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男と女の情報論 (同期現象) |
● 「男と女の間には、 深くて暗い河がある。 誰も渡れぬ河なれど、 エンヤコリャ、 今夜も舟を出す・・・・」
加藤登紀子や野坂昭如が歌っている 「黒の舟歌」。
身体を重ね合わせ、 抱き合い、 求め合う男と女の間ほど、 情報が断絶しているものはない。
ジュディーオングが歌う 「魅せられて」 ――――
「好きな男の腕の中でも、 違う男の夢を見る ・・・ Uh ―、 Ah ― ・・・」
● 夫婦は一心同体などと云うけれど、 そんなものは、 しばしば幻想である。
同床異夢。 ・・・ 古川柳 「町内で知らぬは亭主ばかりなり」 ―――
● パソコンで 「送る」 コマンドを用いて、 ファイルをメモリに一瞬に転送してしまうようなことは、 ――― あるいは、 FTPソフトを使って、 ファイルを一瞬にサーバーから受け取るようなことは、 男と女の間では出来ないのであろうか。
お互いの心を、 ケーブルで結んで瞬時に相手に送れないものであろうか。 どうしても、 言葉を用いて、 口で、 云うなんてことをしなくてはならないから、 時間もかかり、 誤解も生まれる。 口下手の人間には絶望的である。 心にもない喧嘩もするようになる。
ピンクレディーが歌った 「UFO」 のように、 「手を合わせるだけで、 すぐに話も出来る」 とは行かない悲しさ。
人間同士の心と心ほど、 情報交換が困難なものはない。 UFO でない悲しさ。
● ところが、 最近、 「メトロノームの同期」 と云う、 不思議な現象を知った。
数十個の(60〜100程もの)メトロノームを並べて、 それらを全く無秩序にバラバラに動かすが、 しばらくすると、 それらのメトロノームが同期(シンクロナイズ)して、 全部が同じリズム、 同じテンポで 「カチ、 カチ、 カチ ・・・ ザッ、 ザッ、 ザッ ・・・」 と動くようになる。 こうなると、 壮観でもあり、 圧巻でもあると云う。
メトロノーム同期 (72個) https://www.youtube.com/watch?v=zNQmJ3C-dos
メトロノーム同期 (64個) https://www.youtube.com/watch?v=4ti3d3ls5Zg
まるで、 心霊現象のように見えるが、 決して超常現象ではない。
床の微少な振動を通じて、 相互に力を及ぼし合っているためであると云う。
これは、 大自由度力学系とも呼ぶべき力学系であって、 数学的に、 常微分方程式で表して、 それを解くことによって、 解析出来るものであると云う。
● そうだ。 この現象を用いたならば、 反対方向を向いている男と女の心を、 バラバラな、 人と人との心を、 同じにすることが出来るのではなかろうか。
● このような 「同期現象」 は、 今から350年以上も前に、 オランダのホイヘンス(C.Huygens)(1629〜1695)が、 1665年に、 柱に掛けた2つの振り子時計の振り子の動きが、 いつの間にか、 揃ってしまうことから発見したもので、 壁の微少な振動を通じて、 2つの振り子が影響を及ぼし合っていたのである。
● このような同期現象は、 自然界の中にも、 あちこちに散見される。
ホタルの群れの明滅が揃う現象。 コウロギたちの鳴き声が一斉に揃う現象。
英国のロンドンが、 2000年記念事業として作ったミレニアム橋に、 開通時に大勢の人が押し掛け、 大きな横揺れが起こって、 封鎖になった事件の原因は、 人々の歩調が同期したためと云われる。
人体の生理現象でも多く見られる。 心臓の筋肉の伸張・収縮は多数の心筋細胞の伸張・収縮が同期して起こるものであると云う。
社会現象の中にも数多い。 (別稿 「熱狂の伝染」 参照)
● と云うことは、 構成員が2である男女、 または夫婦の間においても、 当然に同期は作る事が出来るはずである。
何らかの条件を満たして、 男女間に同期が起こった時は、 二人の間にもはや、 会話も何もなくても、 心が通じ合う筈である。
無言の会話。 無言の中にある充実。 しばしば、 男女は無言の状態に気まずさ抱いて、 無言の空気を恐ろしく思うけれど、 実は、 心を通じ合わすために言葉はいらないのである。
● 「新緑に 歩幅の揃う夫婦かな」 (今井一掬)
心が通じ合った老夫婦の散歩は、 おのずから、 歩幅まで揃っている。 と云う意味の俳句。
以前に貰ったこの短冊は、 今も応接間に掛っている。
● 男女の間において、 同期が起こる条件は何であるのか。 私には、 未だ分からない。 これが分かれば、 あの短冊の境地に至るのであろうが。
同期現象を数学的に解析した 「蔵本モデル」 なるものによると、 同期は、 ある条件が満たされた時に、 突然に(相転移的に)、 ある時点から急に起こると云うのであるが、 ・・・。
● 同期は動悸、 パルピテーション(palpitation)・・・・・・・・・・・ これは戯れ言
(註1) 「同期」 とよく似た現象に 「共振」 (音波の場合は 「共鳴」 )がある。 しかし、 同期と共振は異なる概念である。 「同期」 は複数のものが、 何らかの相互作用や外力によって、 振動タイミングを揃える現象である。 これに対して、 「共振」 は、 固有振動数に近い振動数の外力を受けた時に、 振動振幅が劇的に増大する現象である。
(註2) そう云うと、 以前に書いた別稿 「熱狂の伝染」 の中にも、 「なべて動物は、 お互いに同じリズムで動く時、 一体感を抱く」 と書いている。