[月虹舎]


(イメージ)

いちばん悪い魔法
第08場
森島永年


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http://www.infonet.co.jp/apt/March/Aki/WorstMagic/08.html




双葉     どうして、私が、一人でこんな所にいなけりゃならないのよ。大体今度のことだって、お姉ちゃんが青木裕子と仲がよければ、こんな所に来なくてすんだのよ。有里は、有里で、魔法が少し使えるようになったと思ったら、威張りはじめるし、そうよ、私は、魔法は使えないし、ボーイフレンドだっていないわよ。ああ、考えれば考えるほど、私って、不幸で惨めな少女なんだわ。
裕子     うるさいわね。人が落ち込んでいるんですんから、少し静かにしてくださらないこと。
双葉     あっ、誰かいるんですか。
裕子     いるんですかって、同じ檻のなかにいるんですもの、いるに決まっていますでしょ。
双葉     暗くてよくわからなかったけど、ここって、檻のなかなの。あなた誰ですか。
裕子     人にものを訪ねるときは、まず自分から名乗るのがエチケットというものでしょう。
双葉     あの、私、雨宮双葉というんだけど、青木裕子さんって、女の子さがしにここまでやってきたんですけど。ご存じありません。
裕子     ご存じですけど、どういうご用件ですの。
双葉     あの、青木裕子って言う女の子がですね、悪魔に捕まっちゃったんです。それで、悪魔の使いっていうのがですね、家へ来て、青木裕子を返してほしければ、封印を解けって。
裕子     ということは、これはやっぱり夢じゃないってことなのね。
双葉     私、青木裕子って、高慢知己で嫌な女だから、助けにいくのはやめようってお姉ちゃんに言ったんですよ。悪魔だって、恐いし、危ない思いをして、あんな嫌な女助けにいくことないって。
裕子     そうよね、悪魔って、とっても恐いのよ。
双葉     ときどき間の抜けたのも、いるみたいですけど。
裕子     どうして、雨宮恵美さんは、そんな恐くて危険な目にあってまで、青木裕子さんを助けにいこうなんて思ったのかしら。
双葉     それは、ああ見えても、お姉ちゃんが責任感が強いからじゃないからじゃないかしら。お姉ちゃんが、青木裕子の名前をださなけりゃ、青木裕子は、こんな悪魔の世界にさらわれることがなかったわけだし。...なんで、お姉ちゃんの名前、知っているんですか。
裕子     つまり、私が、ここで、お風呂にも入れないで、こんな暗い檻のなかで、悪魔に食べられそうになっているのは、雨宮恵美のせいだというのね。
双葉     で、出た。青木裕子。
裕子     私のことを化物みたいにいうのは、やめてくださらない。化物は、この上でうろうろしている連中みたいのをいうんですわ。
双葉     へへえ。
裕子     それで、私を助けにきたはずのあなたが、どうして、檻のなかにいるのよ。助けるなら、助けるで責任もって助けてよ。助けにきたほうが、捕まってたら世話ないじゃないの。他の人たちは、どうしたの。とっとと、助けてもらわないと、本当に食べられちゃうんだからね。
双葉     そんな、私だって、有里の魔法でここにいきなり飛ばされたんで、あの、まだ他に三人来てますから、希望もっても大丈夫ですから。
裕子     他の三人って誰なのよ。
双葉     お姉ちゃんと、
裕子     雨宮恵美なんて食べることしかできないでしょ。
双葉     それは、そうだけど、ここへ青木さんを助けに来ようと言ったのは、お姉ちゃんなんだから、お姉ちゃんがいなかったら私たちここへ来ることだってなかったわけだし...。
裕子     美しい兄弟愛ですこと。それから。
双葉     家の妹。
裕子     悪魔の城へ、小さい妹つれてきてどうするのよ。大人は、どうして来なかったのよ。
双葉     お父さんは、早出の仕事があるから、いけないっていうし、お母さんとお婆ちゃんは、お父さんの仕事がおわったら、よってみるからって...。
裕子     こういうときのために、警察があるんでしょ。そのために、お父さんが働いて、税金払っているんでしょ。うちなんか共働きだから、二人分払っているんだから。私の居場所がわかっているんだったら、なんで、警察に電話してくれなかったのよ。
双葉     普通、悪魔に誘拐されたといっても、誰も信じてくれないよ。
裕子     そうね、で、あとひとりは。
双葉     お姉ちゃんのボーイフレンドの孝くん。
裕子     きゃー。なんで雨宮ったら、こんな危ないことに孝くんを巻き添えにするのよ。でも、きっと、孝くん、私のこと心配して、助けにきてくれたんだわ。そうよ、雨宮のことは、単なる照れ隠しのカモフラージュだったのね。孝くんたら、本当に可愛くて、勇気があるんだから。ああ、どうしよう。私、昨夜、お風呂に入っていないのよ。ここ、鏡もないし、ブラシだって、もってきていないし、あんた、化粧セットもっていない。
双葉     そんなもの持ってないわよ。
裕子     どうして持っていらっしゃらないのよ。女の身だしなみは、基本でしょ。ちょっと、誰かいらっしゃらないの、ここって、お風呂はございませんの。
双葉     (こっそりと)孝くんが、食料係で連れてこられたって知ったら、怒るんだろうな。青木裕子。
裕子     ああ、私ったら、世界一不幸な女だわ。せっかく、孝くんが、私のことを助けにきてくれたというのに、こんなこきたない格好で会わなくちゃいけないなんて。そんなの駄目、私、悪魔に食べられて死んでしまったほうがいいわ。
双葉     あんたが食べられて死ぬときは、私も死ぬときなんだからね、そんなの厭だからね。お姉ちゃん、有里、なにしてんのよ、早く助けに来てってば。

その時、高らかなる笑い声とともに、魔王ナスリツケが、登場。

ナスリツケ  はっ、はっ、はっ、はーっ。よし、息臭くない。苦しみ泣き悶える小羊ちゃん、子兎ちゃん、今、この僕、魔王ナスリツケが、きみたちを救い出してあげるからね。魔界のニューリーダー、悪魔界のフェミニストと自他共に認めるこの僕に、人間の女の子の泣く姿は、とっても耐えられないんだよ。
双葉     あの、助けてもらわなくても結構ですから。
裕子     どうしてよ、この方が、どなたかは、存じませんけど、ここから出してもらえるのよ、結構なことじゃございません。あなたは、ここへ来たばっかりだから、そんな悠長なことが言えるのよ。
ナスリツケ  そうですよ、僕の力で、あなたたちは、晴れて自由の身なんだよ。さあ、ヒガミこのお二人をお助けするんだ。
ヒガミ    へい、今畜生。てやんでえ、こんな鍵。

鍵が開いて二人が助けだされる。

ナスリツケ  どうぞ、お嬢さん。お手を。
裕子     あら、どうもありがとう。.........助けてくださってありがとう。どうして私を見つめるの。
ナスリツケ  本当にあなたは、美しい。
裕子     ご冗談をおっしゃらないでくださいな。私は、まだほんの子供です。
ナスリツケ  あなたの美しさの前では、どんな花でも色褪せてしまうでしょうが、あなたとお会いしたのが突然すぎて、今は、こんなものしか用意できなかったのです。どうぞ、このささやかな花を受け取ってください。
裕子     お笑いになるかもしれませんけど、私この歳まで、男の方から、花をいただいたことがなかったの。うれしい。
ナスリツケ  その、喜ぶ顔がまたいい。お嬢さん、お名前は。
裕子     青木裕子といいます。
ナスリツケ  この、指輪、母にもらった形見ですが、男の私には、どうも似合わなくて、もらっていただけませんか。
双葉     どうしてこういう時に、花束が出てきたり、指輪が出てきたりするのよ。
裕子     そんな大切なもの、いただけませんわ。
ナスリツケ  きっと指輪は、僕の指よりも、きれいなあなたの指のほうが好きだと思いますよ。
裕子     そんなにおっしゃるのなら。...すてきな指輪。
双葉     青木さん、その指輪、はめたら駄目だよ。
裕子     私がもらったんですもの、私の自由にさせていただくわ。雨宮兄弟は外野なんですから、黙ってて頂戴。
双葉     だって、そいつ、魔王...。はめちゃった。
裕子     助けていただいたうえに、こんな素敵なものまでいただいてしまって、本当にありがとうございました。
ナスリツケ  いえ、どういたしまして。
双葉     あれ、なんともないの...。
ヒガミ    ナスリツケ様、あれさえ将軍の手のものが近付いてくるようです。
ナスリツケ  ああいう、野蛮な悪魔にまた捕まるとたいへんですからね、さあ、案内いたしますから、僕と一緒に逃げましょう。
裕子     (うっとりと見つめ)ええ、連れていってください。どこまでも、ご一緒いたしますから。

二人退場。

ヒガミ    ここまで来るまでに、あれさえ将軍の兵士を眠らせたのは誰だ。この俺だ。檻を開けたのは誰だ。この俺だ。どうして、魔王様は、いいところばかりもっていってしまうんだ。
双葉     もしかして、私たちも逃げないとまずいんじゃないの。
ヒガミ    五月蝿いな、分かっているよ。
双葉     他の悪魔が来るんでしょ。行きましょうよ。できたら、お姉ちゃん達の居るところに連れていってもらえると嬉しいんだけどさ。
ヒガミ    馴々しくするな。こんちくしょう。
双葉     いいから、ほら行こうよ。
ヒガミ    ばかやろ、置いてくな。

双葉と、ヒガミが退場したところに、お父さん、おかあさん、おばあちゃんが登場。

お父さん   お母さん、本当にここでいいんでしょうね。
おばあちゃん いいはずだけどね......。
お父さん   どうして、そう自信がナインですか。
おばあちゃん だって、この魔法の本がコピーなんだから、本当に魔法がきいているのか、いまひとつね、感じがつかめないんだよ。
お母さん   たぶん、大丈夫ですよ。さあ、あの子達を探しましょう。
お父さん   おまえは、いつだって気楽でいいよな。ここは、悪魔たちの城なんだぞ、こうしているときだって、後を振り向けば、悪魔が、ほら......(悪魔が立っている)いるじゃないか。
ネタミ    これは、これはようこそおいでくださいました。ここまで、おこし頂いたということは、封印を、解いていただけるんでしょうな。
お父さん   それについては、あの、娘にですね、それよりも、青木裕子ちゃんを返して頂きたいと思いまして、なんといっても、裕子ちゃんは、一般の、ただの女の子ですから。
ネタミ    それは、封印さえ解いて頂ければ、すぐにでもお返しいたしますよ。
おばあちゃん 無事かどうか、一度あわせておくれ。
ネタミ    もちろんです、すぐに、あわせてさしあげますよ。何しろ、ここにいますから。あなたたちの後の、檻のなかにいます。
おばあちゃん どこにいるのさ。青木裕子ちゃん、助けにきましたよ。でておいで......。見えるかい。
お母さん   見えませんね、もしかして、これって、罠なんじゃないですか。
ネタミ    なんだと...。
お父さん   やっぱり悪魔の言うことなんて信用するんじゃった、もう、青木裕子ちゃんは、食べられたあとだったんだ。
ネタミ    馬鹿を言うな、我々にだって、信用問題というものがある。軽々しく、人質を食べたりなどはいたしません。
おばあちゃん だって、いないもんは、いないんだよ。
ネタミ    分かりました、結論が出ました。
お父さん   どういうことなんだ。
ネタミ    自分自信で、または、外部からの手助けがあって逃げ出したということでしょう。これは、大変なことです。わたしが、あれさえ将軍に責められます。従って、あなたがたに身代わりの人質となって頂きます。
三人     そんな...。
ネタミ    檻よこの三人を閉じこめろ。

 檻が動きだして、三人を閉じこめる。

お父さん   ここから出すんだ。
ネタミ    大魔王様を封印から開放して頂ければ、すぐにでも出してさしあげます。それでは、私は、この件をあれさえ将軍に報告いたさなくてはなりませんのでこれで失礼いたします。
お母さん   あの、うちの子達を知りません。
ネタミ    さあ...。
お母さん   待ってください。あの...。




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