ホムンクルスとは、人間に似せて作った疑似生命体(シュミュラクラ)のことである。人間と寸分違わないものから、怪物のような姿をしたものまで、さまざまなものがある。その概念の本質は、人間が作り出す、自分の子孫以外の生命体である。
伝承の中では、ホムンクルスはあらゆる知恵を身につけて生まれてくる。 純粋に魔法によって生み出されるのだが、発生と生存の場であるフラスコなどの容器から出したために、死なせてしまうという話が一般的のようだ。
神ならぬ人の手で、ホムンクルスのような一つの生命体を作り出す行為は、自然に反する邪悪な行いとされることが多い。伝承の結末も、このような意識によって規定されたものと考えられる。
近代より前の時代には、人の発生や感覚のしくみを説明するために、精子や耳の中に小人がいるという解釈がなされることがあった。この小人が成長して胎児になるとか、音を聞いてくれている、という説明が可能になるからである。この、代理としての小人は、まさにホムンクルスを連想させる。
それはさておき、ホムンクルスが人間の変わりに音を聞いてくれているとすると、彼自身はどうやってその音を聞いているのだろうか?ホムンクルスの体内にもまたさらにホムンクルスがいて音を聞いているのだろうか?これでは何も説明したことにならない。
さらに、ホムンクルスはどうやって人間にその音を伝えてくれるのだろうか?
人:ホムンクルスよ、あの人がなんと言っているのか聞いてくれるか?
ホ:おはようと言っているよ。
このような会話は、人間自体は耳が聞こえないことになっているので成立しない。では、聞いた内容を紙に書いて伝えるのだろうか?だが、目もホムンクルスが代りに見てくれているので、その紙の内容は、人間ではなくホムンクルスが見るということになる。であるから、ホムンクルスが聞いた内容を人間に伝える手段は成立しないのである。
このように、何かのシステムを構成する核心の要素として、そのシステム全体と同等のものを採用することによって、本質におよぶ議論を回避しようとする議論は論理の循環を生じてしまう。