戻る EDSAC (electronic delay storage automatic calculator)

M.V.Wilkes and mercury delay line
遅延線メモリ と ウィルクス
EDSAC は 1949年、ケンブリッジ大学のウィルクス (Maurice Vincent Wilkes) によって作られた、最初のコンピュータです。

ABC (1942年)Colossus (1943年)ENIAC (1946年)The Baby (1948年) のページにも、 それぞれ 「最初のコンピュータ」 と書いてしまいましたが、 いったいどれが本当の 「最初のコンピュータ」 なのでしょうか?

一般的には、ENIAC が最初で、コンピュータの歴史は ENIAC が生まれた年、1946年に始まるとされていますが、 ABC だという説もあれば、EDSAC だという意見もあります。

いずれにしても、どれが最初のコンピュータかを決めるためには、 「コンピュータとは何か」 という問題を解決しなくてはなりません。

ともかく、EDSAC とはどんなコンピュータだったのかを 見てみましょう。

左の写真は ウィルクス と、この問題とも関連の深い EDSAC のメモリです。

EDSAC の名前は "Electronic Delay Storage Automatic Calculator" からきていますが、"delay strage" とは 「遅延線メモリ」 のことで、 上の写真の、パイプが並んでいる長い物体が、遅延線メモリです。

管の中に水銀を満たして片側から超音波のパルスを与えると、超音波は水銀中を伝わって反対側に届きます。 これを電気信号に変えて、また超音波のパルスにして管に戻してやると、 水銀の中で循環する超音波のパルスとしてデータを記憶させることが出来ます。 これを、遅延線メモリといい、連続しているデータを順次読み書きするこのようなタイプのメモリを、 シーケンシャルアクセスメモリ (sequential access memory) といいます。

EDSAC のメモリの水銀管の長さは 5フィート、水銀中の音速は 1,450m/sec ですから、 約1msec でデータが循環することになります。 命令を実行して、次の命令やデータを読み出すまでに、1msec 程度の時間、待たなくてはなりません。
EDSAC のクロック周波数は 500KHz ですから、 1秒間にほぼ 50万回の命令を実行できますが、メモリアクセスが遅いため、 実際に1秒間に実行できる命令は、平均すると 650回でした。

EDSAC のメモリは、1本のタンク (水銀を満たした管) に、 1語 (ワード) 17 ビットのデータが 32ワード記憶でき、 そのタンクが 16本納められたもの (上の写真) が2台ありましたので、 総記憶容量は 17 × 32 × 16 × 2 = 17K ビットになります。

今日の感覚では、上の写真のメモリは、ほぼ 1K バイトのメモリと考えてよさそうです。

tube 約1K バイトのメモリにしては巨大すぎるかもしれませんが、 もしこれを、1ビット当たり2本の真空管を使って作ったとすれば、 17,408本もの真空管が要ることになります。2台だと 34,816本になって、 メモリだけでも ENIAC の 2倍近い真空管が必要ということになってしまいます。

左の写真の真空管は、1本の真空管の中に2個の3極真空管素子が入っています。 「双三極管」 といいますが、こういうものを使用すれば、見かけの真空管の本数を 1/2 にすることができます…。

DRAM 現在の私たちは、128Mバイトのメモリなどを、 お小遣いの範囲の価格 で買うことが出来ます。
左は手のひらに乗る小さなメモリカードです。
上の写真の EDSAC の遅延線メモリと比べると、記憶容量は約 123,000倍、アクセス時間は 1/10,000,000、 重量は、おそらく 1/10,000 程度でしょう。 これらを、単純に性能の向上率として全部掛け合わせる (あるいは、割る) と、 1.2京 (けい: 京 = 10 16)倍にもなってしまいます。 価格も含めれば、1,000京倍くらいになるかも知れません。

わずか 50余年の間の技術の進歩のすさまじさと、先人の苦労がひしひしと感じられます。


EDSAC EDSAC には 3,000本の真空管が使われ、消費電力は 12KW、専有面積は 20m2 ですから、 ほぼ 12畳の部屋にいっぱいの大きさだったことになります。

EDSAC は上記の遅延線メモリの他に、ハードウェアで構成され、「イニシャルオーダー」 と呼ばれた 31 word の ROM も備えていました。 紙テープに文字コードで書かれたプログラムは、このイニシャルオーダーによって 2進数のプログラムに変換されてメモリに読み込まれました。

イニシャルオーダーは後さらに 41 word に拡張され、 メモリアドレスを置き換えることによってサブルーチンの実行を容易にする、 画期的な機能を持つようになりました。


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*1 余談ですが、先日、256Mバイトのメモリを約1万4千円で購入しました。 ビット単価は 0.000007円 です。
  20数年前、私がコンピュータをいじくり始めた頃は、1kビットのメモリを 1,000円 で買いましたので、 ビット単価は 1円 だったわけです。
  この 256Mバイトのメモリは、当時の価格なら、なんと、20億円もしたことになります !!   なんだかとても豊かな気分にひたることができました…。


このページはケンブリッジ大学の EDSAC 99 を参考にして作成し、EDSAC に関する画像も許可を得て同ページより引用しています。

update: 2002.12.14  ueyama@infonet.co.jp