[月虹舎]


(イメージ)

いちばん悪い魔法
第03場
森島永年


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闇のなかで、青木裕子が、浮かび上がる。そして、魔物たちの声が遠くから聞こえ、最後には、青木裕子を取り囲んでの大合唱となる。

魔物たち  ♪今宵の獲物はどんな獲物
今宵の獲物はどんな獲物
おとなしいなら、ペットにしよう
荒々しいなら、檻に入れろ
それも、将軍殿の気分次第

あれさえ将軍 ええい、うるさい。閉じこめられていたのが、開放されて嬉しいのは分かるが、限度が過ぎると、放っておくことはできぬぞ。いいか、大魔王様の封印が解除されないかぎり、いつまた、この空間が閉ざされてしまうか分からんのだ。
ネタミ    ただ今戻りましてございます。
あれさえ将軍 たしかに、伝言伝えたか。
ネタミ    はい。
あれさえ将軍 大魔王様を封印した魔女は、来るのだな。
ネタミ    私には、それほどの魔女とは見えませんでしたが。あれさえ将軍 封印されていたこの空間が、現在のところ開放されているのだ。空間を封印したものが、空間を開放できると考えるのが妥当というものだろう。
ネタミ    偶然ということは。
あれさえ将軍 偶然なら、あの小娘を助けにくるものは、誰もいない。それだけのことではないか、ネタミ。
ネタミ    しかし、それでは、大魔王様の封印が解けません。そのうえ、なすりつけが動きだしているという情報も入っております。
あれさえ将軍 ああいう馬鹿者が、つまらない権力を欲しがって、大きなことを見落とすのだ。あいつが、魔王。王と名のつくものの中には、能力に劣るものもいるではあろうが阿呆はいらぬ。おべっか使いに取り囲まれ、自分の身がどれだけの大きさなのかを忘れているのだ。
青木裕子   どうして、私が縛られているのよ。
ネタミ    お目覚めですか。
青木裕子   ここはどこ、あなたたちは誰。
ネタミ    それでは、順番に質問にお答えいたしましょう。第一の質問。ここはどこ。この答えは、ここは、デビルゾーンと呼ばれている場所です。次に第二の質問。あなたたちは誰。これの答えは、私たちは、悪魔と呼ばれています。
青木裕子   やっぱり、私、ここで、助けてと叫ぶべきなのかしら。
ネタミ    誰も、聞いてないと思いますけど。叫びたいのなら、どうぞ。
青木裕子   誰も聞いていないのなら、叫んでもしょうがないわ。それで、私はどうなるの。
ネタミ    どうなると思います。
青木裕子   縛られているということは、帰してくれる意志がないということだから、家に帰してくれるってことはないわよね。分かった、私食べられちゃうんだ。
ネタミ    よくお分りになりました。ほぼ、御正解です。
青木裕子   ああ、私って、可愛いから、いつか変質者に付け狙われるんじゃないかって心配していたけど、よりによって、悪魔に食べられるとは、思ってもいなかったわ。でも、きっと、これも運命というものなのね。可愛すぎる私がいけないのよ。仕方がありません。運命には従うわ、でも、ひとつだけお願いを聞いて、私を食べるときには、テーブルエチケットだけは、きちっと守って頂戴。テーブルマナーもなっていない人たちに食べられたなんて、そんな恥ずかしい思いはしたくないわ。
あれさえ将軍 生きながら、両手両足を一本づつむしり取って、血のしたたっているところにがぶっとかじりつくのが、私たちの正式なテーブルマナーなんだよ、お嬢さん。
青木裕子が、そのまま気絶してしまう。
再び魔物たちの合唱が聞こえる。




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