学習書●[情報処理]



制度+作法+倫理
Internet


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http://www.infonet.co.jp/apt/March/syllabus/Literacies/ethics.html


ネティズン ネチケット 著作権 焙り出し フリーソフトウェア クラッキング ウイルス ワクチン トロイの木馬 チェーンメール スパミング フレーミング 暗号 署名

きょうの迷信

"ハッカーは悪い人"
???



ネチケット


 インタネットは、市民(citizon)が独自の法律にしたがって暮らす、世界に広がる巨大な一つの都市だとみなすことができる。自分は直接にはインタネットを使っていなくても、インタネットを使っている家族や同僚、友人を通じて電子メールを送ってもらったり、ウェブを見せてもらったりしている人まで含めれば、世界のかなりの人々がインタネットを中心とする共同体を構成していることになる。
 インタネットが共同体として機能を維持していけるようにするためには、規約をRFCとして定めて、参加している人たちがそれを受け入れていかなくてはならない。つまり、インタネットへの参加にはいろいろな義務がともなう。そのため、インタネットに参加している人々は、市民(citizen)になぞらえてネティズン(netizen<net+citizen)と呼ばれることがある。

 RFCの多くはプロトコルなどの技術上の規約だ。それらは、したがうことによってインタネットだけでなく自分にとってもいろいろな利益をもたらしてくれるし、そもそも、まともなクライアントを使ってさえいれば自動的にしたがっていることになって、自分にとっては何の負担にもならない。
 しかし、ネティズンの側の負担を多少ながら要求するいくつかの規約もあり、しかも、それらの規約は本人がきちんと理解して守らなければいけない。これらは現実の社会では道徳、法律、作法などに当たるもので、ネチケット(netiquette<net+etiquette)と呼ぶことがある(手引き1.7[ネットワーク使用上のエチケット]、資料[ウェブエチケット 日本語版][電子メールのためのガイド][ザ-ネット 利用者の指針とネチケット])。
 ネチケットの基本は、インタネットにはいろんな人が参加していることを知って、なるべく弱い立場の人に合わせるようにすることと、それでも合せ切れない人についてはこちらに合せることを向こうに強いないという考え方だ。

 本来のインタネットは、目的(コンピュータを対象または手段とする研究)も経験(コンピュータについての知識)も共有している人々だけによって構成された、一様な社会だった。ところが、プロバイダの登場によってインタネットの人口が爆発的に増え、RFCの内容やそれがあることさえ知らないネティズンが現われるようになった。そのため、インタネットも現実の社会と同じような、複雑で危険な社会に変化しようとしている。それを防ぐためには現実の世界の法律による規制も受け入れていくべきだという意見もある。


知的所有権


 技術や作品を創造した人には、その成果を自由に管理する権利を持たせるべきだとする考えが多くの社会で受け入れられている。この権利を知的所有権という。日本では、著作物、デザイン、発明などに対する知的所有権がそれぞれの法律によって認められている。

 創作の結果として作り出される本、映画、ウェブなどを著作物といい、著作物を作り出した人をその著作物の著作者という。
 著作者には、著作物に対して以下のようないろんな権利が認められるべきだろう。

・著作物の発表のしかた(発表しないというのも含めて)を自分で決める権利
・著作物を楽しんだり使ったりする人から尊敬や代償を受ける権利
・著作物の内容を他人には変えさせない権利

 これらの権利をまとめて著作権(copyright)という(資料[ネットワーク時代の知的所有権入門][はじめての著作権講座][玉川大学著作権セミナー])。著作権が無視されれば、著作者は精神的にも経済的にも傷つくし、それによって次の創作が続けにくくなれば、文化はそのまま停滞してしまうだろう。そのため、現在では、著作権は本人にとっても社会にとってもたいせつな権利の一つと考えられている。
 著作権の侵害は、ソフトウェアでは特に切実な問題になっている。現在は、ソフトウェアを商品として生産している多くのメーカがある。新しくソフトウェアを作り出すには、かなりの費用が必要になる。だから、それらのメーカは、ソフトウェアを売って(または使用料を取って)、作り出すのに使った費用を取り戻さなければならない。ところが、ソフトウェアは簡単に複製できるので、ソフトウェアを使っているのにメーカには料金を払わない人がいて問題になっている。
 なお、ソフトウェアは著作物とは別の知的所有物として扱うべきだという意見や、知的所有物と考えるべきではないという考え方もある。

 著作者は、著作権が無視されたことによって損害を受けたら、その損害を取り戻すことを相手に要求できる。しかし、それだけでは裁判を起こさなければならない著作者の側が不利になるので、各国は著作権を保護する法律を作り、互いに条約も結んでいる。日本の著作権法では、著作権を無視するのは犯罪と同じこととして扱われていて、刑罰(懲役も含まれる)も科することができるように決められている。
 著作権は、作り手と使い手との対等な関係の間に現れる権利であって、法律で定められているから著作権を守らなければならないのではない。著作権を尊重するのは、人々が創造を目指そうとする精神をこれからも守っていくためだという意識を持たなければいけない。

 著作権が無視されるようなことがあっても、それが容易に証明できれば著作者には有利になる。そのために、本体と区別できないが偶然には生まれそうにない特別な情報を著作物の中に折り込んでおくという方法が使われている。勝手に複製された疑いのあるほかの人の(と主張されている)著作物を見つけた場合に、この情報が折り込まれたままになっていれば、自分の著作物からの複製であることが証明できるからだ。
 この手法を焙り出し(watermark。日本では透かしと呼ぶことが多いけれど)という。


フリーソフトウェア


 ソフトウェアの中にはただで配られているものがあり、フリーソフトウェア(free software=自由なソフトウェア、縮めてフリーウェア)と呼ばれている。フリーソフトウェアを開発したり維持したりしていくための負担は著作者の善意によって賄われている。
 フリーソフトウェアは、ただで手に入れられるけれど、著作権がないというわけではない。ソフトウェアをただで配るという行動も、著作権が認められているからこそ可能だということを忘れてはいけない。

 フリーソフトウェアが配られる理由は場合によって違うが、以下のような背景がいくつか組み合さっていることが多い。

・発表することによって自分の創作を完結させたい
・使ってくれる人々の生活や社会をよりよくしたい
・すでによく使われているほかの同じ用途のソフトウェアを市場から追い出したい

 フリーソフトウェアを利用する場合は、これらのような著作者の意志をよく理解して、それに応えられるような使い方をしなくてはいけない。

 ふつうの流通系だけでなく、個人的なやりとりも使って売られているソフトウェアをシェアウェア(shareware)という。シェアウェアはフリーソフトウェアと同時に流通することが多いけれど全く別のものだ。


クラッキング


 誰でも、自分の持ち物は他人に勝手に使われたくないし、自分が書いたものを他人に見られたり捨てられたりしたくない。持ち主の隙につけ入ることによってこのような侵害を行なうことをクラッキング(cracking=ひび破り。それを行なう人はcracker)という。

 TVなどの報道で、クラッキングの意味で"ハッキング(hacking。それを行なう人はhacker)"ということばを使うことがあるが、"ハッキング"は全く逆の場合に使う術語なので、このような誤用は避けなければいけない。
 ハッキングは、(特にコンピュータなどの)自分が使っている道具に興味を持ってしまって、それを使って行なうもともとの作業よりも道具の機能や構造の方にかえって詳しくなってしまうことや、その力を役立てて見せることで、クラッキングとは全く関係ない(資料["ハッカー"問題])。それどころか、"ハッキング"は多くの人々を感心させるようなことを指す術語なので、クラッキングのようなことを"ハッキング"と呼ぶのはぜひとも止めさせなければいけない。

 自分のコンピュータをあまり使っていない場合や、見られても消されてもかまわないファイルしか持っていない場合には、クラッキングを警戒する気になれないことがあるが、そんなコンピュータでももっと大きい悪事の道具として使われてしまうことがあるので、気を抜いてはいけない。
 クラッキングを防ぐには、ストリングや数によるパスワード(password)がよく使われている。これは、コンピュータ(や個々のファイルなど)を使い始める前にパスワードを聞いて、それが答えられなかったらコンピュータは使わせないという方式だ。
 パスワードは強力だけれど、使い方を誤ると役に立たない。パスワードを紙に書いて放っておいたために、たまたまそれを見た人に知られてしまったり、実際に使われている単語を使ったために、辞書の単語を片っ端から試す手法で見つけられてしまったりすることがある。


ウイルス トロイの木馬


 同じコンピュータやネットワークでつながっているほかのコンピュータのディスクの中のファイル(特にOSのファイル)を書き変えて、自分の複製に当たる命令列を埋め込むことができるプログラムウイルス(virus。ドイツ語ではWirus)という。同じく、メモリの中に自分の複製のプロセスを作ることができるプログラムワーム(worm=みみず)という。
 ウイルス(やワーム)は、悪意や過失でばらまかれることがある。ウイルスの活動はコンピュータやネットワークには大きい負荷になるので、ウイルスを取り込んでしまうと、そのコンピュータは正しく機能することができなくなる。さらに、本来の機能のほかに、積極的に情報システムを破壊する機能を作り込まれているウイルスも多い。また、ネットワークやディスクを通じてファイルのやり取りをしているコンピュータがあると、さらにそれらのコンピュータにも子孫のウイルスがばらまかれてしまう。
 ウイルスの被害を防ぐには、ウイルスが書き変える機会があったファイルウイルスが作ったかもしれないファイルを定期的に調べて、それまでに知られているウイルスが含まれていないか調べ、それが見つかったら、そのファイルを初めから作り直す(アプリなら組み込みをやり直す)しかない。安全が保証できるのはマウントされていないディスクの中のファイルだけだ。
 ウイルスがいるかどうかを効率的に調べるためのプログラムワクチン(vaccine。ドイツ語ではWaccin)という。ワクチンの機能はワクチンが見比べるウイルスの一覧によって決まるので、ワクチンの効果を完全に引き出すためには、ワクチンのメーカから定期的に提供される最新のウイルス情報を欠かさず受け取って、古い情報と交替し続けなければならない。それでも新型のウイルスに入り込まれてしまったら、ウイルス情報を管理する組織にそのことを伝えて、各ワクチンのメーカが新型のウイルスをそれぞれのウイルス情報に追加できるようにする必要がある。

 ほかのコンピュータに被害を与える目的で、正体を偽ってコンピュータに送り込まれるプログラムをトロイの木馬(Trojan horse)という。トロイの木馬は、コンピュータに送り込まれると自動的に、またはコンピュータの持ち主の手を借りて起動して、そのコンピュータが使っているファイルを壊したり、ほかの誰かにつごうのいい処理をさせたりする。
 トロイの木馬による攻撃を防ぐには、素性の分からないプログラムを起動したり起動できる場所に置いたりしないようにする必要がある。


チェーンメール スパミング フレーミング


 電子メールは書いたり送ったりするのが容易なので、郵便局などを通じて出しているふつうの手紙のつもりで使っていると、多くの人に迷惑や損害を及ぼすことがある。

 ほかの人に転送するように要求する手紙をチェーンメール(chain mail)という。チェーンメールは、手紙を次に送ったり受け取ったりする人に余計な負担をかけるので、それだけでもいけないが、電子メールでチェーンメールが始まると、そのLANやインタネットのかなり広い範囲が手紙の通信で塞がってしまい、電子メールだけでなくほかの用途の機能にも重い影響を生じる。
 不幸の/幸福の手紙のようなあからさまに悪意の分かるものはもちろん、献血や募金の呼び掛け、ウイルス情報などの善意の手紙でも、受け取るのはかまわないが、原則として転送してはいけない。
 ただし、転送が行われる範囲が、あらかじめ決まっている組織(サークル、同窓会など)の中に限られている場合は、同じ人に2重に送ったりしないように気をつけてさえいれば、手紙を転送してもかまわない。

 電子メールのアドレスしか知らない何人もの他人に対して、案内や広告の手紙を(多くの場合繰り返して)送ることをスパミング(spamming)という(資料[スパム考古学])。
 郵便局の手紙は送る側だけが費用などを負担するようになっているが、電子メールは時間や費用(PPPやプロバイダを使っていれば)の点で、受け取る側にもそれ以上の負担がかかることがある。だから、原則としてスパミングはしてはいけないし、もしうっかりスパミングに当たることをしてしまって相手から叱られたら、同じ目的の手紙はその相手には二度と送ってはいけない。

 "スパミング"ということばは、Spamというハムの缶詰めのブランドに由来する。[空飛ぶモンティパイソン]という番組で、Spamの広告のパロディとして"Spam Spam"と連呼する芸があったんだそうで、そのしつこさがそっくりだと思った人たちによってこう呼ばれるようになった。
 つまり、ブランドとしてのSpamには迷惑な用語になってしまったわけで、実際に、初めのうちはこの用語に対して抗議していたらしいけれど、とうとう諦めて、パブリシティのための一つのアイテムとして受け入れることにしたらしい。

 電子メール(や掲示板)を使って罵り合いをすることをフレーミング(flaming)という。メディアの種類に拘わらず、どんなコミュニケーションでも、行き違いからけんかが起きてなかなか止まらないということはよくあるが、電子メールのような制約の大きいメディアでは特にその傾向が著しいらしい。
 自分が誰かとけんかを始めかけていると思ったら、すぐにそのつながりを断ち切って、互いに頭が冷めるまで(または相手のことを忘れてしまうまで)放っておくのがいいとされている。特に、メーリングリストなどの公けの場では、周りの人を不快にしてしまうので、決してけんかはしてはいけない。
 他人がフレーミングをしている場合も、仲裁をしてはいけない。関わり合う人数が増えればいき違いが起こる機会も増えるからだ。


誤報


 インタネットの世界では、情報はおそろしい速さで拡がってしまう。また、何かの専門家でも責任者でもないきみたちが気軽に言ったことでも、きちんとした情報と同じ扱いで伝わってしまう。だから、ウェブや電子メールを通じて何かの情報をインタネットに入れる場合には、かなり慎重に行動しなければいけない。
 一つの対策としては、情報を入れる場合には、必ず、その情報へのアクセスを(論文に書き添える参考文献表のように)きちんと書き添えるようにするといい。それが思い出せないぐらいなら、そこに書かれていた(と信じている)情報も間違いかもしれないから、それがまるで事実であるかのように他人に知らせてはいけない。
 知っていることではなくて考えていることなら、(原則として)それをほかの人に知らせるのは自由に行なってかまわない。ただし、自分が誰で今がいつか(何年間もそのまま残ってしまうので)を明らかにして、事実ではないことをはっきり断ったうえで伝えなくてはいけない。


暗号


 手紙を送る時は、誰もが、ほかの人には内容を見られたくないとか、勝手に内容を書き換えられたくないと望むだろう。特に大切な手紙を送りたい場合は、手紙の内容を暗号(cypher)に変えてから送り、相手には受け取ったあとでそれをもとに戻してもらうようにする必要がある。もとの内容を暗号に変換することを暗号化(cyphering)といい、暗号を変換してもとの内容に戻すことを脱暗号化(decyphering)という。  暗号化/脱暗号化のそれぞれの変換のしかたを(key)という。暗号化した手紙を送る場合は、受け取る相手に、手紙とは別の方法で脱暗号化鍵を渡しておく必要がある。
 不特定の相手から暗号化した手紙を送ってもらうことになっている場合は、暗号化鍵を公開しておかなければならない。しかし、しかし、ほとんどの暗号化の方式では、暗号化鍵と脱暗号化鍵とは、どちらかが分かればもう一方もすぐ分かってしまうから、このままでは、誰もが脱暗号化鍵を知っている(つまり読み書きが自由という)ことになってしまう。これを解決するために、暗号化鍵が分かっていてもそれから脱暗号化鍵を割り出すのには膨大な時間がかかる暗号がいくつか提案されている。このような暗号を非対称暗号という。

 手紙が確かに自分から送りだされたかどうかを相手が判断できるようにしなければならない場合もある。このような場合は、内容に特別な署名(signature)をつけて、それらをまとめて暗号化して送ればいい。





[演習]

演習の進め方をよく確認してからとりかかりなさい


特許+意匠登録

 著作権のほかにも、日本では特許意匠登録など、知的所有権を保護するためにいろいろな制度が運用されている。それらの制度のうちから一つを選び、詳しく説明しなさい。特に、知的所有権の保護のされ方が著作権と比べてどう違うか、そしてそれはなぜか明らかにしなさい。

自分で資料を探しなさい

報告例
太田裕子 野田麻梨子 浜中陽子


著作権の意味の変化

 著作権はヨーロッパで生まれたが、初めから社会またはすべての人のための権利として考えられていたわけではなかった。著作権の意味はどのように変化してきたか調べて説明しなさい。

 自分で資料を探しなさい

ヒント

報告例
フランスにおける変容
川井夕織
イギリスにおける変容
丸山圭
日本における変容
町田達彦


ウイルス情報

 ウイルスに入り込まれてしまったら、どんな情報をどうやってどことどこに連絡するといいのか調べて具体的に説明しなさい。

 自分で資料を探しなさい

報告例
中川朋子 浜中陽子


消し忘れ

 いくつかの消し忘れ事故が発生して問題になっている(資料[中古PCに消し忘れの警察内部文書][中古パソコンにレセプトデータ残存])。これらの事故のうちのどちらかについて、実際に起こったことの内容を、資料に書かれているよりもさらに詳しく調べなさい。
 さらに、事故によってどのような被害が発生する危険があったのか、事故を引き起こした人々はどう行動するべきだったのか考えて、それを説明しなさい。


暗号

 いくつかの暗号の方式は政府の機関などで公式のものとして採用されている。そのうちの一つを選び、暗号化/脱暗号化のしくみがどうなっているか分かりやすく説明しなさい。また、使われ方についても調べて説明しなさい。

 自分で資料を探しなさい



ジャンクション

危険 共生 セキュリティ 知的所有権 倫理/行儀/作法


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