戻る 風の便り(情報伝達)

 我が国には、風は情報を運ぶものとの観念がある。

 風の便り(風信)、風の聞こえ(風聞)、風の使い、風の伝(つ)て、風の噂、など、 それを示す言葉が豊富にある。

 風が運ぶ情報は、不分明・不明瞭な、ほのかなものであると考えるようである。  実際に風が情報を伝える訳ではない。 しかし、風という空気の動きに、風は空を吹き渡り遠くへ移動してゆくものとの思いを描き、 遠く離れた人の便りが、あるいは、遠く離れた国の情報が、それに載せられて運ばれるものと考えた。 その思いは実に美しい。

 このような考えは、我が国だけの、我が国独自のものではないかも知れない。 英語にも、「get wind of〜」( 〜の噂をかぎつける)とか、 「take(get) wind」(世間の噂になる)と云う表現があるようである。

クリックすると原画が表示されます (75KB)  ところで、風の便りと云うと、連想するのが「風信帖」である。 平安時代に三筆と讃えられた書道の名人、嵯峨天皇、僧空海、橘逸勢、の中の一人、 空海が最澄に宛てた三巻の書簡を云い、我が国書道史上の絶品とされている。 第一巻の最初の書き出しが「風信」で始まるので、そう呼ばれているものである。

 ついでのちなみに、「風信子」と書いてヒヤシンスと読む。 これは、ヒヤシンス(hyacinth)の当字である。 ヒヤシンスは早春に紫色の花をつけるユリ科の園芸植物の名であり、また、ジルコンとも呼ばれる宝石の名でもある。 それにしても、美しい当字を作ったものと感心する。

 さらに駄文を続けると、ヒヤシンス(ヒュアキントス)はギリシャ神話の中に出て来る美少年の名前に由来する。 太陽神アポロンと北風の神ボレアスに愛されるが、彼はアポロンの方を好んだのでボレアスは嫉妬する。 ある日、アポロンが円盤投げをしていた時、ボレアスは突如として風を巻き起こし、 アポロンが投げた円盤を吹き上げて、とんでもない方向へ飛ばし、それがヒュアキントスの頭に当り、彼は即死する。 アポロンは悲しみに打ちひしがれ、彼をヒヤシンスの花に変えたと云うものである。


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