戻る キロ、メガ、ギガ、テラ (数の接頭語)

 1960年に、国際度量衡総会の単位系専門部会は、大きな数や小さな数を表すための接頭語を定めた。 現在、コンピューター関係でもそれが用いられている。

 大きな数の方は、キロ(k)、メガ(M)、ギガ(G)、テラ(T) などであり、 小さな数の方は、ミリ(m)、マイクロ(μ)、ナノ(n)、ピコ(p) などである。 これらは3桁の刻みである。 これは、欧米語における数の表現を背景としている。 すなわち、英語で云うと、thousand、million、billion が千倍づつであることから来ている。

 ところが、我が国や中国では、4桁づつの刻みが用いられている。 万、億、兆、京などである。 このため、教室で学生に講義をする時に 「10G バイト、すなわち・・」 と一呼吸おきながら、 頭の中では必死で計算して 「すなわち、文字数で云うと百億文字」 などと喋らねばならないことになる。 まことに難儀なことである。

キロ・メガ・ギガ・テラ  それにしても、何故欧米は3桁刻みであり、東洋は4桁刻みなのか。 それは、私がずっと以前から抱き続けてきた疑問であるが、 未だもって、その答えを述べた本を目にしたことがない。

 そして私は、自分勝手に、東洋における4桁刻みは、「万乗の君」 から来ているのではないか、 換言すれば 「平方」 から来ているのではないかと想像している。 私は、黄河のほとりの大平原に集結した秦の始皇帝の大軍を思い描く。 それは、陜西省にある始皇帝の驪山陵の外城にある兵馬俑のイメージである。 この時、兵たちは縦に十人、横に十人の小隊を単位として、縦に百人、横に百人が整列したと想像する。 すると、総兵力は百人の平方の一万人。 これが単位となったのではあるまいかと考えてみるのである。 中国では天子のことを 「万乗の君」 と云う。 周の時代、天子はその直轄地から一万輌の兵車を出す制度があったことによる。 この言葉もまた私の空想を支えてくれる。 そして、4桁刻みと云うことは 「平方」 に基づいていると云う意味で合理的でもあるのだ。

 他方、欧米における3桁刻みはどこから来ているのだろう。 この方については容易には分からなかった。想像の糸口さえも、なかなか得られなかった。 私は折りに触れて、そのことを考えていた。 そして、最近になって、どうやら到達した結論は、3桁刻みは立方体なのだ。キュービック(cubic)なのだ。 そのよって来た所は 「乾し煉瓦積み」 なのだと云うことである。

 西欧文明の淵源となった中近東では、家を作るために壁を積むにも、 町を作るために城壁を作るにも、乾し煉瓦を積んでゆく。 ギッシリと積んでゆく。 外部だけが煉瓦で中味は土とか石とか云うのではない。 だから、煉瓦が幾つ必要かという計算は、タテ×ヨコ×タカサである。 かくて、タテ10個、ヨコ10個、タカサ10個の1000個で1つの単位ができる。 だから、3桁刻みになったのだ。と考えるに至ったのである。

 東洋の4桁刻みは、大地という2次元平面上に整列した兵士に基づく思考だった。 かくて、東洋では2次元平面、西洋では3次元立体が数列の展開空間となり、これに基づいて、数の刻みも、 東洋は4桁刻み、西洋は3桁刻みになったのだ。 かくて、キロ・メガ・ギガ・テラは3桁刻みである。

 これが現在私が到達している結論である。 いかがであろうか。皆様のお考えを聞かせていただきたく思っている。




<付記>
 別宮 (べっく) 貞徳著 「日本語のリズム」(講談社現代新書) は、 和歌や俳句の七五調(あるいは五七調)と云うものも、 休止符を入れて楽譜にすると、2音節4拍子に他ならないと指摘し、これに反して、 英語は 「強−弱−弱」 の3拍子であると対比させた上で、日本文化4拍子論を展開する。 そして、最後に、1つの仮説として、4拍子 (すなわち2拍子2回) は歩行のリズムであり、 3拍子は乗馬のリズムであり、彼我の違いは農耕民族と騎馬民族の違いに由来するのではないかとしている。 これがこの著の要旨である。
 ところが、この著の中、上述の日本文化4拍子論を展開する中において、僅か2行ばかりながら、 「数の数え方も、日本人は4桁ずつ上げてゆくが、西洋では3桁である」 と述べておられ(p188)、 それが4拍子文化と3拍子文化の違いによると示唆されている。
 私も、日本語のリズムが4拍子であるとする所論までは納得するが、 それが数の数え方までも規制しているとするのには、いささか抵抗を感ずる。 たしかに、我が国の民謡で3拍子なのは唯一 「五木の子守歌」 のみであるが (それも正調は2拍子)、 お隣の韓国には3拍子の歌が多いし、逆に、欧米の歌も半数は4拍子だからである。

(この付記は、星野裕明さんから寄せられた、ご感想のお便りにヒントを得たものであることを附言して、謝意を表したい)



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update: 2003.12.05