[映画の電算室] の時間でっす。
ネットの世界には
[手塚治虫メーリングリスト]っていう研究会がありまして、電子メールや同人誌を通じて手塚治虫さんの作品について調査したり考察したりしては、その成果をみんなで交換しています。で、同人誌の次の号に、
[ブラックジャック] の各エピソードが他の映画と共有している原型的ストーリっていうテーマで論文を書くために準備をしているところなんですが、そこで、
[ブラックジャック] の中の [快楽の座] というエピソードと
[電子頭脳人間](74年) という映画とが "原型的ストーリを共有" しているという話を書くことにしたんです。こちらでも、この映画をネタにして、またまたコンピュータの話をさせていただくことにします。
[私に近い6人の他人](93)って言って、もともとは舞台だったのを映像化した作品があります(まだの人は[招かれざる客]を見といてね)。原題は"あなたに届くまでの6人の隔たり"。つまり、知り合いの知り合いの...と6人たどっていくと、誰と誰もが必ずつながり合っている(合衆国では?)っていう伝説のことです。それってほんとかどうなのかよく分かりませんが、まさか
[とら新聞] を購読してて、しかもコミケにも顔を出してるなんて方はいらっしゃらないですよね。でも、なるべく内容が重ならないように話を進めていこうと思います。
[電子頭脳人間]っていうのはいかにもBな感じのタイトルですが、もともと、この映画には [The Terminal Man] というもっとかっこいい原題がついてます。当時の映画雑誌には、かっこ仮題として、"電極の男" なんて書いてありました。それでもまぁいいんですが、ほんとは、
端末なんですよね。
端末ってのは、コンピュータにつないで、見聞きした情報を送り込んだり、逆に情報を受け取っていろいろ仕事したりする装置です。センサとかマニピュレータとか、いろんなスタイルの端末がありました。
たとえば、キーボードとモニタがいっしょになったみたいな端末なんてものがありました。今のコンピュータから本体をのかしたようなものって言った方がいいかもしれません。これは何に使うかと言うと、研究とか開発でプログラムを作りたい時に、そのころのコンピュータって、何千万円とか何億円とかするしろものでしたから、一人に1台ずつあてがうってわけにはいかなかったんです。で、1台のコンピュータに、この手の端末を何台もつないで、一人が次に何をしようかって考えている間にほかの人の世話をするという、かなりアクロバットなことをやらせてました。この使い方はTSS(time-sharing system。"時間を分け合って使おうよ"システム)と呼ばれていました。インタネットの使い方の一つにtelnetってのがありますが、あれはその末裔です。
で、[The Terminal Man] ですが、躁鬱病の患者の話です。躁鬱病の治療はかなりたいへんらしいんですが、鬱っぽくなってきたらそれを感知して、脳の某所にある "快楽の座" を刺激してやればいいだろうってわけで、うんと小さいセンサとマニピュレータを患者の脳に埋め込んで、それを電波でコンピュータにつないじゃうんです。この治療はうまくいったかのように見えたんですが、やがて患者はとんでもない行動を...。
つまり、"
terminal man" ってのは、コンピュータの端末になってしまった人間って意味なんですね。
[電子頭脳人間] だって、コンピュータがつながってる人間って意味だし、似たようなもんですが、コンピュータに人間がつながってるっていうのと、コンピュータが人間につながっているっていうのとじゃ、気分は正反対ですよね。
[電子頭脳人間]、結局、日本ではちゃんと公開されたんでしょうか。ビデオにはなってるみたいですが。
原作は
[アンドロメダ...](このてーんてんてんって郷ひろみじゃないんだから)で華々しくデビューを飾ったばっかりの
マイケル-(ジュラパ)-クライトンです。誰にも止められない
クライトンは、
[電子頭脳人間] と前後して、とうとう自分で監督までやっちゃいまして、そのデビュー作が
[ウエスト-ワールド]。
ユル-ブリナーに(たぶんスキンヘッドだからという理由で)悪役を張ってもらって、電動アンドロイドアミューズメントパークで大惨事という災害もの+"コンピュータの反乱"をブチ上げておられます。
人が勢いのある時に作った映画ってコワいです。
小説に限ってだったら
クライトンってとっても好きなんですが。ハヤりの複雑系でハッタリかましまくるマルカムって数学者なんて、小説/映画に出てくる数学者のうちではかなり傑作だと思います。映画では
ジェフ-蠅男-ゴールドブラムがいかにも好きそうにやってます。それから、
[ロスト-ワールド] だって、映画では飛ばされたり差し換えられたりしてしまったけど、小説にはなかなかおもしろいプロットがいろいろ仕掛けてあるんですよ。たとえばどこに"
ロスト-ワールド"があるのか推理する過程とかね(
[コンゴ] にもあるって? 実はそうなんですよね)。じっくり考えて謎解きをするのが好きだって方にはぜひおススメです。
そう言えば、
ゴールドブラムも、
アップルのCFに出てましたね。HALと違ってこっちは日本でも吹き替えつきでオンエアしてました。"電子メールのアドレスも持ってないの?" なんて人をバカにしてましたが、人を怒らせといてローンまで組ませてコンピュータを買わせることができるのは、世界広しと言えど
彼ぐらいのもんじゃないでしょうか。
そうそう。映画とは違うんですが、
山上たつひこさんの [創造的ダブル癲癇気質性攻撃型症候群]って短編も、同じ題材の話(ただしコンピュータ抜き)なんでした。
山上さんって言うと、[光る風] で知ってるって人と [がきデカ] で知ってるって人といるんですね。この二つの時代をつないでいるのが
[喜劇新思想大系] という作品群なんですが、[創造的ダブル癲癇気質性攻撃型症候群] はその一つです。
で、その話っていうのは、背骨の腰のどっかに針を刺して電気を流すと、成人の男子であれば誰でも必ず○○が勝手に○○してしまう(すんません品格が一挙に)ってことを言う奴がいて、それはほんとにほんとかってことになって、一人が犠牲になってみんなに遊ばれちゃうっていう悪夢な話です。
ではきょうはこんな所で。