戻る CD の制御機構

レコード
レコードの表面
左の写真は、最近あまり見かけなくなった、レコードの表面です。

レコードの場合は、目で見える 「溝」 があって、そこにピックアップの 「針」 を下ろして、 溝に記録されている音を再生するのですから、なんとなく、納得できるものがありました。 針は溝に導かれて、ひたすら音を拾いあげていればよかったのです。

CD は、あんなにつるっつるで 「溝」 も 「針」 もないのに、 どうして 「溝」 をたどることができるのでしょうか。

ここでは、主としてこのようなことを考えてみます。


● トラッキング

下図は CD のピットとレーザビームを模式的に描いたものです。

さまざまの長さの長円形の部分がピットで、ピットでない部分はランドといいます。

ピンクの円はレーザビームを表しています。レーザビームはランドに当たると強く反射しますが、 ピットに当たると光の干渉のため反射光が弱くなります (CD 参照)。

レーザの光は、回折格子を通してやると、光の回折現象によって幾つものビームに分かれます。 CD では、このうち、3本のビームを使用しています。
図の中心にある大きいレーザビームは、回折格子を通っても直進した主ビームで、 斜め上下にあるやや小さい2つのレーザビームは、回折によって生じた副ビーム(±1次回折光)です。

図の下部にある2つのピンクの長方形は、この副ビームの反射光を光センサで検出した強さを表しています。 反射光が強いほど長くなりますが、今はどちらのビームもランド上にあるので、 反射光はいちばん強い状態です。

図の右下の Start ボタンをクリックして下さい。 CD が回転を始めます。ピットは上に向かって移動します。

CD のように、中心にある穴をプレーヤにセットして回転させるような構造のものでは、 CD の中心をプレーヤの回転軸の中心に完全に一致させることはまずできません。 したがって、ピットの列 (トラック) は、CD の1回転ごとに左右にふらふら揺れることになります (偏心)。 上図ではこの状態を、ピットの列を最初は右に、つぎに左に戻ってまた右に… と、少しずつ動かすことで 表しています。

このため、まず最初に右上の副ビームがピットに触れます。 ピットに当たる面積が増えればふえるほど反射光は弱くなります。その様子がピンクのグラフに表示されます。 左下の副ビームがピットに当たるようになると、こんどは左の光センサの信号が動き出します。

このように、右の副ビームの反射光が少なくなれば、 レーザビームはトラックに対して左にずれていることになりますから、 レーザビームを右に動かしてやればいいことになります。
CD の偏心による微少な、周期的なビームの位置調整は、下の CD の光学系の図の中で、 対物レンズを左右に動かすことで行われています。

レーザビームがいつでもピット列(トラック)の中心にあるように制御することをトラッキングといいます。

CD の 「溝」 はピットそのもので、「針」 はレーザの副ビーム、ということになりそうです。


● フォーカシング

偏心傾き

トラッキングとは、上図左のように、CD の中心がずれているときでも、 レーザビームが常にトラックの真上に当たるように制御することです。 しかし、CD のようにディスクをプレーヤにセットする方式では、偏心の他にも、 ディスクが必ずしも水平にセットされるとは限らないということも考慮しなければなりません。

ディスクがほんの少しでも傾いてセットされたら、 やはりディスクの1回転ごとに対物レンズとピット間の距離が変わるので、 レーザビームの焦点を常にピットに合わせることができなくなります。



CD 光学系
CD の光学系
左図は CD の光学系の略図です。

レーザダイオードで作られたレーザ光は、まず回折格子を通ります。 ここで副ビームが生じます。
光はビームスプリッタを素通りしてコリメータレンズを通り、ここで平行光線になります。 ここで平行光線にしておくと、対物レンズを CD の位置の変動に応じて動かすことができるようになります。

CD で反射された光は、ビームスプリッタによって光検出器の方向に導かれます。

ここで円筒形のレンズを通ります。円筒レンズは 「かまぼこ型」 のレンズですから、 横方向(画面と平行)にはレンズですが、縦方向(画面に垂直)にはただのガラスです。


左図は円筒形レンズの部分を拡大して模式的に描いたものです。

左図左側は横方向の図です。この方向では凸レンズですから、光は強く曲げられます。

左図右側は縦方向の図で、円筒形のレンズは長方形になって、この方向ではレンズとして作用しません。

ピンクの水平線は、レーザビームが CD のピット上にピントが合っているときに、 光センサがある位置を表しています。上から見ても横から見ても光のビームの幅が同じですから、 センサ上には図の下のように、センサの中心に円形の光が当たります。

CD の傾きによってピットが対物レンズに近づいてピントが合っていないときは、 等価的にはセンサの位置を上にあげたのと同じ状態になります。 「△」 ボタンをクリックして下さい。横方向の光の幅は狭くなり、縦方向の光の幅は広くなりますから、 センサ上の光は、左図では縦長の楕円になります。

逆にピットが対物レンズから遠ざかってピントが合っていないときは、 等価的にはセンサの位置を下にさげたのと同じ状態になります。 「▽」 ボタンをクリックして下さい。センサ上の光は、左図では横長の楕円になります。

「−」 ボタンをクリックすると、元に戻ります。

主ビームの光センサは図のように4分割されています。 A と C、B と D に当たった光の量を比較することでピントが合っているかどうかを知ることができます。

A + C = B + D ならピントが合っていますが、A + C > B + D ならピットが近すぎますから、 光学系の図の対物レンズを左に動かさなくてはなりません。 逆に、A + C < B + D なら離れすぎていますから、対物レンズを右に動かします。

このようにして、常にピット上に正しくピントが合っているようにコントロールすることを フォーカシングといいます。


* フォーカシングの図で、 画面のスクロール等によってピンクの水平線が消えたり2本になったときは、 一度ウィンドウを最小化して、元に戻して下さい。


● CLV (Constant Linear Velocity)

tape カセットテープです。

カセットテープは、テープを一定の速度で動かして録音、再生します。 そのため、写真のようにテープがたくさん巻かれて太くなっている右側の軸はゆっくり、 テープがほとんどなくて細い左側の軸は速く回転します。

一方、レコードは例えば1分間に 45回転などの、一定の回転数で回転します。 そのため、外周ではレコードの溝が動く速度は速いのですが、内周になると遅くなります。 外周と内周で、レコードに録音される音の質に差ができてしまいます。

前者、カセットテープのように、テープが一定の速度で送られるものを CLV (線速度一定)、 後者、レコードのように、一定の速度で回転するものを CAV (Constant Angular Velocity) といいます。

CD は、CLV です。

CD のピットの長さは9種類ありますが、CD の内周でも外周でも同じものが使われていて、 同じ速さで(線速度で)読み出さなくてはなりません。 ということは、CD を内周では速く、外周では遅く回転させなければならないことになります。

現在ではモーターの回転数を精密に制御することは難しくはありませんが、 ピックアップの位置に応じて回転数を変えるのは、やはり大変です。 外から回転している CD を見ることができる CD プレイヤーがあれば、1曲目は速く (内周:約 500rpm )、 最後の曲ではゆっくり (外周:約 200rpm) 回転しているようすが簡単に確認できます。


CD

それにしても、CD プレーヤーひとつに、 このようなさまざまな技術が組み合わされているのには、あらためて驚かされます。


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2001.05.06 address