戻る 秘密鍵暗号方式  (Private key encryption system)



難しそうな名前ですが、 常識的な 「暗号」 という言葉とほとんど同じと考えていいと思います。
暗号の歴史はずいぶん古いものですが、 1976 年以前の暗号はすべてこの 「秘密鍵暗号方式」 でした

これまでさまざまな暗号が使われてきましたが、 どんな暗号も文書 (平文:ひらぶん) を暗号化するには 「鍵」 が必要です。
暗号文をもとの平文に復号化するためにも 「鍵」 が必要です。
暗号化のために使う鍵と復号化のために使う鍵が同じものを 「共通鍵暗号方式」 ともいい、 「鍵」 は他人に知られないよう秘密にしなければならないことから 「秘密鍵暗号方式」 といいます。


ジュリアス・シーザーが使ったとされている 「シーザー暗号」 は、 文字をいくつかずらせて暗号化します。

caesar


上の例では A を D に、 B を E にと、 3 文字ずらせているので暗号化の鍵は 「3」 です。 “I LOVE YOU” をこれで暗号化すると “L ORYH BRX” になります。
こうして暗号化された文書は第三者には読めなくなりますが、 シーザー暗号だと分かってしまえば解読は簡単です。
なにしろアルファベットは 26 文字しかないので、 手当たり次第に 25 回試してみれば、 必ず解読できます。


シーザー暗号が簡単に解読されてしまうのは鍵の数が少ないからです。
それなら単純にずらせるのではなく、 アルファベットをランダムに並び替えてみてはどうでしょうか。 これだと並び替え方は星の数ほどある ので、 安心でしょうか。

換字暗号

上図に従うと “I LOVE YOU” は “M TVNX SVK” になります。
鍵の数は無数にあるので、 “M TVNX SVK” を、 これだけで解読するのはまず無理ですが、 暗号文がもう少し長ければそうでもありません。 暗号解読のページで、 この手の暗号の解読は簡単なんだということが実感できます。 お試し下さい。


ある文字を単に別の文字に置き換えたような暗号が簡単に解読できるのは、 たとえば英語だと ’e’ や ’t’ といった文字の使用頻度が高い、 ’the’ という単語がよく使われる、 ’tion’ のような綴りのパターンが多用されるなどの、 元の言語が持っている特徴が暗号文の中に残ってしまうからです。
そのため、 解読されない強い暗号を求めて、 さまざまな暗号システムが考え出されました。
そうした中で、 文字を置き換えるしくみをもっと複雑にして、 しかも1文字ごとに暗号化手順を変えるという、 当時おそらく最強の暗号システムを第二次世界大戦中、 ドイツ軍が使用していました。
エニグマ」 といいます。

enigma  エニグマ

機構はシンプルで、 キーを押すと流れていった電流がローターという部分で何度か別の文字に置き換えられ、 最終的に暗号化された文字のランプが光る、 という機械です。 1 兆を越す暗号鍵を簡単に設定・選択でき、 暗号文の復号も同じ暗号機でできます。
ドイツ軍はエニグマに絶対の自信を持っていましたが、 1930年代にポーランドで解読され、 イギリスでもこれを解読するための専用機 "Bombe" が作られました。 エニグマの解読は第二次世界大戦の終結に大きく寄与しました。



DES

第二次世界大戦が終わると、 暗号はもっぱらコンピュータの仕事になりました。
有名なものには 1977 年に米商務省によって公布された DES (Data Encryption Standard) という暗号システムがあります。
DES はデータを 8 バイト単位で暗号化します。 8 バイトのデータをビット単位で並び替えたり (上図)、 暗号鍵データとの複雑な演算を 16 回も繰り返します。
これなら大丈夫そうですが、 DES も三菱電機の松井充の線形解読法によって 1994 年に解読されています。 また RSA Data Security 社が行った DES 暗号解読コンテスト (1999年) でも、 distributed.net のグループが僅か 22 時間 15 分で解読しています。


DES さえ必ずしも安全とはいえないわけですが、 秘密鍵暗号方式にはもうひとつ、 本質的な問題があります。
鍵の配布と守秘の問題です。
文書の暗号化と復号化に共通の鍵を使うため、 鍵はあらかじめ通信相手に配布しておかなくてはなりません。 このため鍵が漏洩する危険があります。

秘密 (共通) 鍵暗号方式は、 古代より延々と使われつづけ、 歴史の流れにも影響を与えてきましたが、 公開鍵暗号方式 の出現によって暗号の歴史は大きく変わろうとしています。



関連事項:  公開鍵暗号方式  エニグマ  暗号解読 


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*1 1976年、ディフィーによって 「公開鍵暗号方式」 が考案されるまでは、 暗号はすべて秘密鍵暗号方式でした。
*2 26 ! = 1×2×3×4 … 23×24×25×26 = 403,291,461,126,605,635,584,000,000 通りあります。 4032914垓6112京6605兆6355億8400万通りです。 全宇宙の星の数よりうんと多い、 ですかね。
*3 “I LOVE YOU” は ASCII で表すと 「49 4C 4F 56 45 59 5F 55」 ですが、 DES の初期転置でシャッフルすると 「EE 0D 9F 7C 2B 00 FF 00」 になります。

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update: 2012.12.16  address