作品/[三月劇場]

[映画の食卓-僕の食卓]
(4)



http://www.infonet.co.jp/apt/March/Aki/Eat/03.html




 [ムトゥ-踊るマハラジャ](*00)、噂どおりに面白い映画で、踊りのシーンは娘と二人で振りを真似しながらビデオを楽しんだ。インド映画がいつかはのしてくるだろうなという予感はあったので、個人的には来るべきものが来たという感じだ。
 [ムトゥ-踊るマハラジャ]にも出てきたが、インドでは地方によって言葉がかなり違うらしい。インド映画が比較的単純なストーリーをとるのは、いろいろな言語の人間がいることを意識していることもあるのだろう。
 インドの娯楽映画は面白いという話を聞いていたので、20年前にインドに行ったときにも、ニューデリーの映画館で一本恋愛映画を見た。インドは世界で一番の製作本数を誇っており、なおかつすごいのはそのほとんどが恋愛映画で、かつミュージカルらしい。らしいというのは風の便り程度の知識しかないからだが。インドの結婚事情を考えると結婚できるということだけでもすごいことなので、当然人々の関心を引く映画は恋愛映画ということになるのだろう。結婚するためには、結納金が花婿の数年分の年収に見合うだけ必要な上に、花嫁が持っていく持参金も相当な額が必要になるらしい。
 今から15年ほど前の朝日新聞に持参金が少ないといって夫が妻を殴り殺した事件がインドで多発しているという記事を読んだことがある。インドを旅行していて一番多かった質問も、おまえは結婚しているかというものだった。結婚しているというと、それは幸せだ、俺には相手がいるけれどまだマネーが足りなくて三年は結婚できないなどという返事が返ってくることが多かった。
 インド映画で笑えるのは、必ず最初に出てくる紙っぺらを映した映像である。これはコマーシャルでもなんでも映画館で上演される時には必ず最初に出てくるのだが、たぶん検閲の証書か納税の証書を映しているのだろう。どんな歯切れのいいコマーシャルの前にも必ず30秒くらいこの紙っぺらが映るのである。
 20年前のコマーシャルではコーラの宣伝が多かった。でも、名前まで覚えているものはそんなに多くない。その中に、サムアップコーラという、親指を上げている絵がシンボルとなっているコーラがある。アグラの土産物屋でこのコーラをサービスで出してくれたが、王冠をめくってあたるとオートバイがもらえるというので人気があるのだとそこの若者に教えられた。
 さて、インドといえばカレーである。正直に言ってしまうが、実はおいしいと思ったことはなかった。インド映画でカレーが出てくることがあっても、きっとそんなにおいしくないんだろうなと考えてしまう。インドで最初に食べたのは屋台のような店のチキンカレーだった。考えてみればインドで一番人口の多いヒンドゥ教徒は菜食主義だから肉入りカレーを出しているのはイスラム教徒の店だったのかもしれない。それともシーク教徒なのだろうか。インド人は牛肉を食べないというが、町にはステーキを食べさせる店だってあるのだ。ヒンドゥレストランで食べたほうれん草のカレーは、口の中で薄荷が爆発したような味で日本人がイメージするカレーとは似ていて非なるものである。
 心に残る食べ物ももちろんあった。熱い熱いジャイプールの道端で売っていたきゅうりを縦半分に切ったものにゴマを振り掛けただけの水菓子は、40度を越える日差しの中ではおいしく感じられた。
 映画館では、若いカップルが映画館の前の屋台で売っているピラフを持ち込もうとして、警備員に止められていた。僕の見た映画館は日本の映画館と比べてもきれいで大きかったから、きっと格式の高い高級な映画館だったのだろう。若いカップルはデートできばったのだろうが、いつも行く映画館と違って、館内持ち込みお断りだったのだろう。実はそこのところは覚えているのだが、館内に売店があったかどうかまでは記憶がない。
 インドのカレーからはるか遠くまできてしまった日本のカレーである。何でもありである。ナスのカレーやオクラのカレー、かぼちゃのカレーなどはオリジナルに近いような気がする。清水でははるか昔から[金の字]という焼鳥屋のもつのカレー煮込みが有名である。串に刺したもつをカレーで煮込んだものだが、これを生のキャベツの突き出しといっしょに食べる。まあ、普段家で作っているカレーでもあまったらそこで煮込んでもらいたい。臭いが独特なので好みは分かれるだろうが。

 そうういえば、以前に、最初に行った字幕つきの映画は[シャイアン]だと書いたが、ビデオ屋で見たら[シャイアン]は1964年の製作であった(*01)。この年、僕は小学校3年生である。[海底二万マイル](*02)を子供だけで見に行って怒られた年である。
 記憶ってやつは...。

Wed, 9 Jun 1999 20:57:47
森島永年


00  [ムトゥ-踊るマハラジャ] (95)。詳しくはシネアスト資料などをご覧あれかし

01  [Cheyenne Autumn] (64)

02  [20,000 Leagues Under the Sea] (54)






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