戻る イメージ  (情報の虚像)


パソコンでは、 イメージと云うと静止画像のことである。 画像を取り込むと、 自動的に 「IMG2」 などと云った名前が付いたりするのが、 これである。 情報論では 「イメージとは、 実体とは別に心の中に描かれる物事の姿」 のことである。 これは、 物事の実体とは必ずしも一致しない。 しばしば大きく懸け離れている。 にもかかわらず、 我々が物事について判断を下す時は、 このイメージに基づいて判断する。 ここに問題が生ずる。

<例1> 石油タンパク
1960年代末頃、 鐘淵化学工業 (現:カネカ) は、 ノルマルパラフィンを食べて増殖する酵母菌を見出し、 その酵母菌からタンパク質を抽出する技術を作ったが、 ノルマルパラフィンは石油から取り出されるので、 それは 「石油タンパク」 と名付けられ、 世界の食糧危機を乗り越える新しい技術として公表された。 所が、 婦人団体・消費者団体が押し掛けて猛反対した。 彼女らは 「石油タンパク」 と云う名前によって、 まるで、 灯油やガソリンを食べさせようとしているとイメージしたのである。 そんなの気持ち悪い。 そんなの恐ろしい。 そんなもの安全なのか知ら。 ・・・彼女らの思いである。 実際には、 ウドン粉と同じような白色。 無味無臭な粉末である。 鐘淵化学は開発を取り止めた。 石油の価格が高騰して採算がとれなくなったと云う口実で。

<例2> 核磁気共鳴画像
MRI (magnetic-resonance-imaging) は、 物質を構成する原子の原子核のうち、 水素の原子核などのように磁気モーメントを持っているものを磁場の中に置いて電磁波を与えると、 そのエネルギーが吸収され、 その後、 電磁波を切ると今度は、 いま吸収したエネルギーを電磁波として逆に放出するので、 その電磁波を捕らえてコンピューターに計算させて断層画像を作り出す医療診断技術であって、 現在ではX線CTと並んで医療現場で盛んに使われている。
所がこの技術、 もともとはNMR (nuclear-magnetic-resonance) と呼ばれていた。 それをある時から、 MRIと呼ぶように変えたものである。 何故変えたのか。 その理由は、 NMRのNの 「nuclear」 (核) が原子爆弾をイメージさせるからだと云う。 たしかに、 「核」 と云う言葉のイメージは良くはない。 特に日本人は神経質な程に毛嫌いする。
しかし、 私は、 この変更には、 開いた口が塞がらぬ思いを抱かざるを得ない。

<例3> 安重根 (言い換え)
要人を殺害した殺人犯をテロリストと呼ぶと、 そのイメージは低いが、 自由の闘士と呼ぶとイメージが上がる。 現在、 シリアの反政府勢力を米国は、 アサドの独裁政治に対するレジスタンスと呼ぶ。 しかし、 ロシアは反乱を企てるテロリズムと呼ぶ。 伊藤博文をハルピン駅頭で暗殺した安重根は、 日本では 「人殺し」 と唾棄し、 朝鮮では 「独立の英雄」 と讃える。 言い換えによって、 イメージは真反対になる。

<例4> 犯人の写真
マスコミは、 犯人の写真は出来る限り、 人相の悪い写真を選んで掲載すると云われている。 本当に犯人なのかどうか分からない段階から・・・。 それについて誰も文句は言えない。 これも一つの情報操作である。

 かくて、 敵対し相争う勢力同士は、 激しいイメージ作戦を展開する。 選挙戦では、 相手の過去の些細なゴシップを並べ立てて、 そのイメージを損なうことを図ろうとする。 外交戦でも、 イメージ操作、 情報操作によって、 相手国を陥れるための謀略を繰り出す。 生々しく、 かつエゲツナク。

 実体とイメージとの乖離。 ・・・しかし、 目くじら立てても何の効果もない。 それは仕方ない事なのである。 所詮、 人間の物事に対する認識と云うものは、 自らが思い描いたイメージに対する認識であるから。 それを、 観念論であると非難しても、 どうにもならない。
 情報とはそんなものであると、 達観する以外にない。


石油蛋白の禁止を求めて厚生省に押し掛けた主婦たち
(1973年1月) (写真はWebより)




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