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かつて、 一世を風靡したピンクレディーの曲 「透明人間」 (詩:阿久悠、曲:都倉俊一)
  “透明人間現る、 現る。 うそを云っては困ります。 現れないのが透明人間です。”
透明人間は何をしても他人に見えない。 知られない。 ベッドがガタガタ揺れるのも、スプーンを曲げたり捻ったりしてしまうのも。・・・

話は変わる。
日本三大頓知話と云うと、 小坊主の一休さん、 肥後の彦一、 豊後の吉四六きっちょむ。 この中の 「彦一ばなし」 の中に 「天狗の隠れ蓑」 と云う有名な話がある。
天狗が持っている 「隠れ蓑」 と云う、 着ると姿を消すことが出来る蓑が欲しくなった彦一は青竹を切ってきて、 それを覗きながら、 遠眼鏡を見るふりをして、 「ああ、京都の三条大橋だ、 ・・賑やかなもんだなあ、 ・・綺麗なお女中が歩いている、 ・・あっ、立派な駕籠がやって来た・・・」 などと云っている。 これを遠眼鏡と思った天狗が譲って欲しいと頼む。 彦一は、 お前の持っている隠れ蓑との交換ならば譲ってもよいと云う。
天狗から隠れ蓑を受け取ると、 彦一は素早く身につけて逃げてしまう。 天狗が騙されたと気付いた時はもう遅い。 隠れ蓑を着けているので彦一を見つけることが出来ない。
それからと云うものは、 彦一は隠れ蓑を着けて酒屋に入っては誰にも見とがめられずに酒を飲み、 饅頭屋に入っては腹一杯に食べまくる。
ところが、 何も知らない女房が、 その隠れ蓑を竈で燃やしてしまう。 彦一がその灰を体に塗り着けると、 身体が見えなくなったので、 それで身を隠して、 相変わらず酒屋に行き饅頭屋に行き、 飲み放題、 食い放題。
そして、 エンデイング。 民話というものは案外に心優しいものである。
酒を飲んで口の周りだけ灰が落ちて見つかってしまったとか、 小便をしたので、 オチンチンの先の灰が落ちて露見して、 川に投げ込まれ丸裸で袋叩きにされたとか、・・・

私ならば、そんな心優しい結末にはしないだろう。 暴れ牛がやって来たが、 牛にも彦一が見えないので牛に衝突されて彦一は死んでしまったということにしたい所である。
隠れ蓑 ・・ 透明人間 ・・・ 完全に自己を隠してしまうと云うこと。 それでいて他人については全部見えている。 これがプライバシーの究極。
しかし、プライバシーの結末は、 暴れ牛に殺されること、 ダンプカーに轢き殺されることを ・・・ 念頭に置かねばなるまい。

古くから我が国の文様の一つに 「宝尽くし」 と云うのがあり、 着物の染めや織りなどに好んで用いられた。 それは人々が宝物であると心に描いたものどもを並べた図柄で、 如意宝珠 ・ 打ち出の小槌 ・ 隠れ笠 ・ 隠れ蓑 ・ 丁字 (香料の一種) ・ 宝やく (宝蔵の鍵) ・ 金嚢 ・ 七宝 ・ 分銅 などである。
が、 ここに隠れ蓑が含まれていると云うことは、 自分の身を他人から隠すと云うことが、 人間の本能にも似た欲望の一つであることを示したものである。 現在におけるプライバシーへの欲求がその本能的願望の完成形であるならば、 あぁまた、 何をか云うべき。


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