金沢のもう一つの顔、農薬汚染
あて先小沢祐子さん(サステインナブル金沢/石川県)
金沢の街は品格があり、美しい。白山が遠望できる台地には兼六園などの豊かな緑が広がり、歴史的文化施設と近代都市が融和し、すばらしい景観を作り出しています。この町および周辺に年間595万人の観光客が訪れます。しかし、私たちは街の緑の影に気づきました。金沢市はアメリカシロヒトリ駆除のために、街路樹や公共施設に大量の農薬を散布しています。その上、町内会にアメリカシロヒトリ駆除費用を補助し、各家庭の庭木にも農薬散布をしています。結果として、金沢市民は他の都市の約10倍から40倍の農薬に被曝しています。町内会による散布は拒否しにくい雰囲気があります。
しかし、私たちが散布薬剤が安全でないことを訴え、新聞やテレビなどのマスコミが取り上げる中で、ある地区では見直しを求めて立ち上がった人の努力により、散布所帯数が3分の1に激減しました。
また、町内会で散布を断った人に対するいじめや強制には目に余るものがあり、人権侵害がないように金沢市に指導を求めました。
散布薬剤ディプテレックスを街路樹駆除に使う場合、1500倍に薄めて散布しなければならないのに、金沢市は1000倍希釈で散布していました。このため、国から是正するように指導が出ました。指導後、金沢市はディプテレックスに代わる「安全な」薬剤として、スミチオン(MEP)を導入しました。しかし、スミチオンも安全な殺虫剤ではありません。農薬の種類を変えることで、安全性の問題は解決できません。生活環境中に不必要で有害な大量の農薬を散布し、化学物質に過敏な人や病人、子供などを被曝させるのが問題であるということを、私たちは訴えています。
以下の文章で主な問題点と殺虫剤の毒性について触れ、みなさんのご協力をお願いいたします。■金沢市の樹木害虫駆除システムは人権問題です
人は不必要な化学物質の被曝を受けない権利があります。化学物質一般や農薬に過敏な人、胎児や子供、老人、病人はとりわけ、化学物質一般や農薬に汚染されていない清浄な空気を呼吸しなければなりません。
金沢市では、町内会にアメリカヒロヒトリ駆除事業経費を市が4分の3が補助し、町内会単位で一斉農薬散布が実施されています。使用農薬はディプテレックスとBT剤。昨年度の使用農薬総量は、希釈液にして230万リットル(ドラム缶1万1500本分)、事業費1億1680万円です。人間に被害を与えるわけでもないアメリカシロヒトリの退治に、このような大量の農薬を散布するのはどう考えてもおかしいと思います。散布に関する問題点を挙げます。
・農薬散布日時の周知徹底がされていない。突然に敷地に農薬が散布されたという経験を話す人がいます。
・農薬散布を断ると、「虫が広がる」などの苦情が出、回覧板が回らなくなったり、周辺の住民の視線が冷たくなったりするので、容易に散布を断れず、散布場所から逃げ出すしかない市民が多数います。■散布自体の問題点には次のようなことがあります
・農薬散布をした場合、地上散布であっても少なくとも400mは飛散し、農薬散布後1週間は農薬がガス化し、周辺の大気を汚染することが知られています。近隣の樹木への散布でも、自分の庭にまかれたのと大きな差がありません。
・農薬が散布される環境中には、弱者である妊婦や幼児、子供、老人、慢性的な病気をもった人などがいます。シックハウス症候群や化学物質過敏症などの、化学物質や農薬に特に過敏な人もいます。農薬に対する弱者が存在する住環境に無差別な散布をすることは異常です。■文化都市としての風格に欠けます
・私たちは、人口規模が金沢市とほぼ同じ岐阜市、「杜の都」と言われる仙台市の樹木害虫駆除経費を比較しました(右図)。金沢市は、岐阜市の36倍、仙台市の約13倍(人口・宅地面積あたり)と突出した防除費用を使っています。県が兼六園などに散布する農薬量を加えると、市民の農薬被曝は、さらに大きなものになっています。
・アメリカシロヒトリは、生態系に組み込まれ、捕食する鳥や昆虫などにより大発生はまれになっています。大発生があるとすれば、大量の農薬を慢性的に使用してきたことにより、生態系のバランスを破壊し続けたためではないでしょうか。
・町内会の散布は、蚊がいなくなって良いといった、アメリカシロヒトリ駆除の目的以外の効用を喜んでいる人がいます。害虫や農薬問題に素人の町内会長が業者に農薬散布を依頼し、業者は散布した分だけ経費を受け取る仕組みになっています。この仕組みでは、農薬を使わずに、アメリカシロヒトリを早期に発見して焼き殺したり、切り取って踏みつぶすという、基本的な防除システム(総合防除の一部)は切り捨てられてしまいます。■農薬使用に対する問題
農薬は、農地という、特定の場所で有害生物を駆除するために開発されたものです。これを、人の住環境に無差別に散布するのは危険です。
・農薬に対する感受性が遺伝的に敏感な人がいることが分かってきました。例えば、有機リン系農薬を解毒する酵素であるパラオクソナーゼ活性の弱い人が存在することが知られています。この場合、農薬による急性的影響が大きく現れます。
・農薬は発達中の脳に影響を与えることが知られています。本年6月8日に、米環境保護庁は、広く使われている農薬の一つ、クロルピリホスの家庭用商品生産禁止と、農業用使用の禁止という、厳しい制限を発表しました。発達中の脳に対する影響を心配して出した措置です。現在、米環境保護庁は、発達中の脳に対する影響を懸念して、全有機系農薬の毒性を再調査中で、その活動の一環として発表されました。
・母体中で有機リン系農薬を被曝すると、生まれてから多動性や攻撃行動が強く現れることが、動物実験で知られています。
・人間でも、農薬の被曝が多い地区と、少ない地区の子供を比較すると、多い地区では持久力が減少し、知的発達が遅れ、暴力行動が多く見られることが、メキシコの調査で報告されています。■ディプテレックスとBT剤の問題
・ディプテレックスは、遺伝子に傷をつけること(変異原性)や発がん性をもつことが指摘されています。胎児期の被曝により、運動機能に関連する小脳の神経細胞の発達に影響を与えることが明らかになっています。人間では、ディプテレックスで汚染された魚を食べた妊婦が、先天性障害を持った子供を高い割合で出産したことが、ハンガリーから報告されています。
・ディプテレックスは鳥類や、アメリカシロヒトリ以外の昆虫に対しても悪影響を与え、天敵がアメリカシロヒトリを抑える仕組みを破壊します。
・BT剤は毛虫などに寄生する細菌で、人間には無害であると信じられてきましたが、ボスニア=ヘルツェゴビナ紛争に従軍したフランス軍兵士が、重度のBT感染症になったことが報告されています。BT剤散布後、人間の鼻腔洗浄液から生きたBT菌が検出されています。最近では、過敏性反応を引き起こすと報告されました。■スミチオンの主な問題
・スミチオンは農薬中毒の原因となる殺虫剤の、主なものの一つです。
・中毒症状には、軽いものでも目や喉の痛み、インフルエンザ様症状、発疹、吐き気、汗が出る、鼻汁が出るなど、さまざまなものがあります。
・千葉県でスミチオンの空中散布後、散布地に入った男性が死亡した事件があります。
・茨城県土浦市で、家庭内のダニ駆除にスミチオンを使用したところ、一家5人が重いスミチオン中毒になり、幼いほど症状を現し、5歳の女子が死亡した事件があります。
・妊娠中の動物にスミチオンを投与した場合、目がない子供や運動失調と振顫を示す子供が産まれた。それ以外の子供では、自発活動や運動協調の低下という、目に見えない神経系の異常をきたした(オーストラリアNRA,1999)。
・スミチオンは蜂や水生無脊椎動物、鳥類に強い毒性を持ち、人間を含めた哺乳動物に中〜高度の毒性を持っています(米環境保護庁、1995)。
・各国でスミチオンの使用規制が進んでいます。例えば、米環境保護庁は、スミチオンの用途を観賞植物と毒餌に制限し、散布した場所に入る場合は厳重な個人防御装備着用を求め、48時間の入場規制をしています。■お願い
私たちは、金沢市の緑を最も毒性の少ない方法(剪定を基本とした総合防除)で守るように、金沢市や石川県に要望書を提出しました。OECDをはじめとして、各国が農薬のリスク削減努力をしています。金沢市は時代に逆行しています。金沢市をはじめとする日本各地での農薬乱用をなくすために、皆様からのご支援をいただきたいと思います。私たちの生活空間を汚染されたくありません。この町の未来世代も健やかであってほしいと願います。
金沢市民はもとより、市外の方々から、アメリカシロヒトリ駆除を含む、農薬乱用に対する意見を金沢市長にお伝え下さい。
山出 保 金沢市長
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ファックス 076-222-5157
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