[月虹舎]


(イメージ)

いちばん悪い魔法
第06場
森島永年


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http://www.infonet.co.jp/apt/March/Aki/WorstMagic/06.html




友里     お姉ちゃん。あの、虹の立っているところ。きらきら輝いているでしょ。あそこが鏡の国なんじゃないかしら。
双葉     だって、前に来た時には、ずいぶん暗い地獄みたいな場所だったじゃないの。
孝でも、いいみたいですよ。
恵美     孝は前に来たことないじゃない。どうして分かるのよ。
孝だって、ほら、道路標識が出ているもの。

鏡の国、すぐそこという道路標識が出ている。

双葉     こういうのを御都合主義というのよ。
恵美     いい、堅いこと言わなくていい、とにかく、着いたのよ。ああ、しんどかった。
孝あれが、鏡の国ですか。
双葉     そうよ、あなたのことを待っているお姫様があの国のどこかにいるのよ。
孝そんな、からかわないでくださいよ。
友里     そう、あの鏡の国ではなくて、鏡の国とつながっているデビルゾーンで、待っているのよ、とっても素敵で高慢チキな青木裕子さんが。
孝いない人のことを悪く言うのはよくないことだと思うよ、友里ちゃん。
友里     フンだ、優等生面しちゃって、でも、かっこいい人に怒られるのは、ちょっと快感。女心って、不思議なものなのね。
恵美     友里、どこにあるのよ、そのデビルゾーンって。その本にのっていないの。
友里     友里、難しい漢字読めないの。お兄ちゃま読んで。双葉     お姉ちゃんの、ボーイフレンドに媚売るんじゃないよ。私たちに内緒で、漢字の練習して、今じゃ私たちよりも漢字をよく知っているって自慢していたのは誰なのよ。
友里     仕方ないわね、えーっと、載ってません。
双葉     友里、ふざけるのはやめて。これだけたいへんな思いをしてきたんだからね、ここで、分かりません、辿り着けませんというわけにはいかないのよ。
孝まあ、まあ。ここで喧嘩してもつまらないですよ。双葉     だって、一番魔法の力を持っているのは、友里なんだよ。友里が、頑張ってくれなくちゃ、私たちは、デビルゾーンへ辿り着くことはできないんだよ。
恵美     双葉、同じこと何度も言わなくてもいいわよ。分からないことは、分からないんだから、仕方ないってば。それより、ここ、なかなか良いとこだよ。空気はおいしいし、景色だって、きらきらしてとても綺麗。こういうところにいると、お腹が空いてこない。
双葉     お姉ちゃん、場所と時間をわきまえないその食欲はどうにかならないの。
恵美     人間、焦ったって、どうにもならないときは、どうにもならないの。お母さんってのはね、苦しいときだって、悲しいときだって、ご飯を作らなくちゃならないの。それはねっ、苦しいときにも悲しいときにも、人間はお腹が空くんだということが分かっているからよ。
双葉     お姉ちゃん、それって、えらくばばくさくない。
友里     それに、私たちは、人間じゃないんだよ。
孝えっ、雨宮さんって、人間じゃあ、ナインですか。友里     そうよ、私たちって、由緒正しき意地悪な魔女の家系なの。
双葉     お姉ちゃんと付き合ってて、それ位のこと知らなかったの。
孝知りませんでした。そうか、そうだったんですね。双葉     大体どうして今頃気が付くのよ。普通分かりそうなもんでしょうよ、悪魔にさらわれた青木裕子さんを助けにいこうというんだよ。辿り着いたのが、鏡の国なんだよ。これで、普通の女の子ですなんて言ったら、逆に変だと思わない。
孝そういわれれば、まったくその通りですね。
恵美     あのね、この際、人間だから、とか、魔女だからなんてどうでも良いから。お腹が空いたんだよね、何か食べようよ。
孝そうですよね、考えたら、雨宮さんは、雨宮さんですものね。僕も、お腹空きました、食べましょう。お腹が空いてちゃ、青木裕子さんを助けることだって、できませんから。(食料をバッグからだす)
双葉     やっぱり、お姉ちゃんのボーイフレンドね。よく教育されているわ。こんな所まで来て、お姉ちゃんの食欲に付き合わされるなんて思わなかった。悪魔から人を助けようっていうんだから、もう少し、緊張感がほしいのよね。これじゃあ、人を助けにきたんだか、ピクニックにきたんだか分からないじゃない。 
友里     お姉ちゃん、愚図愚図してるとなくなっちゃうよ。双葉     友里、人が緊張感を高めようとしているのに、あんたまで...・ポテトチップスは、私が持ってきたんだからね。

そこへ、怪人ヒガミ登場。

ヒガミ    ばばばバッキャーロー。ふざけんじゃねえぞ、この野郎。

一同ヒガミを見る。

ヒガミ    畜生、いい加減にしろってんだよ。
孝あの、小父さん、もしかして、僕達に言っているんですか。
ヒガミ    あったり前のこんこんちきよ、ふざけんじゃねえぞ、この野郎。
孝別にふざけてるつもりはありませんけど。
ヒガミ    そうかい、そうかい。そういうつもりかい、なめてんじゃねえぞ。
孝舐めてるつもりもありませんけど。
恵美     孝くんあんまり逆らわないほうがいいんじゃない。友里     そうだよ、この人あんまり頭がよさそうじゃないんだもの。こういう人になに言っても無駄だと思う。
孝友里ちゃん、本当のこといったら、駄目だよ。もしかしたら、この人だって、すごく気にしているかもしれないよ。自分の欠点って、他人から指摘されるとすごく嫌なもんなんだから。
ヒガミ    てめえら、やっぱりふざけているだろう。
孝暴力は、やめてください。彼女たちに手をだすと僕が承知しませんから。
ヒガミ    お、かっこつけて、ほんとにやれるのか。
友里     孝くん、かっこいい。
双葉     ちゃんと見なさいよ、足が震えてがたがたいってるわよ。
恵美     孝くん、無理しなくていいからね。
孝男は、女性を守らなくちゃいけないって、お母さんが言っていましたから。
恵美     最近は、そういうの流行らないんだから、自分の実力に見合うことやってれば評価される世の中なんだから、もう少し要領よく生きたっていいんだからね。
孝そういうの嫌なんです。
ヒガミ    俺はな、そういうお前の考えは、もっと嫌なんだよ。お前みたいな奴は、このヒガミ様が、メチャクチャにしてくれる。
女の子たち  きゃー。
ナスリツケ  お待ちなさい。

魔王ナスリツケが、はでばでしく登場。

ナスリツケ  客人たちを迎えにいったはずのお前が、客人たちを脅してどうするのだ。そんなことだから、あれさえ将軍の部下であるネタミとの魔力合戦に負けたりするんだぞ。いいか、今度のことは、全部お前の責任だからな、なにかひとつうまくいかなくなったとしても、すべてお前の責任だということを、ヨーク頭にたたき込んでおくんだぞ。
ヒガミ    あの、責任だけは、ご勘弁を。
ナスリツケ  いや、許さない。どんな些細なことであれ、一度主人から命令を受けたのなら、それを果たす責任があるということは、口が酸っぱくなるほど言って聞かせているはずだぞ。自分がしたことが、後々どれだけ大きな結果となって帰ってくるか、お前に想像できるか、想像はできないだろう、だから、お前には、責任だけをやろうというんだ。
ヒガミ    ああ、なんということだ、また責任をとらなきやならないのか。
ナスリツケ  そうだ、おもーい責任だぞ。
ヒガミ    畜生、俺が責任をとらなきゃいけないのは、お前たちのせいだからな。
孝あの、それって、僕たちのせいじゃないと思いますけど。
ヒガミ    だったら、だれのせいだ、お前か、それともお前か。いや、お前だろ。
友里     もしかして、小父さん自分のせいじゃないの。
ナスリツケ  そうだ、お前自身のせいだぞ。
ヒガミ    そんな、ああ、魔力合戦以来、あのネタミの魔力の所為で、責任が俺を追い掛けてくる。
孝誤解さえ、解ければ、僕は、あんまり気にしていませんから、許してやってください。
ナスリツケ  許すというのは、罪を許すということで、僕は別にこの男に罪があると言っているわけでもないし、罰を与えようと言っているわけでもないんだよ。自分のした事に責任を持ちなさいといっているだけなんだ。 孝     はあ。
ナスリツケ  無責任な行動は、他人に迷惑を掛けるから、自分のすることには、責任を持って行動するようにと言っているだけなんだ。そして、ひとつ過ちを犯すたびに、その過ちをカバーしようとすれば、責任がどんどん重くなっていく。それは、しょうがないことなんだよ。それに、きみは、気軽に許すというけれど、許すからには、この男のしでかしたことの責任を肩代わりできるだけの覚悟があるんだろうね。もちろん、肩代わりするだけの覚悟があるから、そういうことを言ったわけだ。よかったな、ヒガミ、この少年がお前の責任を肩代わりしてくれるそうだぞ。
恵美     一言も、そんなこと言っていないでしょ。
ナスリツケ  そうなのか、きみは、そんな卑怯な奴なのか。自分の言ったことに責任は持たないというのだな。
孝はあ...。
有里     孝さん、こいつの言うこと聞いたら駄目だよ。これは、罠なんだから。
ナスリツケ  こいつとは、失敬な、僕にはちゃんと名前があるんだぞ。僕が生まれたときに、北の空に大きな星が流れ、近所の小母ちゃんたちは、この子は、悪魔界を救う大悪魔になると囁きあったものです。悪魔界の封印は長く続き、悪魔たちは、旧弊な思想にとらわれておりました。その悪魔界の救世主、悪魔界のニューリーダー、それがこの僕です。まわりの悪魔たちは、僕のことを魔王とか、女殺しと呼びますが、本人は、いささかもそんなおごったところはなく、単なる悪魔たちの兄貴、悪魔たちの善き指導者でいたいと願っているにすぎません。あいさつが長くなって申し訳ありませんでした。悪魔界のニューリーダー、それが僕、魔王ナスリツケです。
双葉     何だか汚そうな名前ね。
ヒガミ    魔王様に、逆らったりすると責任をなすりつけられるんだからな。よーく、覚えておけよ。このお方は、なすりつけられるものは、すべてなすりつけられるんだぞ。
恵美     あの、青木裕子返してもらえませんか。あの子、一般人だから、こういうことに巻き込むのってまずいんですよね。封印ついては、よく分からないんですけど、私たちでなんとか努力してみますから。
ナスリツケ  努力しないでもらいたい。可愛いお嬢さんたち。
双葉     だって、青木裕子を助けにこい。助けにこないと、青木裕子の命はないぞって、言ってきたのは、そっちなんだよ。
ナスリツケ  そんなことを言っているのは、あれさえ将軍の手のものだろう。あの、連中は、過去の栄光にしがみついているのだ。封印された大魔王とやらを復活させて、中世の暗黒時代を再現しようとしているんだ。でも、そんなのは、時代遅れなのさ。今時悪魔がうろうろしてみたって、だれも、悪魔なんて信じちゃくれないんだぞ。人間のほうが悪魔の力よりも、もっと危ない、原爆だとか、細菌兵器だとか、恐ろしいものをいっぱいもっているというじゃないか。あれさえ将軍が、あれさえの力をちょっとだして、ボタンをちょっと、押させるだけで、地球がなくなっちゃうんだぞ。だから、僕達は、ここで、静かに暮らしているのが、一番だと、僕は、信じているんだ。
有里     なんか、この人、すごく気が小さいんじゃないの。双葉     平和主義者の悪魔って、イメージじゃないよね。
孝それで、僕達にどうしろというんです小父さん。 ヒガミ   バッキャロー。魔王様といえ、魔王様と。(孝をねじふせる。)
恵美     孝くんに、なにすんのよ。(ヒガミをどつく)
ヒガミ    あっ、暴力をふるったな。暴力はいけないんだぞ。
恵美     暴力をふるったのは、自分でしょ。
ヒガミ    俺は、言葉の使い方を知らないこいつに言葉の使い方を教えただけだ。
有里     自分のほうがよっぽど言葉の使い方を知らないじゃないの、もう一度、幼稚園からやり直したほうがいいんじゃないの。
ヒガミ    悪魔界には、幼稚園は、ありません。
ナスリツケ  いいかげんにしないか。とても可愛いお嬢さんがた、僕の望みは、ただひとつ、このまま何もしないでかえっていただきたいということなのさ。
有里     せっかく、あれだけ苦労してここまで辿り着いたというのになんにもしないで帰れというの。
恵美     青木裕子は、どうなるのよ。ここで、私たちが帰ったら、青木裕子は、食べられちゃうかもしれないんだよ。
双葉     それとも、小父さんが青木裕子さんの命を保障してくれるというの。
有里     そうよねえ、ここまで言ったんだもの、当然責任とって、青木裕子をここまで連れてきてくれるわよね。ナスリツケ  いや、それは、...・。
有里     あーっ、私分かっちゃった。この小父さん、本当は、あれさえ将軍が恐いんだよ。だから、私たちが封印を解くと、あれさえ将軍の力が強くなるもんだから、それで私たちの邪魔をしているんだよ。
ヒガミ    小娘たち、そんな、本当のことを言ったら、魔王ナスリツケ様がお怒りになるぞ。
有里     ほら、やっぱり本当のことなんだよ。この小父さん、あれさえ将軍が恐いんだ。
ヒガミ    だれが、そんなことを言ったんだ。

全員が、ヒガミを見る。

ヒガミ    えっ、俺。嘘だろ。
ナスリツケ  よし、分かった。条件をひとつだそう、その条件を呑んだら、お前たちの友達を助けだすのに、協力してやろう。
恵美     条件って、何よ。
ナスリツケ  お前たちの誰かが、僕のお嫁さんになるんだ。
双葉     それって、随分な条件じゃないの。
有里     私嫌だからね。
恵美     あのね、魔王さん、私たちは、小学生なんだよ。日本の法律では、16才になるまで結婚なんてできないの。
ナスリツケ  だったら、友達のことはあきらめるんだな。
有里     いいわよ、私たちだけで行くから。
ナスリツケ  あれさえ将軍の、城は、それはそれは恐ろしい城なんだよ。至る所に仕掛けはしてあるし、水路には、怪獣が放し飼いになっているし、頭が悪くて、お腹のすいた悪魔がうろうろしているんだ。女こどもだけでいけるのかな。
恵美     どうする。
有里     どうするって、嫌なもんは、嫌だってば。
双葉     相手が、悪魔じゃさ、子供出来たって、親戚に自慢できないしさ、友達にも、肩身が狭いんじゃないの。有里     こういうことは、歳の順で、ほら、青木裕子さんって、お姉ちゃんの友達であって、別に有里の友達じゃないんだもの。
恵美     別に、私だって、友達というわけじゃないのよ。どう、双葉って、男のひとの趣味がないほうじゃないの。好かれて一緒になるのが花だっていうわよ。
双葉     どうして、私に押しつけようとするのよ。有里、あんたが一番魔女の能力があるんだから、この悪魔とも、すぐに仲良くなれるんじゃないの。
孝みんな、しっかりして、責任のなすりつけをしてどうするんだ。
恵美     責任の、...。双葉、有里、私たち、魔力にたぶらかされているんだ。
ナスリツケ  僕は、魔力なんて使っていないぞ。協力する条件を言っているだけなんだ。
恵美     有里、お婆ちゃんはなんて言っていた。
有里     悪魔は、嘘つきだから、言うことを信じちゃ駄目だって。
双葉     そうよ、きっと、あれさえ将軍のお城だって、大したことがないお城なのよ。
ナスリツケ  僕は、嘘なんか言わないぞ。
恵美     有里、本に載っていないの。あれさえ将軍の、お城にいく魔術が...。
有里     ちょっと、待って、探してみるから。
ナスリツケ  ヒガミ、この娘たちを捕まえるんだ。あれさえ将軍の、城に行かせてはならない。
有里     あった。ドブラ、ドブラ、スグドブラ。

大閃光で、一瞬真っ白になり、有利たちが消える。

ヒガミ    あーあっ。行っちゃった。
ナスリツケ  お前の責任だぞ。最初の印象が悪いから、信じてもらえなかったじゃないか。
ヒガミ    どうして俺の責任なんですか。魔王様が、女にもてないのは、俺の責任だというんですか。
ナスリツケ  あっ、逆らおうというんだな。
ヒガミ    これだけは、譲れません。
ナスリツケ  責任を取らないつもりだな。
ヒガミ    譲れないものは、たとえ魔王様のご命令でも譲れません。
ナスリツケ  ヒガミ、どうやら、あの魔女たちの所為で、お前がネタミにかけられた魔力の効果が薄れたらしい。お前の会話が、まともになった。
ヒガミ    えっ。...・・本当ですか。
ナスリツケ  しかし、困った子供たちだな。私の言ったことは、すべて本当のことなのに。食べられなければいいが...助けにいくか、仕方がない。
ヒガミ    惚れたんでしょ。誰なんですか。困っちゃうなあ、惚れやすいんだから、おまけに、相手は、まだ子供じゃないですか。
ナスリツケ  お前は、魔力が薄れても、口の悪いのは、変わらないな。(口をひねりあげ)
ヒガミ    いててて。
ナスリツケ  さあ、一緒に就いてくるんだ。
ヒガミ    冗談でしょ。あの、恐ろしい城へ、本気で行くんですか。ほら、ナスリツケ様は、責任は、取らせても、罰は与えないお方だから...。行きます。行けばいいんでしょ。

二人が消えると、ここは、あれさえ将軍の城。




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