この
[映画の食卓-僕の食卓]のバックナンバは、
[三月劇場]のウェブで、注釈と批評つきで公開されている。注釈を書いているのはウェブの管理人である
井戸良弘だ。
井戸は高校時代からの友人で、
映像作家でもあるのだが、その
井戸から"次は自主製作映画とか
ATG(=日本アートシアターギルド)を取り上げないか"というリクエストがあった。最近は反響が少なくて寂しい思いをしていたので、さっそく取り上げてみることにした。
しかし、自分がどれだけその手の映画を観たことがあるのかが、定かではないので、とりあえず
ATGの作品というのは、どういう作品があるのかを調べてみた。ところが、いつも観ようか観まいか迷っているビデオの中身が、
ATGの配給だったり製作であったりすることが意外と多いのにびっくりさせられたのだ。また、それぞれの作品に対する思い出も、なかなかに深いのだ。
ATGの配給の洋画のうち、
[魂のジュリエッタ](Giulietta degli spiriti, 1965,
Federico Fellini)と
[華氏451度](Fahrenheit 451, 1966,
Fran腔is Truffaut)は、高校生の時にテレビで観ている。
[華氏451度]は
フランソワ-トリュフォー(*
02)では最初に観た作品になった。オープニングのタイトルロールが一切なく、アンテナが林立する屋上の映像にかぶさってタイトルや出演者の名前が読み上げられる手法が目新しかった。作品的には、
ブラッドベリーの原作の面白さがぜんぜん出ていなかった。
トリュフォーは、その後は
SFは作っていないはずだ。不向きだと悟ったのだろうか。ほかに、
[マラー/サド](Marat/Sade. 1966,
Peter Brook、*
00)も高校時代に観た記憶がある。
[戦艦ポチョムキン](Bronyenosyetz Potyomkin,
Å褊褻 情゙韋* , 1925,
Sergei M. Eisenstein)は、草薙の県立図書館からフイルムを借りてきて、高校の先生に視聴覚教室で上映してもらった。どうしてそういうことになったのかまったく記憶がないのだが(*
01)、よその高校(しかも女子高)からも観に来ていたから、何かいいところを見せようとして、そんな企画をやったのかもしれない。
とにかく、当時はビデオなぞなかったので、普通なら、再映館にかかるのを待つか東京まで観に行くかしないと
ATG作品は観れなかったのだ。
[戦艦ポチョムキン]みたいにフィルムを借りて見られたなどというのは大例外である。
ビデオで古い映画が見られるようになってからは、当時は見られなかった
ATG配給作品がいろいろ観られるようになった。[オルフェの遺言] (
Le Testament d'Orph仔, 1960,
Jean Cocteau)、[気狂いピエロ](Pierrot le fou, 1965,
Jean-Luc Godard)、[ピアニストを撃て](Tirez sur le pianiste, 1960,
Fran腔is Truffaut)、[去年マリエンバードで](
L'Ann仔 derni俊e Marienbad, 1961,
Alain Resnais)、[長距離ランナーの孤独](The Loneliness of the Long Distance Runner, 1962,
Tony Richardson)、[ブルジョワジーの秘かな愉しみ](Le Charme discret de la bourgeoisie, 1972,
Luis Bu勃el)。名作が目白押しである。
[野いちご](
Smultronst獲let, 1957,
Ingmar Bergman)、
[僕の村は戦場だった](Ivanovo detstvo,
遺瑙粽 褪, 1962,
Andrei Tarkovsky) 、
[市民ケーン](Citizen Kane, 1941,
Orson Welles)はNHKの名作劇場で観たのかもしれない。なぜか記憶があまりない。名作と呼ばれるような作品でも、テレビで観ると集中できないので、結局何を見たのか分からなくなってしまうのだ。
これらの作品の中で、食事が作品の内容にかかわってくるものといえば、
[戦艦ポチョムキン]が第一だろうか。飯がまずかったために叛乱になってしまった史実を映画化したものだからだ。ただ、これには、実際に食べているシーンはなくて、腐った肉をスープにして出されたのを怒った船員が蜂起する話が描かれている。
もうひとつ、食事が重要な意味を持っている映画があった。彼女が来るというので、海老を料理しようと悪戦苦闘するユダヤ人を描いた
[ボギー!俺も男だ](Play It Again, Sam. 1972,
Woody Allen) である。彼女の方はユダヤ人ではないので、一般的なデート用の食事である海老料理を作ろうとするのだが、戒律で海老を食べてはいけない彼には海老は格闘する相手にしかならない。このギャグシーンを巧みに演じていたのは
ウッデイ-アレン(*
02)。
世界で一番海老が好きなのは日本人だそうだが、アメリカ人も決して嫌いではないようで、映画をよく見ていると、デートのときには海老のカクテルを頼んでいるシーンがよく出てくる。そういえば
[フォレスト-ガンプ](Forrest Gump, 1994,
Robert Zemeckis) にも海老で大もうけをする話が入っていたではないか。
海老料理には天ぷらを始めとして、フライ、寿司、結婚式には付物となったグラタンなどがあるが、タイ風しゃぶしゃぶもなかなかうまいものだ。面倒は何もない。鶏肉、ちんげん菜、くずきり、海老など何でもいい、しゃぶしゃぶにして食べるだけの話だ。かにかまぼこもなかなかいける。たれは、ラー油を効かせた辛いものが良い。本当はナンプラ―やココナッツミルクを使ったたれを作るのだが、面倒だから市販の胡麻だれにラー油を入れて済ませている。タイは暑い国であるから、もちろんこれは夏場に向いている。暑いところで、辛くて熱い鍋を食べるのだ。
とはいうものの、最近マングローブ林を切り開いて海老の養殖場を作り、それが、地球温暖化の一つの原因になっているという話をあちこちで聞くにおよんで、心の痛み無しには海老が食べられない。きっと、かの地では大きな収入になっているのだろう。それがやがてその場所が水没する原因とならなければいいのだが。
ATGによる洋画の配給は1974年ごろまでで、そのあとは配給を終了しているらしい。
ATGは、日本映画の製作配給も行っている。日本映画編は次回に回すことにしよう。残念ながら、今回は紙面が尽きてしまった。
ATGの日本映画に関しては、特に思い入れのある人も多いだろう。そういった思い出をぜひお便りしてほしい。中年になって、とみに寂しい今日この頃なのだ。