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PS2 これをおもちゃといっていいのかどうか、よく分かりません。

私はゲームをしないので、 PS2 の発売はあまり気にとめていませんでした。
しかし、その後いくつかの雑誌に、申し合わせたように解体の記事が出ました。

その記事の写真を見た瞬間、 「この目で見てみたい!」 と思いました。
そして、気がついたら注文が終わっていました。
我ながら、これだけ見事な衝動買いは他に例がありません。


PS2 が届いて、最初にしたことはもちろん解体です。
雑誌の記事では見ていましたが、実際に現物を自分の目で見て、素晴らしさにため息が出ました。

翌年 (2001年) 秋、Xbox がアメリカで発売されました。 仕様は PS2 を上回っているようですが、 内部の写真を雑誌やインターネットなどで見ても、「この目で見たい」 という気にはなりませんでした。



PS2
PS2
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それではさっそく、 もう一度解体を。
(左の写真は、クリックすると大きい写真が表示されます。 以下、 マークのあるものは同様。)


ケースを外すと、まず現れるのは基板全体を覆っているシールド板です。
これには驚かされます。

電子機器から発生する電磁波は一定の基準以下におさえなければなりませんので、様々の対策が施されています。
シールド板は EMI 対策の代表的なもので、パソコンにも要所にこのようなシールドが施されますが、 金属筐体が多いので、それほど厳重にする必要がないようです。
これだけ徹底的なシールドを見たのは初めてです。

しかも、周囲や内部の要所は基板側に折り曲げられていて、しっかり GND 面に接触しています。

さらに、ケースの裏側にも金属板が貼り付けられています。 二重のシールドになっているようです。 これとの電気的接続を保つために、シールド板は上向きに折り曲げられているところもあります。 (写真中右)

PS2 シールド板を外すと、メインボードが現れます。

目につくのは、大部分が電源のパターンであることです。 信号線の面積は約 1/3 に過ぎません。 6層 (以上) の基板と思われますが、信号線の大半は内層にあることになります。
もし基板の設計に間違いがあっても修正できないことが多いのですが、 こうすることによって不要輻射を減らすことができます。

PS2 メインボードを外すときに、妙に重いのが気になりますが、あけてびっくり、巨大なヒートシンクがくっついています
メインボードの上面も、すっかりシールド兼放熱板に覆われているのです。

たくさんの突起も目につきます。
これは、電源回路、マイクロプロセッサ EE (Emotion Engine)、グラフィックシンセサイザ GS、メモリ の上部に設けられているので、放熱効果を高めるためであることが分かります。

PS2

PS2
シールド板を取り除くと、ようやくメインボードの部品面が現れます。

写真左側約 1/3 は DVD-ROM、PC カード等とのインターフェイス、中央部は電源、 右側約 1/3 が CPU 周辺の主要部のようです。

Emotion Engine と Graphics Synthesizer は、PS2 のために開発された LSI です。
Emotion Engine の浮動小数点演算性能は 6.2GFLOPS
1997年にチェスの世界チャンピオンに勝って話題になった (もう、7年も前のことになるんですか…) Deep Blue という IBM のスーパーコンピュータは 1TFLOPS とされていますから、 Emotion Engine はその約 1/160 の処理能力ということになります。 浮動小数点演算の数値だけを比較してもほとんど意味はありませんが、 少なくともタダモノではないことが分かります。

そんなものを使って、ゲームをしてるんですねぇ…。

PS2

PS2
再び放熱機構について。

EE、GS、メモリの熱は放熱シリコーンゴム経由で放熱器(左写真)に伝えられます。 熱は更に "Γ" 字型のヒートパイプで上方の巨大なヒートシンクの底部に運ばれ、 ヒートシンクはファンで冷却されるという仕組みになっています。

こうして、小さな筐体に詰め込まれた 50W の熱が、小さいファン1個で放熱されています。

上部のケースを取ると電源と DVD-ROM ドライブが現れます。

メインボードのヒートシンクは手前左下の穴からここに挿入されてきます。
奥のファンからの風はまず電源の熱を冷まし、次にヒートシンクを冷却して下に向かい、 ケースの全面下部から流れ出ます。

熱や風の流れる回路まで丁寧に設計されている、という印象です。



PS2 DVD-ROM ドライブの光ピックアップとスピンドルです。

DVD-ROM も、CD-ROM も使用できます。
DVD と CD を読むには、650nm と 780nm の2種類の波長のレーザが必要です。
これを、この PS2 の光ピックアップのために、1チップで出力できる半導体レーザまで新たに開発したそうです。


… こんなものを、おもちゃといっていいのかどうか、私にはよく分かりません。


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*1 2000年3月4日。発売開始 3日間で98万台 が販売されたとか、これに先立って 2月18日に始まったインターネットでの予約受付には、 最初の1分間に40万件〜60万件のアクセスがあってサーバーがダウンしたとか、話題に事欠きませんでした。
*2 じつは、これが2度目ではありません。 教室でも何度か解体して、回覧したり説明したりしました。 金属部分に手垢で汚れた跡があるのもそのためです。お見苦しいところをお目にかけ、申しわけありません。
*3 先日(2004年9月8日)、国立科学博物館(東京・上野公園)で開かれている 「テレビゲームとデジタル科学展」 で、分解された PS2 を見て、放熱機構が大幅に簡略化されているのに驚きました。 メインボードもかなり変わっているようでしたが、残念ながら撮影禁止でしたので詳しく比較することはできません。 興味のある方はご覧になるといいと思いますが、 PS2 にだけ興味があるのなら自分で分解した方がおもしろいです。 「テレビゲームとデジタル科学展」 は 10月11日で終わりましたし…。
*4 FLOPS (FLoating point Operations Per Second).  「フロップス」と読む。 浮動小数点演算を1秒間に何回行なえるかを表す値。 1GFLOPS (1 ギガ FLOPS) は1秒間に10億回の浮動小数点演算を行う。1TFLOPS (1 テラ FLOPS) は1兆回/秒。

update: 2005.03.01  address