戻る 冗長性 (情報伝達)


 コンピューターのデータを伝送する時には、 誤動作や雑音によって 、多かれ少なかれ誤りが生ずる。 送られて来たデータからは、 誤りを見付けだし、 その誤りを訂正する必要がある。 この 「誤り検出訂正」 のための方法としては、 「パリティ・チェック」 「ハミングコード」 「CRC」 など多くの方法があるが、 そのいずれにおいても、 「冗長ビット」 (冗長符号) と云うものを付加する。 これは、 本来の信号とは別に、 誤り対策のために付け加える信号である。
 例えば、 最も簡単な 「パリティ・チェック」 (奇偶検査) の一例で云うと、 7桁ごとに数字を加算し、 これにもう1桁を付加して8桁の合計が必ず奇数になるようにする。

1011011 → の場合は合計が5で奇数であるから → 0 を付加して → 10110110にする

1011010 → の場合は合計が4で偶数であるから → 1 を付加して → 10110101にする

このようにすると8桁の合計が必ず奇数になる。 だから、 8桁区切りで合計して、 奇数になっていなかったら、 誤りがあることが分かるので、 再伝送してもらう。 この最後に加えた0または1の桁が 「冗長ビット」 である。

 「冗長」 とは、余計なものを沢山かかえて長ったらしいもの。 つまらない長話。 余計、余分、過多、重複・・・の意味である。 英語では 「リダンダンシィー」(redundancy) (何とも語呂がいい単語)。 およそ、 効率化の観点からは真っ先に排除されるべきゴミ。 ムダ。 シンプルライフのためには先ず一番 に 「断捨離」 されるべきものである。

 しかしながら、 安全工学、 安全設計、 信頼性工学のためにはこのムダが欠かせない。 急がば回れ。 損して得取れ 。慌てる乞食は貰いが少ない。
 冗長性はコンピューターデータの伝送におけるエラー検出のためだけではない。 すべての機器において、 その安全性・信頼性を高めるために必要である。 列車や航空機では、 万一の事故に備えるために、 ブレーキ系統や制御系統は二重化される。 コンピューターシステムにおいても、 天災や人災による障害に備えるために、 同じシステムを二重に作っておくデュアルシステム (dualsystem) と云う冗長化が行われる。

 信頼性工学においては 「繊維束モデル」 と云う言葉が用いられる。 あるいは 「鎖モデル」 に対する 「綱モデル」 とも云う。 クレーンで重量物を吊り上げる場合、 鎖で吊ったのでは、 鎖の輪が一つ切れると、 重量物は落下するが、 綱であれば、 その綱の繊維の1本が切れても落下しない。 ゆっくり降ろして綱を取り替えることが出来ると云う所からの名前である。 要は、 二重化すること、 多重化すること、 スペアーを持つこと、 冗長性を持つことの意味である。
 かくて、 よろず、 二重化することが望ましく、 「冗長こそよけれ。 単純こそ危険なり」 と云うことになり、 冗長こそが文化であると云うことになる。 文学も芸術も哲学も効率化の目から見るとムダの極みであるが、 この冗長なムダによって人類は発展した。

よう  昔、 日本でも少なくとも江戸時代までは 、 「(よう)」 と呼ばれた女性がいた。 私には、 これぞ二重化の極致のような気がする。 高貴な家の女性は、 嫁いでゆく時、 自分の完全なスペアーとなる女性を一人、 侍女の一人として伴うと云う儀礼的習慣があった。 これが 「」 である。(日本では 「家女房」「内女房」 とも呼んだ)。 彼女はすべての局面において女主人の代理となる。 特に、 病気や生理によって夜の事に支障が生じた女主人の代役を務める。
 幕末期の光格天皇の生母となった大江磐代は、 伯耆国倉吉の商家の娘が浪々の町医者の子を孕んで生んだ子。 もとの名は 「お鶴」。 京に出て中流公卿櫛笥 (くしげ) 家に奉公し、 成子 (ふさこ) 内親王の小間使いとなり、 内親王が閑院宮典仁 (すけひと) 親王に嫁ぐ時に、 その「」になる。 そして、 生まれた子が後に光格天皇となり、 彼女は国母となる。 シンデレラ物語のヒロインであった。


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