戻る ENIAC (Electronic Numerical Integrator and Computer)

Mauchly
John Mauchly

ENIAC は 1946年、ペンシルバニア大学のムーア校で、モークリー (John William Mauchly) と エッカート (John Presper Eckert) によって作られた、最初の電子計算機とされています。
しかし現在では ABC (1942 米) や、 Colossus (1943 英) などがすでに作られていたことが分かっています。

いずれも当時は、弾道計算や暗号解読といった軍事目的で極秘裡に研究されていましたから、 相互の情報交換はあまりなかったのでしょう *1

しかし、18,800本もの真空管を使った大規模な電子計算機は、ENIAC が最初でした。

ENIAC の床面積は 100m2、重量 30トン、消費電力は 150kW ですが、 これを言いかえると、「床面積60畳、車約20台分の重さの、1kW のストーブ 150台 (2.5畳毎に 1kW のストーブが1台) に相当する熱を出すコンピュータ」 ということになります *2

真空管は現在ではほとんど目にする機会がありませんが、 簡単にいえば電球のフィラメントのまわりにいくつかの電極 (プレート や グリッド) をつけ加えて、 整流、増幅、発振などの電子回路を作れるようにしたものです。

電球と真空管

電球も真空管も、フィラメントが切れると交換しなければなりません。 当時の真空管の平均寿命は約 2,000時間でした。

平均寿命約2,000時間の真空管を 20,000本近くも使用している ENIAC は、 単純に計算すると、1/10時間 (6分) に一度、真空管のどれかが故障することになります。

これでは使い物になりませんから、 エッカートは、真空管のフィラメントを通常よりも低い電圧で点灯させるなど、 信頼性を高めるためにさまざまの工夫をこらしました。

ENIAC の信頼性*3 については諸説があるようですが、 「故障率は週に真空管2〜3本という低さ。電源を入れっぱなしにすると90%の稼働率、 弾道研究所へ移設後毎晩電源を落とすと50%に低下 *4*5  などが妥当なように思えます。

単純に作ってしまえば、平均して6分ごとに故障するものが、 わずか週2〜3本の真空管の故障におさえることができたのも、ENIAC の開発スタッフの、 信頼性に対する意識の高さによるものとおもわれます。

ENIAC のプログラム変更作業
プログラムを変更するために配線作業をしている女性
ENIAC の故障真空管の交換
壊れた真空管の交換作業


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*1 1941年、モークリーはアイオワ州立大学のアタナソフを訪れ、 ABC を見学しています。 (これが後に、ENIAC の特許裁判にからんで、コンピュータの歴史が、少し分かりにくくなりました。)
*2 このような猛烈な熱を出す電子計算機が設置されている部屋では、 そのままではコンピュータが正常に動作するはずがありませんし、 コンピュータを操作する人々が室内に入ることもできません。 当然、巨大な冷却装置が必要になります。
*3 寿命の短い真空管を大量に使っているのに、 「電源を入れっぱなしにすると90%の稼働率、弾道研究所へ移設後毎晩電源を落とすと50%に低下」 というのはおかしいじゃないか、と思われるかも知れません。
しかし、電子機器は一般的に、電源の ON、OFF の度に、かなり大きい電気的ストレスを受けます。
さらに、冷え切っている巨大なコンピュータの電源が ON にされると、 コンピュータのすべての部品の温度が上昇します。 まず真空管のフィラメントが真っ先に高温になり、フィラメントに接続されている端子や近傍の部品の温度が 上がります。
温度の上昇速度が場所によって異なる上に、部品に使われている材質の熱膨張率も違います。
電源 ON の度に、コンピュータに使われているすべての部品が、温度の変化と膨張率の差によって、 あちらこちらでぎくしゃくときしみながら高温になり、OFF になると逆の経緯を経て温度を下げます。
こういうことを繰り返していると、部品の寿命は短くなる傾向があります。
現在でも大規模な電子装置は、故障を防ぐために、頻繁に電源を ON、OFF することを避けるようにしています。
*4 信頼性 (reliability) とは、コンピュータや自動車やテレビなど、 電子機器や機械や家電製品などが、どれだけ故障せずに安心して使えるかを表わす尺度です。 MTBF (平均故障間隔: mean time between failure) は 30,000時間だとか、稼働率は97%だ、などと言います。
日常的には、あの人の言うことはいつも正しい、彼の競馬の予想はよく当たる、だから、「信頼性がある。」 などというように、「信じられる」、「頼りになる」 という意味で使うことが多いようですが、 信頼性工学では、(平均して)何時間故障しないで使えるか、故障したら何時間で直るのか、 故障のために稼働率は何%なのか、ということが問題になります。
*5 星野力: 「誰がどうやってコンピュータを創ったのか?」、共立出版


このページの写真は、ペンシルバニア大学の Penn Special Collections-Mauchly Exhibition Introduction (http://www.library.upenn.edu/special/gallery/mauchly/jwmintro.html) から許可を得て引用しています。

update: 2001.02.10  ueyama@infonet.co.jp