戻る 水中における情報伝達   (情報伝達)


在、 情報通信の中心的手段は電波と光である。 何といっても速度が速い。 しかも、 伝搬損失が少なく遠くまで届く。
 しかし、 これは陸上のことであり、 空気中のことに過ぎない。 ひとたび水中に入ると、 電波も光も “みじめ” である。 とても、 情報通信の大役を担うことは出来ない。
 水中といえども速度は真空中とさほど変わらないのだが、 何と云っても、 伝搬損失が余りにも大きく、 たちまちに減衰 (attenuation) して、 遠くへ届かないのだ。

<まず、 電波の場合>
 高い周波数ほど減衰が激しい。
1MHz の電波 (AM 放送の電波) では、 1m 進むと 2.8 %に減衰してしまう。 80MHz の電波 (FM 放送の電波) では 1m 進むと、 何と 0.00083 %になってしまい、 殆ど消滅している。

<次に、 光の場合>
 可視光線 (波長 380〜780nm) のうち、 特に赤色〜橙色領域の 760nm、 660nm、 605nm などに吸収帯があって、 エネルギーが吸収される。 このため、 赤色の光は、 水深 10m では、 ほぼ 100% 失われる。 青色光でも、 水深 20m で約 50% 吸収されてしまう。 (このように赤色成分が早く失われるので、 水は青色に見える) 太陽光が到達する水深はせいぜい 100m ほどである。 (註) 水中を伝搬する際に減衰を起こす原因には、 散乱 (scattering) と吸収 (absorption) の2つがある。 電波の場合は主に散乱であり、 光の場合は主に吸収である。

<このように、 水の中では電波も光も役に立たない。 ・・・しかし、 捨てる神あれば拾う神あり
<拾う神の名は音波>
 音は空気中を 340 m/秒の速さで伝わるが、 水中ではその4倍以上の約 1500 m/秒で伝わる。 しかも、 低周波であるほど減衰が少なく、 14KHz の音波を用いるソナー (水中音波探査機) では有効距離 4,500 mであるが、 4KHz と云う低周波では、 有効距離は 18,000m と云う。
深海探査機で撮影された画像も音響信号に変換して海上に伝送される。

(1957年) 「昼下がりの情事」 (原題 Love in the afternoon) と云う米国映画があった。 ロマンティック・コメディーだった。 主演はゲーリー・クーパーとオードリー・ヘップバーンの大スターたち。 しかも、 その主題曲が 「魅惑のワルツ」 (Fascination)。 あの美空ひばりまでが英語の原曲でカバーしている名曲である。
 この映画の題名 「昼下がりの情事」 の 「昼下がり」 とは、 午後1時から2時頃の意味であるが、 その美しい言葉の持つ、 何とも云えぬ”気だるさ”の漂う語感は、 いつまでも私の心に染みついて、 この映画を強く印象づけている。
 ところが最近、 この 「昼下がり」 と云う言葉を、 映画とは全く懸け離れた、 水中音波探査機 「ソナー」 についての記事の中で見つけて、 反射的にその映画を思い出して感慨ひとしおだった。 その語は 「昼下がりの効果」 と云う語である。

中における音速は、 水温に比例し、 水圧に比例する。 従って、 海が深くなるほど、 水圧が高いので音速が速くなる。 他方、 音は、 音速の遅い方へ曲がってゆく。 従って、 海中で発せられた音は、 水圧が低く音速が遅い海上の方へ曲がるので、 その音を我々は海上で聞くことが出来る。 しかし、 「昼下がり」 ・・・!!、 海の表面が太陽で暖められて、 表面に近いほど水温が上がり音速が速くなると、 音は音速の遅い方へ曲がるから。 音は深い方へ曲がることになり、 海上では音が聞こえなくなる。 ここに生ずる 「死角」を 「昼下がりの効果」 と云うとのことである。
 あぁ、 「昼下がり」 は死角であり命がけなのだ。


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