戻る 情報の般若心経  (情報の虚像)


●情報は元素によって構成された物体ではない。 手にとって見られる物ではない。 形のある物ではない。 情報には実体と云うものがない。 情報は影であり、 幽霊である。
情報は音声や映像というメディア (媒体) の中に作られた変動である。 水面に作られた波紋のようなものである。 実体ではない。

● 「実体がない」 ・・・この言葉はどこかで聞いたことがある。 ――――― そうだ、 般若心経の中だ。
般若心経は 「色即是空」 と云う。
「色」 とは形あるもの、 すなわち、 物質・物体のことであり、 「空」 とは 「ゼロ」 のことであり、 実体がないことである。 すべての物体には実体がない。 単に、 人間の心が空中に描いた白昼夢のようなものである。
(あるいは、 人間の身体だって新陳代謝しながら3ヶ月ですべての細胞が入れ替わっている、 と云った方がよいかも知れぬ。 人間は、 離合集散しながら動的平衡を保っている分子の集合体に過ぎないとも云えよう。 )
いや、 「色」 (物質) だけではない。 「受」 (感覚) 、 「想」 (表象) 、 「行」 (意志) 、 「識」 (知識) を含めた 「五蘊ごうん」 (人間の心身を形成する5つの構成要素) の ことごとくが 「空」 である。
こうして 「五蘊皆空」 であり 「一切是空」 であると云う。


●情報と云うものも、 これと全く同じではないのか。
実体がない。 そして、 実体がないから、 捏造もされる、 変形もされる。 消滅もする。
情報と云うものの持つ 「頼りなさ」 は実体がないためなのだ。 捏造され変形された情報に騙され、 翻弄され、 振り回され、 命を奪われることさえあるのも、 情報と云うものが実体のないものだからなのだ。

情報は空である。 情報には実体がない。 だから恐ろしい。
「情報の神様よ、 どうか情報の魔の手から人々を救いたまえ。 」
しかし、 情報の神様なんて云うものは、 仏教の広目天にせよ、 ギリシャ神話のヘルメスにせよ、 単に、 情報を収集したり伝送する神様に過ぎない。 古今東西すべて、 情報の魔の山から、 人々を救済する神様は居りそうもない

● 「雪山童子の偈」 と云うものがある。 我が国では 「いろは歌」 になっている。
「諸行無常、 是生滅法、 消滅滅已、 寂滅為楽」 (色は匂えど散りぬるを、 我が世誰ぞ常ならむ、 有為の奥山今日越えて、 浅き夢見じ酔いもせず)

● 「ギャティ、 ギャティ、 ハラギャティ、 ハラソギャティ、 ボジソワカ」 (往ける者よ、 往ける者よ、 彼岸に往ける者よ、 彼岸に全く往ける者よ、 悟りよ、 幸あれ)

●般若心経は、 僅か262文字の短い文章で、 大乗仏教の心髄を凝縮して説いたものである。 だから私も、 それを見習って、 饒舌を排して終わりたい。

<註>人間の細胞の新陳代謝の周期は、 次のように云われている。
胃腸:5日、 心臓:22日、 肌:28日、 筋肉:60日、 骨:90日。



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