戻る 京の 「ぶぶ漬け」 (本音と建前)  (情報処理)


 本音と建前とが百八十度真反対な典型的な例。 桂米朝などが演じた上方落語 「京の茶漬け」 などで知られる話。
 京都では、 お客さんが帰り際に 「そろそろ失礼します」 と云うと、 「ぶぶ漬けでもどうどす」 とお客さんに声を掛ける。 「ぶぶ漬け」 とは 「お茶漬け」 のことである。 それを真に受けて 「では、 頂きます」 などと云おうものなら、 「図々しい人だ」 「礼儀知らずだ」 「野暮な奴だ」 と思われる。 遠回しに 「お帰り下さいませ」 と云っているのだから、 「いえいえ、 もうこの辺で」 と答えるのが正解であると云う。



 この話をもって、 京都人を 「いけず」 (意地悪) だとか、 京都人は腹黒いとか、 表裏があるとか云うのは当たらない。 京都に限らず世の中の会話はすべて、 本音を隠した建前によって成り立っているのだから。

(例1)  就職面接での志望動機
本音 → 他が全部落っこちちゃったからです。
建前 → 御社が、 幼い時からの第一志望です。
(例2) 子供が親のお手伝い
本音 → お手伝いするから、 お小遣い下さいよ。
建前 → お母さんは疲れてるから、 僕がしてあげるよ。
(例3) 隣家の子供のいたずら
本音 → 何て、 悪餓鬼なんだ。
建前 → お元気なお子さまでいらっしゃいますこと。
(例4) 知人の娘に挨拶されて。
本音 → なんて、 不器量な娘なんだ。
建前 → お可愛らしいお嬢さんですね。 (お綺麗と云わぬ所がミソ)
(例5) 依頼をことわる時。
本音 → それは出来ません。
建前 → 考えておきましょう。

 このように、 建前とは嘘をつくことである。
 本音と建前が分離する原因は色々考えられるが、 主な原因は次の2つ。
 @ 自分の弱味を見せまいとする。
 A 相手の気分を害さないようにする。
この @ と A とは正反対である。 @ は攻撃的、 A は防衛的とも云えよう。
京の 「ぶぶ漬け」 が後者によるものであることは云うまでもない。 人間は感情の動物だから、 相手の感情を逆撫でしないようにする気配りである。

 ところで、 本音は心の中に秘めたもの。 我々の耳に入ってくるのは建前の方だけ。 だから、 一生懸命耳を澄ませて聞いたところで、 真実の本音は分からない。 我々は建前のみを聞いていながら、 どのようにして真実の意味=本音を了解するのだろうか。 この時、 人間は物凄い高次元の推論を行っているのである。 しかも、 幾通りもの解釈ができることも多い。 その場合、 我々は非言語によって、 ―――相手の顔色、 身振り、 声の抑揚など 「ノンバーバル」 コミュンニケーションに頼っているのである。
 これが現実の情報処理である。
 (人工知能が人間の知性のレベルに到達することが、 いかに難しいかの一端でもある。 )



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