論文

芸術学部における共通専門科目としてのコンピュータ教育
0


×|


0. 京都造形芸術大学におけるコンピュータ演習の概要

 1991年から発足した京都造形芸術大学(1)は、芸術学科(芸術学講座、文化財科学講座)、美術科(日本画、洋画、彫刻)、デザイン科(情報デザイン、環境デザイン)の各学科から構成されている。設立準備の過程で、全学的なコンピュータ教育が必要であるとの認識が高まり、共通演習科目としてコンピュータ演習(2単位、週1回2講時ずつ)を開講することになった。本稿を準備している現在は開講2年目を迎えている。
 この章では京都造形芸術大学におけるコンピュータ演習の概要について述べる。詳しくは文献(2)を参照されたい。

0.0. 目標

 制作、批評および観賞といったさまざまな芸術活動の過程では必ず何らかの情報処理が行なわれている。その対象は、画像、音、文章などさまざまであり、しかもたとえば画像を対象とする情報処理に限ってみても、その形態は描画、撮影、映写など多岐にわたっている。コンピュータ演習ではここに着目して、造形芸術における基礎教育を情報処理教育として行なおうと考え、次の三つの目標を掲げている。

・芸術活動を構成するさまざまな情報処理を自覚し、それらに対して能動的に対処することのおもしろさを発見させる。また、そのおもしろさが制作、批評や観賞といった芸術活動そのものもつ快感と深く関連していることを理解させる。

・コンピュータが情報処理にかかわることによって、その道具としての長所や短所が情報処理の行なわれ方に対してどのような影響を及ぼすか、実際の体験を通じて理解させる。

・情報処理を行なう主体として自分と他人を観察し、その活動の現れの違いによって自分と他人との差、あるいは共通点を発見する。

0.1. 受講者

 京都造形芸術大学では、全学科の学生が1年から2年次にかけて3科目の共通演習科目を履修するよう指導している。コンピュータ演習はこの共通演習科目の一つであり、原則として1年次で履修することになっている。共通演習科目には、このほかに基礎造形演習と伝統芸術演習が含まれる。コンピュータ演習は美術科およびデザイン科では必修である。芸術学科に限って履修は強制されないが、何名かの学生は受講を希望する。全学では9割程度の学生が履修している。

 全員が同時に実習を行なうのは施設備品の運用から困難なので、全体を 3 6名以下の規模の4クラスに分けている。なお、造形大では入学時から学科やコースが確定しているが、コンピュータ演習のクラス分けは敢えて学科やコースを再編成するように組み立てている。これは、初年度のうちに学科やコースの異なる学生との接触をできるだけ多くもたせようと考えているためである。

0.2. 授業の形式

 コンピュータ演習の授業は、実習を中心に行なわれる。
 各学生は1年間で六つの課題を実習する。それぞれの課題は、与えられた形式とテーマに沿って学生がいろいろな形式の作品を制作するという形式で与えられ、4週間で完了する。初めの2課題は入門のためのものであり、クラスの全員が同時に同じ課題を実習する。後半の4課題は発展課題としてグループ方式で実習する。現在、発展課題は 1 0種類のプログラムと入門課題の深化を行なう2課題との、合せて 1 2課題の中から四つを選択できるようになっている。なお、 9 3年度から音情報を扱う新しい二つの課題を追加する準備を進めている。
 発展課題では、学生を6名ずつ六つのグループに分けて、それぞれに異なる課題を割り当てる。このグループ分けは課題が完了するたびに解散して再編成する。
 各学生の課題は、アンケートで希望を調査して、その結果に基づいて割り振る。

0.3. 教員

 2名の教員が4クラスを分担して担当する。教員は、実習時間中に学生/グループ単位で面接を行ない、次の週までの作業の進め方や機器の操作を指導したり、制作中の作品の批評を行なったりする。

0.4. 設備・教材

 実習では 3 6台のパーソナルコンピュータを設置した実習室を使用する。グループ分けに合わせて少しずつ構成の異なったシステムを積んだ6種類のワゴンが6台ずつ準備されていて、各学生には課題にふさわしい構成のワゴンが1台ずつ割り当てられる。また、ニックネームで「福袋」と呼んでいる封筒が各学生に貸し出される。この中には作業手順書、機器の操作マニュアル、制作素材、作品例および関連資料のパンフレットやフロッピが入っていて、学生が各自で実習を進めることもできるようになっている。


×|

このページはインフォネットのウェブサーバに載せていただいて発信しています


Copyleft(C) 1996, by Studio-ID(ISIHARA WATARU). All rights reserved.
このページに自由にリンクを張ってください

このページへの助言や感想や新しい情報を歓迎します
下記まで連絡をいただければ幸いです
isihara@mbox.kyoto-inet.or.jp

最新更新
96-08-12