作品●[三月劇場]

[映画の電算室]
03




http://www.infonet.co.jp/apt/March/Ido/EDP/03.html




 [映画の電算室]の時間です。

 あれは数年前の初夏のことだったと思う。その日のコンピュータはどこか違っていた。意識の下層部はそれに気がついてアラームをカンカン鳴らしていたのだが、上層部の方は早く作りかけのビデオを完成してしまいたいと思っていたので、それを"あと回し"ボックスに放り込んでいた。
 起動してから30分ぐらいして、何か変な匂いがするのに気がついた。それはちょうど、電熱器のカラ焼きで塗装が焼けるときのような匂いだった。そしてそれは、コンピュータの本体から匂ってくるのだった。
 その時始めて、アラームの意味が理解できた。コンピュータが、きょうは静かだったのだ。
 そう言えば、コンピュータは確かにヘンだった。このコンピュータは空冷ファンを内蔵しているが、起動した時のファンの音が、ここ1週間ほどの間、やたらにうるさかったのだ。しばらくがまんしていれば、じきにふつうの運転音に戻るので、修理に出そうとまでは考えていなかった。そのファンの音がきょうは全く聞こえなかった。はっきり言って、全く動いていなかった。さっきの違和感の原因はそれだったのだ。

 60年代の宇宙冒険映画のコンピュータはともかくよく火を吹いていた。
 [怪獣大戦争]の敵宇宙人の母船は、痴漢ベル攻撃を受けて火を吹きまくっていた。痴漢ベルの攻撃で沈んだ宇宙戦艦なんてほかにあっただろうか(笑)。気の毒としかいいようがない。[ID4]ならウイルス攻撃。これなら仕方ない(何がだよ)。せめて歌声攻撃([マーズ-アタック]か[マクロス]か)だろうなぁ。
 映画じゃないけど、エンタープライズも宇宙家族ロビンソンの船も、敵の攻撃を受けたり、急加速したりするたんびに、必ず火を吹いていた。いったいあの火は何だったんだろうか。
 過負荷で発熱するというと、やっぱりコンデンサとコイルだろう。こいつらは、ほどほどの電力の回路で、電流の向きを変えたり伸ばしたり縮めたりするのに使われている。機械のフタを開けた時に見える、基板にはんだづけされている土管やアルミ缶のうーんと小さいのがそうだ。
 電解コンデンサって部品もなかなかおもしろい(をいをい)。こいつは電池と同じような構造で、つまり中に化学薬品が入っている。そして、多量の電流(特に逆向きの電流)を流すと泡を吹き出すのだ。そして、液が外に漏れ出して基板に落ちたりすると、場合によってはショートして火花が出たりすることだってあるかもしれない。
 それから、60年代だったら真空管なんてものもあった。当時の(当時の未来のも)コンピュータは真空管でできていたのである。真空管というのは、電熱器から真空中に飛び出す電子(こいつを熱電子という)を利用して電流をいじる部品で、小さいながら基本的には電気コンロである。こいつらだったら、うまく(そーじゃないでしょっ)使えばもしかすると火を吹いてくれるかもしれない。
 でも、どっちにしたって、コンピュータの電気なんかたかが知れている。ドラゴン(今でもあるんだね〜)並みの火花を吹き出したりパネルを吹き飛ばしたりすることなんか、ちょっとありそうにない。カラ炊きぐらいならともかく、コンピュータに火を吹かせるのはなかなか大変なのである。

 [U-571]を見ていたら、ちょっとだけ手掛りが掴めたような気がした。
 宇宙冒険映画が作られるようになった時、たぶん、みんな困ったと思うんだよね。宇宙乱気流(何それ)や敵の攻撃で宇宙船がダメージを受けた時、それを絵的にはどう見せたらいいかって。炸裂弾なら火が出るかもしれないけど、光子魚雷やフェーザー砲なんて命中したからといって何も出そうにないし。
 それまでだったら?海洋冒険映画だったら、動力伝達系がやられて、壁や天井のパイプから必ず水とか蒸気とか媒体が吹き出すことになってたぞ。じゃあ、未来の宇宙船だからそれは電気だろうって。でも電気って見えないぞ。それなら火花でいいことにしよう(笑)。
 火花は水や蒸気の見立てだったんだ。
 考えてみたら、宇宙船って、気密だし、そのまんま宇宙という深海を行く潜水艦なんだし。あっ、これってもしかして[宇宙戦艦ヤマト]!

 先日の [ファイナル-デスティネーション]では(こっから先はちょっとだけネタバれ)、久しぶりに火を吹いて爆発するコンピュータを見せてもらった。モニタの上に置いたマグからコーヒーがしたたり落ちて、それでショートが起こり、モニタが燃え出す。そして、CRT(TVの中に入っているあのガラスの壷みたいなヤツ)が爆発するのである。うるさいコトを言えばモニタはコンピュータじゃないだろうけど、それを言ったらエンタープライズのパネルだって同じである。
 それにしても、この映画の中に出てくる運命(つまりdestination=目的地)というヤツはやたらに段取りが細かくて面倒臭いぞ。はっきり言って、巨泉の[世界まるごと20世紀]や[丸見え]によく出てきたナッツ教授の怪発明(にわとりが卵を生むと自動的に目玉焼きを作ってくれる機械ね)である。

 モニタを作っている方たちの名誉のためにきちんと言っておきたいけど、モニタのCRTって、燃やしても爆発したりなんかはしない。だって実験したことがあるんだもん。
 [炎](山下洋輔さんが火のついたピアノをガンガン弾く映画だそーです)のコンピュータ版をやったらどうなるかと思って、京都は桂川の上流の黒田という所で、大きな焚火をして、コンピュータにモニタをつないで燃やしてみたことがある。85年ごろのことだっただろうか。
 でも、モニタは実におとなしく、ただ燃えるだけだった。一晩燃やしてから灰を掘り起こしてみると、CRTがヘノっと融けてきれいな形のガラスの塊りができていた。

 そもそも、CRTってだんだん使われなくなってきた。これからは液晶モニタが主流になりそうだ。吉永小百合さんも20世紀に置いて行くっておっしゃってるしね。モニタも爆発してくれないとなると、爆発コンピュータはますます20世紀のかなたに遠去かっていくことだろう。

 さて、コンピュータから匂いがしてどうなったかというと、この時ばかりは慌ててメンテナンス会社に抱えて行ってコンピュータを見てもらった。やっぱりファンが潰れていた。ほこりが溜まって軸に絡みついていたのだ。
 コンピュータの本体はCPUというチップだが、こいつはかなり熱を出す。熱が溜まって温度が上がると、CPUは正しく機能することができなくなり(これが熱暴走)、しまいには壊れてしまう。人間と同じですね。それじゃ困るから、溜まった熱を飛ばすためにふつうは強制空冷をする(Cubeは対流だけで空冷するんだって)。ファンがついてるのはそのためだ。
 情報には実体がないなんてよく言うけど、情報の担い手にはちゃんとした実体がある("科学には国境はないが科学者には祖国がある"って誰だっけ?)。映画にはフィルム、CPUの中の情報なら電子だ。実体があるものは取り扱いが面倒だ。[ニュー-シネマ-パラダイス]だって、フィルムが燃え出して大変なことになった。電子だってささやかながら重さとか近所の電子とのしがらみとかあって、そこを無理にどうにかしようとすれば、副産物として熱が出るのである。
 CPUの中には、本体のファンだけじゃ足りないって言うんで、チップにベタっと冷却フィンが貼りつけてあるのとか(オートバイのエンジンね)、それどころか自前のかっわい〜いファンが貼りついているのだってある。

 まぁ、そんなもともと夏には弱い代物が入ってるんだから、そもそもファンの音がおかしくなった所で何とかしておくべきだったのである。
 この時は、ただ臭かっただけで、CPUもそのほかの部品にも障害は現われていなかった。ファンは新しいのと交換してもらうことになった。それからは、時々、掃除機をグリルに当てて中のほこりを吸ってやることにしている。



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