戻る ノイマン・ボトルネック (コンピュータのくびれ)


「ボトルネック」 とは 「瓶の頸」。 徳利の首のくびれ、 瓢箪の腹のくびれ、 砂時計の狭隘部。 その部分の上下が幾ら広くても、 流れ出る酒の量、 砂の量は、 この部分によって制限されてしまう。
 化学工学では一連の化学反応の中で最も反応速度の遅い段階の速度によって全体の速度が規制されてしまうので、 これを律速段階と云う。 コンベアによる流れ作業の組立工場でも、 一カ所に時間のかかる工程があると、 それが隘路になって、 全体の速度が遅くなってしまう。
 通常のコンピューターはプログラム内蔵方式なので、 ボトルネックが生じる。 主記憶装置 (メインメモリ) に入れられたプログラムから、 命令を1つずつ順番に取出し (逐次処理) 中央処理装置 (CPU) で実行してゆくが、 メインメモリとCPUとを結ぶ経路は原則的に1本であり、 これがボトルネックとなる。 メインメモリの広い空間と、 CPUの広い空間を結ぶ狭い通路によって、 コンピューター全体の処理速度を遅いものにしてしまう。 逐次処理するプログラム内蔵方式のコンピューターこそ、 現代のコンピューターの原理であって、 フォン・ノイマンによって確立されたものである。 そのためにこの隘路を 「ノイマンボトルネック」 と呼ぶ。
 そこでこれを克服してゆくことがコンヒューターの進歩のための最大のテーマになり、 CPUやバス (経路) の性能向上のみではなく、 キャッシュメモリによる記憶の階層化や、 プログラムのサブルーチン化、 パイプライン方式による命令実行などなどの方法が考案され用いられている。

 ボトルネックと云う言葉は私には、 「動脈硬化」 を連想させる。 動脈硬化は、 ネック部分を風船で膨らませたり、 バイパスを附けたりと云う手術をする。 コンピューターにおけるノイマンボトルネック対策と通じている。
 それよりも、 ボトルネックと云う言葉は 「砂時計」 を強くイメージさせる。 砂時計は欧州では伝統的に 「死」 のシンボルである。 命の刻限が次第に減ってゆくことの暗示である。 墓石の図柄に用いられたり、 海賊船の旗の絵になったりもする。 ミッセル・ローラン作詞作曲の 「サバの女王」 と云うシャンソンの日本語訳詞 (なかにし礼訳) は 「あなたがいないと生きる力も失われてゆく 砂時計」 と歌う。 乳香の香り漂う南アラビアの豊かな黄金の王国サバの女王は、 ユダヤ王国のソロモン王との恋に落ちたと云う。 彼女は胸に燃える激しい恋心に、 自らの命を絶ってゆくのであろうか?。

<追記>
 こんな事を書いていると、 水力学 (水理学) の中に出てくるベンチュリー管のことを思い出した。 これは正にボトルネックを持っている流水管である。 そして、 くびれ部分は流速が速くなるので、 ベルヌーイの法則と云うものによって圧力が低下する。 実験室で用いられるアスピレーター (水流ポンプ) や、 自動車のキャブレーター (気化器) などは、 この減圧を利用するものであり、 飛行機の翼に生ずる揚力も、 船のスクリューに生ずる推進力もこの減圧によるものだと云う。 どうやら、 「くびれ」 は圧力を下げて物を引き寄せるようだ。
 そう云えば、 「くびれ」 の典型は、 女性の3サイズ (バスト−ウエスト−ヒップ) のウエスト。 その細さに男たちの視線は引き寄せられる。 日本総武神と呼ばれる瀬戸内海の大三島神社の 「鶴姫の鎧」。 その女性用の鎧は、 なまめかしいまでにキュッと引き締まり、 大内水軍との戦いの中で戦死していったと云う伝説の女性鶴姫に男心は引き寄せられる。



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