資料シート/[三月劇場]

ハイパテキスト

http://www.infonet.co.jp/apt/March/syllabus/bookshelf/hypertext.html







 文章のことをコンピュータ科学ではテキスト(text)という。テキストが長くなると、全体が一つと考えていると書きにくく、また、読みにくくなる。そこで、多くの本では、テキストを、いくつかの単位に分けている。この単位は規模や階層の違いによって章(=chapter、しょう)とか、節(=section、せつ)などと呼び分けられている。このあとの説明では、まとめて節と呼ぶことにしよう。


リニアテキスト


 節が音楽や映画のように泓に並んでテキストの全体ができているという考え方は、最も単純で分かりやすい考え方だ。このような構造のテキストをメディア技術ではリニア(=linear、線形)だという。リニアなテキストは、先頭から末尾まで順に読んでいくように書かれている。

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 ところで、テキストには、実は書き手が意図した以上の情報が盛り込まれている。たとえば、本やTVの番組を見ていて、もとの筋やテーマとは関係なく、細かく書き込まれていた歴史やことば遣いの知識が得られてしまうことがあるだろう。リニアテキストは、節の順番によって、ある特定の読み方にしたがうように読み手を強力に引率する力を帯びさせることができる。けれども、それと引き替えに、テキストに潜在している多くの情報から読み手の目を逸らせてしまいがちでもある。この二つは同じ性質の裏表と言える。


ランダムテキスト


 リニアテキストに代わる一つの構造は、いわばランダム(random=たがいに関係のない)な構造だ。テキストの場合で言うと、テキストの全体をたくさんの節に分解して、それをそのまま対等に、また独立に提示するやり方だ(▽図)。



ランダム構造

 これなら、それぞれの節に含まれる情報は線形の流れの中に埋もれたりしないし、組み合わせは読み手の自由だから、書き手も気がつかなかった新しい意味がその中から湧き出してくるかもしれない。
 けれども、それでは、節の積み重ね(この理由があるからこの結果が生じる、というような)によって初めて示せるような内容は表現できないことになる。それに、多くの読み手は、それぞれの節の内容が読み取れるだけで、混乱してしまうかもしれない。


ハイパテキスト
[Memex]


 Bush(ブッシュ、Vannevar)は、45年の論文[思考の赴くままに]で、[Memex](▽図)という架空の情報システムを提案した。これは、大量の資料の中から必要なものを自由に検索して閲覧できるシステムだったが、それぞれの資料の中に、そこに書いてある記事と関係のある資料がどれか知らせる情報を埋め込むことができるようになっていた。



Memex
(文献[Brains]より加筆)


ハイパテキスト
[Xanadu]


 65年にNelson(=ネルソン、Ted Holm -)は[Xanadu](資料[Xanadu])を提案した。これは、細かく分けられているけれどもそれぞれは完結した内容をもったいくつもの節を網のようにつなぎ合わせた新しいテキストの形式だ。これはのちのハイパテキスト(=hypertext、テキストを外延したもの)の原形になった。



網構造

 資料[Playing the World Game]には[Xanadu]に刺激されてFullerが提案した[世界ゲーム]のルールが載っている。


ハイパテキスト
[HyperCard]


 80年代になってパーソナルコンピュータが登場すると、[Xanadu]のようなハイパテキストをパーソナルコンピュータを使って実現しようと考える人々がいっせいに働き始めた。特にAppleでの研究の中から登場した[HyperCard](資料[HyperCard])はこの時期の大きな成果だった。


ハイパテキスト
HTML


 89年に、CERN(セルン。<Conseil Europeen pour la Recherche Nucleaire=ヨーロッパ素粒子物理学研究所)のBerners-Lee(バーナースリー, Tim。▽図)は、ウェブ(=web=織物、くもの巣という意味もあるのでよくそれにたとえられる。資料[ウェブ])という新しいハイパテキストの形式を提案した。



Berners-Lee

 ウェブは、いくつかのページ(page)が集まってできている。そして、それぞれのページの記事の一部をボタンにしておくことができる(▽図)。このボタンを叩くと、同じページのほかの記事や、(インタネットにつながっているほかのコンピュータに置いてあるものも含めて)ほかのページが呼び出される。
 ウェブは、ページを網のようにつなぎ合わせた巨大なテキストと見なすことができる。



ボタン

 ウェブのことをホームページと呼ぶ人がいるが、間違いだから真似してはいけない
 ホームページというのは、住所録にあたるページで、自分がよく見に行くウェブや手紙をやりとりしている相手などのアドレスをまとめたものだ。したがって、ホームページは、インタネットを使っているそれぞれの人が一つずつ(いらないという人は別として)持っていて、一つずつしかない。また、プライベートなものなので、隠すほどのことはないにしても、一般のウェブのように宣伝するようなものではない(資料[ホームページ])。

 Berners-Leeのウェブの考え方の中心は、可用化(組み合せて使えるように情報はなるべく細かく分けて記録しておく)と公開化(たがいに情報の呼び出しを受け入れ合う)の二つの理念にある。

 現在では、世界で無数のウェブが公開されている。それらはどれも、たぶんどこかでたがいにつながり合っているはずだから、それをみんな合わせた、地球を包む一つの巨大なウェブがあると言うこともできる。この巨大なウェブのことを、WWW(world-wide web=全世界規模ウェブ)という。


HTML


 Berners-Leeは、ウェブの考え方と同時に、その構造を表現するための、HTMLという書式を提案した。
 HTMLは、記事の内容と構造とほかの記事へのつながり方を表現することができるようになっている。内容の本文はそのまま書き、構造やつながり方はタグ(tag)という形式で記述する(資料[HTML]。▽図)。

 

HTMLによる表現とその内容

 HTMLでは、ハイパテキストの全体としての構造はどこにも記録しておく必要がない。それどころかそれをあらかじめ決めておく必要もない。本文とタグとが混ざり合ったものを、ページごとにひとまとめにして、それぞれ別々のファイルの中に記録しておけばいい。
 なお、ウェブは必ずHTMLで書かなければいけないというわけではない。たとえば、(可用化と公開化さえされていれば)ただのテキストやただのJPEGでもウェブとして扱われる。


VRML


 95-05-26に、Pesch(=ペシ、Marc -)たちは新しいハイパテキストの表現の形式としてVRML(資料[VRML])を提案した。HTMLがテキストや写真やスピーカなどが配置された紙をメタファにしているのに対して、VRMLは直方体や球などの図形が配置された空間をメタファにしている。そして、直方体や球のそれぞれに、テキストなどのいろいろなメディアによる内容とリンクを貼り付けるられるようになっている。
 VRMLは、MPEG4の要素として採用されるなど、ハイパテキストを離れて、一般の、空間に広がる情景(=scene、いわゆるVR)の表現に使う形式としても活用されている。



VRML




ハイパテキスト
=
リニアテキスト
+
分岐+合流+反復+省略

本文
埋め込み
構造
コスメティクス

リンク


ハイパテキスト

マルチメディア演習 メディアテクノロジー論
情報処理
石原ゼミ


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99-12-10