戻る 人体内の情報伝達  (情報伝達)


現代、 多くの情報は、 電波に乗り、 電流に乗り、 光に乗り、 光速で飛び交っている。 それは、 C=299,792,458メートル/秒 ほぼ毎秒30万キロメートルの速度である。 相対性理論によれば、 これ以上の速度は存在しない。
それでいながら、 しばしば、 その情報系の両端には人間が居る。 人間が居なくてはならない。 テレビでも、 発信側には必ずカメラマンが居り、 アナウンサーが居る。 受信側で視聴しているのも人間である。
情報システムの両端に居るこの人間の、 その内部の情報伝達速度が誠に遅い。 人間の神経系の情報伝達速度は、 最も速い所でも、 毎秒120メートル。 光速の300万分の1。
この絶望的な格差。 これは一体何であるのか。 何だか哲学的に考え込んでしまいそうである。 人間は身の程知らずのものを道具にしているのか?

≪電流の速度≫
電線を流れる電流の速度はほぼ光速である。 しかし、 電流の正体である電子そのものの動く速度は極めて遅い。 断面積1平方ミリメートルの電線に1アンペアの電流が流れる場合、 電子そのものの動きは毎秒 0,073ミリメートルに過ぎない。 カタツムリよりも遅く、 絶望的に思われた人間の神経系よりも更に遅く、 その 100 万分の1に過ぎない。
しかし、 実に 「しかし」、 電線の中で電子が動くと、 その外側に電磁波が発生し、 その電磁波が光速で伝わってゆく。 これによって、 電流が光速に近い速度で流れてゆく。
人間の神経系の情報伝達も、 これを見習うとよいのに。 ・・・そうはゆかない。

≪神経系の情報伝達速度≫
神経系の情報伝達については、 @ 神経細胞(ニューロン)内部の伝達、 A 神経細胞間の伝達、 の2つを考えねばならない。
@ が軸索(神経線維)における伝達、 A がシナプスにおける伝達。 @ は電気的伝達、 A は化学的伝達。 従って、 A は @ よりも遙かに速度が遅い。

 @ 神経細胞内部の伝達  A 神経細胞間の伝達
   軸索における伝達  シナプスにおける伝達 
 伝達方法  電気的伝導 *  化学的伝達
 伝達速度  毎秒120〜0.2メートル 1つ通過するのに0.001秒 
(* 電気的なので伝導と云う)

<軸索における情報伝達>
軸索には幾つかの種類がある。 それらにおける情報伝達は、 @ 太さが太い程速く、 A 絶縁膜 (髄鞘) があるものの方が、 ないものよりも速い。

 分類  伝達方向 (註)  機能 直径 (ミクロン)  伝達速度 (メートル/秒)  絶縁膜 
 Aα 求心、遠心 運動 15 70〜120 有
 Aβ 求心 触覚、圧覚 8 30〜100 有
 Aγ 遠心 運動 5 15〜40 有
 Aδ 求心 温覚、痛覚 3 5〜30 有
 B  自律神経(節前)  3 3〜14 有
 C  自律神経(節後)  0.5 0.2〜2 無
(註) 伝達方向は一方向であって、 求心 = 頭脳 ← 各部、 遠心 = 頭脳 → 各部

軸索は平行板コンデンサーのようなものである。 細胞外のNa (ナトリウム)イオンと細胞内のK (カリウム) イオンによって、 細胞の内外の間に電位差 (膜電位) がある。 細胞が刺激を受けると、 この電位差が大きくなって、 一定の値を越える。 これを活動電位と云う。 この活動電位が順送りに (津波のように) 伝搬してゆく。


<シナプスにおける情報伝達>
軸索において、 電位差によって伝えられた情報は、 化学物質に置き換えられて次の細胞に伝えられる。
軸索の端末には化学物質が作られて蓄えられており、 そこへ活動電位が到達すると、 それらが放出されて、 次の細胞の樹状突起がそれを受取り、 再び活動電位になって伝わってゆく。 ところが、 この化学物質なるものが一種類ではない。 何と50種類以上のものが知られている。
大別すると、

 アミノ酸類 グルタミン酸、γアミノ酪酸、アスパラギン酸、グリシンなど 
 ペプチド類 バソブレシン、ソマトスタチン、ニユーロテンシンなど
 モノアミン類とアセチルコリン  ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニン、など

なんでこんなに種類があるのだろう。 情報を伝えるだけならば、 流体継手みたいなものだから、 一種類で十分なのに・・・
ドーパミンは快感を増幅する。 ノルアドレナリンは闘争性を高める。 セロトニンは落ち着きをもたらす。 などと云われている。 神経伝達物質は単なる作動油ではなく、 人間の情動に深く関わっている。 人間と云うものは誠に不思議なものである。



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