もともとそんなに料理をするほうではなかったので、たちまちネタが尽きて、今回が最終回である。
最終回ともなると、本当は根性を入れなければならないところであろうが、いまさら気取ってパーテイ料理を取り上げてみたところで、僕が知っているのは、せいぜいローストビーフのおいしい作り方ぐらいのものだ。これまでの連載で我が家の貧乏な食卓はばれているのだから、ここはぐっと質素に、
魚の鍋でも取り上げてみよう。
鍋といえば時代劇と連想するのは僕だけであろうか。座敷に囲炉裏が切ってあって、自在に鍋がかかっていて、何やらおいしそうなものがぐつぐつ煮えている、これが僕の時代劇のイメージだ。ところが、その鍋の中身は、意外と映像に映し出されることがないので、よく分からない。
鍋の中まで見せてくれたのは [股旅] (73、崑プロ+ATG、市川崑) ぐらいのものだろうか。この時は、味噌汁にご飯をぶっ混んだ、猫飯のようなおじやだったと思うが、誰か覚えている人はいるだろうか。
映画ではないが、池波正太郎の [必殺仕掛人] には、藤枝梅安がふうふう言いながら鍋を食べるシーンがある。小鍋に千切りにした大根を薄味のだしで煮て、そこへアサリと浅葱を入れて食べるのである。 [必殺仕掛人] はTV化され、さらに映画にもなっているが、残念ながら映画の方は観ていないので、映画にもそういうシーンがあったのかどうかを知らない。最終回でご紹介するのは、ちょっとそれを変化させた鍋である。
材料は大根、白菜、ねぎなど鍋にあいそうな野菜、魚。我が家で使っているのは、しゃけ、カワハギ、金目のすり身だが、ほかにいわし、鯵、さばなど。ハマグリ、アサリなど鍋にあいそうな貝。葛きり、ハルサメ、麩、豆腐、シメジなど。 鶏肉団子もいい。味つけは酒、一番ダシ、醤油、ポン酢、つけだれなど。
調理は、まず材料の下ごしらえからである。
1. まず、一番ダシを取り、別に取っておく。
2. この間に、大根を千切りする。なれていない僕がやると拍子切りぐらいになるのだがそれはご愛嬌。
3. この大根を土鍋で、ひたひたの酒で煮る。酒はきわめて大目で結構。
4. 大根を煮ている間に魚などを食べやすい大きさに切る。 5.カッセトコンロをテーブルに置き、ダシを注ぐ。
さてここで運命の分かれ目である。酒でも飲みながら、ゆっくり食べるのであれば、魚から一種類づつ入れてしゃぶしゃぶのように、それぞれの味を単品で楽しみつつ食べるのがいいだろう。実は、テレビで壇太郎と嵐山光三郎がやっていたのがこの方法だったのだ。煮えた大根の上に、鯵やさばの切り身を一回に一種類ずつ置いて、違う魚の味を楽しむというものだった。ある意味で贅沢な鍋である。さらに欲を言えば、粋な姉ちゃんと向かい合わせでさしつさされつ、小鍋をつつく方が望ましい。寅が理想とする光景ではなかろうか。
しかし、残念ながら我が家は庶民であるし、食べ盛りの子供もいる。結局、すべての材料をいっしょくたにぶち込んで、煮えたところで、食べることにした。ダシも実は昼のそばつゆのあまりを流用したものであった。それでも、子供が魚をよく食べた。かえって鶏肉団子や、某ダイエーで買ってきたはんぺんみたいな金目のすり身は売れ残ったのであった。
この一連の作業は、8歳になる長女とワイワイ言いながらやったのだが、はっきり言って、おとうさんにもいたって気楽にできる鍋である。いかがであろう、古い娯楽時代劇のビデオを借りてきて、それを粋な姉ちゃんと一緒に観ながら、さしつさされつでいっぱいやるなんてのは...。古女房ぐらいしか相手にしてくれるのがいない?そりゃ残念だが、
"あら、このお鍋おまいさんが作ったのかい。憎たらしいよ、素人の味じゃないね。どこで覚えてきたのさ、このスケベ"と、結構いいムードになるかもしれないではないか。
さて、この連載を終わるにあたって、
のがみ編集長から、次の企画は?というお便りをいたいた。そこでさっそく友人の
井戸にこんなメールを出した。
"映画の食卓を終わるのですが、書き手をバトンタッチしてもらえませんか?"
そうしたら、こんな返事がきた。
"それとっても難しいなぁ。[映画の電算室] だったらできると思うけど。どうでしょ?"
というわけで、次回からは
[映画の電算室] という新企画がスタートする予定である。書き手は森島から
井戸へバトンタッチ、ということでよろしいでしょうか編集長。考えれば、20回もお付き合いいただいたわけで、毎回、写真を工夫してくださった
のがみ編集長のご苦労は並々ならぬものだったろう。
読んでくださった皆様、特にメールを下さった皆さん、本当にありがとうございました。