戻る 植物における情報メディア・気体(情報伝達)


 動くことも出来ず、声を出すことも出来ない植物は、お互いに情報を伝え合うために気体(ガス体)を用いる。 植物における情報メディアは気体である。

 ジャスミンの木は、人間にジャスミン茶を飲ませ、人間を楽しませるために芳香を発しているのではない。 危険が迫っていることを相互に知らせ合うためである。 ジャスミンの木は傷を受けると、直ちにジャスモン酸を生成する。 これが揮発性のメチルエステルに変化して空中に発散される。 傷を受けていない葉は、そのガスを検知して危険が迫っていることを知り、防御体制を作って災害に未然に備える。 ジャスミンのみならず、多くの植物では、傷害情報がジャスモン酸メチルによって伝達されている。

 ヤナギなどの木は病原体に犯されると大量のサリチル酸を作る。 これも揮発性のメチルエステルになって発散される。 未感染の葉はそのガスを感知して防衛機能を発動させる。 ヤナギだけでなく多くの植物では、病気情報の伝達はサリチル酸メチルによってなされている。

エチレン  エチレンガスが果実の熟成・腐敗に関連する情報伝達物質であることは、比較的よく知られている。 リンゴ・ミカン・レモンなどの多くは、果実が熟成し始めると、エチレンガスを発生させる。 二三の果実がエチレンを生産すると、それが他の果実の熟成を始動させる。 果実が出すエチレンの量は最初は少ないが次第に多くなる。 このエチレンガスによって、自らが更に熟成するだけでなく、まだ未熟な果実をも熟成させる。 熟成が更に進んで起こる腐敗もエチレンガスによる。 のみならず、落葉促進、発芽促進、伸長の阻害などもエチレンによる。 エチレンは植物ホルモンてあると同時に情報伝達物質である。

 人間は視覚、聴覚、味覚、臭覚、触覚の五つの感覚を持っているが、 これらのうち敏感なのは視覚と聴覚で、最も鈍いのが臭覚。 特に、風邪でも引いたら、もう臭覚は壊滅的である。 だから、人間では香りや匂いは情報メディァにはなり得ない。 しかし、物言うことも、叫ぶことも、泣くことも出来ない植物では、最大の情報メディァが香りや匂いなのであった。

(2002年2月)


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(参考文献) 瀧本敦「ヒマワリはなぜ東を向くか」中公新書、1986年、
  佐野浩「植物の生と死」あうろーら、17号、21世紀の関西を考える会、1999年、
  T.A.ヒル(勝見允行、風間晴子訳)「植物ホルモン」朝倉書店、1981年、