戻る ENIAC (Electronic Numerical Integrator and Computer)



Mauchly ENIAC は 1946 年、 ペンシルバニア大学のムーア校で、 モークリー (John William Mauchly) と エッカート (John Presper Eckert) らによって作られた電子計算機で、 「最初のコンピュータ」 とされています。

実際には ENIAC より先に ABC (1942 米)コロッサス (1943 英) などが作られていましたが、 ABC は出力装置がやや不安定で未完成の状態でしたし、 Colossus は暗号解読という軍事目的で極秘裡に開発されましたから、 いずれも長い間世に知られることがありませんでした
ENIAC も弾道計算という軍事目的で開発されたため軍事機密下に置かれていましたが、 完成したのは 1945 年秋、 第二次世界大戦はすでに終わっていたため、 ENEAC は翌 1946 年 2 月 14 日、 聖バレンタインの日に機密のベールを脱ぎました。

ENIAC は 17,468 本もの真空管を使った大規模な電子計算機で、 床面積は 100m2、 重量 30 トン、 消費電力は 150kW にも達しています。 言いかえると、「床面積は 60 畳、 車約 20 台分の重さの、 1kW のストーブ 150 台相当の (2 畳のスペースに 1kW のストーブを 5 台置いてあるのと同じ…) 熱を出すコンピュータ」 ということになります


真空管は現在ではほとんど目にする機会がありませんが、 簡単にいえば電球のフィラメントのまわりにいくつかの電極 (プレート や グリッド) をつけ加えて、 整流、 増幅、 発振などの電子回路を作れるようにしたものです。

電球と真空管

電球も真空管も、 フィラメントが切れると交換しなければなりません。 当時の真空管の平均寿命は約 2,000 時間でした。
真空管を 1 本使っている装置は当然、 平均すると 2,000 時間に 1 度真空管が壊れて故障する可能性があります。
真空管を 2 本使うと、 それぞれの真空管が 2,000 時間に 1 度壊れる可能性があるので、 装置全体としては 1,000 時間に 1 度故障する計算になります。
同様にして真空管を 20 本使うと、 その装置は 100 時間に 1 度故障します。
200 本だと 10 時間、 2,000 本なら 1 時間…。
かくして真空管を 2 万本近く使っている ENIAC は、 単純に計算すると 0.1 時間 (6分) に一度、 真空管のどれかが壊れて故障することになります。
これではお話になりませんから、 エッカートは真空管のフィラメントを通常よりも低い電圧で点灯させるなど、 信頼性を高めるためのさまざまの工夫をこらしました。

ENIAC の信頼性 については諸説があるようですが、 「故障率は週に真空管 2〜3 本という低さ。 電源を入れっぱなしにすると 90% の稼働率、 弾道研究所へ移設後毎晩電源を落とすと 50% に低下 などが妥当なように思えます。

この信頼性の問題のため、 当時は真空管を大量に使った電子計算機は使い物にならないとされていました。
単純に作ってしまえば平均して 6 分ごとに故障するものを、 わずか週 2〜3 本の真空管の故障におさえることができたのは、 ENIAC の開発スタッフの信頼性技術の賜物でしょう。

ENIAC のプログラム変更作業
プログラムを変更するために配線作業をしている女性
ENIAC の故障真空管の交換
壊れた真空管の交換作業



関連事項:  ABC  コロッサス


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*1 1941年、モークリーはアイオワ州立大学のアタナソフを訪れ、 ABC を見学しています。 (これが後に、ENIAC の特許裁判にからんで、コンピュータの歴史が、少し分かりにくくなりました。)

*2 このような猛烈な熱を出す電子計算機が設置されている部屋では、 そのままではコンピュータが正常に動作するはずがありませんし、 コンピュータを操作する人々が室内に入ることもできません。 当然、巨大な冷却装置が必要になります。

*3 信頼性 (reliability) とは、コンピュータや自動車やテレビなど、 電子機器や機械や家電製品などが、どれだけ故障せずに安心して使えるかを表わす尺度です。 MTBF (平均故障間隔: mean time between failure) は 30,000時間だとか、稼働率は97%だ、などと言います。
日常的には、あの人の言うことはいつも正しい、彼の競馬の予想はよく当たる、だから、「信頼性がある。」 などというように、「信じられる」、「頼りになる」 という意味で使うことが多いようですが、 信頼性工学では、(平均して)何時間故障しないで使えるか、故障したら何時間で直るのか、 故障のために稼働率は何%なのか、ということが問題になります。

*4 寿命の短い真空管を大量に使っているのに、 「電源を入れっぱなしにすると90%の稼働率、弾道研究所へ移設後毎晩電源を落とすと50%に低下」 というのはおかしいじゃないか、と思われるかも知れません。
しかし、電子機器は一般的に、電源の ON、OFF の度に、かなり大きい電気的ストレスを受けます。
さらに、冷え切っている巨大なコンピュータの電源が ON にされると、 コンピュータのすべての部品の温度が上昇します。 まず真空管のフィラメントが真っ先に高温になり、フィラメントに接続されている端子や近傍の部品の温度が 上がります。
温度の上昇速度が場所によって異なる上に、部品に使われている材質の熱膨張率も違います。
電源 ON の度に、コンピュータに使われているすべての部品が、温度の変化と膨張率の差によって、 あちらこちらでぎくしゃくときしみながら高温になり、OFF になると逆の経緯を経て温度を下げます。
こういうことを繰り返していると、部品の寿命は短くなる傾向があります。
現在でも、 大規模な電子装置は、 故障を防ぐために、 頻繁に電源を ON、OFF することを避けています。

*5 星野力: 「誰がどうやってコンピュータを創ったのか?」、共立出版

このページの写真は、ペンシルバニア大学の Penn Special Collections-Mauchly Exhibition Introduction (http://www.library.upenn.edu/special/gallery/mauchly/jwmintro.html) から許可を得て引用しています。


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update: 2013.01.13  address