第10場

なにもなくなった舞台に、雨宮一家と、孝、青木裕子がいる。

お父さん　　　恵美、双葉、有里。よかった、みんな無事か。
双葉　　　　　お父さん怖かったよ。
お父さん　　　心配ない、何がなんだかわからないが、どうやら、危険は去ったみたいだから。
恵美　　　　　孝くん大丈夫。
孝なんだかまだ信じられないよ。
恵美　　　　　ごめんね、危ない目にあわせちゃって。
孝いいよ、恵美ちゃんのためだもの。
恵美　　　　　孝くん。（抱きつく）
お父さん　　　こら、離れなさい。おまえ達は、まだそうやってくっつくには早すぎる。
お母さん　　　あなた、怖かった。（抱きつく）
恵美　　　　　大人はよくて、どうして子供はいけないのよ。
おばあちゃん　そうそう、昔は、人前でなんて恥ずかしくて抱き合ったりなんかできなかったもんだけどね。
裕子　　　　　あなた、あなた、どこにいるの。
双葉　　　　　誰探しているのよ。
裕子　　　　　私のフィアンセ。
双葉　　　　　あの城が崩壊するときに、いっしよに崩れ落ちちゃったんでしょ。
裕子　　　　　そんな、ああ、私の初恋。
双葉　　　　　あんた、何回初恋やれば気が済むのよ。
裕子　　　　　真実の恋。ああ、これで私の青春は、灰色だわ。
双葉　　　　　悪魔の子供生まなかっただけ、幸運だと思うけど。
裕子　　　　　雨宮の小娘に、あの人の魅力は分からないわよ。
恵美　　　　　馬鹿、（ひっぱたく）心配したんだから。
裕子　　　　　本当はね、怖かったんだよ。雨宮。（抱きつく）
お母さん　　　なにはともあれ、帰りましょう。青木さんのご両親も心配しているでしょうし。孝くんのお母さんも、心配しているから。

　　　　　♪雨上りの道をみんなで帰ろう。
水溜まりに映る雲は、白く流れていく。
さっきまで、吹き荒れていた風も止んで
雨に打たれた木々も、緑に輝く。

雨上りの道をみんなで帰ろう。
雨宿りした軒先の、蜘の糸に光る水玉
さっきまでの強い雨が止んで。
虹が空に輝いてる。

こんなときは、足取りも軽く。
水溜まりを跳ねながら歩こうよ。

有里　　　　　ねえ、みんな、隠れていないででておいで。一緒に帰ろう。これからは、人間として暮らしていかなくちゃならないんだから。
恵美　　　　　有里、なにいってんのよ。誰が隠れているのよ。
有里　　　　　えっ、あの悪魔たち。今度ね、人間になるんだって、お母さん、いいでしょ、みんな行くところがなくて困っているんだって。しばらくうちに置いてやってくれる。
お父さん　　　いやだ、お父さんは、絶対反対だ。
有里　　　　　そんなこといわないで、みんな可哀相なんだから。出ておいでったら。（悪魔たち出てくる。）
裕子　　　　　あなた。（ナスリツケに抱きつく）
お父さん　　　俺は絶対反対だからな。

元悪魔たちと全員で。

　　　　　♪雨上りの道をみんなで帰ろう。
水溜まりに映る雲は、白く流れていく。
さっきまで、吹き荒れていた風も止んで
雨に打たれた木々も、緑に輝く。

雨上りの道をみんなで帰ろう。
雨宿りした軒先の、蜘の糸に光る水玉
さっきまでの強い雨が止んで。
虹が空に輝いてる。

こんなときは、足取りも軽く。
水溜まりを跳ねながら歩こうよ。

有里　　　　　これで、本当に、このお話はおしまい。えーっと、悪魔の人たちは、すぐにみんな仕事を見つけてうちを出ていきました。悪魔をやめて人間になったとはいえ、それぞれになかなか特技をもっていたし、私もちょっとお手伝いしたりして、...。あれさえ将軍は遊園地でおばけ屋敷の仕事をしているし、ナスリツケさんはなかなか有能な弁護士さんとして活躍しているようです。青木裕子さんのお母さんは、相手が有能な弁護士さんということで、婚約を認めてくれたそうです。もっとも、結婚は、十年後かも知れませんけど。
　恵美お姉ちゃんも、だいぶ大人っぽくなって、前みたいに孝くんのこと悪く言わなくなって、うまく付き合っているみたい。でもね、あーあ、私もボーイフレンド欲しくなっちゃったな。なんて言うと、双葉ねえちゃんが私にもいないのになんで、年下のあんたにボーイフレンドができるのよ、なんて目を三角にして怒るんだよ。本当はね、ボーイフレンドよりも、魔法の力を少しずつ使えるようになったことの方が楽しくて、こんどはね、もっと楽しい悪戯の報告をいたします。最後に、皆さんに私のとっておきの魔法をかけてあげるね。（バトンを一振りする。）どうぞ皆さんが幸せになりますように。（ニヤリと笑う。それはまるで、小悪魔の笑い。）
　
　音楽が流れる、有里の周りが、元悪魔ばかりなのは偶然だろうか。
　幕