[月虹舎]


(イメージ)

貧乏な地方劇団のための演劇講座
第8章
音響
森島永年


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http://www.infonet.co.jp/apt/March/Aki/Binbou/08.html



 この20年間で一番手軽になったのが音響だろう。カセットテープレコーダーがない家を探すのが難しいくらいだ。それぐらい安くなっているのだ。20年前のテープレコーダーでステレオといえば、5万円以上したし、音質は現在の一万円のラジカセの音にもはるかに及ばなかった。レコードも高かったし、ダブルカセットなどという便利な物もなかったうえ、レンタルレコードなどという物ももちろんなく、正直言って、芝居をやるときにおいそれと音楽を使うことは出来なかった。ところが音響器材が安くなって、あっという間に芝居は音楽だらけになってしまった。

 その音楽である。[月虹舎]では、かなり初期から劇中の音楽は自作している。劇中歌はほとんどが自作といっても良い。これは著作権の問題もあるが、芝居にあった曲がなかなか見つからないことが多いためである。




08-01
曲の作り方


 簡単に劇中歌の作り方を説明する。作詞はとりあえずおいておくとして、作曲には大きく分けて次の二つのやり方がある。

○譜面を書く

○楽器を使って伴奏しながら自分でうたう。

○楽器もなにもなく、自分で歌い後で譜面に起こしてもらう。

 私は譜面を読めないので、まん中の方法を取っている。楽器もギター以外は不自由なので、ギターを使っている。[山本孝和演劇事務所]の山本孝和はギターと自動伴奏付きのキーボードを使っている。

 こうやって作った曲をバンドで演奏してもらって録音すれば、あっという間に劇中歌が出来上がる、はずである。やってみるとわかるが、あれ、どこかできいたことのある曲だな、と思うような曲になってしまうことが多い。それでも何度もやっていると、だんだんと自分らしいメロデイが出来てくる。こうして苦労して作った曲も劇団員に、"あら、どっかできいたことがあるみたい"とか"歌いづらい"とか言われると、思わず"自分で作ってみろ"といいたくなる。結局劇団員にボイコットされるケースもままある。(曲付きで台本を渡して全曲不採用ということもあった)

 自分で歌って作るときはこまめにテープに取り、前の部分を消さないようにする。なぜなら、どんなメロディだったのか自分でもすぐに忘れてしまうからである。"簡単にというので説明の手を抜いたな"という人がいるかもしれないが、作曲なんてこんなものであろう。たとえば、C(ハ長調)では、CFGAmDmEm(E7)が基本コードであり、たいていの曲はこれらのコードから離れることはない。一見複雑に見えても、それは音から音へ移るための音が入っているだけのことであって、基本メロディにはあまり影響しない。どうせプロが作ったようにはうまく出来るわけではないのだ。気楽に作った方がいい。何曲か作っているうちに才能のある人はどんどんうまくなっていくだろうし、才能がなくたって、劇中歌の場合ならそこそこの出来でも聞くには耐えられるものなのだ。


08-02
ミキサー


 作った曲を録音するにも、当日の舞台にもミキサーがあったほうが便利だ。6chのミキサーがあれば同時に三つのステレオ音が流せる。曲を録音することも考えるのなら、ミキシングテープレコダーと言う便利な物もある。ABCD4つのトラックに録音した音をあっちにやったりこっちにやったりして、音の重ねあわせが出来るもの。値段も年々値下がりして、今では五〜六万もあれば、購入できる。簡単な4chミキサーもついているので、ミキサーの代用にもなる。

 もちろんミキサー無しでも音響は出来る。昔はミキサーなんて使わなかった。安いミキサーでも10万円以上したし、性能も悪くて、ノイズが多かった。

 一台あるととても便利なのでいくつかの劇団で資金を出しあって買うのも手だと思う。


08-03
テープとCD


 テープレコーダーとCDとを比べてみると、CDの方が頭出しには便利。ただし、既製の曲でしか使えない。

 プロの音響屋さんは頭出しの都合上テープレコーダーはほとんどオープンリールの物を使っているが、アマチュアならカセットで十分だと思う。ただし、テープは良いものを、使う曲の本数分だけ用意すること。テープのトラブルで芝居がずっこけたことが2〜3回ある。テープは46分以下の長さの物を使うこと。それ以上の長さだと、テープの巻き込みやのびを生じやすい。テープ代をけちるとろくな事がないので、五本セットとか、十本セットで信用できるメーカーの良い商品の特価品を買うといい。特売品でもいいが間違っても、韓国製や台湾製の十本六百八十円などというテープに手をださないこと。

 テープは使用前に空回ししておくこと。バージンテープで使うと録音ミスを起こすことがある。録音するときには、頭出しをした状態にしておいてポーズ解除で録音するようにすること。


図8−1 テープの使用法


 こうしておくと、再生の時も同じところまで指で巻いておけば一発頭出しが可能になる。


08-04
サンプリング


 短い音を出してやるとき、サンプリングマシンがあると便利。テープレコーダーだとめんどくさい操作もキーを押すだけで、各音階のその音が出てくる(例:刃と刃の打ちあう音)。最近のキーボードやシンセサイザーにはこの機能がついているのも多いので、短い音を出す必要があればキーボードを持っている人間に聞いてみるといいだろう。


08-05
リバーブ/ディレイその他


 リバーブとは音の広がりをだすための装置。ディレイは音を遅らせる装置(一種のサンプリングマシン)。他にエコーチェンバー、ディストーションなど名前を覚えられないくらい種類がある。カラオケでエコーと読んでいるのは実はリバーブのこと。これにもアナログデジタルとあり、デジタルはディレィの変形だとかややこしいのだが、省略して代表的な使い方だけ説明する。

 音を録音するときにリバーブをかけると音に広がりが出る。コンピューターミュージックのピアノの音などは適量のリバーブをかけてやると生ピアノそっくりの音になる。

 音や音楽を録音するときはこういう器材の使用も考慮したい。[月虹舎]では、[どぶ板を踏み抜いた天使]の中で使った[オクラホマミキサー]というフォークダンスの曲に途中からリバーブをかけて不気味な感じを出している。


08-06
コンピューターミュージック


 コンピューターの普及に伴い、コンピューターを使う人も増えている。[月虹舎]では1987年上演の[嵐を呼ぶ男]で使った曲はほとんどコンピューターに演奏させている。[ワークスユニット]というバンドに曲作りをしてもらったのだが、これが案外作るのに手間暇がかかる作業だったので、びっくりしてしまった。コンピューターもソフトも当時よりも格段に良くなっているわけで、音符の入力方法もキーボードも使えるようになっているなど改善されているので、暇な人はぜひ一度試してほしい。この原稿を書いた後、[ミュージ郎]というソフトを使って2曲作ってみたが、やはりかなり時間がかかった。
 試行錯誤も多いので時間がかかるのはしょうがないのかもしれない。ワープロと同じで作りながら完成品が出来てくるのはメリットだろう。


08-07
スピーカー


 スピーカーは本当は四台欲しい。ステージ手前と、奥からの分だ。[まるで映画のように]の何本かの舞台を演劇学校の先生という人が観にきていて、出る音によって前と後にスピーカーを使い分けた方がいいといわれたことがある。

 少し大きい会場では片チャネル100Wぐらいの出力が欲しい。あまり小さなスピーカーで大音量をだそうとすると、スピーカーを傷つけることがある。

 また会場が大きいときには役者用のモニタースピーカー(跳ね返りという)も必要となる。


08-08
うまい音響をやるためには


 音響の世界の技術の進歩が早すぎて実は私も最近の器材については知らないものが多い。幸い、音楽が好き、音楽が趣味、バンドやってますという人はどの街にもごろごろしているので、こういう人に教えてもらうのが一番手っ取りばやい。話をしているうちに、劇団に引きずり込んでしまえばしめたものである。音響は黙っていても良くなっていく。何しろ録音一つにしてもグラフイックイコライザーがあるとないとでは大違いの世界だから。おまけに使い慣れるまで、少々手間が掛かる。好きな人を利用しない手はない。




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