[月虹舎]


(イメージ)

いちばん悪い魔法
第09場
森島永年


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http://www.infonet.co.jp/apt/March/Aki/WorstMagic/09.html




 檻がぐるっと回ると、そこは、封印されている大魔王の部屋の扉の前。

有里     誰かいませんか。あーあっ。歩き疲れちゃった。せっかく人が封印を解いてあげようって、来ているのに、誰も出てこないんだもの。お姉ちゃん達とは、はぐれちゃうし、お腹だってすいてきたし、何か食べるものないのかな。私のこと呼び出したのあんたたちなんでしょ。悪魔出てこい。あんたたちやる気があるの。......どうして反応がないのよ。普通こういうときって、出てくるでしょ。(ドアがあるので)コンコン。すいません誰かいませんか。誰もいないのかなあ。でも中から、声が聞こえる。食べるものか、飲むものあります。こっちの声が聞こえないのかしら。入るよ。入ってもいいよね、でも脅かしたらいやだからね。入りまーす。あれ、開かない。鍵かかっているのかな。あっ、なーんだ、こんなとこに紙が張ってあるから開かないんだ。よし、入りまーす。(入る)

 あれさえ将軍とネタミ登場。

あれさえ将軍 すると、人質はまんまと逃げられてしまったというわけだな。
ネタミ    ははい。しかし、代わりの人質は取ってありますので、作戦の進行に支障はございません。
あれさえ将軍 もしも、その人質のなかに、大魔女がいたらどうなる。あんな檻などは、たちまち逃げ出してしまうではないか。
ネタミ    それには、気が付きませんでした。
あれさえ将軍 すぐに人質をここへ連れてくるんだ。この、大魔王様が眠られている部屋の前で、儂が大魔女を待ってやろう。
ネタミ    さっそく。(ネタミ退場)
あれさえ将軍 この部屋の封印さえ解ければ、大魔王様のエネルギーによって、我らが悪魔族は再び巨大な力を得るのだ。その力を以て、地上を恐怖のどん底に落としてくれるわ。
ナスリツケ  はっはっはっ、今だにそんな時代遅れのよまいごとを抜かすか、あれさえ将軍。
あれさえ将軍 誰かと思えば、いんちき魔王か。
ナスリツケ  僕は、いんちきなんかじゃないぞ、悪魔界の救世主、悪魔界のニューリーダー、それが僕、魔王ナスリツケです。
あれさえ将軍 ちゃんちゃらおかしいわ。誰がおまえのことなど、魔王と認めているというのだ。ろくな魔力ももたず、悪魔らしいことは何一つできないくせに。
ナスリツケ  ちゃんちゃらおかしいとは、そちらのことだ。大魔王が封印されて以来、この悪魔界では、つぎつぎと女悪魔が死んで、新しい悪魔はひとりとして生まれてはいないんだぞ。このままでは、この悪魔界が、滅亡してしまうのは目に見えているじゃないか。
あれさえ将軍 おまえごときに言われなくてもそれ位のことは、百も承知だ。それ故に、大魔王を復活させて、再び、悪魔を地上に満たそうというのだ。
ナスリツケ  大魔王が復活すれば、女悪魔が生き返るという保障があるのか。
あれさえ将軍 いや、それは。...そうだ、大魔王様ならなんとかしてくださるに違いない。
ナスリツケ  そんなあてにならない約束よりも、僕達が求めているのは、もっと確実な幸せなんだぞ。
あれさえ将軍 悪魔に幸せは、必要ない。
ナスリツケ  いいじゃないか、悪魔が幸せになったって、どうしていけないんだよ。だったら、悪魔はいつもしかめっ面していなくちゃいけないのか、悪魔は、楽しいことがあったらいけないのか。
あれさえ将軍 そんなのは、悪魔じゃない。
ナスリツケ  今日、僕は、婚約をした。僕は、とっても幸せだ。羨ましいだろう。
あれさえ将軍 羨ましくなんかない。第一、女悪魔は、みんな死に絶えてしまっているんだ。
ナスリツケ  人間の女の子と婚約したんだ。
あれさえ将軍 人間の女だと、おまえの正体を知っているのか、もし、正体を知ったなら、恐怖におののくことだろう。ナスリツケ  裕子、こっちへおいで。
裕子     はーい。あなた。
ナスリツケ  ほーら、あの怖い小父さんに、婚約指輪を見せてあげなさい。
裕子     はーい。これのこと。
ナスリツケ  裕子、僕の正体を知っているよね。
裕子     この、にくい、悪魔。
ナスリツケ  どうだ、えっ、正体知られたって、愛はあるぞ。
あれさえ将軍 そんな小便臭い小娘だまして、おまえの魔力は、たかだかそんなもんだろう。
ナスリツケ  信念があるのは、立派だ。しかし、その信念が、間違っているときは、危険なだけだということにまだ気がつかないのか。大魔王が目覚めたときに、本当に我々が力を持てなかったとしたら、さあ、あれさえ将軍どう責任を取るつもりなんだ。
ヒガミ    さすが、ナスリツケ様、あれさえ将軍に責任を相手に押しつけた。
双葉     何か、すごく程度の低い言い争いしているみたいだけど。
ナスリツケ  さあ、あれさえ将軍、答えるんだ。
あれさえ将軍 それは、それは...。くそ、この封印さえ解けていれば。
ネタミ    あれさえ将軍、人質を連れてまいりました。

お父さんお母さんだけでなく、恵美も孝も捕まっている。

双葉     お姉ちゃん、捕まっちゃったの。
恵美     油断してたら、捕まっちゃったのよ。
お父さん   双葉も無事か。有里はどうした。
双葉     私も会っていないのよ。
お母さん   青木裕子ちゃんは、無事なのね。
双葉     ここにいるけど、毒牙にかかって...。
お母さん   怪我でもしたの、それとも、乱暴されたとか...。
双葉     悪魔と婚約しちゃったのよ。
恵美     えーっ。孝はどうするんだよ、孝は。
裕子     だって、孝くんてこどもでしょ。私大人の人の魅力に、目覚めちゃったんですの。
恵美     勝手な奴だな、孝はおまえのことを心配してここまで来たんだぞ。
孝      あの、僕は、ただの食料係だから。
裕子     孝くんは、もともと雨宮のボーイフレンドなんだから、どうぞさしあげてよ。
お父さん   なんなんだ、そのボーイフレンドというのは、恵美、おまえは、小学生のくせにもうそういう男がいるのか。
恵美     なんか、その言い方すごく不潔。お父さんなんて嫌い。
孝      あっ、初めまして、孝って言います。僕と絵美ちゃんは、お父さんが想像しているような関係じゃありませんから。
お父さん   大体、和美も和美だよ、こんな危ないところへ子供だけでこさせただけでなく、よそ様のお子さんまで巻き込んで、どうして止めなかったんだ。大体お婆ちゃんがすべての原因なんですからね。
おばあちゃん どうしてそこで、あたしが出てこなくちゃいけないのよ。
あれさえ将軍 ええい、いいかげんにしないか。この責任のナスリツケあい、すべて魔王ナスリツケの魔力の影響なのだ。さあ、大魔王様さえ復活すれば、こんな貧弱な魔力なぞ、ひとひねりだ。さあ、封印を解くのだ。
おばあちゃん 封印を解くって、...。
あれさえ将軍 大魔女が、閉ざして以来、一度として開いたことがないこの、扉の封印を解くんだ。解き方は、大魔女ならわかっているはずだ。さあ、誰が大魔女なんだ。(答えがない。)そうか、よおし、ネタミ、一人一人血祭りにあげてしまえ。
ナスリツケ  問題が、解決できないと、すぐ暴力にうったえようとする。だから、悪魔は野蛮だって言われるんだよ。
あれさえ将軍 なに。

そこへ、有里が扉のなかから飛び出して来たので、みんなびっくりする。

有里     大変だよ、この子死んじゃうよ。(有里の手のなかに小さい子供)
あれさえ将軍 おまえは、いったいどこから。
有里     ここだよ。
あれさえ将軍 封印は、封印はどうしたんだ。
有里     何のこと。
あれさえ将軍 この扉にはってあった、紙があるだろう。
有里     あんなもの破って捨てちゃったってば。それより、この子こんなになっちゃって、死にそうなんだってば。小父さん早くなんとかしてよ。
あれさえ将軍 儂は、小父さんなんかじゃない。
ナスリツケ  大魔王様。それ、大魔王様だ。
あれさえ将軍 なんだと、おお、本当だ。しかし、大魔王様は、身の丈五メートルはあったはずであろうに。
有里     この子がなんだか私は知らないけど、なんとかしないと死んじゃうってば。
あれさえ将軍 しかし、なんとかしろと言われても...。ナスリツケ、おまえなんとかしろ。おまえはなんといっても、大はつかないが魔王なんだから。
ナスリツケ  無理ですよ。
有里     おばあちゃんなんとかできないの。この子、黴の生えたこの部屋で何百年も閉じこめられたままだったんだよ。
おばあちゃん 私には、無理だよ。もし、どうにかできる者がいるとしたら、有里、それは大魔女であるおまえだけさ。
閃光。すべてが、止まる。

有里     あれさえ将軍、ひさしぶりだな。
あれさえ将軍 あなたは...。
有里     あの、封印された部屋に次元の亀裂があったために、俺の悪のエネルギーが徐々に漏れてしまった。今、俺は肉体を維持するだけのエネルギーすら残していない。それ故に、この大魔女の肉体を借りておまえ達に語りかけているのだ。
あれさえ将軍 すると、封印は解けても、もう、我々には、昔のような悪魔の力はもてないというのでしょうか。
有里     我々が本来持つべきエネルギーは、すべて次元の亀裂を通って、人間の世界に流れこんでしまったのだ。
ネタミ    すると人間が、悪魔化しているのですか。
有里     我々のエネルギーは、人間とは波長が違うから、必ずしも、人間が悪魔化しているとは言えない。しかし、エネルギーを感じやすい人間がいることは確かだ。
あれさえ将軍 大魔王様が、こんなになってしまって、我々は、どうしたらいいのです。
有里     大魔女殿が、儂に魂をくれようとした。だから、儂は、自分の肉体を離れた。もう、二度と大魔王に戻ることはできない。
ナスリツケ  この子供が大魔王様に自分の命を与えようとしたのですか。
有里     悪魔といえど、恩義には報いなければならない。儂は、もうすぐこの大魔女の肉体からも消えることになるだろう。おまえ達は、一時人間になるがいい。そして、失われたエネルギーを取り戻し、もう一度、自分たちの世界を作り上げるのだ。光りあるところ必ず影がある。わたしたちの役割は、光を強くし、影を濃く見せることにあることを忘れてはいけない。喜びも悲しみももっと単純な世界を......。

 閃光。悪魔の城が崩れ落ちる。




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