戻る はんみょう−先達 (情報伝達)


 徒然草第52段、 「仁和寺の法師、 年寄るまで石清水を拝まざりければ、」 の段の現代語訳。
 “仁和寺に居た僧が、 年寄るまで石清水八幡宮に参詣したことがなく、 心残りに思っていたので、 ある時、 ひとりで歩いてお詣りに行った。 神宮寺である極楽寺や境内社の高良神社などにお詣りし、 これだけだと思って帰っていった。

石清水八幡宮楼門

石清水八幡宮楼門
 帰ってから、 仲間の僧に向かって 「かねてからの念願を果たすことが出来た。 聞きしに勝る尊さであった。 それにしても、 みんなぞろぞろと山の上に登って行くので、 何があるのかしらと、 私も興味はあったが、 神様にお詣りするのが目的だから、 山へは登らなかった」 と云った。 (山の上にあるのが石清水八幡宮であるのを知らなかった)
 どんな小さなことにも、先達が必要なのだ。”

 先達 (せんだつ、せんだち) とは熊野詣でをする一行を引率し、 先頭を歩いて道案内する行者を云う言葉である。 白河上皇が寛治4年 (1090) 初めて熊野三山に参詣された時、 園城寺 (三井寺) の増誉が先達を勤め、 功により初代熊野検校になったと云う。
 そして、 熊野詣でに限らず、 よろず、 先輩として後進を指導する者が先達と呼ばれるが、 もともとは道案内人であり、 ガイドである。 ガイドとは、 自らが得た情報を人々に伝達する伝達者、 スピーカー、 語り部である。

はんみょう  ガイドたちは、 自らを卑下してハンミョウ虫だと称する。 川柳にも 「ガイド死してハンミョウ虫になるという」 とある。
 ハンミョウ (漢字では「班猫」) は堅い羽根を持った昆虫である。 春から秋にかけて、 日当たりの良い林道や川原などで見られ、 人が近づくと前へ飛んで逃げるが、 2〜3メートル程飛ぶと着地して後を振り返り、 これを繰り返す。 そのために 「みちしるべ」 とか 「みちおしえ」 とも呼ばれる。
 しかし、 ハンミョウ虫がいなければ、 仁和寺の僧のように失笑を買う。 我々は先人が手に入れた情報を受け継ぐことによって生きている。 文化とは情報の集積 (アーカイブ) に他ならない。 18世紀のデイドロやダランベールらの百科事典派・啓蒙思想家たちの思考の原点でもあろうか。



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