[月虹舎]


(イメージ)

グッバイガール
第05場
森島永年


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http://www.infonet.co.jp/apt/March/Aki/GoodByeGirl/05.html




優子 お酒に弱いっていっていたれど、本当ね。ワイン2杯でひっくりかえって寝ちゃうんだから。ユカごめんね。明日プレゼントを買ってくるから、何が欲しいのいってご覧なさい。...子供が遠慮しなくていいのよ。欲しいものがあるんでしょう。お人形、そんなものはもうとっくに卒業したわよね。それとも二人でどこかへ食事にいこうか。...変な娘ね。どうしたのよ。...それは駄目よ、パパが欲しいなんて。...ママはもう結婚なんてこりごりなんだから。そう、パパの所にときどき遊びにいってたの。ママちっとも知らなかった。そそんな泥棒猫みたいにこそこそ隠れて物事をやる娘はママ大嫌い。もう、パパとママは終わったの。向こうには新しい奥さんがいるの。何度もパパにあってるのなら、ユカも会ったことがあるでしょう。へえー、パパそんなこと言ったの。いかにもあの人らしいわね。娘に結婚の許可を求めたんだ。それで自分の罪を軽くしようとしたんだ。ママはもうこりごり、結婚なんかしたくないわ。ユカがいればいいのよ。...あんたって嫌な娘ね。そりゃ、ママだって女ですから、男ぐらいつくりますよ。男つくるのと、結婚とは別問題なの。分かる、ユカ。大人の世界に子供が分かったような口聞かないで、そりゃ何人も男替えたわよ。悪かったわね。子供はさっさと寝なさい。...ママにお休みのキスはしてくれないの。もうそういう年じゃ、なくなっちゃったのかしら。

正夫 自分の都合が悪くなると、子供はさっさと寝なさい。大人は勝手だね。自分だけはそういう大人にはならないぞ、と決心していて、いつのまにか結局そう言う大人になってしまう。

優子 起きていたの。

正夫 起きていましたよ。途中からですけれど...

優子 嫌な人ね。

正夫 さて、子供はベッドへいってしまった。これからは大人の時間ですね。

優子 どうしょうっていうのよ。

正夫 とってもいいことですよ。

優子 私嫌ですからね。誰があんたなんかと...

正夫 誤解もはなはだしいな。ぼくが荷物を両手に下げて出ていくんです。幸い時は七月、空は晴、時間も不意の来客を拒むほど遅くはない。いざいかん、友は何処の空の下にありや。古本屋で買ったシェイクスピア戯曲集の訳が古かったもんだから、ついこういう調子になってしまう。じゃあ、どうも...

優子 あてはあるんでしょう。

正夫 ...もちろん

優子 あら、そう。

正夫 そんなもんありません。役者仲間でも変り者で通っていますからね。才能を認めてくれる奴は120%認めてくれる。しかし、人間的付き合いはしたくないという。才能を認めてくれない奴の評価は、0%。だから、当然人間的にも認められない。個性も強烈すぎると、相手にとっては嵐と同じだ。下手に巻き込まれると、バラバラにされてしまう。その嵐がこのぼく、亀井正夫だ。でも、なんとかなります。大丈夫、大丈夫。もう寒くもないしね。(くしゃみ)野宿だって、しようと思えば出来ますし...。じゃあ。

優子 あのー。

正夫 はい?

優子 私あなたに言われたことの中で一つだけこたえたことがあるの。他の部分は虫酸が走るほどあんたのことなんか嫌いなんだけれど、...やっぱり子供はちゃんと食事を取った方がいいと思うのよ。なんたって、成長期だしね。ところが私は低血圧で朝が苦手なの。もうひとつ白状すると、料理とか家の中の仕事とかそういうことも苦手なのよ。前の旦那と別れたのも、そんな所に原因があるのよね。その代わりといっちゃあなんだけど、仕事の方はばりばりよ。宣伝部で、役職にだって付いているわ。ただその分責任は重くなるし、家に帰るのも遅くなるってわけなの。

正夫 だから、ぼくにどうしろというんです。

優子 ありがとう、と言うのを忘れていたの。自分でも子供のことを疎かにしていたのを忘れていたの。本当よね、今が一番あの娘にとって大切なときだってことを教えてくれてありがとうって。

正夫 いいえ、当然のことをしたまでのことですから...まあ、こんなぼくでも一つぐらいお役に立てて光栄です。じゃあ...。

優子 それでね...

正夫 まだ、何か用があるんですか。

優子 私、どうやってもあさ早起きする自信がないのよね。それで、交換条件、といったら何だけれど、あんたのアパートが見つかるまで、御飯を作ってくれるという条件でここに居てくれてもかまわないんだけど。どう、こういう条件。

正夫 つまり、朝食係をやれってことですか。

優子 まあ、そう言うことね。

正夫 そんなのは、真っ平後免だ!...といいたいところですが、とりあえず行くあてもなし、あんたのことは虫酸が走るくらい嫌いですれど、ユカちゃんは可愛い娘だし、...たしかに、成長期の娘が、朝はハムエッグにトースト一枚、夜はインスタントラーメンじゃあ、栄養のバランスも何もあったもんじゃありませんから。...いいでしょう、アパートが見つかるまで住んであげますよ。

優子 何よ、その住んであげますよって言い方...別に私は出ていってもらったほうがうれしいのよ、本当は。

正夫 じゃあ、失礼します。

優子 ちょっと、待ちなさいよ。ここはお互い大人何だから、大人の会話をしましょう。

正夫 勝手に興奮しているのはあんたの方だろ。

優子 あんたのそのしゃべり方が気に入らないだけなのよ。「住んであげますよ」ですって。こっちは親切で言ってやっているのよ。

正夫 そういう、口のきき方が身についてしまっているんでね。

優子 それだから、まともな友達が出来ないのよ。

正夫 そう、柿崎みたいな友達ばかりで悪かったね。

優子 もうやめましょう。私も悪かったわ。言葉尻とらえてごちゃごちゃ言って、...すっぱり、自分の感情は捨てることにする。母親として頼むわ。しばらくうちに居て、ユカに料理を教えてくれない。...ねっ。

正夫 つまりは、夕食係もやれってことですね。

優子 別に、そう言う言い方は...そうよ、そう。

正夫 いいですよ。ぼくそういうの好きですから、やりましょう。

優子 あら、そう。

正夫 で、ぼくはどこへ寝たらいいんですか。また、ソファの上で寝ればいいのかな。それとも...

優子 私のベッドは駄目よ。

正夫 それだったら、ベランダの方がいいんですけど。

優子 そっちの部屋が空いているから使って。来客用の部屋なのよ。布団は押入のなかに入っているから。

正夫 どうも、ご親切に...。ここの家は、インド人が主な来客ってことはないですよね。

優子 どういうこと。

正夫 剣山の布団だったりして。

優子 インド人がみんなヨガやってるってわけじゃないでしょう。日本人が全部着物着ているわけでもないし、空手やってるのだってほんの一握りの人なの。

正夫 そりゃ、そうだ。

優子 それにうちのお客はほとんど日本人なの。じゃあ、おやすみなさい。そっちの部屋は、小さい電気が付くようになっているから、安心してお休みになれるでしょう、ねえ、亀井さん。

正夫 あまりの、ご親切ですぐにでも死んだように眠れそうだよ。...それじゃあ、失礼して、...あんたは。

優子 もう少し、飲んでから寝ることにするわ。




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