作品/[三月劇場]

[映画の食卓-僕の食卓]
(2)



http://www.infonet.co.jp/apt/March/Aki/Eat/02.html



 初めて行った字幕付の映画を覚えているだろうか。僕の場合は [シャイアン] (注01)だった(第04章参照)。祖母のアパートへ預けられていて、近所の若夫婦が連れていってくれたのが [シャイアン] だったのだ。長嶋が日本シリーズで7本ファールを打った年の打った日だったから、多分10月である。幼稚園に通っていた子供だからもちろん字幕が分かるはずもなく、若夫婦はずいぶん迷惑したことだろうが、字幕付の映画に行ったということは子供心にも画期的なことであり、小学生になってからも友達に自慢した記憶がある。ただ、長嶋が7本ファールを打った日というのはいささか怪しいと自分でも思っている。そのうちのご主人がそのテレビを見ていたのは記憶しているのだが、その日ではないのかもしれない。
 さて、その肝心の [シャイアン] であるが、中味の記憶はまるでない。正直言って、同じ時期に [光る海] や [赤いハンカチ] を見ているのだが、これすらテレビの再放送で [どうも見たことがある、そういえば幼稚園のころ見たぞ] とやっと記憶によみがえった程度の記憶力の持ち主である。実は中学の頃もずいぶん映画を観ているはずだが、ほとんど記憶にない。 [空軍大戦略] [キャット] など、題名だけは記憶しているもののどんな内容だったのか、一切忘れている。
 こんな記憶力であるから、西部劇もそこそこ観ているはずなのに、まるで記憶にない。いかんせん、そこまで記憶にないのも変なのでよく考えてみたら、西部劇はテレビの洋画劇場で観たものがほとんどで映画館に行って観たことはほとんどないのではないかという結論になった。西部劇が流行していたのは、小学校に入るくらいまでで、それ以降はマカロニウエスタンになってしまっていたはずだ。西部劇とマカロニウエスタンとの違いは、カウボーイとガンマンの違いだろう。西部劇の主人公は基本的にはカウボーイである。彼らは牛を追い、町から町へ移動する。そのカウボーイと町の人間との関係が西部劇の基本のような気がする。マカロニウエスタンは復讐に燃えるガンマンのドラマだ。
 そのカウボーイの食事といえば、豆である。牛追いをしながら草原の真中で、ブリキの皿に何かグジャグジャしたものを入れていつもまずそうにすくって食べている。あれは何だろうと思っていたが、何かの映画の本で [豆だ] と書いてあってはじめて豆だと知った。当初イメージしたのは、大豆の煮つけたやつである。昆布と甘しょっぱく煮た豆が我家の食卓によく出ていたので、そうイメージしたのだがもちろん当時の西部に醤油はないだろうし、ご飯と一緒でなければ食べにくいおかずである。その豆料理がポークビーンズであることを知ったのは更に後のことである。
 ポークビーンズをレシピに沿って自分で作ろうとするとなかなか面倒なことが書いてあり、時間ばかりかかってしょうがない。カウボーイがそんな面倒をするはずもないので、どうしているのだろうと思ったが何の事はない、缶詰を使っているのだ。大手のスーパーへ行くとポークビーンズの缶をずいぶんと安く売っている。我が家では、あと一品何か欲しいというときに、たまにこのポークビーンズの缶詰を使っている。そのままでは少し淋しいので、豚のばら肉に塩をしたものを足している。(塩漬けの豚肉が一番良いのだろうが塩をしているのが面倒ですぐ食べてしまうのだ)そして、 [豆だ] と小声で呟くのである。
 ただ残念ながら時代の波はこんな缶詰にも押し寄せている。ポークビーンズの缶詰があるところの棚をよく見てほしい。隣にチリビーンズの缶詰がありはしないだろうか。いや、実はチリビーンズは置いてあってもポークビーンズを置いてない店があるくらいなのだ。西部劇が消えマカロニウエスタンが残したのは、チリ料理である。正直言ってポークビーンズは妙に甘く、チリビーンズのほうが美味いのは事実である。
森島永年




基点のページへ

[三月劇場]


Copyleft(C) 1999, by Studio-ID(ISIHARA WATARU). All rights reserved.
このページに自由にリンクを張ってください

このページへの助言や感想や新しい情報を歓迎します
下記まで連絡をいただければ幸いです
isihara@tokiwa.ac.jp


最新更新
99-02-14

このページはインフォネットのウェブサーバに載せていただいて発信しています