戻る リヤ王コンプレックス : (続) 2045年問題  (人工知能)


 人工知能の能力は加速度的に増大し、 2045年には、 人間自身の知能を凌駕する。 すると、 人工知能自身が更に優れた人工知能を作ってゆき、 人間の想像が及びもつかない超越的な知性が誕生して、 世界は想像することも出来ないような変化を起こし、 この世は現在とは全く異次元の中に入ってしまうと云う説がある。 この説を唱える人たちは、 その 2045 年を技術的特異点 (シンンギュラリティ singularity) と呼び、 そこから先の世界では、 コンピューターが意識を持っている社会であるから、 どんな恐ろしい世界になるか、 それとも逆に幸せな世界になるかは、 現代人には予測不能であると云う。
 この説に対しては、 種々な意見が行われている。 そのような事は有り得ないと云う者、 いや、 有り得るでしょうから、 それを防ぐ必要があると云う者、 いや、 大いに期待してそれを迎えようではないかと云う者。 ・・・・。
 そして、 この技術的特異点の考えは、 科学的理論と云うよりも宗教であって、 キリスト教の終末論の焼き直しであるとの指摘もある。

 しかし、 私は、 このような考えが生まれてくる背景は、 最後の審判のような終末論などと云うよりも、 すべての人間が、 その無意識の奥底に抱いている 「リヤ王コンプレックス」 とでも云うべきものではないかと思っている。


 シェークスピァの四大悲劇の一つ 「リヤ王 (King Lear) 」 では、 ブリタニアの王リヤは、 慈しみ育てて、 全財産と全領土の半分ずつを与えた二人の娘、 長女ゴネリル (Goneril オールバニ公の妻) と次女ローガン (Rogan コウォール公の妻) に裏切られて、 王宮から追放され狂気になって荒野を彷徨う。 父から勘当され、 無一文の身をフランス王に拾われた末娘のコーデリア (Cordelia) だけが、 父から勘当を受けた身にもかかわらず、 父を助けようとするが、 姉たちの軍に敗れて捕らえられて殺されてしまう。
 人間は、 自らが老いた時、 慈しみ育てた子供たちに捨てられ、 遂には殺されるのではなかろうかと云う怖れを、 無意識の奥底に本能的に抱いている。 これが 「リヤ王コンプレックス」 である。
 絶対的独裁君主が、 部下に謀反され権力を奪われて殺されるのではないかと云う猜疑心を抱いて、 大粛正を行う心理と共通する心理である。

 人間もその心の奥底の闇の中に、 自らが作り上げ育て上げた科学技術に、 なかんずく、 その知能を模したコンピューターに、 何時の日か謀反されて滅亡するのではないかと云う危惧を、 コンプレックスのように抱いている。 2045年問題はそのコンプレックスがふと顔を出したものに違いない。

「ちあきなおみ」 に 「夜へ急ぐ人」 と云う歌がある。
「・・私の心の深い闇の中から、 おいでおいで、 おいでをする人、 あんた誰・・」



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