資料シート/[三月劇場]
ピアノロール
http://www.infonet.co.jp/apt/March/syllabus/bookshelf/pianoroll.html
概要
ピアノロール(piano roll。▽図)は、演奏の内容を記録するための手段の一つだ。ピアノの鍵の打ち方を、紙の帯に穴の配置によって記録する。ピアノを無人で演奏させるために使われていた。
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ピアノロール
ピアノロールは、特別な読み取り器(▽図左)に取りつけて使う(右)。
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読み取り器
ロールを外したところ(左) + 取りつけたところ
読み取り器の中では、ロールにピアノのハンマが乗っている。この状態で、ロールを一定の速さで巻き取っていくと、穴にピアノのハンマが順に落ちていって、人がキーを叩いたのと同じ動作が再現できる。
ピアノロールで制御できるように作られているピアノを自動演奏ピアノという(▽図)。
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自動演奏ピアノ
(左から順に) Locca(ロッカ) + Orgel(オルゲール) + Pianola(ピアノラ)
ピアノロールを作るには専用のパンチャ(▽図)が使われていた。これを接続してピアノを演奏すると、その動作に対応して紙やパンチカード(あとで張合せる)に穴が開けられるようになってようになっていた。
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パンチャ
原型
1200年代に、無人で時報を演奏するための装置として、カリヨンやチャイムが登場し、教会の時報などに使われた。これらの装置はぜんまいで動くもので、演奏の内容はカムやピンの配置によって、固定されたものとして装置に組み込まれていた。
1700年代に、今のオルゴールに当たる楽器が現れた。1800年代に入ると、それをピアノで実現しようとする試みとして、バレルピアノが作られた。これは、オルゴールと同じように、バレル(burrel=筒)の表面に多くのピンを植えて、そのバレルを回転させることによって、ピンでピアノのハンマを上下させるようになっていた。
歴史
1842年にフランスのセートルはオートホンを発表した。オートホンでは、記録にパンチカードを使い、パンチカードの穴を通る空気の圧力でキーを押したり放したりするしかけをピアノにとりつけて、パンチカードの穴が来たらキーを押し、穴が通り過ぎたらそれを放すようになっていた。
合衆国でも、全く同じ時期に、順を追って穴をあけ、その穴の位置の左右によって対応する順にキーを押さえたり放したりして演奏できるピアノが現われた。合衆国では、このしくみがリードオルガンの演奏に取り入れられ、アメリカンオルガンと呼ばれるようになった。
パンチカードは、1枚だけでは実際に演奏されている曲を記録するには容量が足りないので、何枚もつなぎ合せて使わなければならなかった。そこで、スコットランドのベーンは、演奏を記録する媒体として、カードの代わりに薄い紙の帯を使うことを思いついた。本来のピアノロールは、この媒体を巻き取ってロールにしたもののことを指す。
1880年の万国博で、フランスのカルパンティエールは、新しい演奏システムを発表した。このシステムでは、演奏者が演奏している楽器のキーボードと記録器とを通信器に似た器具でつなぎ、一定の速さで流れているロール紙に電気の接点の接触でマークをつけるようになっていた。カルパンティエールは、このようにして作られたピアノロールの原紙をメログラフと呼んだ。これなら、あとでほかの人(この人はピアノが弾けなくてもいい)がそのマークの上にパンチすれば、同じソフトウェアを何本でも作ることが可能になり、演奏者に何回も演奏してもらう必要はなくなる。この技術の登場によってソフトウェアの製造はさらに容易になった。カルパンティエールはピアノに装着して使う専用のプレーヤも発表し、それをメロトロープ
メログラフは、エジソンが1877年に発明した、錫箔を巻いた(のちには蝋を塗った)銅の筒にオーディオを記録する方式ととてもよく似ている。ただし、エジソンは、演奏ではなくて音の振動そのもの、つまりオーディオを記録しようとしていた。音の振動は、ピアノのキーの動作に比べると振幅が小さくて振動数が大きいので、より精度の高い記録/再生のしくみが必要になるが、それは当時の技術では十分には実現できなかった。このため、音楽の記録に関しては、エジソンの方式はなかなか採用されるようにはならなかった。
そののち、前面にロール紙読み取り装置と動作器を取りつけた方式のピアノが広く使われるようになった。このタイプのピアノでは、キーごとに一つずつハンマを並べたものを動作器として備えている。ハンマにはそれぞれ気圧を伝える管がつながっていて、読み取り装置に巻いたロールを装着し、水平を合わせて巻取りを開始すれば、穴があるかないかによってそれぞれのハンマに気圧が送り出され、演奏が再現される。合衆国のボーティは、1897年にこの技術に対して特許を得た。1904年には、ドイツのベルテ-ゼーネ社が、ピアノラという商標で、この方式による自動ピアノの本格的な生産を開始した。
この時期には、カラオケに使うための、歌詞が印刷されたソフトウェアも登場した。
現状
ピアノロールは1910〜20年ごろが最盛だった。合衆国では、教会、学校、劇場、居酒屋などから一般の家庭にまで自動ピアノが普及した。この時期に、合衆国ではデュオアートやアンビコ、ドイツではベルテ-ミニヨンが登場し、芸術作品の録音/再生に使われた。このことによって、当時の有名な音楽家の演奏が今日にまで残されることになった。
しかし、1925年にマイクが発明され、さらに電気アンプを使って信号を増幅しながら録音/再生を行なうことが可能になると、SPレコード、ラジオ、トーキ映画などがピアノロールと競合するメディアとして普及し始めた。また、テープレコーダなどの、ユーザが自分で自由に録音もできる技術も現われた。こうして、ピアノロールはだんだん目的を失い、1940年代には、録音/再生メディアとしては一般の用途ではほとんど完全に消滅した。
ピアノロールは、本物の楽器の音色で演奏が再生できることや、音ではなく演奏の内容が直接に表現されていることでは、マイクとスピーカを使う多くのメディアより勝れている。そのため、音楽の研究などの特別な用途では、最近まで使われ続けていた。ただし、新しい記録に関しては、80年代に登場したMIDI媒体が取って替わり、ピアノロールそのものは、歴史上の演奏の再現や特別な表現の手段としてだけ使われている。
ピアノロールは現在では全く姿を消してしまったかのように見える。しかし、現在の多くの作曲システムはピアノロールを切るつもりで作曲ができるようになっている。そもそも、現在の自動演奏システムの基礎になっているMIDIが、ピアノロールをメタファとして作られている。この意味で、実は、ピアノロールの技術は現在でも姿を変えて生き続けているといえる。
特徴
自動演奏ピアノのほかにも自動演奏楽器はいくつもあった。しかし、自動演奏ピアノはピアノロールという記録と配布の手段を生み出したという点で特別だ。
ピアノロールは正確に、しかも容易に複製できる。また、あとで演奏の間違いを修正することもできる。このため、一度演奏してもらうだけでたくさんの同じロールが配布できる。同じ一つの演奏から数千のコピーが作られて配布されたこともあった。このように、ピアノロールは音楽の演奏を配布するメディアとして、当時は大いに使われていた。この点で、ピアノロールはCDやレコードとよく似ている。しかも、ロール紙は意外にしっかりしていて、数百年前のロール紙が現在でも使えるほどだ。
初期のピアノロールは高さが再現できるだけで、弾く強さを再現することはできなかった。つまり、ピアノは強弱を弾き分けられるのが特徴なのにそれが生かせなかった。しかし、改良によってかなり正確に演奏が記録できるようになった。最終的には、強弱はもちろん、速さやペダルの操作まで記録できるようになった。もっとも、それには限度があって、タッチの微妙なニュアンスや、和音のなかのどれかの音をほんの少し強調するといった繊細な記録は無理だとも考えられている。
手動で楽譜からロールを直接起こすことも試みられたことがあったが、強さや速さを楽譜から読み取ることが難しかった。このため、楽譜から作ったロールでは、同じ音符がいつでも正確に同じ音として演奏されて退屈な演奏になったり、伴奏とメロディの強さが同じに聞こえたりして、ミュージックボックスの代わりにしかならなかった。ニュアンスを補うためにわざとゆらぎをつけて演奏できるようにしたものもあったが、本質的な解決にはならなかった。
一つの技術としてピアノロールを見直してみると、設備が高価で管理が難しいことが問題だった。高価になるのは、鳴らす楽器によっていちいち違う動作器を作らなければならなかったからだ。
しかし、現在の技術の水準から見ても、ピアノロールには優れた点がいくつもある。特にかなわないのは、同時にいくつでも音を出せることだ。MIDIはチャネルが16口しかないので、小賢しい使い方を工夫しないと、それ以上の音を同時に出させることができない。今後の技術の発展を考えると、鳴らせる数はもっと増やせるかもしれないが、それでもピアノロールにはかないそうにない。16はきりがいい数というだけでなく、連弾の場合の指の数だけあれば十分だとして決められたとも言われている。しかし、弾く音だけでなく、ほんの少し前に弾いてそのまま鳴り続けている音があることを考えると、実は16音では少し足りないことがわかる。
参考にした文献
下中邦彦(編集)
音楽大事典
(平凡社:刊、82-11-19)
このページの記事は、科目[メディアテクノロジー論]および[情報処理]を履修した学生たち(下記)が、課題[ピアノロール]の学習の一環として作成した著作物をもとに構成しました
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Ookubo Yasuyo
坂寄真一
杉田貴彦
宮下真実
綿貫恵美
(敬称略)
音楽
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