さて、2000年最初の映画の食卓は、ゲテモノを取り上げてみる。
映画でゲテモノといえば、おおかたホラー映画の類が候補に上がるだろう。でも、僕の観た映画の中で、一番ゲテモノといえば
[フリークス/怪物園](Freaks、1932、製作+監督:
Tod Browning)に止どめを刺すかもしれない。本物の奇形/不具者が大勢登場する
伝説の古典スリラーであり、今なら(当時であっても)、いろいろな団体から抗議が来そうな映画である。事実、アメリカでも長い間上映を禁止されていたらしい。
ただ、ふしぎなもので、この映画も、始まってしばらくすると奇形たちがあまり気にならなくなる。
グロテスクな外見はグロテスクな中身とは一致しないという、作品のもつテーマゆえでもあるのだろう(注
00)。ビデオになっているので、退屈したときには一度は観ておいてはいかがだろう。
一見正統的な映画に見えながらゲテモノというものも、結構あるものだ。たとえば、上映方法がゲテモノなんて言うのもある。
[家庭教師](1987、マルパソプロダクション、製作+監督+脚本+音楽+主演:
渡辺文樹)という映画を観たことはあるだろうか?
この監督は、ほかにも
[島国根性](1990)、
[ザザンボ](1992)、[罵詈雑言](1996)と、結構いいペースで製作している。
どうやって配給しているかというと、何と、全国の市民会館を借りて自主上映して回るというもので、この上映会の1ヶ月くらい前になると、 "独りで観てはいけない" とか "気持ち悪くなったら" "本物の死体が" "吐きそう" というような扇情的な手書き文字を書いた、明らかに違法なポスターが町中に貼りだされるのだ。
あいにく僕は、このうちの
[家庭教師]を、それもビデオでしか観たことないのだが、こういった扇情的なおどろおどろしいうたい文句に踊らされて見に行く客がけっこういるようで、
[ザザンボ]の時には、入りきれなかった客が、焼津市民会館の入り口のガラスを破ったというのがニュースとなっていた。
最近では、つい1〜2ヶ月前に [腹腹時計] というポスターを見かけた。相変わらず、汚い手書き文字でいろいろ書いてあったが、枚数も少なく、
[ザザンボ] の時ほどのエネルギーは感じられなかった。きっと、貸してくれる会場が少なくなっているのだろう。
こんな渡辺文樹監督の作品の中でも、
[家庭教師]はビデオになっているので、得体の知れない上映会に付き合わなくても観ることができる。
内容は、一言で言えば、自分が家庭教師している女子中学生とsexしてしまったのがばれてつかまっちゃう、という
監督自身の実話である。映像は汚いし、セリフもよく聞き取れないが、これだって一度は観ておいたら面白いかもしない。
映画にゲテモノがあるように、食べ物にもゲテモノがある。でも、食べ慣れない人から見れば、納豆も、味噌もすべてゲテモノである。沖縄ではカブトムシを食べるというが、彼らにとっては食べなれた日常食でしかない。そういう意味のゲテモノといえば、
以前にこの
[映画の食卓-僕の食卓]でとりあげたギバサもある意味ではゲテモノといえるかもしれない。そのギバサについて、ひろみさんという方からメールが届いたので紹介しよう。
ぎばさは今でも1パック100円くらいでスーパーで手に入ります。昔と違うのは、湯通ししなくてもすぐ食べられるように緑色になって細かくたたいた状態で売っているという点です。
森島さんは酢醤油ですか?私はしょうが醤油がすきです。
ぎばさの本名はホンダワラといって、海水浴に行くとよくただよってくる、小さなまあるい浮き袋のついた茶色い海草です。貧乏な東北地方ならではの食べ物かもしれません。
そうか、 ギバサはホンダワラであったのか!
続けてその名前の由来のメールもいただいたので併せてご照会する。
そうそう、ギバサの語源がわかりました。ホンダワラの別名でジンバソウという言い方があるそうです。これが訛ってギンバソウになり、秋田は昔から寒くて言葉を縮める習慣(?)があって "ぎんばさ"、"ぎばさ" となったと思われます。
縮めたというのは私の説ですが、ジンバソウは、植物学者の牧野富太郎の図鑑に載ってましたので嘘ではありません。
ゲテモノと思っていたギバサが、実は由緒正しい名前をもった食べ物だと言うことが分かって、ほっとした気分になっているのは僕だけだろうか。
ただ、ギバサがゲテモノだというのは、正体がわからないから、というケースである。これと異なるタイプのゲテモノに、よく知っている食べ物を組み合わせると、ゲテモノになるというものがある。巷ではこれをC級グルメなどとも呼んでいるらしい。納豆に蜂蜜程度なら可愛いものだが、どうしても生理的に受け付けないものもある。
ここまで話を引っ張ってきたのは、実は、いつも行く蕎麦屋で奇妙な食べ物を見たからである。蕎麦の上に海草をのせてあり、そこにドレッシングがかけてある。これを、ちょっと気取った30前後の男が注文して食べていたのだが、はっきり言って、見ていて気持ちが悪くなった。
かみさんに聞いたら、うどんにつゆをかけて、海草サラダをのせ、マヨネーズをかけて食べるのは夕食材料の宅配で有名な
ヨシケイの定番メニューなのだそうだ。自分の単なる好き嫌いなのか、それとも野獣の直感が教えてくれている通り、単なるゲテモノを見てしまったのか、さっそく、自宅で作って確かめてみることにした。
調理方法は簡単で、ゆでて水洗いした蕎麦に、もどした海草サラダをのせ、1000アイランドドレッシングをかけるだけのことだ。
うまいものではない。というのが、正直な感想である。細いスパゲッテイの入った海草サラダというところだろう。ただ、ゲテモノと言い捨ててしまうほどまずくはないことは確かだ。
さあ、もう少し暖かくなったら、近所の海までギバサを拾いに行こう。そして、"分かりません"というメール以外、誰一人応募してもらえなかった
とら新聞100号プレ企画のクイズのことなど海に流してしまおう。