センスと技術のある衣裳スタッフが劇団内にいればこれほど強い味方はいない。別に衣裳を作る必要はない。組合せのセンスの問題なのだ。衣裳を作れれば更にそれにこしたことはない。
衣裳スタッフが気をつけなければいけないのは靴だ。どうしても、服までで予算が終わってしまうことが多い。服なら少しぐらいのサイズの違いでもきられるし、他人の物でもあまり気にならないが、靴だけは下着と同じで、他人の履いたものは気分が悪いせいだろう、どうしても個人用の物をあつらえなくてはならなくなる。
服がいくらすばらしくても靴を手抜きするとすべてがおじゃんになる。逆に服は少しぐらい安っぽくても、主役の役者の靴ぐらいはいいものを使いたい。
過去に一番靴に金をかけたのは、
三月劇場時代に使ったハイヒール。これは衣裳というよりも、小道具だったのだが、浅草の靴メーカーの試作品の靴を分けてもらった。10年ぐらい前で、半値に負けてもらって一万円だった記憶がある。
特殊な衣裳は自作しなければならない。時代物の衣裳は借りてもいいが高いので、作った方がいいのかもしれない。古着屋かバザーで和服や古いコートを買ってきてばらして作ると安くあがる。こういうときは縫えないことはわかっていても男性も手伝うこと。衣裳担当者の苦労がわかるだろう。
黒いドレスには、艶のある暗幕が意外といい素材になる。
[蒼ざめた街]では、市毛恵美子が、赤いドレスの下に黒のドレスを着て、図7−1のように前後からひっぱると一瞬のうちに早変わりが出来るようにした。
一時ノーメイクで芝居をしたことがあったが、結果は散々だった。舞台へあがってから恥ずかしくてしょうがないのだ。メイクには、それをすることで心が落ち着く効果ある。
メイクは一般的にはドーランを使うが、最近はスティックタイプのドーランや、フェイスケーキタイプの水化粧も多く使われている。
メイクの基本的な順番は次の通りだ。
○クレンジングクリームを塗って、それをティッシュペーパーで拭き取り顔の地肌を整える。肌のつやの良い若い女性はやる必要がない。
○基礎になる色のドーランを塗る。
○スーパーホワイトなどのパウダーを叩く。
○シャドー部分を塗る。
○パウダーで整える。
○目や口を描く。
○ライトにあててみる。
ここで大切なのは、パウダーを忘れないことだ。パウダーを忘れると、顔が均一にならないし、ぎらぎらして見える。照明とあわせてみるのは、照明の色によってはメイクの感じが随分と違って見えるからだ。
メイクの本は随分と出ているからそれらの本を参考にしてもらいたい。またいくつかの劇団が集まれば、三善というメイク用品のメーカーの人間を招いてメイキャップ講習会を開くことも出来る。ドーランはほとんど三善の製品なので、ドーランの裏に書いてある住所に連絡してみれば、講習会の開き方を教えてくれるはずだ。