作品/[三月劇場]

[映画の食卓-僕の食卓]
17




http://www.infonet.co.jp/apt/March/Aki/Eat/17.html




 映画を観ていて、 "これは前に読んだことがある気がする" と感じることがある。そこで、タイトルクレジットをじっくり観察するのだが、記憶にある小説の題名はそこにはない。こんな経験をおもちの方は少なくないのではないだろうか。
 実は、このところ観たビデオが立て続けに、こういういつかどこかで観た作品だったのだ。

 その一つが[ファミリーゲーム](The Parent Trap、98)。これって、ケストナー(Erich K%E4stner)の[二人のロッテ](Das doppelte Lottchen) そのものだぞって思ったのは、僕だけだろうか(*00)。
 話の大筋はまったく同じである。ドイツで映画化された[二人のロッテ](Charlie & Louise - Das doppelte Lottchen、93)の方もビデオで見たことがあるが、エンタテーメントとしては今回の[ファミリーゲーム]のほうがよくできている。お父さんがいかにもお父さんらしいのも良いし、主人公の女の子のこまっしゃくれたところも、原作の感じに近いのだ。

 まあこういう分かりやすいのはまだいい。 [ホーリーマン](Holy Man、98) は判断に迷うところだ。全体は似ているが、ディテールが異なっているのだ。[ホーリーマン]のもとになっていると予想される作品は、シンクレア(Sinclair, Upton。*01)の [人われを大工と呼ぶ] (They Call Me Carpenter、1922)である。
 [人われを大工と呼ぶ] は、キリストが1920年代のハリウッドに降臨するという話である。このキリストは自分のことを "大工" と呼び、喋ることは聖書の中の言葉だけである。しかしながら、ハリウッドの人たちは勝手に彼の言葉に意味を見出し、彼は名士になっていく。
 あらすじだけを書くと [ホーリーマン][人われを大工と呼ぶ] ははだいぶ違う感じに受け取られるかもしれない。だが、本人がまじめな話をしているのに、回りが勝手に商業と結びつけようとしていくという点ではどちらも同じだ。
 [人われを大工と呼ぶ]筒井康隆が少年時代に影響を受けた作品の一つとして名は知られているが、現物も読んだという人はそうはいないのではないだろうか。昭和5年発行の新潮社世界文学全集第2期第8巻に収録されて以来、日本では、再出版、再翻訳されたという話を聞いたことがないからだ。

 こうした現象が出てきているのは、著作権の扱いがうるさくなって、ちょっといい作品を映画化しようとすると多額の使用料が必要になってしまうことと無関係ではあるまい。[人われを大工と呼ぶ] については著作権が切れていることは間違いなさそうだが、 [二人のロッテ] の方は、ケストナーが戦後まで生きていたことを考え合わせると著作権が現在も生きていて不思議はない。
 それにしても、下手に小細工して、そのせいで訴訟を起こされでもしたら、その方がよほどお金がかかりそうな気がするのだが。

 まんがではもっとすごいのをみたことがある。昭和49年の大和和紀の読みきりで、イントロがサリンジャーの小説 [ライ麦畑で捕まえて] のラストシーンから始まって、そこから先が映画 [グレン-ミラー物語],(The Glenn Miller Story、54) を人形劇の一座の話に置き換えただけ。もちろん"原作"なんて言葉はどこにも書いてなかった。
 また、[こむ]というまんが雑誌で、新人賞の入選にもなった作品で、山本周五郎の時代物短編の設定を中世のヨーロッパに置き換えただけというのもあった。気がついた人はいなかったのだろうか。
 昔の日本映画にはこういった、いわばパクリが横行していた。たとえば、赤木圭一郎[霧笛が俺を呼んでいる](60)が[第三の男](The Third Man、49) の完全なパクリだという話しはよく知られている。時間があったら、ぜひ見比べていただきたい(*02)。

 さて、どうして今回はこのような話題になったか、説明しなければならない。実は先日、以前の [とら新聞] を読みかえしていたら、[映画の食卓-僕の食卓]とよく似た記事を一つならず見つけてしまったのだ。53号で [寅さんのグルメ考] という題で室克己さんが、また、64号では [香港映画の"食"]という題で小沼祐治さんが映画と食の関係を取り上げておられるのである。17回まで連載していて、今さらながら気がつくところがうかつである。全く、...。

 こんな元気がない時に、一杯呑みながらつまむのにいいのが 豚レバー料理である。材料は次の通り。

 豚レバー:1塊(1〜1.5kg程度)
 にんにく:1〜2かけら
 生姜:少し
 塩、味噌、酒

 2種類の味付けを紹介する。どっちも作り方は同じようなものだが。

○塩味の豚レバー

00. たっぷりのお湯で、血が出なくなるまで茹でる。このときあくも適当にすくう。
01. 一度湯をこぼし、新しい湯に塩(やや多め)、にんにくのスライス、生姜のスライスを入れて煮る。15分程度が目安。
02. 冷ましたら、薄くスライスし、薄切りたまねぎと一緒に食する。
03. 保存するときは、塩水につけた状態のまま冷蔵庫で。あまり長く保存するとレバー臭さが強くなる。

○味噌味の豚レバー

00. たっぷりのお湯で、血が出なくなるまで茹でる。このときあくも適当にすくう。
01. そのまま冷ます。冷めたら水洗いし、あくなどを除いてからビニール袋に入れ、味噌、にんにくのスライス、酒を加える。全体が薄く味噌に覆われればいい。
02. 食べるときには、食べる分だけを切り。味噌を洗い流した後に薄くスライスする。たまねぎもいいがクリームチーズの薄切りと合わせてもおいしい。
03. 保存は味噌に漬けたまま、冷蔵庫で。あまり長く置くと塩辛くなるから注意。

 レバーが塊のままだと大きすぎる場合は、4房程度に切って分けるといいかもしれない。

Sat, 19 Aug 2000 17:11:08
とら新聞静岡支局
森島永年

*00
 その通り。[二人のロッテ]です。ドイツの[二人のロッテ]や、前のハリウッド版の[罠にかかったパパとママ](これもThe Parent Trap、61)と重ならないようにするために、こんな題名をつけたみたいです。
 最近では、同じ原作の再映像化やリメークに邦題をつける場合には、混乱を避けるために題名を変える傾向があるようです。
 なお、IMDbなどの記録には、ケストナーの[二人のロッテ]が原作だとはっきり書いてありますから、別に原作を隠しているということはないと思います。(井戸)

*01
 エイゼンステイン(Sergei M. Eisenstein)の未完の作品として知られている[メキシコ万歳](チChe Viva Mexico!、32?)の原作者でもあります。(井戸)

*02
 霧といえば、石原裕次郎[夜霧よ今夜も有難う](67)は[カサブランカ](Casablanca、42)ですね。
 森島の戯曲にだって、その名も[カサブランカ]ってオマージュがあります(パクリなんて言うたらあかんよ)。こっちの方もどうぞよろしく。(井戸)






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