資料シート●[三月劇場]

標本化

http://www.infonet.co.jp/apt/March/syllabus/bookshelf/S/sampling.html




 オーディオはある時間の範囲のそれぞれの時刻に対する圧力の変化、スチルはある領域のそれぞれの地点に対する色の対応と見なすことができる(ビデオはさらにそれが時刻に対応して変化する)。これらは、数学的には、実数(またはその組み)の全体を変域とし、同じく実数(またはその組み)の全体を値域とする実数-実数関数(real-real function)と言っていい(▽図)。
 このような関数は、(高校の数学で学習したような関数とは違って)対応がとても複雑で、数式などの手段で簡単に表現することはできない。一方で、(スチルはともかくとして)オーディオやビデオについては、聞こえてくるのを遅れなく記録/通信しなければならない場合(ラジオやTVのように)が多い。このため、関数を完全に再現できるような記録/通信はあきらめて、それを近似できる何か別のもので済まさなければならない。
 たとえば音について考えると、時刻の違い(つまり実数)は無限に多いので、その全部に対応する圧力を記録するためには、無限個の圧力の値を書き並べなくてはならなくなってしまう。
 この問題を避けるには、全部の時刻に対する圧力(▽図灰線)を記録または通信するのはあきらめて、一定の時間ごとの圧力だけ(同黒点)を記録したり通信したりすればいい。このような近似のしかたを標本化(sampling)という。




変化とそれを標本化したもの

 数量やその変化、対応をビット列で表現するためには、標本化と量子化による情報の一部の切り捨てが欠かせない。(あまりきちんとした用語ではないが)デジタル化と呼ばれているのは、この二つの処理を合わせたものだと思っていいだろう。

 ある標本を採る変域値からその次の標本を採る変域値までの長さが開くほど、もとの関数と標本化によってできた近似関数との違いは大きくなる(▽図)。この長さを標本化間隔(変域が時間の場合は標本化周期)という。
 標本化間隔の逆数を標本化密度(変域が時間の場合は標本化周波数)という。標本化密度は標本化による近似の正確さを表しているといえる。

 記録されている情報を読み出したり、通信を受信したりしながら再生する時のことを考えると、あまり多くの個数の符号を担体に詰め込むことはできない。
 オーディオCD(正確にはCD-DA)の場合では、1/44,100秒に対して(左右のチャネルごとに)一つの圧力しか記録/再生しないことに決められている。つまり、一つの符号に使える時間は1/44,100秒しかない。
 このように、PCMへの変調の過程には標本化が含まれている。それに対して、AMFMでは(システムの精度を無視すれば)無限に多くの個数の符号が記録できるので、標本化されていないままの情報が表現できる。

 標本化の間隔があまり開いてしまうと高い音が録音できなくなる。人間の耳は0〜20kHzの高さ(音の高さは振動数で表す)の音なら聞き取れる。この範囲の高さの音が、記録できるようにするためには、符号と符号との間隔は長くても約(1/4万)秒を超えてはいけない。
 ところで、人間の耳のかたつむり管には90kHzまでの高さの音に対応した感覚器が備わっているらしい。けれども、空気を伝わって来る音のうち、20kHz以上の高音はかたつむり管までは届かない。そのため、かたつむり管の性能は十分には発揮されていない。









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06-10-18