、“西の魔女”と呼ぶ祖母(サチ・パーカー)の家にまいを預ける。祖母は魔女の血筋で、草木についての知恵や知識を受け継ぎ、物事の先を見通す能力を持っているという。まいは自分も魔女になりたいと思い、修行を始める。魔女の修行とは、『早寝早起きをし、食事をしっかりとり、運動をし、規則正しい生活をする』ということと、『何事も自分で決める』といことだった。草原で摘んだワイルド・ストロベリーでジャムを作ったり、野菜やハーブを育てる生活は、まいの閉ざしていた心を解きほぐしていった。しかし近所に住むゲンジ(木村祐一)の言動に、まいは心をかき乱される。それでも彼に寛大に接する祖母を、まいは理解できない。遂にある出来事により、2人は心にわだかまりを残したまま、まいは祖母の家を離れることになった。まいは久々に祖母の家を訪れる。静かに横たわる祖母を前にして、不本意な別れ方をしたことを後悔するまい。しかし、祖母との約束を思い出したまいは死んだ西の魔女から、最後のメッセージを受け取るのだった……。




5-9. 野生の証明

監督 佐藤純彌
出演 高倉健中野良子薬師丸ひろ子
1978年(日本へラルド映画=東映)

解説
国家権力によって比類ない殺人技術を叩きこまれた男が、一人少女のなかに、自らの人間性の回復を託そうとする男の姿を描く森村誠一原作の映画化。角川映画第三弾。脚本は「日本の首領 完結篇」の高田宏治、監督は「人間の証明 Proof of the Man」の佐藤純彌、撮影は「順子わななく」の姫田真佐久がそれぞれ担当。

ストーリー
一九八〇年。過激派の人質となった米国大使を自衛隊特殊工作隊が救った。味沢岳史はその中でも抜きん出た優秀な隊員だった。味沢が東北山中の単独踏破訓練中、飢えと疲労の極限で、越智美佐子に出会った。彼女は獣のような味沢の惨状を見て、救助を求めて集落へおりて行った。その時、大量虐殺事件が発生した。五戸十二名が惨殺され、その中には彼女の死体もあった。駈けつけた北野刑事は、ハイキング中に凶行の巻添えにあったと断定した。集落唯一の生存者は、十三歳になる長井頼子という少女だけだったが、彼女は恐怖のあまり記憶喪失になっており、「青い服を着た男の人……」と呟くだけだった。月日が流れた。味沢は、事件後、除隊して羽代市で保険外交員をしていた。そして、記憶を失った少女、長井頼子を養女にして暮らしていた。羽代新報の記者、越智朋子は交通事故の現場にいた。沼底から引き上げた車の中に同僚の立山の死体があった。警察はホステスの明美と同乗していた立川の酒酔運転による事故として処理した。明美の死体は見つからなかった。朋子は事故とは思わなかった。この羽代市は大場総業会長大場一成に支配されており、立川はその不正を暴露するメモを持っていたからである。明美には六千万円の保険がかけられており、味沢はその夫、井崎と一週間前に保険の契約を済したばかりだった。井崎は大場の忠臣と言われる中戸組の幹部であった。事故現場で越智朋子を見た味沢はショックを受けた。彼女は美佐子に瓜二つの妹だった。保険金の支払いの責任を負わされた味沢は事件の調査を始めた。数日後、味沢は暴走族に襲われていた朋子を救い、二人の仲は接近する。暴走族のボスは大場の長男、成明である。警察に保存されていた事故車から提防のコンクリート片を見つけた味沢は、中戸組の提防工事現場で明美の死体を見つける。しかし明美の死体発見も、大場の圧力で井崎の単独犯行となった。一方、北野刑事は、大量殺人の犯人は軟腐病に犯され狂った頼子の父の犯行との結論に納得せず、必要に味沢を追った。その頃、不思議な予知能力を発揮し始めた頼子を専門医に診せたところ、その底に潜むものが、自分への憎しみであることを知らされた味沢は、来るべき時が来たのを感じ、頼子を事件のあった村に連れて行った。頼子は少しずつ記憶を取り戻したが、自分の家の前に来ると激しく拒絶反応を示した。その夜、味沢は朋子にすべてを語った。都落にたどりついた時、美佐子の死体を見て逆上した味沢は、自分の娘を殺そうとしている長井孫市を反射的に殺してしまったのだ。ある晩、「姉ちゃんが殺される」と頼子が予知して叫んだ。そして朋子の部屋に駈けつけると、そこには彼女の暴行された末に殺された無惨な姿があった。そして町を出ようとした味沢と頼子に大場の部下が襲いかかった。超人的な力で相手を倒す味沢を見て頼子は「お父さんを殺したのはこの人!」と叫んだ。その時、味沢の手首に手錠が食い込んだ。北野刑事だ。北野は二人を護送すべく、車で出発すると、味沢を監視していた特殊自衛隊員・渡会が立ちはだかった。三人を自衛隊の演習にまぎれて消そうとする計画だった。凄絶な死闘が繰り返され、頼子は味沢の胸の中で「……お父さん」といって息たえた。北野刑事は狂ったようにトラックを戦車に走らせ、自爆した。味沢は頼子を背負って、戦車の群に向かって進むのだった……。




5-10. 八甲田山

監督 森谷司郎
出演 島田正吾大滝秀治高倉健
1977年(東宝)

解説
新田次郎の原作「八甲田山死の彷徨」をもとに、大部隊で自然を克服しようとする部隊と小数精鋭部隊で自然にさからわず、折り合いをつけようとする部隊の様子を冬の八甲田山を舞台に描く。脚本は「続人間革命」の橋本忍、監督は「日本沈没」の森谷司郎、撮影は「阿寒に果つ」の木村大作がそれぞれ担当。

ストーリー
「冬の八甲田山を歩いてみたいと思わないか」と友田旅団長から声をかけられた二人の大尉、青森第五連隊の神田と弘前第三十一連隊の徳島は全身を硬直させた。日露戦争開戦を目前にした明治三十四年末。第四旅団指令部での会議で、露軍と戦うためには、雪、寒さについて寒地訓練が必要であると決り、冬の八甲田山がその場所に選ばれた。二人の大尉は責任の重さに慄然とした。雪中行軍は、双方が青森と弘前から出発、八甲田山ですれ違うという大筋で決った。年が明けて一月二十日。徳島隊は、わずか二十七名の編成部隊で弘前を出発。行軍計画は、徳島の意見が全面的に採用され隊員はみな雪になれている者が選ばれた。出発の日、徳島は神田に手紙を書いた。それは、我が隊が危険な状態な場合はぜひ援助を……というものであった。一方、神田大尉も小数精鋭部隊の編成をもうし出たが、大隊長山田少佐に拒否され二百十名という大部隊で青森を出発。神田の用意した案内人を山田がことわり、いつのまにか随行のはずの山田に隊の実権は移っていた。神田の部隊は、低気圧に襲われ、磁石が用をなさなくなり、白い闇の中に方向を失い、次第に隊列は乱れ、狂死するものさえではじめた。一方徳島の部隊は、女案内人を先頭に風のリズムに合わせ、八甲田山に向って快調に進んでいた。体力があるうちに八甲田山へと先をいそいだ神田隊。耐寒訓練をしつつ八甲田山へ向った徳島隊。狂暴な自然を征服しようとする二百十名、自然と折り合いをつけながら進む二十七名。しかし八甲田山はそのどちらも拒否するかのように思われた。神田隊は次第にその人数が減りだし、辛うじて命を保った者は五十名でしかなかった。しかし、この残った者に対しても雪はとどめなく襲った。神田は、薄れゆく意識の中で徳島に逢いたいと思った。二十七日、徳島隊はついに八甲田に入った。天と地が咆え狂う凄まじさの中で、神田大尉の従卒の遺体を発見。神田隊の遭難は疑う余地はなかった。徳島は、吹雪きの中で永遠の眠りにつく神田と再会。その唇から一筋の血。それは、気力をふりしぼって舌を噛んで果てたものと思われた。全身凍りつくような徳島隊の者もやっとのことで神田隊の救助隊に救われた。第五連隊の生存者は山田少佐以下十二名。のちに山田少佐は拳銃自殺。徳島隊は全員生還。しかし、二年後の日露戦争で、全員が戦死。




5-11. きな子 〜見習い警察犬の物語〜

監督 小林義則
出演 夏帆寺脇康文戸田菜穂
2010年(松竹)

解説
警察犬試験に何度も失敗し続けている見習い警察犬・きな子と見習い訓練士の実話を基にした感動ドラマ。夏帆が犬とのふれあいを通して人間として成長していくヒロインを熱演。

ストーリー
瀬戸内海に面した香川県丸亀市。望月杏子(夏帆)は、亡き父のような警察犬訓練士になることを夢見て、警察犬訓練所に入所。所長の番場晴二朗(寺脇康文)やその妻、詩子(戸田菜穂)、2人の子供である圭太(広田亮平)と新奈(大野百花)らに囲まれ、見習い訓練士として第一歩を踏み出す。先輩訓練士の田代渉(山本裕典)の指導を受けて、犬の世話を基本から学んでいく杏子。厳しい生活の中、生後間もないラブラドール・リトリーバーの子犬“きな子”と出会う。だが、警察犬用の犬以外は置けないという番場。その言葉に杏子は思わず、“自分が警察犬に育てる”と宣言してしまう。こうして始まった1人と1匹のトレーニング。だが、2年目を迎えても、きな子は満足いくような結果を出せない。その頃、実家を継ぐために渉が訓練所を去る。夢半ばで諦めることになった渉の気持ちを察した杏子は、自らの決意を新たにする。番場の勧めもあり、きな子は訓練発表会に出場。だが、きな子は顔面から転落する大失態を演じてしまう。すっかり落ち込み、きな子を責める杏子を番場は一喝。失敗はきな子の責任ではなく、訓練士の未熟ゆえだと諭す。一方、発表会での失態がテレビ放送されたことで、“ずっこけ見習い犬”としてきな子の人気は上昇。だが、一人前の警察犬に育てようとする杏子は、さらに厳しい訓練を重ねる。こうして迎えた警察犬試験だったが、きな子はまたしても失敗してしまう。悔し涙を流す杏子の横で突然倒れるきな子。病院に運ばれる羽目に……。訓練に熱中するあまり、きな子の体調を考えていなかったことが原因だった。警察犬になるより、みんなに愛されて暮らす事がきな子のためと考え、訓練所を辞める杏子。やがて、杏子のもとに詩子から電話が。新奈がきな子と出掛けたまま戻らないという。豪雨の中、駆け出す杏子。不器用な一人と一匹は、再び夢を取り戻すことができるのか……。




5-12. 火天の城

監督 田中光敏
出演 西田敏行椎名桔平大竹しのぶ
2009年(東映)

解説
織田信長の安土城を築城した名工の物語を映画化。ときに施主である信長とぶつかり合いながらも、苦悩の果てに戦国時代最大の建築事業を成し遂げる主人公を西田敏行が熱演。

ストーリー
1575年、織田信長(椎名桔平)は長篠の戦いで、甲斐の武田勢を破る。翌年の1576年、天下統一事業を象徴するように、琵琶湖を臨む安土の地に居城を建設することを決意する。その城は、五重七階の天主と、キリスト教の大聖堂のような吹き抜けの構造を内側に持つ大城郭であった。信長は、丹羽長秀を築城奉行としながら、設計及び現場の総棟梁を熱田の宮番匠・岡部又右衛門(西田敏行)に一任する。又右衛門は、今川義元との戦以来、十数年に渡って才気を評価していた男だった。金閣寺を建立した京の池上家、奈良の大仏殿を造った中井一門らとの図面争いを勝ち抜いた又右衛門は、妻・田鶴(大竹しのぶ)や娘・凛(福田沙紀)、門下の番匠らに支えられながら、築城を進めていく。しかし、又右衛門は難問にぶつかる。巨大な城を支える主柱として、これまでになく大きな檜が必要だった。理想の木材は木曽上松にあると考えた又右衛門は、信長の敵・武田勝頼の領国に危険を顧みず分け入っていく。そのころ国元では新たな戦乱の暗雲が立ち込め、田鶴には病魔が迫っていた。さらに又右衛門を、悲劇的な争いや仲間の死が襲う。それでも又右衛門は信長の野心を実現するため、檜を獲得しようと尽力する。




5-13. ブタがいた教室

監督 前田哲
出演 妻夫木聡大杉漣田畑智子
2008年(日活)

解説
妻夫木聡主演による、実話ベースのドラマ。食べるのを前提にブタを飼うことにした小学校の担任教師と26人の生徒たちが、その過程で食や生命と向き合う姿を力強い筆致で紡ぐ。

ストーリー
4月。6年2組担任の新米教師・星(妻夫木聡)は、教室に1匹の子豚を連れてきた。卒業までの1年間、その豚を育てて、大きくなったらみんなで食べようという。星の提案に、教頭の仁科(大杉漣)は苦い顔。しかし、生きているものを食べるということの意味を体で感じてもらいたいという星の熱意と覚悟に負け、高原校長(原田美枝子)は学校で豚を飼う許可を出す。6年2組の生徒たち26人は、全員で校庭に小屋を作り、当番を決めて“Pちゃん”と名付けた子豚を飼いはじめた。池沢(田畑智子)のクラスが育てているトマトをPちゃんが食べてしまったり、生徒の母親たちが豚を飼うことに反対したりと数々の問題が発生するが、クラス全員が協力してPちゃんの世話をし、時には一緒に遊んだりして楽しい日々を過ごしていった。ところが、夏休みも過ぎ、卒業まで4ヶ月となった頃、6年2組の中ではPちゃんを食べることに反対する意見が増えていた。Pちゃんをどうするか、クラスのみんなは一生懸命に考え、様々な意見を出していくが、食べるか食べないかの結論は決定しないまま卒業が近づいてくる。そして迎える卒業式。クラスを二つに分けた涙の激論の中、26人の子供たちと星が最後に出した決断とは…?




5-14. 釣りバカ日誌 19 ようこそ!鈴木建設御一行様

監督 朝原雄三
出演 西田敏行三國連太郎浅田美代子
2008年(松竹)

解説
国民的人気コメディ・シリーズ最新作。おなじみハマちゃん&スーさんの釣りバカコンビが、大分県の豊かな海を舞台に騒動を巻き起こす。常盤貴子、竹内力らがゲストで出演。

ストーリー
会長になったものの、会社が心配で相変わらず多忙な毎日を送る“スーさん”こと鈴木一之助(三国連太郎)。一方、元気が取り柄の“ハマちゃん”=浜崎伝助(西田敏行)は相変わらず会社よりも釣りが命の日々を過ごしていた。ある日、そんなハマちゃんに思わぬ危機が訪れる。会社の健康診断で再検査の指示を受けてしまったのだ。胃カメラを飲む、飲まないで大騒ぎして、担当である総務部の派遣社員・河井波子(常盤貴子)を困らせる。そんな波子の窮地を助けたのが、ハマちゃんの新しい部下・高田大輔(山本太郎)だった。大輔は実は大企業・高田製薬の御曹司だったが、親の七光りを嫌う、生まじめな若者。スーさんも期待をかけている存在だった。何とか胃カメラを飲んでハマちゃんの再検査は無事に終了。結果は暴飲暴食によるもの、食生活を正すようにとの診断に終わる。ほっとして、晴れて大分県へ社員旅行に出発することになったハマちゃんたち鈴木建設一行。旅行の幹事を努めるのは大分県出身の波子。社員旅行でも釣りのことは絶対忘れないハマちゃんは、波子の兄・康平(竹内力)が漁師であると聞き、さっそく釣りの手配を頼む。翌日、佐伯湾での釣りを満喫するハマちゃんだったが、康平が思いがけない相談を持ちかけてくる。社員旅行で鈴木建設一行を待ち受けるものとは一体……?




5-15. 武士の家計簿

監督 森田芳光
出演 堺雅人仲間由紀恵松坂慶子
2010年(アスミック・エース=松竹)

解説
堺雅人、仲間由紀恵を主演に迎え、磯田道史の歴史教養書「武士の家計簿「加賀藩御算用者」の幕末維新」を映画化。激動の幕末で、“算盤さむらい”と呼ばれ、加賀藩の算用者として財政に関わる下級武士と、その妻とが慎ましく生きる姿をつづる。久々の時代劇となった森田芳光監督ならではの人間味ある描写にホロリとさせられる。

ストーリー
江戸時代後半。御算用者(会計処理の専門家)として、代々加賀藩の財政に関わってきた猪山家。八代目の直之(堺雅人)は、生来の天才的な数学感覚もあって働きを認められ、めきめきと頭角をあらわす。これといった野心も持たず、ただひたすらそろばんを弾き、数字の帳尻を合わせる毎日の直之にある日、町同心・西永与三八(西村雅彦)を父に持つお駒(仲間由紀恵)との縁談が持ち込まれる。自らの家庭を築いた直之は、御蔵米の勘定役に任命されるが、農民たちへのお救い米の量と、定められていた供出量との数字が合わないことを不審に思い、独自に調べ始める。やがて役人たちによる米の横流しを知った直之は左遷を言い渡されるが、一派の悪事が白日の下にさらされ、人事が一新、左遷の取り止めに加え、異例の昇進を果たす。だが、身分が高くなるにつれ出費が増えるという武家社会特有の構造から、猪山家は出費がかさんでいく。すでに父・信行(中村雅俊)が江戸詰で重ねた膨大な借金もあり、直之は“家計立て直し計画”を宣言。それは家財一式を処分、質素倹約をし、借金の返済に充てるという苦渋の決断だった。愛用の品を手放したくないと駄々をこねる母・お松(松坂慶子)。しかし、お家を潰す方が恥であるという直之の強い意志により、家族は一丸となって借金を返済することを約束。こうして猪山家の家計簿が直之の手で細かく付けられることになった。倹約生活が続く中、直之は息子・直吉にも御算用者としての道を歩ませるべく、4歳にして家計簿をつけるよう命じ、徹底的にそろばんを叩き込んでいく……。時は幕末。父よりも早く11歳で算用場に見習いとして入り、元服を済ませた直吉、改め成之(伊藤祐輝)は、時代に取り残されまいと自らの進むべき道を模索していた。やがて京都へ向った成之は、新政府軍の大村益次郎にそろばんの腕を見込まれ、軍の会計職に就くが、大村が刺客の手により暗殺されてしまう……。




5-16. 麒麟の翼

監督 土井裕泰
出演 阿部寛新垣結衣黒木メイサ
2011年(東宝)

解説
ベストセラー作家・東野圭吾の人気シリーズが原作の大ヒットドラマ「新参者」の劇場版。飄々とした存在感がハマり役となった主演・阿部寛ほか、おなじみのレギュラー陣に、中井貴一、新垣結衣という映画ならではの豪華ゲストが参加。「いま、会いにゆきます」の土井裕泰がメガホンを握り、深みある人間ドラマを繰り広げる。

ストーリー
東京・日本橋で男性が殺害される事件が発生。被害者はカネセキ金属の製造本部長、青柳武明(中井貴一)。彼は、腹部を刺されたまま8分間も歩き続けた後に、日本橋の翼のある麒麟像の下で力尽きていた。なぜ、誰の助けも求めず、彼は一体どこへ向かおうとしていたのか。一方、事件の容疑者、八島冬樹(三浦貴大)は現場から逃亡しようとしたところを車に轢かれて意識不明の重体だった。報せを聞いた八島の恋人、中原香織(新垣結衣)は、彼の無実を訴えるが……。この難事件の捜査に当たるのは、日本橋署の切れ者刑事、加賀恭一郎(阿部寛)。やがて捜査が進むにつれて、それぞれの家族や恋人の知られざる一面が明らかになってゆく。命が終わるその時に、青柳は誰に何を伝えようとしていたのか?愛する人に何を残そうとしたのか?加賀は事件の裏に隠された謎を解き明かし、真実を見つけ出すことができるのか……?




5-17. めがね

監督 荻上直子
出演 小林聡美市川実日子加瀬亮もたいまさこ
2007年(日活)

解説
人気作「かもめ食堂」の監督・荻上直子、主演の小林聡美、もたいまさこが再び組んだ人間ドラマ。ゆるやかな空気が流れる海辺の宿の人々の交流を、おかしくもせつなく描く。

ストーリー
春のまだ浅い頃。とある南の海辺の小さな町に、タエコ(小林聡美)という女性がひとり旅でふらりとやってくる。ハマダという小さな宿にたどり着いたタエコは、ユージ(光石研)という主人に出迎えられる。翌朝、宿の一室で目覚めたタエコの足元に、不思議な雰囲気を持つサクラ(もたいまさこ)の姿があった。サクラは毎朝、町の人たちと共に自作の「メルシー体操」を浜辺で行い、そのあとはカキ氷の店を開いている。そして泊り客でもないのに、やる気のなさそうな高校教師ハルナ(市川実日子)が、いつも宿周辺でぶらぶらしている。あまりの独特なノリにたじろいだタエコは、別の宿に移る決心をする。だがマリン・パレスという宿の女主人・森下(薬師丸ひろ子)に出迎えられたタエコは、危険な雰囲気を察知して、すぐに踵を返す。そして道に迷っていたところをサクラに助けられ、またハマダに戻ってきた。それからは徐々に、ハマダでの生活に馴染んでいくタエコ。編み物をしたり、釣りをしたり、ただ海を眺めたり、気ままに日々を過ごすうち、彼女の心の枷がゆっくりと外れていく。数日後、タエコを「先生」と呼ぶ青年・ヨモギ(加瀬亮)がハマダに現れ、すぐにここの生活に溶け込む。いつしか全員めがねを掛けた五人は、お互いの素性もよく知らないまま、奇妙な連帯感で結ばれていった。だがやがて季節の変わり目が訪れ、ヨモギはハマダを去って行く。タエコも元の生活に戻ることにするのだが、気がつけばまたハマダに戻っているのだった。




5-18. 感染列島

監督 瀬々敬久
出演 妻夫木聡檀れい国仲涼子
2008年(東宝)

解説
妻夫木聡、檀れいら、豪華キャストで贈るパニック・ムービー。新型ウイルスの猛威で未曾有の危機にさらされる日本列島の様相を、ある救命救急医の姿を通して活写する。

ストーリー
市立病院で救命救急医として勤務する松岡剛(妻夫木聡)のもとに運び込まれた急患。その患者の症状は新型インフルエンザのものだったが、何かが違っていた。あらゆるワクチンが効かず、やがて患者は死亡した。これは、新たな感染症ではないのか? 剛の不安は的中し、同僚の医師である安藤(佐藤浩市)をはじめ、医療スタッフや他の患者たちにまで院内感染は蔓延し、病院内はパニック状態に陥る。奇跡的に回復したのは、第一感染者の妻である真鍋麻美(池脇千鶴)だけだった。パンデミックと名づけられたこの謎の感染症蔓延の事態を重く見た世界保健機関は、メディカルオフィサーとして小林栄子(檀れい)を派遣する。彼女は、かつての剛の恋人でもあった。栄子は病棟全体を隔離し、新規患者の受け入れを拒否して、患者の症状によって治療の優先順位を決めていくことを要請する。ウイルスの蔓延は驚異的なスピードで加速していった。患者の数は全国で数千万人を超え、日に日に増加していく死亡者たち。献身的に働いていた看護婦の三田多佳子(国仲涼子)も、夫の英輔(田中裕二)と幼い娘を残して息を引きとった。日本は崩壊寸前にあった。交通機関は凍結され、都市機能も停止した。感染源を特定するため奔走する剛は、ウイルス研究者である鈴木浩介(カンニング竹山)に法を破って検体を提供する。その甲斐あって、鈴木は抗体ワクチンの抽出に成功した。一方、鳥インフルエンザウイルスの権威である仁志稔(藤竜也)と剛は、南の島を訪れる。感染源となったその島の人々はほとんど死に絶え、わずかな子供たちだけで生活していた。自身も末期ガンに冒されて、病とともに生きる道を選択した仁志は、その島に残って治療医となることを決意した。鈴木が開発した抗体ワクチンによって、パンデミックは鎮静した。しかし、同じような事態がまたいつ起こるかもしれない……。




5-19. 長崎ぶらぶら節

監督 深町幸男
出演 吉永小百合渡哲也高島礼子
2000年(東映)

解説
 作詞家なかにし礼の直木賞受賞作を2大スター共演で映画化。明治から昭和期にかけての長崎を舞台に、伝説の芸者の真摯な生きざまと、大人の男女の純愛を情緒たっぷりにつづる。

ストーリー
日本三大花街のひとつと言われた丸山の遊郭に売られておよそ40年、長崎一と言われるまでの名芸者となった愛八は、その気っぷのよさから誰からも慕われていた。ある日、彼女は五島町の大店・万屋の十二代目で、長崎でも指折りの風俗研究の学者・古賀と運命的な出会いを果たす。学問を極める為なら、財産を使い果たしても構わないと考えている古賀。そんな古賀の頼みを受けて、愛八は長崎に伝わる歌を探し記録する旅に同行する。旅は約二年間に渡り、やがてふたりの間に特別な感情が芽生えるが、決して肌を重ねることはなかった。旅の終わり、ふたりは長崎ぶらぶら節という歌に出会う。それは、愛八にとって想い出の歌であった。彼女が遊郭に売られる時、女衒の男が歌ってくれた歌だったのだ。歳月が過ぎ、年号は昭和へ移った。古賀と会わなくなっていた愛八は、少女の頃から可愛がっているお雪に芸を仕込んでいた。ところが、そのお雪が肺病にかかってしまう。決して安くはない治療費用を捻出する為、詩人・西條八十の紹介で“長崎ぶらぶら節”をレコードに吹き込み、その印税を全てお雪の治療費に当てる愛八。今や、お雪は愛八の人生そのものとなっていた。お陰でお雪は快復し、お披露目の日を迎える。だが、その席に披露目の資金を提供してくれた古賀が招待されていることを知った愛八は、決して顔を出そうとしなかった。彼女は、古賀への想いを一通の手紙に認めると、参詣した身代わり天神の境内で息絶えるのであった。




5-20. RAILWAY 49歳で電車の運転士になった男の物語  

監督 錦織良成
出演 中井貴一高島礼子本仮屋ユイカ
2010年(松竹)

解説
中井貴一が50歳を目前にして、子供の頃からの夢だった電車の運転士を目指し、家族との絆を取り戻していく男に扮した感動ドラマ。島根東部を走る電車とその田園風景が心を和ませる。

ストーリー
大手家電メーカーの経営企画室室長、筒井肇(中井貴一)は50歳を目前に、取締役への昇進を告げられるが、家族を顧みる余裕もなく仕事に追われる日々を送っていた。肇の妻・由紀子(高島礼子)も、長年の夢だったハーブショップを開店、だが肇との距離は広がり、会話もほとんどなくなっていた。就職活動中の娘・倖(本仮屋ユイカ)は、自分の夢が見つからず、日々悶々としている。そんなある日、故郷の島根で一人暮らしをしている肇の母・絹代(奈良岡朋子)が倒れたという連絡が入る。更に追い討ちをかけるように、同期の親友・川平(遠藤憲一)が事故死したという知らせが届いた。久しぶりに帰った実家で、肇はかつて必死に集めていた電車の切符を見つけ、子供の頃、“バタデン”(一畑電車)の運転手になるのが夢だったことを思い出す。目の前のことに追われ、やりたいことに挑戦さえしていない。そんな肇の中を、熱い想いが駆け抜けた。肇は会社を辞め、一畑電車の運転士採用試験を受けることを決意。49歳、しかも大手企業のエリートだった肇の応募に、一畑電車社長・大沢(橋爪功)と部長・石川(佐野史郎)はただ驚くばかりであったが、肇の熱意に動かされ、採用を決める。妻と娘を東京に残して、肇の運転士見習いの研修が始まった。その後、晴れて運転士試験に合格、先輩の福島(甲本雅裕)らの指導を受けながら肇は“バタデン”運転士として働き始める。介護士・森山亜紀子(宮崎美子)の献身的な介護もあり、絹代は入院生活やリハビリにも慣れてきた。肇の転職を知った絹代は、そっけない態度を取りながらも、嬉しそうな息子の様子に思わず顔をほころばせるのだった。やがて、夏休みに入った倖が島根に来て、絹代の介護を手伝うようになった。一方、由紀子のハーブショップは雑誌でも紹介され、軌道に乗り始めてきた。夢に向かって真っ直ぐに生きる肇の姿に影響され、誰もが変わり始めたある日、絹代の病状が急変する……。




5-21. おっぱいバレー

監督 羽住英一郎
出演 綾瀬はるか青木崇高仲村トオル
2008年(ワーナー・ブラザース映画=東映)

解説
綾瀬はるか主演の異色青春映画。少年たちを奮い立たせるために、試合に勝ったら胸を見せると宣言してしまったバレーボール部顧問の女教師を中心に、爆笑&感動の騒動が展開。

ストーリー
1979年、北九州。23歳の寺嶋美香子(綾瀬はるか)は、新任教師として戸畑第三中学校に赴任する。美香子は中学の時に、1人の教師と出会ったことをきっかけに国語の教師になった。しかし、前の学校でのある事件で生徒の信頼を失い、教師という仕事への希望を失っていた。それでも美香子は新天地での再スタートに意気込み、男子バレーボール部の顧問に立候補する。だが、男子バレー部にいたのは、バレーボールより女の子のことしか頭にない5人の生徒だった。美香子は彼らのやる気を出すため、試合に勝ったらなんでもすると宣言する。すると、美香子のおっぱいを見せるという約束をさせられる。夢のような約束を手に入れた部員たちは、今までとは別人のように練習に励む。美香子は、約束は実現したくないが、部員たちに勝つ喜びを教えたいという矛盾する想いに悩む。しかし、目標に向かって一生懸命にがんばる部員たちと向き合い、信頼関係を築きながら、教師としての自信も取り戻していく。だが、試合を間近に控えたある日、例の約束が学校にばれてしまい、大問題になる。美香子は、一人前の教師になって恩師に報告したいと思いながら、再び自信を喪失してしまう。しかし、亡き恩師の墓前で、夫人から思いがけない事実を知らされる。




5-22. 亡国のイージス

監督 阪本順治
出演 真田広之中井貴一寺尾聰
2005年(日本ヘラルド映画=松竹)

解説
「戦国自衛隊1549」の人気作家、福井晴敏の原作を、阪本順治監督が映画化。鉄壁の防御を誇る海上自衛隊のイージス艦でのクーデター事件を通し“国防”の意味を問う問題作だ。

ストーリー
海上訓練中の海上自衛隊護衛艦“いそかぜ”が、FTG(海上訓練指導隊)の溝口3佐を騙り乗り込んだ某国のテロリスト、ヨンファと副艦長・宮津の共謀によって乗っ取られた。乗員たちが全員離艦させられる中、諜報機関DAISの調査官・如月と共に艦内に残った先任伍長の仙石は、彼らの謀略を阻止すべく反撃を開始するが、ヨンファたちは対水上訓練の予定されていた“うらかぜ”を対艦ミサイル“ハープーン”で撃沈させると、この前代未聞の事態に急遽召集された梶本総理以下、国家安全保障会議の面々に、宣戦布告とも取れる通告をする。それは、米軍が極秘裡に開発した、僅か1リットルで東京中の生物を死滅させる威力を持つ“GUSOH”なる特殊兵器の存在を明らかにしなければ、その特殊兵器で東京を攻撃すると言うもので、既にそれはヨンファたちの手に落ちていた。やむを得ず、核爆発に匹敵する熱量を生み出すGUSOHの解毒剤とも言える爆薬“テルミット・プラス”の使用を決定する政府。だが、多くの犠牲者を出したものの、仙石たちの活躍でヨンファの計画は壊滅し、GUSOH奪還にも成功。東京湾内を暴走するいそかぜも、過ちに気づいた宮津によって爆沈し、日本は戦争の危機を免れるのであった。




5-23. 白夜行

監督 深川栄洋
出演 堀北真希高良健吾船越英一郎
2010年(ギャガ)

解説
ベストセラーとなった、東野圭吾の同名ミステリー小説を映画化。ある殺人事件に翻弄される男女の悲劇的な運命を映し出す。堀北真希が主演を張り、自分の手は汚さず、虎視眈々と自分の地位を確立していく“悪女”に挑戦。また、共演の高良健吾も、女への愛ゆえに次々と犯罪に手を染めていく“闇”を抱えた青年を迫真の演技で見せる。

ストーリー
昭和55年。とある廃ビルの密室で、質屋の店主が殺された。すぐに妻の桐原弥生子(戸田恵子)と従業員で弥生子の愛人、松浦勇(田中哲司)に嫌疑がかかるが、所轄の担当刑事である笹垣潤三(船越英一郎)に10歳になる息子の桐原亮司(今井悠貴)が母親のアリバイを証言する。一方、捜査本部は、被害者が事件の直前、西本文代(山下容莉枝)という女の家を訪ねていたことを突き止める。だが、笹垣の職務質問に嘘で答えようとした文代を制したのは、10歳の少女・西本雪穂(福本史織)だった。その後、文代の若い恋人が事故死、質屋殺しの決定的証拠品も発見され、その後を追うかのように文代がガス中毒死、事件は被疑者死亡のまま解決を見る。だが、笹垣はどうしても腑に落ちない。被疑者の息子と容疑者の娘の姿が、いつまでもちらついて去らないのであった……。数年後。遠戚である唐沢礼子(中村久美)の養女となった唐沢雪穂(堀北真希)は、著名なお嬢様学校、清華女子学園に通う美しく聡明な女子高生になっていた。入学当初は「昔は貧乏で、実の母親が殺人犯」という噂もあって学内でも浮いた存在だったが、噂はすぐに消え、やがて名実ともに学園のスターになっていく。大学に進学してからは、親友の川島江利子(緑友利恵)と社交ダンス部に入部、まもなく周囲を魅了する存在となる。一方、桐原亮司(高良健吾)は、事件後実家を離れ、自活するようになっていた。以前は欲求不満のオバサン相手に性を売ることで収入を得ていたが、とある乱交パーティーで20歳も年上の典子(粟田麗)と出会い、心通うものを感じて同棲するようになる。不倫に傷つき自暴自棄になっていた典子と亮司は、互いの心の傷をそっと癒し合うようにささやかな生活を営んでいた。そんな中、笹垣は未だ質屋殺しの一件に囚われていた。やがて、自らの命までも狙われるようになった時、遂に笹垣は19年前に結ばれた確かな絆の存在に思い至るのであった……。




5-24. 刑務所の中

監督 崔洋一
出演 山崎努香川照之田口トモロヲ
2002年(ザナドゥー)

解説
服役経験のある花輪和一原作の人気コミックを映画化。刑務所内の人間模様が丁寧につづられ、絶妙なユーモアをかもし出す快作だ。意外にのどかな囚人たちの生活が痛快!

ストーリー
銃砲刀剣類等不法所持及び火薬類取締法違反で懲役3年の実刑判決を受け、北海道・日高刑務所に送られたミリタリーおたくの中年・ハナワ。彼は、雑居房の4人の受刑者らと共に、厳しい規律に縛られながらもそれなりに快適な獄中ライフを過ごしていた。毎日繰り返される他愛のない会話、作業場での労働、2日に一度の入浴、夕食後のテレビ、お正月にはおせち料理も出るし、免業日には飲み物&お菓子付き映画鑑賞会もある。ところがある日、捜索(抜き打ち検査)で出所後の互いの連絡先をメモした紙片を発見された5人は、不正連絡で懲罰房に入れられてしまう。しかし、そこで黙々と薬袋を作ることになったハナワは、今までで一番充実した時間を過ごすのであった。




5-25. DOG×POLICE 純白の絆

監督 七高剛
出演 市原隼人戸田恵梨香村上淳
2011年(東宝)

解説
海猿」の原作者・小森陽一の原案を基に、人気若手俳優の市原隼人が警備犬の訓練士に扮し、ハンディキャップをもつ犬と共に大事件の解決に挑む熱血アクション。監督はニューヨーク大学映画学科を卒業後、連続警察ドラマなどの演出で腕を磨いた七高剛。戸田恵梨香、村上淳、カンニング竹山など個性派キャストの共演に注目。

ストーリー
早川勇作(市原隼人)は、人一倍正義感が強く、犯罪者に対して天性の鋭い嗅覚を持つ優秀な警察官。しかし、刑事を目指す彼に下った異動先は、警視庁警備部警備二課装備第四係。勇作は東京郊外にあるその新たな職場を訪れるが、そこは精鋭のハンドラーと13頭の警備犬がいる警備犬の訓練所だった。凶悪犯罪やテロ、そして地震や台風などによる大規模な自然災害全ての事象に出勤する部隊で、ここの警備犬は、鈴の付いた首輪を着ければ人を救い、革の首輪に付け替えれば人を制圧もする使命を負っている。ただし警備犬が創設されて30年、災害救助に出たことはあるが、警備出勤はまだ一度もなかった。慣れない仕事と犯罪捜査への渇望で、仕事への意欲を失っていく勇作だったが、ある日、ハンディキャップを持って生まれた犬“シロ”に出会う。勇作同様、シロもまた優秀な警察犬の血を引いていたが、劣勢遺伝(アルビノ)で生まれたために警備犬への道を閉ざされてしまっていたのだ。勇作はそんなシロに自分を重ね合わせ、警備犬へと育成しようと決意する。勇作の情熱と愛情により、その才能を開花させていくシロ。いつしか二人の間に、言葉を越えた親和と絆が芽生えていく。だが警備犬は“装備”にしか過ぎない。もしもの時は人間の楯になることを要求され、凶悪犯罪者が人間に向けて凶器を向けた時、自分はシロに楯になることを指示できるだろうか、と勇作の心は激しく揺れる……。人命救助と犯罪阻止のためにプロフェッショナルに徹する若き女性警官・水野夏希(戸田恵梨香)は、若くしてNo.1ハンドラーの地位を確立、国際救援隊にも参加して数多くの命を救ってきた警備犬の可能性を信じ、強い使命感を持っている。しかし彼女もまた苦悩を抱え、勇作とは違う立場で警備犬を警察全体に認めさせるために戦っていた。勇作と夏希、二人の思いは交錯し、プライドが激突する。そんな中、警視庁を震撼させる連続爆破事件が発生。若きハンドラーと警備犬の永遠に語り継がれる伝説が今、幕を開ける……。




5-26. 陽はまた昇る

監督 佐々部清
出演 西田敏行渡辺謙緒形直人
2002年(東映)

解説
家庭用ビデオ規格競争の実話にもとづく感動のヒューマン・ドラマ。戦後初の経済マイナス成長期を背景に、名もなき企業戦士たちの奇跡の逆転劇がドラマチックに展開。

ストーリー
70年代前半、それまで右肩上がりだった日本経済が初めてマイナス成長に陥った。そんな中、家電メーカー業界8位の日本ビクター本社開発部門に勤める開発技師・加賀谷に、事業部長として赤字続きの非採算部門である横浜工場ビデオ事業部への異動と大幅な人員整理の厳命が下る。だが、人材こそ何よりの財産と考える加賀谷は、ひとりの解雇も出さないために極秘のプロジェクト・チームを結成。本社に悟られぬようにしながら、家庭用VTRVHSの開発に着手する。ところが数年後、家電メイカーの雄・ソニーがベータマックスを発表。足踏み状態の続くビデオ事業部は崖っぷちに立たされるが、それでも彼らはVHSに夢と希望を託し開発を続けた。そして、遂にベーターマックスを超える録画が可能な試作機が完成する。しかし、その時既にベータマックスは国内規格として採用されようとしていた。このままでは、自分たちの努力が水泡に帰してしまう。そこで加賀谷は大阪へ向かい、親会社である松下電器相談役・松下幸之助にVHS方式の採用を直訴。果たして、加賀谷の願いは聞き入れられ、その結果、ひとりの解雇者も出さずにVHS方式のプレイヤーの販売にこぎ着けることに成功するのだった。その後、加賀谷は脳梗塞で倒れた妻の世話のために、定年を前に退職を決めた。最後に彼が工場を訪れた時、従業員たちはVHSの人文字で彼を送った。




5-27. 鬼平犯科帳

監督 小野田嘉幹
出演 中村吉右衛門岩下志麻藤田まこと
1995年(松竹)

解説
小説・テレビ・舞台でと、幅広くその人気を誇る鬼平こと長谷川平蔵の活躍を描いたチャンバラ時代劇。監督は同テレビシリーズの監督もつとめている小野田嘉幹。原作は池波正太郎の同名ベストセラー。主演はテレビシリーズでもおなじみの中村吉右衛門。松竹創業100周年記念作品。

ストーリー
次々に盗賊を捕まえては、手柄を立てていく火付盗賊改方長官・長谷川平蔵。鬼の平蔵の異名を持つ彼の前に狐火を名乗る盗賊が現れる。罪もない人々を惨殺して火を放つその盗賊は、しかし本物の狐火・勇五郎ではなく、彼の異母弟の文吉であった。平蔵の手下でその昔勇五郎と恋仲にあったおまさは、江戸に現れた勇五郎をかばうためにそれを平蔵に密告しに行くが、情に流されて任務を怠った彼女は平蔵に一喝される。その夜、勇五郎と共に文吉一味の元を訪れたおまさは、なぶりものにされかかってしまう。だが、それを救ったのは平蔵だった。平蔵はおまさを泳がせて文吉一味を捕まえる算段を取っていたのだ。事後、勇五郎の腕を落とすという厳しくも、しかし温かい裁きを下す平蔵に感謝しつつ、二人は江戸を後にした。ところで、文吉のバックには大阪一帯を牛耳る大盗賊・白子の菊右衛門がいた。江戸をその手中に収めたい彼は、次なる手だてとして江戸の大頭目・荒神のお豊に接近。刺客たちを江戸に送り込んで来るのであった。だが、お豊は菊右衛門に協力するふりをしながら、平蔵を改方から失脚させる作戦を一人練っていた。それは、平蔵の一人息子・辰蔵を肉体で誘惑すること。だが、菊右衛門の作戦もお豊の切り札もことごとく失敗。遂に菊右衛門一味は、平蔵の同心の家族を殺すという非情の作戦に出る。これに激怒した平蔵は、江戸の入り口という入り口に手下を送り、怪しい者がいれば片端から捕らえよと命令を下す。そんな折、勇五郎を流行り病で亡くしたおまさが、菊右衛門とお豊の情報を持って江戸に戻って来た。だが、平蔵はお豊の名前を聞いて顔色を変える。お豊は、以前平蔵と訳ありの仲の女だったのだ。全てを知った平蔵は菊右衛門の手下の作戦の裏をかき、一味を倒すことに成功する。大阪の菊右衛門はその知らせを聞いて江戸進出を諦め、お豊も平蔵自らの手によって御用となるのだった。




5-28. 冬の華

監督 降旗康男
出演 高倉健池上季実子田中邦衛
1978年(東映)

解説
殺した相手の娘を気にかけ、伯父だといつわり文通を続けながら、彼女の成長を見守るうちに再び義理によって人を殺す男の姿を描く。脚本は「君は海を見たか」の倉本聰、監督は「夜の演歌 しのび恋」の降旗康男、撮影は「犬神の悪霊」の仲沢半次郎がそれぞれ担当。

ストーリー
関東の東竜会幹部、加納秀次は、会長の坂田良吉を裏切り、関西の暴力団に寝返った松岡を殺害した。殺された松岡には三歳になる洋子という一人娘があり、加納は洋子を舎弟の南幸吉に託して、旭川刑務所に服役した。服役中、加納はブラジルにいる伯父といつわり、洋子と文通を続ける。十五年の刑期を終え、出所した加納は、洋子に加納の手紙を運ぶうち彼女の恋人となった竹田の案内で、洋子の姿を見ることができた。ある日、洋子の手紙によく書かれていた喫茶店で、加納は彼女と出会う。加納がブラジルにいる伯父ではないかと思った洋子は、彼にそれを尋ねようとするが、加納はすばやく彼女の前から去り、店を出て行った。組結成の話も断わり、堅気になろうと決心していた加納は、坂田から、息子の道郎の相談相手になってくれと頼まれる。加納と道郎が再会を喜び合ったのも束の間、坂田は関西の暴力団員に殺される。その仇を討つため、関西連合の三枝と東竜会を裏切った山辺を、道郎が狙っていることを耳にした加納は、坂田から道郎を頼まれたこともあって、苦悩する。山辺殺害を決意した加納は、洋子へ電話をかけ、当分日本には帰れないというのだった。翌日、南に道郎が外に出れないように見張らせた加納は、山辺のもとへ向かう。それは、再び会うことができないであろう洋子の幸福を願いつつ、十五年前の状況に戻ってしまう加納の宿命であった。




5-29. 旭山動物園物語 ペンギンが空をとぶ

監督 津川雅彦
出演 西田敏行中村靖日前田愛
2009年(角川映画)

解説
マキノ雅彦こと津川雅彦が、西田敏行を主演に迎えてメガホンを取った実録ドラマ。閉園の危機から立ち直った旭山動物園の軌跡を、温かな語り口でたどる。

ストーリー
北海道旭川市にある旭山動物園。小さい頃からいじめられっ子で、昆虫が大好きだった青年・吉田(中村靖日)が、新人飼育係としてやってくる。彼を迎えたのは、懐が大きく情熱あふれる滝沢園長(西田敏行)をはじめ、ベテラン飼育係たち。だが、長らく園の経営状況は不調が続いていた。客寄せめのために設置されたジェットコースターには沢山の客が列をなすが、同じ敷地内の動物園は閑古鳥が鳴く。 その上、“動物園廃止”を叫ぶ動物愛護団体への対応、施設の修繕費用すら市から得られないなど、状況は切迫。そんな中でも、危機感を持った滝沢園長は園を立ち直らせるべく、日々奔走していた。その手始めに、飼育係に客の前で動物の魅力を解説させる“ワンポイントガイド”を開始し話題を作る。次に、客に夜行性動物たちの姿を見てもらう試み、“夜の動物園”を始めるなど、次々と新しいアイデアを繰り出し、自分たちの手で動物の素晴らしさを伝えていく。やがて、かつて愛護団体の1人として乗り込んだ獣医学部の学生、真琴(前田愛)が園に興味を持ち、新メンバーとして加わる。こうして園は次第に活気を取り戻していくが、敷地内に侵入したキタキツネが原因で、ゴリラのゴンタがエキノコックス症に倒れる。検査の結果、職員も動物もみな陰性だったが、この感染症の事実をマスコミに発表すると、たちまち世間は大騒ぎ。再び閉鎖の危機が訪れる。だが、滝沢園長と仲間たちは旭山動物園の存続を市民に直接呼びかける行動に出るのだった。翌年4月。なんとか廃園はまぬがれたものの、相変わらず客足は伸びないまま。だがその頃、幸運をもたらす出来事が。新しく就任した平賀市長(萬田久子)が滝沢園長の提案に興味を示してきたのだ。旭山動物園の人々が続けてきた努力、抱いてきた夢が、ついに大きな実を結び始める…。




5-30. ピーナッツ

監督 内村光良
出演 内村光良三村マサカズ大竹一樹
2005年(コムストック)

解説
“ウッチャン”こと内村光良が監督・脚本・主演を務めた野球映画。ある草野球チームの復活を、商店街の再開発をめぐる騒動を絡めてユーモラスにつづる。

ストーリー
草野球チーム「富士沢ピーナッツ」で“伝説のサード”と呼ばれた男・秋吉(内村光良)が、久しぶりに地元へ戻ってきた。10年前に優勝した「ピーナッツ」を題材にしたエッセイ『たかが草野球』が評価を受けた彼は、東京でスポーツライターとして活躍していた。かつては甲州最強としてその名を轟かせた「ピーナッツ」だが、今は弱小チームとなっていた。今日の試合もグラウンドに現れたのは、酒店の店主・相良(三村マサカズ)を始め、レコード店の店長・宮本(ふかわりょう)、クリーニング店の似てない3兄弟・ハルオ、ナツオ、アキオの5人だけ。その頃、チームの監督で商店街の組合長でもある草野は、別の問題を抱えていた。商店街が再開発の候補地となり、商店街はもちろん思い出の野球場まで消えてしまいそうだったのだ。秋吉は「新生ピーナッツ」を立ち上げるべく、元チームメイトと再会する。幼稚園で保父をしながら入院中の妻を支えるスラッガーの赤岩(レッド吉田)。肩を壊したことを機に、ロシア人の妻と小料理屋を営んでいる豪速ピッチャーの一鉄(ゴルゴ松本)。借金の取立てから逃げ回り、パチンコでその日暮らしの生活をしている文野(大竹一樹)。10年前とは違い、さまざまな事情を抱えるチームメイトたちだったが、秋吉自身も執筆活動に対する情熱を失いかけていた。そんな矢先、監督の草野がメンバーたちに黙って友好試合の話を決めてきた。相手は社会人最強のチーム、東和ニュータウンズ。しかも商店街の再開発を計画している会社のチームだった。しかも、「ピーナッツ」が勝てば再開発の計画は即効中止。負ければ再開発に全面協力するという条件つきだった。監督の娘・みゆきも新メンバーとして加わり、「新生ピーナッツ」と東和ニュータウンズは激戦を繰り広げるが、からくも敗れる。しかし試合を通してメンバーは忘れかけていた情熱を取り戻し、それぞれの日常へ帰ってゆくのだった。




5-31. 花のあと

監督 中西健二
出演 北川景子甲本雅裕宮尾俊太郎
2009年(東映)

解説
蝉しぐれ」「武士の一分」などの時代劇作家・藤沢周平の短編を映画化。時代劇初主演の北川景子が自身の運命を静かに受け入れていく女性を、凛としたたたずまいで演じる。

ストーリー
江戸時代。東北の小さな藩、海坂。満開の桜の下、以登(北川景子)は一人の若い武士、江口孫四郎(宮尾俊太郎)と出逢う。その男は下級の身分であったが、藩随一の剣士だった。自らも男に劣らぬ剣を遣う以登は数日後、父・寺井甚左衛門(國村隼)の許しを得て、ただ一度だけ孫四郎と竹刀を交える。激しく竹刀を打ち合いながら、以登の胸を焦がしていたものは、生まれて初めて感じる熱い恋心であった。だが、それは決してかなうことのない恋。以登には家の定めた片桐才助(甲本雅裕)という風采の上がらぬ許婚がいたのだ。意に沿わぬ人と結ばれゆく自分の運命に抗うことなく、以登は静かに孫四郎への想いを断ち切り、江戸に留学している才助の帰りを待ち続けるのだった……。数ヵ月後。海坂に冷たく白い雪が降り始めた頃。以登の元に、孫四郎が自ら命を絶ったとの報が舞い込んでくる。藩の重鎮である一人の男から謀られた孫四郎が、窮地に陥った末のことであった。そのあまりにも卑劣な行為に、以登は剣を手に取る。それは、孫四郎との思い出のため、そして人として守るべき「義」を貫くためであった。激闘の末、以登はその想いを果たし終える。以登のやるせなさ、切なさを温かく見守り、最後にそっと手を差しのべたのは、江戸から帰ってきた才助だった。孫四郎と出逢ってからちょうど一年後。海坂にめぐり来た春の陽射しの中、以登は再び満開の桜の下を歩いていた。風に散る花びらとともに、以登にとっての「花の季節」が確実に過ぎ去ろうとしていた。これまでにない穏やかな微笑みを浮かべながら、桜の道を行く以登の目には新たな人生が既に映っている。以登の数歩先には、のんびりと歩く才助の姿があった……。




5-32. 機関車先生

監督 廣木隆一
出演 坂口憲二倍賞美津子大塚寧々
2004年(日本ヘラルド映画)

解説
人気俳優・坂口憲二を主演に、伊集院静の同名小説を「ヴァイブレータ」の廣木隆一監督が映画化。瀬戸内海に浮かぶ小島を舞台に、口のきけない先生と生徒との温かな交流と心の成長を、叙情的につづられた人間ドラマ。

ストーリー
瀬戸内海に浮かぶ小島、葉名島に向かって一隻の連絡船が進んでいく。船には島を見つめている一人の青年、吉岡誠吾(坂口憲二)が乗っていた。一方、島で唯一の小学校、水見色小学校では校長の佐古周一郎(堺正章)が吉岡の到着を待ちわびていた。周一郎には、どうしても吉岡に来てもらいたい理由があったのだった。臨時教師がやって来る、そんな噂を耳にしていた子供たちの胸も期待と不安で大きく膨らんでいた。やがて周一郎と共に姿を現したのは大きな体に、優しい眼差しの先生だった。その口から最初の言葉を固唾を呑んで待つ子供たちに、吉岡は深々と頭を下げ、おもむろに黒板にむかって文字を書き出した。“ぼくは話すことができません。でも、みなさんと一緒にしっかり勉強します。どうぞよろしく”。あまりの驚きにあ然とする子供たち。しかしすぐに生徒の1人が「口をきかんの? でも先生は大きくて強そうだから、機関車先生や!」と教室の後ろにある機関車の写真を指す。途端に残りの生徒たちも大喜びして、一斉に先生に拍手を送る。こうして機関車先生と子供たちとの島での生活がはじまった。先生のオルガンに合わせて「月光仮面」を歌ったり、浜辺にスケッチに出かけたり、子供たちの楽しい日々は永遠に続くかに思えた。先生と子供たちは日を重ねるごとに深く、強い絆を結んでいった。しかし暗い雲から滝のような豪雨が降ったある日、大波と共に悲しい事件が突如として島を襲う。子供たちのリーダー格だった修平の父親の漁船が悪天候で難破し、不慮の死を遂げてしまったのだ。しめやかに行われた葬儀の最中、「父ちゃんは、死んどらん。葬式なんかするな!」と家を飛び出す修平。すっかり穏やかな海に向かって何度も父の名を呼ぶ修平を、先生はそっと抱きしめる。悲しみも冷めないある日、修平は島民にケンカを売られて無抵抗に殴られる先生の姿を目撃してしまう。憎しみは憎しみしか生まない、それを伝えたい先生の想いとは裏腹に、修平は強いと思っていた先生への信頼をすっかり失ってしまう。同じ頃、新任の先生が決まったという噂が島に流れ……。




5-33. やじきた道中 てれすこ

監督 平山秀幸
出演 中村勘三郎柄本明小泉今日子
2007年(松竹)

解説
古典落語の「てれすこ」などを下敷きに、弥次・喜多が珍道中を繰り広げる人情喜劇。歌舞伎の中村勘三郎が弥次、柄本明が喜多に扮し、小泉今日子演じる花魁と東海道を旅する。

ストーリー
時は太平。大阪で「てれすこ」という怪魚の噂が飛び交っている頃、江戸のとある遊郭では、花魁・お喜乃(小泉今日子)が、新粉細工職人の弥次郎兵衛(中村勘三郎)に、郷里の父親が病気だと嘘をつき、遊郭から連れ出してくれるよう頼んでいた。お喜乃に惚れている弥次郎兵衛は、これを快諾する。一方、舞台役者の喜多八(柄本明)は、舞台での大失敗を苦に自殺を企てるも、結局死にきれずにいた。その場を弥次郎兵衛とお喜乃に目撃された喜多八は、旅への同行を申し出る。機転をきかせて、お喜乃を遊郭から連れ出し、江戸を後にした三人。途中、喜多八の酒癖の悪さから宿を壊し弁償することになったり、狸を助けて恩返しをされたりと、珍道中は続く。三人は、ようやく山中の温泉で一息つく。弥次郎兵衛への想いを募らせていたお喜乃は、弥次郎兵衛に全て嘘であったことを打ち明ける。そしてまた、喜多八から、弥次郎兵衛の亡き妻と自分がうり二つであることを聞かされるのだった。翌朝、お喜乃は、置き手紙を残し、二人の元を去っていった。お喜乃を追う弥次郎兵衛と喜多八。その頃、お喜乃は、遊郭からの追っ手をかわして、生まれ育った村へと戻っていた。遅れて村へ到着した弥次郎兵衛と喜多八は、村人達に遊郭からの追っ手と間違われ、お喜乃は死んだと告げられる。弥次郎兵衛は、悲しみにくれ、村でお喜乃の葬式をあげる。お喜乃は二人の前に姿を現すが、結局、亡き妻の代わりにはなれないと身を引き、村に留まる決意をする。村を出た弥次郎兵衛と喜多八は、立ち寄った店でてれすこを見つけ、早速口にする。だが、弥次郎兵衛は、てれすこの毒にあたって、生死の境をさまよう羽目に。朦朧とする意識の中で、亡き妻と再会した弥次郎兵衛は、亡き妻にお喜乃への想いを打ち明ける。無事に息を吹き返し、喜多八と共に旅を続ける弥次郎兵衛。そんな二人の前に、再びお喜乃が現れ、三人の旅は続いていくのだった。




5-34. まほろ駅前 多田便利軒

監督 大森立嗣
出演 瑛太松田龍平片岡礼子
2011年(アスミック・エース)

解説
第135回直木賞に輝いた三浦しをんの同名小説を、個性派俳優の瑛太&松田龍平の共演で映画化した人間ドラマ。東京郊外の“まほろ市”で便利屋を営む男と、そこに転がり込んできた同級生のコンビが、さまざまな事件やワケありな依頼人たちの家庭事情に巻き込まれていく。監督は「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」の大森立嗣。

ストーリー
東京から神奈川へ突き出るように位置する街“まほろ市”。都会でもなければ田舎でもない。そんな街の駅前で便利屋“多田便利軒”を営むバツイチ男、多田啓介(瑛太)は淡々と仕事をこなす真面目なしっかり者。だが、ある年の正月、客から預かったチワワに逃げられてしまう。やがてバス停で見つけたチワワを抱く男は、中学時代の同級生・行天春彦(松田龍平)だった。かつての無口な印象とは違い、よく喋る風変わりな男に変貌した行天と一緒にチワワを返しに行く多田だったが、依頼人は既に夜逃げ。所在を突き止めたものの、新しい飼い主を探すよう頼まれてしまう。さらに、半ば無理やり行天が多田の家に居候することになり、多田と行天、そしてチワワの奇妙な共同生活が始まる。3月になり、自称コロンビア人娼婦ルル(片岡礼子)とルームメイトのハイシー(鈴木杏)がチワワの引き取りを申し出てくる。多田はそれを断るが、行天は条件付きでチワワの受け渡しを約束してしまう。行天の勝手な行動に苛立つ多田だったが、“犬は必要とする人に飼われるのが一番幸せだ。”という彼の言葉に心を動かされる。6月。小学生、由良(横山幸汰)の塾の送迎を依頼された多田と行天。親の愛情に飢える由良は当初、生意気な態度を見せるが、次第に2人になついていく。その傍ら、由良が密かに覚せい剤の運搬に関わっていることを知った多田は、元締めの星(高良健吾)と取引して由良を解放。親の愛情について、優しく由良を諭す。8月になると、行天の元妻、三峯凪子(本上まなみ)が現れ、多田は彼の秘密の一部を知る。同じころ、ハイシーに付きまとうストーカーの山下(柄本佑)を撃退する行天。だが、山下は星の手下だった。多田の事務所を訪れた星は、問題児の山下と共に、深入りした行天を消すと警告。そして10月。忘れられない過去と否応無しに向き合うこととなった2人は、遂に最後の季節を迎える……。




5-35. アンフェア the answer

監督 佐藤嗣麻子
出演 篠原涼子佐藤浩市山田孝之
2011年(東宝)

解説
篠原涼子がクールで型破りな敏腕刑事、雪平夏見を演じる、人気シリーズの劇場版第2作。北海道ののどかな街で連続殺人事件が発生し、その容疑をかけられた雪平が、事件の裏に潜む陰謀に迫る。レギュラーキャストに加え、佐藤浩市、山田孝之、大森南朋ら実力派俳優たちが参加。重厚かつスリリングな物語に華を添えている。

ストーリー
殺人事件の容疑者となった人物が次々に殺される前代未聞の“予告殺人”が発生。東京を追われ北海道・西紋別署に勤務する雪平夏見(篠原涼子)にその連続殺人の容疑がかかる。雪平逮捕の一報が伝えられ騒然となる警視庁内。緊迫する状況の中、雪平は事件の真相を追い求め、警察からの逃避行を決意する。そこで判明するひとつの事実。犯人の狙いは国家機密が隠されたUSBであった。USBを巡り元夫、同僚、上司、検察、凶悪犯罪者ら雪平に近づく男たち。その背後で蠢く国家を脅かす巨大な陰謀。様々な思惑が絡み合う中、予告殺人と警察の暗部をつなぐUSBを最後に手にするのは。雪平は誰を信じ、誰に裏切られ、そして誰を裏切るのか……。




5-36. 余命1ケ月の花嫁

監督 廣木隆一
出演 榮倉奈々瑛太手塚理美
2009年(東宝)

解説
テレビドキュメンタリーと書籍で、日本中を涙させた実話を映画化した感動作。24歳で末期ガンとなった女性と周囲の人々が織りなす、愛と絆の物語を温かに映し出す。

ストーリー
イベントコンパニオンの千恵(榮倉奈々)は、ある展示会場で知り合った太郎(瑛太)から交際を申し込まれる。だが、千恵はそのとき既に乳ガンと診断されていた。悩みながらも交際をスタートさせるが、数ヵ月後、自分の病気のこと、そして胸を切除しなければならないことを告白。太郎に別れを告げ、姿を消してしまう。そんな千恵を追って屋久島へたどり着く太郎。“俺は変わらない。一緒に頑張ろう。”その言葉に動かされ、千恵は再び太郎と生きていくことを決意。しかし、そんな2人にとって辛い事実が明らかになる。千恵のガンが再発したのだ。激しい痛みと闘いながら、治ると信じて治療に励む千恵。そして、献身的に看病する太郎、千恵の父・貞士(柄本明)、千恵の叔母・加代子(手塚理美)。やがて3人は医師から、千恵の余命があと1ヶ月であると告げられる……。




5-37. 風立ちぬ (1976)

監督 若杉光夫
出演 山口百恵三浦友和芦田伸介
1976年(東宝)

解説
山口百恵主演文芸シリーズ第5作目。若くして死んだ薄幸の少女と彼女を最後まで見守る青年との愛を描いた堀辰雄の同名小説の再映画化。脚本は「蔵王絶唱」の宮内婦貴子、監督は潤色も担当している「娘たちは風にむかって」の若杉光夫、撮影は「奴隷妻」の前田米造がそれぞれ担当。

ストーリー
昭和17年、初夏。軽井沢にある水沢欣吾の別荘には、療養中の一人娘・節子の友人たちが集まり、いつもはひっそりとしている別荘も、花が咲いたように明るかった。結城達郎も友人の一人で、ひそかに節子に好意を寄せているのだが、その日、節子のお見合いの話が話題となり、達郎の心は重かった。しかし、その話に気乗りのしない節子の様子を見た達郎は、ますます節子に惹かれるのだった。その夏の終り、節子の見合いは友人たちの計略で見事に破談となった。秋も深まった頃、達郎の友人・大浦が外地に向うことを達郎に告げた。戦局は悪化していく一方だった。節子に再び縁談がもちあがった。達郎は決心し、節子と会って結婚を誓った。達郎は兄・真次郎に結婚のことを打ち明けたが、兄は今の情勢を説き、達郎の友人・大浦の戦死を告げた。達郎は動揺し、節子との結婚を諦めた。再び新緑の季節が来た。節子は結核で犯された体を軽井沢で一人寂しく療養していた。その頃、上野で達郎は欣吾と会って初めて、節子の病気が重い事を知った。その足で軽井沢に向った達郎だが、病気が感染するのを恐れる節子は会おうとしなかった。実家に戻った達郎は、節子との結婚の話をするが、病弱の娘とは絶対に駄目だ、と一喝され、家を飛び出した。やがて、強引に節子に面会した達郎は、節子を説き伏せて、二人で富士見の療養所へ向かった。そして、二人は単調な時間の流れに本当の幸せをつかんだように思える毎日をすごした。やがて、達郎の徴兵猶予が取り消され、二人の別れが迫って来た。さらに、少しずつ快方に向かっていた節子の容態も再び悪化してきた。その頃、達郎の兄・真次郎が戦地に向かうことになり、父に達郎と節子の結婚を哀願するのだった。達郎と節子は、残された短い時間の中で二人の愛の証しを確かめあった。高原に雪が降りだしたころ、節子は喀血をくり返し、息を引き取った……。




5-38. 釣りバカ日誌 イレブン

監督 本木克英
出演 西田敏行三國連太郎村田雄浩
2000年(松竹)

解説
おなじみの釣りバカコンビ・浜ちゃんとスーさんが巻き起こす騒動を、沖縄を舞台に描いた人気コメディ・シリーズの通算第13弾。監督は「てなもんや商社 萬福貿易会社」の本木克英。やまさき十三と北見けんいちによる原作コミックを下敷きに、「花のお江戸の釣りバカ日誌」の山田洋次と朝間義隆が共同で脚本を執筆。撮影を「あ、春」の長沼六男が担当している。主演は、「花のお江戸の釣りバカ日誌」の西田敏行と「虹の岬」の三國連太郎。ゲストスターとして、「ゴジラ 2000ミレニアム」の村田雄浩、「おあずけ」の桜井幸子、「お受験」の余貴美子が出演している。

ストーリー
釣り三昧の日々を送っている万年ヒラリーマンの浜ちゃん。ある日、同じ営業三課に勤めるOL・志乃から縁日でもらったウサギが育ちすぎて困っているとの相談を受けた彼は、真面目だけが取り柄の後輩で釣りの弟子でもある・宇佐美っを引き取り手として彼女に紹介した。ところが、宇佐美の故郷ではウサギを食べる風習があったのだ!それを知った志乃は、ショックのあまり入院。志乃に秘かな思いを寄せていた宇佐美も、二度と彼女に合わせる顔がないと沖縄営業所に転勤してしまう。同じ頃、平成不況の真っ直中で大量リストラをすべきか頭を悩ませていたスーさんに、風力発電所視察の為の沖縄主張の話が決定していた。浜ちゃんをお供に沖縄へ飛ぶスーさん。だが、会社のことで頭が一杯に彼は、釣りを楽しむどころではない。そんなスーさんをよそに、宇佐美と仕事そっちのけで釣りを楽しむ浜ちゃんだったが、宇佐美の小型の釣り舟・サバニが故障したふたりは無人島に漂着してしまう。一方、そんなこととは露知らず、タクシー会社の女社長・玉恵から会社や社員に対する健気な話を聞いて、社員こそが会社の財産であることを改めて痛感したスーさんは、東京へ戻るとリストラ案の廃止を決断するのであった。通りかかった釣り舟に助けられ、浜ちゃんが東京に戻ってきたのはそれから4日後のことだった。4日間の無断欠勤に、遂にスーさんもブチギレ。しかし、彼に下す適切な懲罰は見つからないとして処分保留となる。そんな浜ちゃんに、志乃と宇佐美の結婚話が届く。ふたりは、ウサギが取り持った縁で秘かな交際を続けていたのだ。それから数日後、釣り客で賑わう埠頭に、仲直りした浜ちゃんとスーさんの姿があった。




5-39. 茶々 天涯の貴妃

監督 橋本一
出演 和央ようか寺島しのぶ富田靖子
2007年(東映)

解説
井上靖の歴史小説「淀どの日記」を映画化した大型時代劇。織田信長のめいで、豊臣秀吉の側室となった淀殿こと茶々の波乱の生涯を、宝塚出身の和央ようかが迫真の演技で体現。

ストーリー
戦国武将・織田信長の妹・お市の方と小谷城の城主・浅井長政との間に生まれた三姉妹、茶々、はつ、小督は、浅井長政が織田信長に攻め滅ぼされた1573年、お市の方とともに織田家の重臣・柴田勝家の元に身を寄せることとなる。信長亡き後、戦国の覇者として羽柴秀吉が頭角を現し、1583年、秀吉に攻められた柴田勝家は最期の時を迎える。勝家とともに自害する道を選ぶお市の方。一緒に死のうとする娘達に「あなたたちだけが、私の誇りなのです。生きるのです」と言い残し、息絶える。生きることを決意した三姉妹は、秀吉の囚われ人として暮らすことになる。しかし、小督は尾張の小大名・佐治与九郎のもとへ、はつは京極高次のもとへ嫁ぐことになり去っていく。ひとり残された茶々のところに、豊臣と姓を改めて関白となった秀吉の奥向きを束ねる大蔵卿の局が訪ねてくる。秀吉には世継ぎがなく、またその世継ぎを産めるのは、秀吉が昔から見初めていた茶々しかいないという。茶々にとって秀吉は両親を死に追いやった憎い仇。「お側に上がるということは、天下様を殺すこともできるということですね」と復讐の決意を大蔵卿に漏らしながらも、茶々はこの話を請けることにする。しかし、無邪気に彼女のことを愛おしむ秀吉の心情に触れ、茶々の殺意は揺らぐ。しだいに彼女は、天下人の世継ぎを産むことに生き甲斐を見出すようになるのだった。




5-40. ROOKIES-卒業-

監督 平川雄一朗
出演 佐藤隆太市原隼人小出恵介
2009年(東宝)

解説
森田まさのり原作のコミックを若手俳優共演でテレビ化し人気を博したスポ根ドラマの映画版。甲子園を目指し、絆と友情を育んでいく野球部員と熱血教師の物語が繰り広げられる。

ストーリー
新米教師の川藤(佐藤隆太)が、不祥事で荒れていた二子玉川学園、通称“ニコガク”野球部を立て直して一年。2009年の春、安仁屋(市原隼人)、新庄(城田優)、若菜(高岡蒼甫)ら野球部の面々は3年に進級し、2人の新入生が入部してくる。1人は中学時代から有望選手として知られた赤星奨志(山本裕典)。もう1人は平塚(桐谷健太)をヒーローとして崇める濱中太陽(石田卓也)。だが入部早々、新入生2人と他の部員たちの関係はギクシャクする。メジャーリーグ志望の赤星は高校レベルの練習では不足と、横柄で反抗的な態度を取る。濱中も、本当は頼りない平塚の実態を知り、やる気をなくしてしまう。そんなとき、不良学生にからまれた赤星を助けた御子柴(小出恵介)が足を骨折。夏の甲子園予選出場が絶望的となる。ギプス姿で病院のベッドに横たわる御子柴を前に、大会での活躍を誓う部員たち。そんな彼らの決意が、赤星、濱中の心を動かす。こうして迎えた予選大会。そこには決死のリハビリでケガを克服した御子柴の姿もあった。一回戦、二回戦と順調に勝ち進み、ついに決勝戦へ。決勝の相手は笹崎高校。中学時代からの安仁屋のライバル、川上貞治(武田航平)がエースとして率いるチームだった。笹崎側の巧妙な作戦と川上のフォークボールを相手にニコガクは大苦戦。そんな状況の中、さらに若菜に悲劇が。果たして、ニコガク野球部は甲子園に出場することができるのか……?




5-41. ハンサム★スーツ

監督 英勉
出演 谷原章介塚地武雅北川景子
2008年(アスミック・エース)

解説
着るだけでハンサムになれるハンサム・スーツを手に入れたブサイク男が、ブサイクとハンサムの二重生活を送りながら本当の幸せを見つけるまでを描くコメディ。監督は、CMディレクターを経て映画初監督となる英勉。脚本は「ラブ★コン」の鈴木おさむ。出演は、「ザ・マジックアワー」の谷原章介、「間宮兄弟」の塚地武雅

ストーリー
33歳の大木琢郎(塚地武雅)は、死んだ母親が残した定食屋「こころ屋」を営んでいる。イタリア留学経験があり、料理の腕前も人柄も完璧な琢郎だが、ブサイクなため女性とは縁がない。ある日こころ屋に、美人の新人アルバイト寛子(北川景子)が入ってくる。寛子に恋をした琢郎は彼女に告白するが、あっさり振られ、寛子は店から出ていってしまう。琢郎は友人の結婚式に着ていくスーツを買いに、紳士服屋を訪れる。そこで、着るだけでハンサムになれる「ハンサム・スーツ」を手に入れる。その着ぐるみのようなスーツに袖を通し、顔も体型もハンサムになった琢郎は、光山杏仁(谷原章介)として瞬く間に人気カリスマモデルとなる。琢郎は杏仁に変身して寛子に会いに行くが、再び振られてしまう。しかし琢郎は杏仁として、トップモデルの來香(佐田真由美)から好意を抱かれるなど、モテモテの生活を送る。一方、琢郎としてこころ屋に戻ると、寛子の代わりに入った、ブサイクだが仕事は完璧なアルバイトの本江(大島美幸)の存在が気になり出す。ある日琢郎は、ハンサム・スーツはお湯がかかるとシワシワになることに気づく。そこで再び紳士服屋を訪ねると、お湯がかかっても平気な「パーフェクト・スーツ」を勧められる。しかしパーフェクト・スーツは1度着ると2度と脱げないため、琢郎は人生の選択を迫られる。そしてモデルとしての大舞台、東京ガールズコレクションのステージも数日後に迫っていた。




5-42. 陽炎

監督 五社英雄
出演 樋口可南子仲代達矢本木雅弘
1991年(松竹)

解説
昭和初期の熊本を舞台に、愛憎がうずまく料亭を巡って一人の女胴師の活躍を描く任侠アクション。脚本は「極道の妻たち 最後の戦い」の高田宏治が執筆。監督は「226」の五社英雄。撮影は「利休」の森田富士郎がそれぞれ担当。

ストーリー
抜けるような真夏の下、見事な菩薩の刺青を背にする洗い髪の女がいた。女の名はりん。女胴師である彼女を人は“不知火おりん”と呼んだ。ある日、大阪の難波政組の依頼を受けてそこに向かったおりんは、偶然義弟の市太郎に出会う。両親亡き後、若旦那として熊本・二本木の料亭・八雲を切り盛りしているはずの市太郎だったが、今や岩蔵が率いる岩船一家に店を乗っ取られ、博奕打ちと芸者が徘徊する色と欲の悪臭に満ちた場に成り下がっていた。そして、おりんは二度とまたぐことのないと思っていた八雲の敷居に足を踏み入れた。女将の千代春は動揺し、またそこには20年前のおりんの実父のかたきでもある岩蔵の胴師・常次郎がいた。そんなおりんの出現をいぶかしがる岩蔵の元に難波政組の親分・政吉が祭りの花会に出席するという知らせが届く。そしてその胴師の名には“城島りん”と明記されていた。勝負が始まってほどなく、積み込まれた花束はおりんの目の前を次々に通り過ぎ、常次郎の前に置かれた。中休み、常次郎は20年前のことを思い出しながら、おりんに声をかける。その眼は愛しい者をとらえるかのようにやさしかった。やがて勝負はヤマ場を迎え、おりんと常次郎の一騎打ちとなった。異様な緊張と静寂の中、勝利の女神はおりんに微笑んだ。しかし、それによって岩蔵は怒り、おりんや市太郎に刺客が向けられるのだった。旅芝居の一座にかくまわれていた市太郎とその恋人・小芳は、千代春が仕組んだワナによってあっけなく殺されてしまう。それを知ったおりんは激しい怒りに体を震わせながら、ダイナマイト片手に岩船一家へ殴り込みに行く。そして、常次郎の助けもあり、おりんは死闘の末、岩蔵を討ち取るのだった。




5-43. 山桜

監督 篠原哲雄
出演 田中麗奈篠田三郎檀ふみ
2008年(東京テアトル)

解説
武士の一分」などの原作者、藤沢周平の短編を田中麗奈主演で映画化。不幸な結婚に耐える女性が、かつて自分を慕った武士と出会い、自分の生き方を見出す姿を描く。

ストーリー
江戸後期。北の小国、海坂の地。野江(田中麗奈)は若くして最初の夫に病で先立たれ、その後磯村家に嫁いだものの、夫(千葉哲也)と舅(高橋長英)は武士でありながら蓄財に執着し、姑(長島暎子)からは出戻りの嫁と蔑まれる日々を過ごしていた。二度の失敗は許されないと心に言い聞かせ、野江は嫁として懸命に耐え続けていた。叔母の墓参りの帰り、山道で薄紅色の花をつけた一本の山桜に出会う野江。その美しさに思わず手を伸ばすがなかなか花に届かない野江に、一人の武士が声をかける。男は、野江が磯村に嫁ぐ前、縁談を申し込んできた手塚弥一郎(東山紀之)だった。密かに見初めてくれていたとの話だったが、野江は母一人子一人の家と聞き、会うこともなく断ってしまっていた。今は幸せか、案じていたと告げ、弥一郎はその場を去る。それは、山桜に引き寄せられたかのような、ただ一度きりの偶然の出会いだった。どこかで自分のことをずっと気遣ってくれている人がいると思えるだけで胸の中にぬくもりが広がり、野江は励まされた。それから半年後、弥一郎は城中で藩の重臣である諏訪平右衛門(村井国夫)を斬った。飢饉が続き困窮する農民を虐げ私服を肥やす諏訪に対し、これまで藩内に声を上げる者はなかった。そんな中、弥一郎は我が身を犠牲にして刃を振るったのだった。弥一郎を侮蔑し嘲弄する夫に逆上した野江は、思わず手にした夫の羽織を打ち捨てたことで、離縁を言い渡される。弥一郎には即刻切腹の沙汰が下ると思われたが、擁護する声も強く、藩主が江戸から帰国する春まで裁断を待つこととなった。野江は獄中の弥一郎の身を案ずる。再び春になり、野江は山桜の枝を手に手塚の家を訪れる。息子を待ち続ける弥一郎の母(富司純子)に迎えられた野江は、彼女から予想もしなかった言葉をかけられる。それは、野江の心を溶かすものだった……。




5-44. 北の蛍

監督 五社英雄
出演 仲代達矢岩下志麻夏木マリ
1984年(東映)

解説
明治時代、北海道開拓の先兵として強制労働を強いられた囚人たちと彼らを収容する樺戸集治監の管理者たちとの血で血を洗う葛藤、そこに集まってきた女たちの愛憎を描く。監督は「陽暉楼」の五社英雄。脚本も同作の高田宏治、撮影は「序の舞」の森田富士郎が各々担当。また、阿久悠がスーパーバイザーとして企画の段階から総合的アドバイスをしている。

ストーリー
明治十六年、開拓途上にあった北海道の道路建設のための労働力は、全国から集められた囚人によってまかなわれ、石狩平野に設けられた樺戸集治監(刑務所)では、月潟剛史が典獄(刑務所長)として君臨していた。囚人を虫けら同然に扱い“鬼の典獄”と異名をとる月潟の前にゆうという女が現われた。ゆうは、月潟の情婦・すまが女将をしている料理店にあずけられた。内務省の開拓副長官石倉が、部下の湯原、別所などを連れて視察に現われた。知事の座を狙う月潟は賄賂を包み、石倉お気に入りのゆうをその寝所に向かわせた。その見返りとしてゆうは、国事犯として捕えられている男鹿孝之進の赦免を月潟に要求した。京の祇園で芸妓をしていたとき、ゆうは政府から追われている男鹿をかくまい、やがて二人の間に愛が芽ばえたのだった。元・津軽藩士で政府に激しく抵抗する男鹿は、接見したゆうに月潟殺しを命じた。それから数日後、月潟は刺客に襲われた。看守として集治監にもぐり込んでいた元新選組副長の永倉新八らで、月潟は一命はとりとめたものの重傷を負った。内務省の命をうけて湯原が新典獄として着任した。多くの囚人を犠牲にしたことで月潟の更迭が決定したのだ。最後の仕事にと、月潟は建設中の道路の完成を急ぎ、囚人たちに更に苛酷な労働を強いた。月潟の非情なやり方に、ゆうは小刀を抜いて迫ったが、「お前に惚れた」との月潟のひと言に、上げた刀をおろすことができなかった。月潟の心がゆうに移ってしまったと知ったすまは、女衒の丸徳を道連れに石狩を離れる決心をしたが、金を盗もうとしていた酌婦の浜菊との争いで命をおとした。月潟の片腕、木藤も身受けしたせつに殺された。せつはその足で建設現場に向かい、愛する男・弥吉やその仲間たちを救出、囚人たちは視察に来た月潟とゆうを人質に脱走を図った。途中無人の農家で一夜を明かすことになった。弥吉とせつの狂ったような情事に、他の囚人のギラついたような眼はゆうに向けられた。そのとき、農家を巨大な羆が襲い、ゆうと月潟、男鹿、弥吉とせつは海をめざした。ところが、一行が海と見たのは、樺戸集治監だった。絶望から、男鹿は死んでいった。弥吉とせつは吹雪の中に消えていった。月潟は湯原を倒し次々と獄舎の扉をあけ、囚人たちを逃がした。誰もいなくなった集治監、凍りついてゆく月潟とゆうのまわりを、白い雪が螢のように舞っていた。




5-45. 奈緒子

監督 古厩智之
出演 上野樹里三浦春馬笑福亭鶴瓶
2007年(日活)

解説
高校駅伝をテーマにした傑作コミックの映画化。運命の再会をした陸上選手と彼の部のマネージャーになる少女の青春ドラマを、人気若手俳優の三浦春馬、上野樹里共演でつづる。

ストーリー
長崎県波切島。12歳の奈緒子は、喘息の療養でこの島を訪れていた。彼女はそこで走ることが大好きな少年・雄介と出会う。しかし、ある日悲劇が起こった。誤って海に落ちた奈緒子を助けようとした雄介の父が命を失ってしまったのだ。「お父ちゃんを返せ!」幼いが故に怒りと悲しみを奈緒子にぶつける雄介。その日以来、奈緒子は雄介の父を奪ってしまったという罪の意識に悩み続けるようになる。それから6年の時が経ち、奈緒子(上野樹里)は東京で雄介(三浦春馬)と偶然再会する。天才ランナーとして高校陸上界の期待の星になっていた雄介に、奈緒子は自分があの時の少女であることを告白する。「もう忘れた。誰も恨んじゃいねえ」と吐き捨てて立ち去る雄介。やがて雄介にとって初の駅伝挑戦となる九州オープン駅伝が始まる。雄介を観に九州まで来ていた奈緒子はひょんなことから彼への給水係を頼まれるが、そのことが事件を引き起こしてしまう。水を差し出す奈緒子の姿に動揺した雄介が給水を拒んだために脱水症状で倒れてしまったのだ。雄介は今も自分を許していない。奈緒子の悲しみは更に深まっていく。そんな二人の複雑な事情を知った波切高校陸上部の西浦監督(笑福亭鶴瓶)は、あの事故以来止まったままでいる雄介と奈緒子の時間を再び動かそうと、マネージャーとして奈緒子を陸上部の夏合宿に迎え入れるのだが……。




5-46. 博士の愛した数式

監督 小泉堯史
出演 寺尾聰深津絵里齋藤隆成
2005年(アスミック・エース)

解説
小川洋子の同名小説を詩情豊かに映画化。80分しか記憶のもたない数学博士と、家政婦とその息子の心の交流を、数字の美しさや神秘をたたえ、繊細に紡ぎ出す。

ストーリー
新学期。生徒たちから“ルート”と呼ばれている若い数学教師(吉岡秀隆)は、最初の授業で何故自分にルートというあだ名がついたのか語り始めた。それは、彼がまだ10歳の頃――。彼の母親(深津絵里)は、女手ひとつで彼を育てながら、家政婦として働いていた。ある日、彼女は交通事故で記憶が80分しか保てなくなった元大学の数学博士(寺尾聰)の家に雇われる。80分で記憶の消えてしまう博士にとって、彼女は常に初対面の家政婦だった。しかし、数学談義を通してのコミュニケーションは、彼女にとっても驚きと発見の連続。やがて、博士の提案で家政婦の息子も博士の家を訪れるようになる。頭のてっぺんが平らだったことから、ルートと名付けられた息子は、すぐに博士と打ち解けた。そして、博士が大の阪神ファンで、高校時代に野球をしていたことを知った彼は、自分の野球チームの試合に来て欲しいとお願いするのだが、炎天下での観戦がいけなかったのか、その夜、博士は熱を出して寝込んでしまった。博士を心配し、泊り込んで看病する母子。ところが、そのことで母屋に住む博士の後見人で、事故当時、不倫関係にあった未亡人の義姉からクレームがつき、彼女は解雇を申し渡され他の家へ転属になる。だが数日後、誤解の解けた家政婦は復職が叶い、再び博士の家を訪れるようになったルートも、いつしか数学教師になることを夢見るようになるのであった。




5-47. 助太刀屋助六

監督 岡本喜八
出演 真田広之鈴木京香村田雄浩
2001年(東宝)

解説
「大誘拐」の鬼才・岡本喜八監督待望の最新作。“助太刀屋”という商売をしている男のユニーク極まりない仇討ちを、笑いあり涙ありアクションありで綴る痛快時代劇だ。

ストーリー
17歳で江戸へ出ようと故郷・上州を飛び出した助六は、その途中、ひょんなことから仇討ちに巻き込まれ助太刀を買って出たことが病みつきとなり、以来、江戸へ行くのも忘れて助太刀屋稼業に精を出し、全国を流れ流れて七年が過ぎようとしていた。久しぶりに故郷の宿場町へ戻り、母の墓に詣でた助六。だが、町の様子がどうもおかしい。幼なじみで小役人になっていた太郎によると、もうすぐ仇討ちがあると言う。兄の仇を討とうとしているのは脇屋新九郎と妻木涌之助。だが、助六の助太刀は必要としていないらしい。自分の出番がないと知り、昔なじみの棺桶屋に向かった助六は、そこで元八州廻りの役人・片倉梅太郎という侍、即ち新九郎と涌之助の仇と出会う。既に戒名も貰い、泰然自若としたこの侍は、どうも敵面には見えない。暫くして、仇討ちの検分役、関八州取締出役・榊原織部が到着し、いよいよ仇討ちが始まった。果たして、片倉は斬られ仇討ちは終わる。ところがこの侍、実は助六の父親だったのである。そのことを棺桶屋から聞かされた助六は、父親の仇討ちをと思うのであったが、又敵は御法度。そこで、父親の位牌に助太刀を頼まれたということにして、織部たちを斬っていく助六。そうして、見事位牌の助太刀に成功した彼は、しかし織部の供揃えによって射殺。助六の遺体は、彼と秘かな想いを通わせていた太郎の妹・お仙ひとりで弔われる……筈が、実は生きていた助六。お仙と一緒に暮らすべく、ふたりして江戸へ向かうのであった。




5-48. おくりびと 

監督 滝田洋二郎
出演 本木雅弘広末涼子山崎努余貴美子杉本哲太峰岸徹
2008年 (松竹)

解説
遺体を棺に納める納棺師となった男が、多くの別れと対峙する、本木雅弘主演の人間ドラマ。一見地味だが、人生の最期に必要な職業を通して、家族や夫婦愛のすばらしさを描く。

ストーリー
所属していたオーケストラが解散して、失業したチェロ奏者の小林大悟(本木雅弘)。やむなく彼は妻の美香(広末涼子)と二人、実家である山形へと帰った。その家は、2年前に死んだ母親が残してくれた唯一の財産だった。愛人を作った父が家を出たあと、母は女手ひとつで大悟を育ててくれたのだ。新たな職を探す大悟が行きあたったのは、佐々木(山崎努)が経営する納棺師という仕事だった。死者を彩り、最期のときを送り出すという業務の過酷さに、大悟は戸惑いを隠しきれない。しかし、佐々木と事務員の百合子(余貴美子)の持つ温もりに惹かれて、大悟は「おくりびと」となった。美香にすら、その仕事の内容を明かせないまま…。故郷に戻った大悟は、幼い頃に通っていた銭湯で同級生の母親であるツヤ子(吉行和子)との再会を果たす。銭湯を経営するツヤ子は、廃業を勧める息子たちの声も押し切って、ひたすら働き続けていた。やがて、大悟の仕事を知った美香は、我慢できずに実家へと帰る。死者を扱う夫の業務が、どうしても納得できなかったのだ。それでも大悟は、納棺師を辞められない。唐突に倒れて、この世を去ったツヤ子の納棺も担当した。どこまでも自身の仕事に誇りを持つ大悟の気持ちを、ようやく美香も理解する。二人の関係は修復した。そんなとき、父の訃報が大悟のもとに届く。家庭を捨てた父親には深いわだかまりを抱いていた大悟だが、佐々木や百合子からの説得を受けて、死去した老人ホームへ美香と向かう。そこには、30年ぶりに対面する父(峰岸徹)の遺体があった。そして父が、決して大悟のことを忘れていなかったことを知る。堪えきれずに嗚咽する大悟の涙を、美香はハンカチで拭く。父の納棺を慎ましく行う大悟と、それを見守る美香。彼女の胎内では、大悟との間で芽生えた新たな命が動いていた。