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重力加速度の測定 ずっと、 ミルククラウン を撮りながら考えていたことは、 「落下中のミルク滴にマルチストロボの光を当てれば重力の加速度が測定できそうだ」 ということでした。

フィルム付きカメラのストロボのトリガ信号を連続パルスにして、 コンデンサは容量の小さいものに変えて短時間で充電できるようにすればいいだろう。 ミルクの滴が 30cm ほど落ちる間に 10 回くらい発光させるとすると、 発光間隔は… 約 25msec か。 40Hz のクロックが要るなぁ…。

と大雑把なプランを立てて、 いざ手元の部品を探してみると、 昔 はゴロゴロあった高耐圧のコンデンサなんかが、 いつの間にかすっかり姿を消していました。

そこで、 部品はいずれ仕入れてくることにして、 とりあえずはストロボではなく、 蛍光灯を改造してみようと思い直しました。




蛍光灯の光強度の変化 左は蛍光灯の明るさの変化を、フォトダイオードで見たものです。
横軸1目盛は 5msec、 電源周波数は 60Hz です。
こんな風に、明るさがほぼ電源電圧に比例して変化したのでは使い物になりません。 もっと 「瞬間的」 に光ってくれないと困ります。

蛍光灯の光強度の変化 瞬間的に光らせるならコンデンサだろう、ということで、 唯一手元にあった 3.3μF のコンデンサを蛍光灯 (10W) と並列に入れてみました。
たしかに光はパルスになりましたが、 しばらくすると、 また結構普通に光っています。
もう少し工夫が要りそうです。

蛍光灯の光強度の変化 発光間隔が 8.3msec (1/120秒) では短すぎるのでダイオードを、 また、 光パルス部以外の発光を押さえるために抵抗を挿入しました。
この抵抗の値は、大きすぎると放電が不安定になって持続しないし、 かといって小さくしすぎると余分な光が強くなります。 まだ少し残っているのが気になりますが、このへんで手を打つことにして、

蛍光灯の光強度の変化 光パルスの幅を測ってみました。
左図の横軸は 0.1msec。 したがって、 1/5,000 秒くらいのシャッタースピードで撮影したものと、 ほぼ同等になるのではないでしょうか。


蛍光灯は、結局下図のように改造しました (薄い文字の値は追記時に変更したもの)
スイッチ、ダイオード、抵抗、コンデンサが追加された部分です。
コンデンサは手元にこれしかなかった、という理由で 3.3μF になっていますが、 もう少し大きい、 10μF くらいの方がいいように思えます。 交流電圧がかかるので極性のないもの (アルミ電解コンデンサの類は不可)、 私が使ったのはフィルムコンデンサですが、 蛍光灯がつくとかなり大きい音が出ます (安定器がうなっているのかと思いました)
抵抗には電流が流れますから、 数ワットクラスが必要です。 小型のものだと煙が出て、 抵抗はたちまち真っ黒になります。

蛍光灯の光強度の変化




蛍光灯の光強度の変化 では、 いよいよ撮影。

ミルククラウン のときの滴下装置の隣に、 定規をガムテープで貼り付けて垂らしました。

光量が乏しいので蛍光灯はなるべく ミルク滴に近づけなくてはなりませんが、 下手をすると定規が真っ白になってしまうので、 定規のほぼ真横になるように設置します。
背景はできるだけ暗くなるように黒っぽい布や紙を貼り、 なおかつ直接光源の光が当たらないようにしておいて、 部屋を暗くすれば準備 OK です。

カメラのシャッタースピードはバルブ。  コンセントにつなぐと蛍光灯が点くので、 ミルクの雫が落ちそうになったら改造で付け加えた押しボタンスイッチ (normally ON) を押して OFF にしてシャッターボタンを押す、 ミルクが落ちたらシャッターボタンを離す、 で撮ったのが左の写真です。 (クリックすると大きい写真が表示されます。)


意外だったのは、 これなら殆ど影響あるまいと思っていた パルス光のあとに続く弱い光によって、 ミルク滴がけっこうしっかり写っていることです。 まるでミルクの雫が2個並んで落ちているように見えます。
それでも、 最初のパルス光で照明されたミルク滴は殆どブレずに撮れているので、 まぁいいことにしよ〜っと。

初めの方はミルク滴が重なって写っているので読みとりにくいのですが、 それぞれのミルク滴の間隔をピクセル単位で測って 定規の目盛から cm に換算し、 落ち始めてからの時間、 1/60 秒間の平均速度を計算すると次の表のようになりました。
グラフにしたのが右の図です。 適当に線を引いて重力の加速度を計算すると、 線の引き方によって 1003 になったり 984 になったりしましたが、 回帰計算をすると 970 でした。

 ミルク滴の間隔    時間  平均速度 
 Pixel   cm  sec  cm/sec 
54 0.63 0.039  38.0 
71 0.83 0.056  50.0 
99 1.16 0.072  69.7 
118 1.38 0.089  83.1 
139 1.63 0.106  97.9 
167 1.96 0.122 117.6 
183 2.15 0.139 128.9 
211 2.48 0.156 148.6 
232 2.72 0.172 163.4 
254 2.98 0.189 178.9 
280 3.29 0.206 197.2 
301 3.53 0.222 212.0 
331 3.88 0.239 233.1 





追記 (2005.10.22)

ついでがあったので日本橋に寄って、 コンデンサなどの部品を調達してきました。
前回の写真ではミルク滴が並んで写っているのが気になっていましたが、 時定数を大きくすれば目立たなくなるだろうと思ったからです。

蛍光灯の光強度の変化 買ってきた 10μF のコンデンサを並列に接続して、 13.3μF にしました。
コンデンサの容量が4倍になったんだから、 抵抗値を増やしても安定して放電するだろうと、 すごくアバウトですが 2倍の 300Ω にすると、 左図のようなまずまずの光り方です。

放電も安定しました。 点灯させるときはスイッチを ON にしないといけませんが、 一旦点灯すれば後は OFF のままで問題なく点いています。 スイッチを Normally Close タイプのものに換えた方がいいくらいです。 撮影も楽になりそうです。


写真もずいぶんすっきりました。

もう少しミルク滴を明るく写そうと思って、 蛍光灯を更にミルク滴に近づけてみました。 しかし、 コンデンサが大きくなって光量も増えているはずにもかかわらず、 期待したほどの効果はなかったようです。

なぜかミルク滴はシャープになったので、 位置は測りやすくなりました。

前回同様、 位置をピクセル単位で測って cm に換算し、 落ち始めてからの時間や平均速度を計算すると下表のようになって、 重力の加速度を求めると 958 となりました。

どうやらこの方法では、 重力加速度は少し控えめに出る傾向があるようです。
原因は… やはり空気の粘性でしょうか。

ミルクはやめて、 水銀でも落とせというのか?


 ミルク滴の間隔    時間  平均速度 
 Pixel   cm  sec  cm/sec 
54 0.63 0.032  37.5 
76 0.88 0.049  52.8 
100 1.16 0.065  69.5 
123 1.42 0.082  85.5 
147 1.70 0.099 102.1 
167 1.93 0.115 116.0 
192 2.22 0.132 133.4 
213 2.47 0.149 148.0 
237 2.74 0.165 164.6 
261 3.02 0.182 181.3 
282 3.27 0.199 195.9 
306 3.54 0.215 212.6 
331 3.83 0.232 230.0 





追記 (2) (2005.10.30)

「水銀でも落とせというのか?」 と書いた手前、 落とさなくてはなりませんが、 水銀は剣呑なので鉄にしました。
ホームセンターでキャスターを買ってきて分解し、 ベアリングのボールを取り出しました。 直径は 4mm でしょうか。

リレーはコイル・鉄心の部分が現れるようにして支柱に取り付け、 電池をつないでボールをくっつけ、 スイッチを押すと OFF になってボールが落ちるようにしました。

こうすると、 シャッターを押す、 スイッチを押してボールを落とす 、ボールが落ちたらシャッターを離す、 で写真が撮れます。 ミルクのように落ちる瞬間を見つめていなくていいので、 撮影も簡単になりました。

では撮影。

光沢のある金属球に変わったので、 ボールは三日月状に写りました。 しかも落下と共に角度も変わっています。 位置を測定するのがやっかいですが、 何とか読みとって下表のようにまとめました。

重力加速度は 974

1回だけの測定ではいけないかもしれませんが、 まぁ、 こんなもんではないでしょうか。

それにしても思い込みというのは恐ろしいもので、 ミルクに比べて鉄の玉はかなり速く落ちるように思えます。
落ちたときの 「タン」 という音も、 心理的な効果があるのでしょうか?





 ベアリングの間隔    時間  平均速度 
 Pixel   cm  sec  cm/sec 
61 0.71 0.045  42.6 
85 0.99 0.061  59.4 
109 1.27 0.079  76.2 
134 1.56 0.096  93.6 
157 1.83 0.112 109.7 
179 2.08 0.129 125.1 
205 2.39 0.146 143.2 
222 2.59 0.162 155.1 
248 2.89 0.179 173.3 
275 3.20 0.196 192.2 
298 3.47 0.212 208.2 
318 3.70 0.229 222.2 
340 3.96 0.246 237.6 




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*1 真空管で モノ を作っていた頃の話です (^_^;
*2 この測定には原画像 を使用しました。 上の、写真をクリックして表示されるものは 1/2 に縮小してあります。
*3 ただし蛍光灯の寿命は短くなるようです。 電流密度が高いからでしょうか、 数時間で両端が黒っぽくなり始めました。
*4 蛍光灯とミルクとの距離は約 3 cm。
*5 これも前回同様原画像 を使用。

update: 2005.11.06  address