[月虹舎]


(イメージ)

グッバイガール
第04場
森島永年


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http://www.infonet.co.jp/apt/March/Aki/GoodByeGirl/04.html




 闇の中で、ライターの炎が光る。明るくなると優子がいる。

優子 そりゃ、ママだって悪い人じゃないと思うわよ。でも、あの憎まれ口だけは、どうしても好きになれないわ。第一、どうして私たち3人が同じ屋根の下で暮らさなくちゃいけないのよ。...柿崎さんは好きな人だったの。そりゃ、ママはだまされたけど、少なくとも、一緒にいるときは優しかったでしょ。ユカにだって、優しかったじゃないの。...そう、ユカはあんまり好きじゃなかったの。それで最後まで、柿崎さんなんて呼んでたんだ。でもね、たとえだまされたって、ママは柿崎さんのことが好きだったの。...パパと較べて、どっちが好きかって。そんなの、決まっているじゃない。パパは、他に好きな人が出来ちゃって出ていっちゃった人なの。そりゃね昔は好きだったわよ。好きだったから、ユカが生まれたんじゃないの。馬鹿ねえ、本当にユカが生まれてくるのを望んだのよ。変な誤解しないでくれる。

 正夫が帰ってくる。

正夫 クソー。

優子 ユカが聞いているんだから答えてあげてよ。この娘、あんたを応援していたんだから。どうだったの、オーディション。

正夫 ピーターブルックが審査員の席にいれば、絶対ぼくの個性を見逃すはずはないんだ。ところが、日本側の審査員はロートルぞろいときている。ピーターブルックの演出だというから、ピーターブルック自信が審査すると思っていたのに。

優子 違ったの。

正夫 第一次審査は、日本のプロデューサーと、助演出が審査員でね、あまりにも希望者が多すぎるというのがその理由なのだそうだ。...おまけに肝腎のセリフの所で、くしゃみをしてしまってね。

優子 毛布一枚じゃ寒かったんじゃないの。

正夫 審査員に目が無かっただけの話さ。

優子 ついてないところを悪いけど、警察の話だと、柿崎の罪は成立するみたいなのよね。私達はもともとここに住んでいるわけだし、居住権もあるし、下手するとあんたも加害者側になる可能性もあるってことなの。一応ニューヨークの警察には連絡してもらえることになっているわ。お金はお互い戻らない可能性が強いみたいだけれど、それはまあ、柿崎が捕まったときの話として、権利書戻してくれる。そうすれば、あんたとは示談ということで警察には届けるから。

正夫 (権利書とハンコ等の入った封筒を取り出し)踏んだり蹴ったりとはこのことだな。まあ、柿崎にも一片の良心が残っていたわけだ。暴力団とか、金融業者にこの権利書を渡さなかったわけだものね。何達て、こんなに心優しいぼくからささやかな財産を巻き上げただけで満足したんだから。(優子に渡す)

優子 それほど勇気のある男じゃなかったのよ、結局。これまでだって、ずいぶん貸してるし、小遣いだってやったりしているから、うちだって貯金もやられているし、200万ぐらいは痛みわけって所ね。時間が無かったせいか、定期は解約しきれないで半分は残っているみたいだし、株っていってもたいした額じゃなかったしね。手続きは面倒みたいだけれど、残りの定期はまた証書を作ってもらえるんですって。

正夫 それはよかった、そっちはまだ救いがあるわけだ。結局馬鹿みたのはぼくだけってことになるわけだ。オーディションはおっこっちまうし、部屋はなし、金もなし...まっ、これも人生ってわけだ。ユカちゃん世話になったね。

優子 でっ、どうするのこれから。

正夫 今日はまだ早いから、誰か芝居仲間の所にでも泊めてもらうさ。

優子 ガールフレンドの所。

正夫 ガールフレンドがうんといたのは28才まで、男の役者も35になってもうだつがあがらなくて、自信だけがあるとなると、ガールフレンドも出来づらくてね。...ぼくのことは心配してくれなくていいよ。今までだって、なんとか生きてきたんだ。

優子 私は別に心配なんかしていないわよ。私も、すっかり忘れてたけれど、今日ユカの誕生日なの。誕生日のお祝いにお客さんが誰もいないのはユカも淋しいらしいのよ。

正夫 それはそれはユカちゃんおめでとう。こうやって、ユカちゃんもぼくや、きみのママのようなつまらない大人へ一歩一歩近付いていくってわけだ。...ごめん、そういうつもりじゃなかったんだ。

優子 ...ユカは、私が思っている以上にユーモアのセンスがあるみたい。...悪かったわね。ママにユーモアのセンスがあったら、パパと別れないで済んだかもしれないわよ。そうね、ユカのユーモアのセンスはパパ譲りかもしれないわね。ただ私にはあの人のユーモアは駄洒落にしか聞こえなかったのよ。

正夫 ...正式にお招きいただきまして、光栄至極にございます。今日がお姫さまの誕生日とも存ぜず、あいにくと手持ちを切らしておりますので、何のプレゼントも用意できませんでしたが、この忠実な下僕に、何なりとお申し付け下さい。前の王様の世には、道化とも呼ばれておりました。詩人として、都から都へと渡り歩いたこともありますれば、酒場で歌を歌っては、帽子に小銭を集めていた時代もありました。とりあえずは、まず、歌など吟じさせていただきまして、姫さまの健やかさと美しさを讃えさせていただきとうございます。ハッピバースデー、ツーユー、ハッピバスデー、ツーユー

 優子がそれに唱和してゆっくりと暗転。




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