戻る MRAM (Magnetoresistive random access memory)



MRAM (磁気抵抗メモリ) は Magnetoresistive Random Access Memory の略語ですが、 その名の通り、 磁気によってデータを記憶するメモリです。
軍事・宇宙開発などの特殊な用途以外ではまだ普及していませんから、 MRAM (エムラム) なんて聞いたことがないかもしれません。
MRAM は最近話題になっている次世代のメモリです。

コアメモリ 半導体メモリ (DRAM, SRAM etc.) が普及するまで、 コンピュータにはコアメモリが使われていました。
コアメモリは左の写真のように、 小さいドーナツ状の磁性体に縦、横、斜めに導線を通し、 これに電流を流して磁性体の磁化の方向を切り替えることによってデータを記憶します。
この写真のコアメモリはごく初期のもので、 記憶容量は 256 ビットです。 最近のパソコンには 2 ギガバイト程度のメモリが実装されていますから、 このコアメモリだと 67,108,864 個で同じ記憶容量になります。 仮にこれが 1 個 1,000 円であったとしても、 2 ギガバイトなら総額は約 670 億円にもなります。
コストの他にスペースや消費電力などを考えても、 コアメモリが姿を消した理由が納得できます。


MRAM は磁気によってデータを記憶するメモリですから、 コアメモリを IC 化したものと考えていいかもしれません。
MRAM は磁気コアの代わりに TMR 素子 (tunneling magnetoresistive) というものを使用します。 TMR 素子はわずか数原子分という極めて薄い絶縁物の層を磁性体ではさんだもので、 磁性体の層の磁化の方向によって電気抵抗が変化します。

TMR

いま、 上図左のように電流を流すと、 電線の下部には右向きの磁界が発生しますから、 TMR 素子の上部の磁性体はその方向に磁化されます (下部磁性体の磁化の方向は変化しないように工夫されています)。 このとき、 トンネル効果によって薄い絶縁物の層を電流が流れやすくなるため、 TMR 素子の抵抗値が下がります。
右のように電流を流すと電線の下部には左向きの磁界が発生しますから、 TMR 素子の上部磁性体は逆方向に磁化されます。 この場合は絶縁層に電流が流れにくくなり、 TMR 素子の抵抗値が上がります。 電流が流れやすい左は  '0'  を、 流れにくい右は  '1'  を記憶していることになります。
TMR 素子の磁化の方向はメモリの電源が切られても変わることはありません。 ビデオテープに録画した映像が消えないように、 メモリの電源が切られても記憶が消えない 「不揮発性」 のメモリになります。

ただ、 上図のように磁界で書き込む方式では、 微細化すればするほど書き込み電流を大きくする必要があり、 記憶容量の大きいメモリには向きません。 メモリセルを微細化するためには、 磁界を使わず、 スピンがそろった電子を流して書き込むスピン注入磁化反転方式 (STT:spin torque transfer) を用いた STT-MRAM が期待されています。





現在広く使われているメモリは DRAM や SRAM の他、 デジタルカメラや USB メモリなどで使われている EEPROM などです。
それぞれの特徴を次のようにまとめてみました。 (◎、○、△、×、? 等の記号は私の独断です。)

  MRAM  DRAM  SRAM EEPROM
 書換え時間 △ (×)
読出し時間
集積度
消費電力
不揮発性××
ビット単価◎?

(EEPROM の書換え時間には △ と × をつけてあります。 デジカメには OK でもコンピュータのメモリには使えない、 という気持ちです。)

MRAM のビット単価には ? をつけてあります。
今はまだ集積度が低く、 量産も進んでいないのでお話になりませんが、 ビット単価は集積度が上がればあとは量産の程度や歩留まり、 需給のバランスなどで決まりますから、 いずれ ◎ になると思われます。
MRAM の特徴は 「不揮発性」 と、 読み書きの速度が速いことです。 既存のメモリでこれらをすべて満足するものはありません。

MRAM は DRAM に代わって、 究極のメモリとなる可能性を持っています



関連事項:  DRAM  フリップ・フロップ (SRAM)  EEPROM 


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*1 フラッシュメモリ、 スマートメディアなど。
*2 世界最高の低消費電力性能を実現した新方式の不揮発性磁性体メモリ(STT-MRAM)を開発
  エバースピン社の世界初64Mb Spin Torque MRAMの限定出荷開始を発表
  スピン注入式の新型MRAMがいよいよ製品化、2015年にはギガビット品が登場へ などをご覧下さい。

  このページのコアメモリの写真は、 Virtual Museum of Computing から引用しています。

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update: 2013.02.01  address