0-1. 赤ひげ

監督 黒澤明
出演 三船敏郎加山雄三土屋嘉男江原達怡三戸部スエ
1965年 (東宝)

解説
山本周五郎原作“赤ひげ診療譚”より「天国と地獄」でコンビの井手雅人、小国英雄、菊島隆三、黒澤明が共同で脚色、黒澤明が監督した文芸もの。撮影もコンビの中井朝一と斎藤孝雄。

ストーリー
医員見習として小石川養生所へ住み込んだ保本登は、出世を夢みて、長崎に遊学したその志が、古びて、貧乏の匂いがたちこめるこの養生所で、ついえていくのを、不満やるかたない思いで、過していた。赤っぽいひげが荒々しく生えた所長新出去定が精悍で厳しい面持で、「お前は今日からここに詰める」といった一言で、登の運命が決まった。人の心を見抜くような赤ひげの目に反撥する登はこの養生所の禁をすべて破って、養生所を出されることを頼みとしていた。薬草園の中にある座敷牢にいる美しい狂女は、赤ひげのみたてで先天性狂的躰質ということであった。登は、赤ひげのみたてが誤診であることを指摘したが、禁を侵して足しげく通った結果登は、赤ひげのみたてが正しかったことを知った。毎日、貧乏人と接し、黙々と医術をほどこす赤ひげは、和蘭陀医学を学ばなければ解る筈のない大機里爾という言葉を使って、登に目をみはらせた。赤ひげは「病気の原因は社会の貧困と無知から来るものでこれに治療法はない」といつも口にしていた。こんな中で登は、貧しく死んでゆく人々の平凡な顔の中に、人生の不幸を耐えた美しさを見るようになった。登が赤ひげに共鳴して初めてお仕着せを着た日赤ひげは登を連れて岡場所に来た。そして幼い身体で客商売を強いられるおとよを助けた。人を信じることを知らない薄幸なおとよが登の最初の患者であった。長崎帰りをひけらかし、遊学中に裏切ったちぐさを責めた自分に嫌悪を感じた登は、おとよの看病に必死となった。やがておとよは、登に対しても他人に対してもあふれる愛情を示し始めた。そしてふとした盗みでおとよに救け出された長次とおとよの間に、幼い恋が芽生えた頃、登はちぐさの妹まさえと結婚の約束を取り交した。そして、名誉にも金にも縁遠くなっても、一生この養生所で、医術にいそしむことを誓った。




0-2. 姿三四郎(1965)

監督 黒澤明
出演 大河内傳次郎藤田進轟夕起子花井蘭子月形龍之介
1943年 (東宝)
解説
黒澤明の初監督作品である。新聞広告の「姿三四郎」という新刊書のタイトルを一目見て何か強く魅かれるものがあった黒澤は、東宝のプロデューサー(当時)森田信義に、同作品の映画化交渉を依頼、しかし本作の映画化は松竹や大映も希望しており、原作者である富田常雄との交渉が行われていた。最終的に東宝が権利を得たのは、若手の有望株として黒澤を推薦する映画雑誌記事を読んだ富田の妻が、黒澤を薦めたからであったという。当局の検閲時、検閲官の一人であった映画監督・小津安二郎は、この映画を 「100点満点で120点」と評した。

ストーリー
1882年(明治15年)、会津から柔術家を目指し上京してきた青年、姿三四郎は門馬三郎率いる神明活殺流に入門。ところがこの日、門馬らは修道館柔道の矢野正五郎闇討ちを計画していた。近年めきめきと頭角を現し警視庁の武術指南役の座を争っていた修道館柔道を門馬はいまいましく思っていたのだ。ところが多人数で襲撃したにも関わらず、矢野たった一人に神明活殺流は全滅。その様に驚愕した三四郎はすぐさま矢野に弟子入りを志願した。やがて月日は流れ、三四郎は修道館門下の中でも最強の柔道家に育っていたが、街に出れば小競り合いからケンカを始めてしまう手の付けられない暴れん坊でもあった。そんな三四郎を師匠の矢野は「人間の道というものを分かっていない」と一喝。反発した三四郎は気概を示そうと庭の池に飛び込み死ぬと豪語するが矢野は取り合わない。兄弟子たちが心配する中意地を張っていた三四郎だが、凍える池の中から見た満月と泥池に咲いた蓮の花の美しさを目の当たりにした時、柔道家として、人間として本当の強さとは何かを悟ったのであった。ある日蛇のように異様な殺気を帯びた男が道場を訪ねてきた。良移心当流柔術の達人、檜垣源之助は三四郎の兄弟子を一瞬で倒すほどの実力の持ち主。師匠に稽古止めを言いつけられている三四郎がこの時戦うことは適わなかったが、双方いずれ雌雄を決する日が来るであろう予感を抱く。やがて修道館の矢野の元に新しい柔術道場開きの招待状が届く。その場で他流試合を設けたいという誘いであったが、これは暗に神明活殺流の門馬が裏切りと積年の復讐を果たすために三四郎にあてた挑戦状であった。しかし実力を増してきた門馬も既に三四郎の敵ではなく、三四郎の必殺投げ技「山嵐」が決まった時、門馬は壁に頭をぶつけ死んでしまった。試合とはいえ他人を死なせてしまったこと、その場にいて悲劇を目撃してしまった門馬の娘の悲痛な目が脳裏から離れず、三四郎は柔道を続ける意義を見失ってしまう。師匠の矢野の猛特訓によりやっと戦う気力を取り戻した三四郎は、神社でひたすらに祈る一人の美しい娘と出会う。この娘こそ良移心当流師範、村井半助の娘の小夜であった。先の死闘を見た村井半助は警視庁武術大会での試合を三四郎に申し込み、小夜は老いた父の勝利を願って祈りを捧げていたのであった。その事を知った三四郎は自分が試合にどう臨めばいいのか自問自答しまたもや袋小路に陥ってしまうが、修道館のある寺の和尚に「その娘の美しい強さに負けない、お前の美しかった時を思い出せ」と蓮の花が咲いていた泥沼の三四郎がしがみついてきた杭を指差されたとき、彼の心は決まった。大勢の人々が見守る中開催された警視庁武術大会。村井は全力を持って気合で三四郎を圧倒するが、研ぎ澄まされた三四郎の技が決まった時勝負はついた。しかし投げられても投げられても立ち上がってくる村井の凄みに三四郎は憔悴し、皆が祝ってくれても勝利の余韻に浸る余裕など無かったが、全身全霊を捧げた戦いの疲れを癒してくれたのは、道場に招待してくれた村井の温かい言葉と小夜の手料理であった。唯一面白くないと憤っている檜垣源之助から遂に果たし状が届く。三四郎と戦う場をもらえなかったばかりでなく、恋慕する小夜と三四郎が親しくしているのが気に食わない。京が原での決闘、風雲急を告げる中、遂に雌雄を決する時が来た……。




0-3. 蜘蛛巣城

監督 黒澤明
出演 佐々木孝丸太刀川洋一志村喬三船敏郎山田五十鈴
1957年 (東宝)

解説
生きものの記録」に次いで黒澤明監督が描く戦国武将の一大悲劇。脚本は「阪妻追善記念映画 京洛五人男」の小国英雄、「真昼の暗黒」の橋本忍、「嵐(1956)」の菊島隆三と黒澤明の合作。撮影担当は「続へそくり社長」の中井朝一。主な出演者は「囚人船」の三船敏郎、「猫と庄造と二人のをんな」の山田五十鈴、浪花千栄子、「嵐(1956)」の久保明、「ならず者(1956)」の志村喬、「ボロ靴交響楽」の木村功、その他千秋実、太刀川洋一、上田吉二郎、土屋嘉男、高堂国典、清水元、三好栄子、藤木悠、佐々木孝丸などのヴェテラン陣である。

ストーリー
戦国時代、難攻不落を誇る蜘蛛巣城の城内では城主都築国春を中に軍師小田倉則保ら諸将が北の館藤巻の謀叛に遭い籠城の覚悟を決めていた。その時、使者が駆込み、一の砦の鷲津武時と二の砦の三木義明が敵を破ったと報じた。主家の危急を救った武時と義明は主君に召され蜘蛛巣城に帰るべく城の前にある蜘蛛手の森に入った。ところが道に迷い雷鳴の中を森を抜け出そうと進むうち二人は一軒の小屋を見つけた。小屋の中から老婆が現れた。驚く二人に老婆は「武時は北の館の主に、やがて蜘蛛巣城の城主になり、義明は一の砦の大将に、また義明の子はやがて蜘蛛巣城の城主になる」と不思議な予言をした。その夜、武時は北の館の主に、義明は一の砦の大将に任ぜられた。武時の妻浅茅は冷い女。義明が森の予言を国春に洩らしたら一大事と、夫に国春を殺し城主になれと唆かす。悪魔のような囁きに武時は遂に動揺、国春を刺し蜘蛛巣城の城主となる。子のない武時は、予言に従いやがて義明の子義照を世継ぎにしようと考えた。ところが栄華の欲望にとりつかれた浅茅に反対され更に彼女が懐妊を告げて再び唆かすと武時は義明を討った。主君と親友を殺した武時は良心の呵責に半狂乱となり城中にも不安が漲った。大嵐の夜、浅茅は死産し重態に陥った。と、その時、一の砦から使者が来て、武時の手を逃れた国春の一子国丸を奉じて小田倉則保と義明の子義照が大将となって城に押寄せたと告げた。凶報相次ぐ蜘蛛巣城内の部将たちは戦意も喪失したが武時は、ふと森の老婆を思い出し武運を占わせようと蜘蛛手の森に駈け入った。老婆が現われ、「蜘蛛手の森が動き城へ押寄せぬ限り武時は敗れぬ」と再び予言した。狂喜した武時は城に帰った。が将兵は依然不安に戦き浅茅は遂に発狂した。時も時、城内に叫びが起った。蜘蛛手の森が城に押寄せたというのだ。軍兵たちは武時に裏切者の声を浴びせ、恐怖のうち矢を射られ城から転落した。蜘蛛巣城に朝日が輝いた。動く森と見えたのは全軍木の枝で擬装した則保の軍勢であった。




0-4. 生きものの記録

監督 黒澤明
出演 三船敏郎三好栄子東郷晴子清水将夫佐田豊
1955年 (東宝)

解説
「生きとし生けるもの」の橋本忍、「おしゅん捕物帖 謎の尼御殿」の小国英雄、「七人の侍」監督以来の黒澤明の三人が共同で脚本を書き、黒澤明が監督、「制服の乙女たち」の中井朝一が撮影を担当した。主なる出演者は「宮本武蔵(1954)」の三船敏郎、「夫婦善哉」の三好栄子、宝塚歌劇団の東郷晴子(東宝入社第一回)、「姿なき目撃者」の志村喬、「おえんさん」の清水将夫、「朝霧(1955)」の青山京子、「やがて青空」の太刀川洋一、「獣人雪男」の根岸明美など。

ストーリー
都内に鋳物工場を経営しかなりの財産を持つ中島喜一は、妻とよとの間に、よし、一郎、二郎、すえの二男二女がある、ほか二人の妾とその子供、それにもう一人の妾腹の子の月々の面倒までみている。その喜一は原水爆弾とその放射能に対して被害妾想に陥り、地球上で安全な土地はもはや南米しかないとして近親者全員のブラジル移住を計画、全財産を抛ってもそれを断行しようとしていた。一郎たちはこの際喜一を放置しておいたら、本人の喜一だけでなく近親者全部の生活も破壊されるおそれがあるとして、家庭裁判所に対し、家族一同によって喜一を準禁治産者とする申立てを申請した。家庭裁判所参与員の歯科医原田は「死ぬのはやむをえん、だが殺されるのはいやだ」という喜一の言葉に強く心をうたれるのだった。その後もブラジル行きの計画を実行していく喜一に慌てた息子たちの申請により、予定より早く第二回の裁判が開かれた。その結果、申立人側の要求通り喜一の準禁治産を認めることになった。喜一の計画は、この裁定にあって挫折してしまった。極度の神経衰弱と疲労で喜一は昏倒した。近親者の間では万一の場合を考えて、中島家の財産をめぐる暗闘が始まった。その夜半、意識を回復した喜一は工場さえなければ皆も一緒にブラジルへ行ってくれると考え、工場に火を放った。灰燼に帰した工場の焼け跡に立った彼の髪の毛は一晩の中に真白になっていた。数日後、精神病院に収容された喜一を原田が見舞いに行くと、彼は見ちがえるほど澄み切った明るい顔で鉄格子の病室に坐っていた。地球を脱出して安全な病室に逃れたと思い込んでいる喜一を前にして原田は言葉もなく立ちつくすのであった。彼の気が狂っているのか、それとも恐ろしい原水爆の製造に狂奔する現代の世界が狂っているのか。




0-5. 七人の侍

監督 黒澤明
出演 志村喬稲葉義男宮口精二千秋実加東大介
1954年 (東宝)

解説
生きる」に次ぐ黒澤明監督作品。本木莊二郎の製作になり、「生きる」のトリオ橋本忍(「花と龍 第一部」)、小国英雄(「美しき鷹」)、黒澤明(「吹けよ春風」)が協力してシナリオを書き、「プーサン」の中井朝一が撮影を担当している。音楽は「広場の孤独」の早坂文雄である。出演者は「太平洋の鷲」の三船敏郎、志村喬、「美しき鷹」の津島恵子、田崎潤「日の果て」の木村功、「求婚三人娘」の多々良純、「花と竜 第一部」 「花と竜 第二部」の島崎雪子、千石規子、「秩父水滸伝」の高堂国典などのほか、俳優座の東野栄治郎、土屋嘉男など新劇人が出演している。前半107分・(休憩5分)・後半95分。後に海外向けに短縮版も黒澤監督本人により作られた。ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞、1954年度キネマ旬報ベスト・テン3位。

ストーリー
麦の刈入れが終る頃、野伏せりがやって来る。去年襲われた村人は恐怖におののいた。闘っても勝目はないし、負ければ村中皆殺しだ。村を守るには侍を傭うことだ、長老儀作の決断によって茂助、利吉等は侍探しに出発した。智勇を備えた歴戦の古豪勘兵衛の協力で五郎兵衛、久蔵、平八、七郎次、勝四郎が選ばれた。菊千代は家族を野武士に皆殺しにされた百姓の孤児で野性そのままの男である。村人は特に不安を感じていたが、菊千代の行動によってだんだん理解が生れていった。村の防衛体勢は整えられ戦闘訓練が始った。刈入れが終ると野武士の襲撃が始り、物見の三人を久蔵、菊千代が倒した。利吉の案内で久蔵、菊千代、平八が夜討を決行し火をかけた。山塞には野武士に奪われた利吉の恋女房が居た。彼女は利吉の顔を見ると泣声をあげて燃える火の中に身を投じた。この夜敵十人を斬ったが、平八は種カ島に倒れた。夜が明けると野武士は村を襲って来た。侍を中心に百姓も鍬や丸太を持って村を死守した。美しい村の娘志乃は男装をさせられていたが、勝四郎にその秘密を知られ二人の間には恋が芽生えた。決戦の前夜、志乃は勝四郎を納屋に誘い二人の体はもつれ合って藁の中へ倒れた。翌朝、十三騎に減った野武士の一団が雨の中を村になだれこんだ。斬り込んだ侍達と百姓達は死物狂いで闘い、久蔵、五郎兵衛が倒れた。怒りに燃えた菊千代は最後の一人を屋根に追いつめたが、敵の弾をうけ、差しちがえて討死した。野武士は全滅した。しかし百姓も数人倒れ、七人の侍の中四人が死んだ。新しい土鰻頭の前に立った勘兵衛、七郎次、勝四郎は、六月の爽やかな風の中で働いている百姓達を静かに眺めた。志乃も何かを振り捨てるように大声で田植唄をうたっていた。「勝ったのはあの百姓達だ。わし達ではない。」田の面をみながら勘兵衛がつぶやいた。




0-6. デルス・ウザーラ

監督 黒澤明
出演 ユーリー・ソローミンマキシム・ムンズクシュメイクル・チョクモロフウラジミール・クレメナスヴェトラーナ・ダニエルチェンカ
1975年 (日本ヘラルド映画)

解説
一九〇二年から数回にわたって地誌調査のためにシベリアを探検したウラジミール・アルセーニエフの「シベリアの密林を行く」と「デルス・ウザーラ」を基にしたソ連映画。製作はニコライ・シゾフと松江陽一、監督は黒澤明、脚本は黒澤明とユーリー・ナギービン、撮影は中井朝一とユーリー・ガントマンとフョードル・ドブロヌラーボフ、美術はユーリー・ラクシヤ、音楽はイサーク・シュワルツ、協力監督は野上照代とウラジミール・ワシリーエフ、製作担当はカルレン・アガジャーノフ、通訳はレフ・コルシコフが各々担当。出演はユーリー・ソローミン、マキシム・ムンズク、シュメイクル・チョクモロフ、ウラジミール・クレメナ、スヴェトラーナ・ダニエルチェンカなど。70ミリ。

ストーリー
第一部 地誌調査のためにコサック兵六名を率いてウスリー地方にやってきたアルセーニエフ(Y・サローミン)がはじめてデルス(M・ムンズク)に会ったのは一九〇二年秋のある夜だった。隊員たちが熊と見まちがえたくらい、その動作は敏捷だった。鹿のナメシ皮のジャケットとズボンをつけたゴリド人デルスは、天然痘で妻子をなくした天涯狐独の猟師で、家を持たず密林の中で自然と共に暮らしている、とたどたどしい口調で語った。翌日からデルスは一行の案内人として同行することになった。ある日、アルセーニエフとデルスがハンカ湖付近の踏査に出かけた時のことである。気候は突如として急変し、静かだった湖は不気味な唸りをあげはじめた。迫りくる夕闇と同時に、横なぐりの吹雪が襲ってきた。デルスは、アルセーニエフに草を刈り取ることを命じ、二人は厳寒に耐えながら草を刈り続けた。あまりの寒さと疲労のために気を失ったアルセーニエフが気づくと、あれほど荒れ狂っていた吹雪がおさまりもとの静けさをとり戻していた。デルスが草で作った急造の野営小屋のおかげで凍死をまぬがれたのだ。シベリヤの短い秋が終わり、やがて厳しい冬がやってきた。食料を積んだソリを氷の割れ目に落とし、寒さの他に飢餓が彼らを苦しめた。この時もデルスの鋭い観察眼が一行を救った。第一次の地誌調査の目的を達したアルセーニエフの一行はウラジオストックに帰ることになり、彼はデルスを自分の家に誘ったがデルスは弾丸を少し貰うと、一行に別れを告げて密林に帰っていった。 第二部 一九〇七年。再度ウスリー地方に探検したアルセーニエフはデルスと再会した。その頃ウスリーには、フンフーズと呼ばれる匪賊が徘徊し、土着民の生活を破壊していた。フンフーズに襲われた土着民を助けたデルスはジャン・バオ(S・チャクモロフ)という討伐隊長にフンフーズ追跡を依頼した。その頃から、忍びよる老いと密林の恐ろしい孤独が次第にデルスをむしばんでいった。視力が急速におとろえたデルスを、アンバ(ウスリーの虎)の幻影が苦しめ極度に恐れさせた。猟ができなくなったデルスは既に密林に住むことは許されない。あれほど都市の生活を嫌っていたデルスはアルセーニエフの誘いに応じ彼の家にすむことになった。しかし、密林以外で生活したことのないデルスにとって、自然の摂理にそむいた都会生活は、彼の肉体と精神をむしばむばかりだった。そのデルスの苦悩を、アルセーニエフやその妻(S・ダニエルチェンカ)もいやすことができなかった。密林に帰ることになったデルスに、アルセーニエフは最新式の銃を贈った。だが、そのアルセーニエフの好意がとりかえしのつかない災いを招くことになった。デルスは行きずりの強盗にその銃を奪われ、他殺死体として発見されたのだ。アルセーニエフは、冷たい土の中に埋められていくデルスの変わりはてた姿を見ながら慟哭していた。




0-7. カンゾー先生

監督 今村昌平
出演 柄本明麻生久美子ジャック・ガンブラン世良公則唐十郎
1998年 (東映)

解説
昭和20年、戦時下の岡山県の小さな漁師町を舞台に、患者を肝臓炎としか診断しない風変わりな町医者と彼を取り巻く町民たちの生き様を描いた人間喜劇。監督は「うなぎ」の今村昌平。坂口安吾の原作を基に、今村と「うなぎ」の天願大介が共同脚色。撮影を「出現!東京龍/TOKYO DRAGON」の小笠原茂が担当している。主演は「」の柄本明。第51回カンヌ国際映画祭特別招待、報知映画賞主演男優賞&助演女優賞受賞作品。キネマ旬報日本映画ベスト・テン第4位。

ストーリー
昭和20年夏。戦時下の岡山県日比の海岸を、開業医・赤城風雨が走っていた。彼は父の代からの家訓である「開業医は足だ。片足折れなば片足にて走らん。両足折れなば手にて走らん。疲れても走れ。寝ても走れ。走りに走りて生涯を終らん。」を胸に、こうして病人の家を往診して回っているのだ。しかし、病人たちは殆ど無償に近い値段で診てくれる風雨に感謝しながらも、その一方でどんな患者にも肝臓炎としか診断しない風雨のことを「肝臓先生」と渾名するのだった。ある日、田舎には珍しい美少女・ソノ子が赤城医院に看護婦としてやって来る。幼い弟妹を養う為、淫売をしていたソノ子は、父親の死をきっかけに監視役を押しつけられた風雨の下で働くことになったのだ。それから暫くして、風雨に岡山県医師会からブドウ糖注射を使いすぎるのではないかという指摘がなされた。肝臓炎にはブドウ糖が欠かせない。風雨は医師会に強く反発。また、軍医部長の池田中佐からも同じような勧告を受けるが、彼は怯むことはなかった。むしろ、それを機に偶然手に入った顕微鏡を使って、肝臓炎の病原体の研究をしようと意気込む始末。医師仲間でモルヒネ中毒の鳥海、町の住職でアルコール中毒の梅本、そしてソノ子が助けた脱走兵で母国オランダでカメラ会社に勤務していたというピートの協力を得て、風雨は研究に没頭する。更に、満州で戦死した息子から肝臓炎に関する調査報告が送られてきたことで、彼の肝臓炎撲滅への意欲は燃え盛っていく。しかし、風雨たちはピートを匿った罪で当局へ連行されることに。料亭・紫雲閣の女将・トミ子の計らいで風雨たちは釈放されるが、ピートは獄中で拷問を受けて死亡。研究も振り出しに戻ってしまう。しかし風雨は諦めなかった。再び顕微鏡を入手した彼は、研究に邁進する。ところが、研究に没頭するあまり、診察を受けられなかった町の老人が死んでしまった。遺体を前に打ちひしがれる風雨は気づく。自分は町医者に徹するべきであることを。思いも新たに離れ小島へ往診に出かけた帰り、舟の中でソノ子に愛を打ち明けられた風雨は、遙か向こうにキノコ雲が揚がるのを見る。




0-8. レディ・ジョーカー

監督 平山秀幸
出演 渡哲也徳重聡吉川晃司長塚京三國村隼
2004年 (東映)

解説
「OUT」の平山秀幸監督が高村薫の同名小説を映画化。ある事件を巡る犯人と被害者、警察の3者の視点を通し、現代社会にひそむ闇を描く骨太な犯罪劇だ。

ストーリー
平成16年10月、日之出ビール社長・城山恭介(長塚京三)が誘拐された。“レディ・ジョーカー”と名乗る犯人グループのメンバーは、薬店を営む物井清三(渡哲也)、障害を持つ娘・さち(愛称レディ)を抱えるトラック運転手の布川淳一(大杉漣)、信用金庫に勤める在日の高克己(吹越満)、町工場の施盤工・松戸陽吉(加藤晴彦)、そして刑事の半田修平(吉川晃司)の、川崎競馬場で知り合った職業も年齢もバラバラの5人の男たち。ただ彼らに共通していることは、“社会の弱者”であることだった。56時間後、城山を解放した“レディ・ジョーカー”は、今度は会社への脅迫を開始する。人質は350万キロリットルのビール。それに、異物を混入させようというのだった。更に、彼らは日之出ビールに20億円の裏取引を持ちかける。果たして、城山は取引に応じる動きを見せた。実は、城山には犯人の目星がついていたのだが、そのことを公に出来ない事情があった。それは5ヶ月前、城山の姪の佳子(菅野美穂)が、被差別部落出身という理由から物井の孫の孝之との結婚を両親から反対されており、しかも孝之は日之出ビールの就職試験に落ちた直後、バイク事故で死亡していたのだ。これが明るみに出たら、城山家にも会社にも大スキャンダルである。そこで、城山は個人的な脅迫と知りつつ、“レディ・ジョーカー”に会社の金から20億円を渡すのだった。その頃、捜査に躍起になっていた警察は、日之出ビール幹部と“レディ・ジョーカー”との間に裏取引があるのではないかと睨みつつ、同時に半田への内偵を進めていた。ところが、もう少しで任意事情聴取というところまできて、半田の元上司が自殺。結局、警察内部の腐敗をマスコミに騒がれるのを恐れた捜査本部は、半田の事情聴取の見送りを決定する。そんな上層部に憤りを隠せないのが、元警視庁捜査一課の刑事・合田(徳重聡)。しかし、彼も尾行に気づいた半田に怪我を負わされる。その後、金を預かっていた高が、日之出ビールとかつてつながりがあった総会屋と共に行方をくらます。しかし、そもそも金を奪うことが目的ではなかった“レディ・ジョーカー”のメンバーは、今までどおりの静かな暮らしに戻り、一方、城山たちは総会屋との癒着が表沙汰になり、背任容疑で逮捕された。こうして、“レディ・ジョーカー”事件は、勝者のないまま人々の記憶の彼方に葬られていくのだった。




0-9. SF サムライ・フィクション

監督 中野裕之
出演 吹越満風間杜夫布袋寅泰緒川たまき夏木マリ
1998年 (シネカノン)

解説
剣の達人である素浪人に奪われた宝刀を取り返そうと奔走する若侍が、平和主義者の中年侍との出会いの中で成長していく姿を描いた新感覚の時代活劇。監督・脚色は、本作で本篇デビューを果たしたミュージック・ビデオ界のクロサワの異名を持つ中野裕之。脚本は「シャ乱Qの演歌の花道」の斎藤ひろし。撮影をミュージック・ビデオやCFなどで活躍中の矢島祐次郎が担当している。主演は、「ラブ&ポップ」の吹越満と「恋は舞い降りた。」の風間杜夫、ロックミュージシャン・布袋寅泰。

ストーリー
1969年、300年かかって新しい体に転生した太平の世の若侍・犬飼平四郎の魂は、当時の自分を振り返る──。長島藩の家老である父・勘膳に勘当を解かれ、武芸の修業に赴いた江戸から久しぶりに国へ帰ってきた平四郎の耳に、殿様が刀番として雇った浪人あがりの風祭蘭之介なる侍が宝刀を盗んで姿を消したという知らせが飛び込んできた。このままではお家断絶は免れないだろう。しかし、剣の達人である風祭には誰ひとりとして敵う者はおらず、悩み抜いた藩の重役たちは宝刀の贋作を作って事件のもみ消しを図ろうとする。ところが、この周囲の及び




0-10. この世界の片隅に

監督 片渕須直
出演 のん尾身美詞細谷佳正稲葉菜月牛山茂
2016年 (東京テアトル) 126分

解説
第2次大戦下の広島・呉を舞台に、大切なものを失いながらも前を向いて生きていく女性すずの日常を描いた、こうの史代の同名漫画をアニメ映画化した人間ドラマ。 「マイマイ新子と千年の魔法」 で評判を呼んだ片渕須直監督が、徹底した原作追及、資料探求などを重ね、すずの生きた世界をリアルに描く。主人公の声をのんが演じる。

ストーリー
昭和19年、18歳の少女・すず(声:のん)は生まれ故郷の広島市江波を離れ、日本一の軍港のある街・呉に嫁いできた。戦争が進み様々な物が不足していく中、すずは工夫をこらして食事を作っていく。やがて日本海軍の根拠地であるため呉は何度も空襲に遭い、いつも庭先から眺めていた軍艦が燃え、街は破壊され灰燼に帰していく。すずが大切に思っていた身近なものたちが奪われていくが、日々の営みは続く。そして昭和20年の夏を迎え……。